しつけ・行動関連 第1弾

心因性の毛引き・自咬症について

Companion Parrot Quarterly No. 57(2002年夏刊行) "Inside the Minds of Parrots: Tantalizing Clues and the Causes of Neurotic Feather Plucking and Self-Mutilation in Parrots(インコの心の内側:神経症的な毛引き症と自咬症の原因とそれを解決するための興味深い糸口)" では、毛引きの原因が内科的疾患以外のもの、つまり原因不明の毛引きについて、3つの仮説を組み合わせた結論を導きだしています。

内科的疾患が原因ではない原因不明の毛引きや自咬症のインコの脳内で何が起こっているのか、3つの異なる調査に基づく、最新論文によりその謎が明らかになり始めています。

1.脳神経化学物質
タフツ大学のニコラス・ドッドマンは人間の抜毛狂について研究しています。抜毛狂とは強迫的に自分の毛を抜かずにいられない人間の病気であり、強迫神経症候群と自傷症(鳥獣類では自咬症)に共通する軽微な疾患と考えられいます。ドッドマンの研究では、鳥の毛引きを抜毛狂の最たる典型例とみなしています。一部の軽い常同症(単純な動作を何度も繰り返し行う病気)はおそらく、強迫神経症と同じ脳神経化学物質に原因があると考えられます。強迫神経症の外的要因はたいていの場合、「動物が、最適ではない環境にさらされた結果、解決できない葛藤に直面する」ことにあるとドッドマンは指摘します。人も動物も、強迫神経症候群に薬物治療が効果的なことがあります。特に、塩酸フルオキセチン(プロザック)とクロミプラミンは、セトロニンが神経終末に再摂取されるのをブロックすることで、セトロニンは作用部位に高濃度で蓄積されます。ドッドマン他の研究によれば、塩酸フルオキセチンを摂取した毛引き鳥の反応率は60〜100%でした(ただし一過性で不完全なもの)。ある報告では、治療中の鳥で10羽中4羽に体重増加が見られました。このことはセトロニンに食欲制御の役割があることと一致しています。これらのことは少なくとも、毛引き症の一部の症状は脳内の特殊化学物質の変化により引き起こされるということを示しています

仮説1
上記の研究より、飼い鳥は特に社会的・感覚的な行動の自由が奪われると(群れ構造の損失、飛行・食物探しの時間が与えられないなど)、毛引きになる恐れがあり、少なくともその一部は脳内の重大な部位でセトロニン(または他の神経伝達物質)の濃度が最適でないことによって起こる可能性があります。この化学的不均衡が更に進むと、自咬症になるかもしれません。人の場合、トゥレット症候群(セトロニンとドーパミンの代謝障害が結びついている)は自傷症と関連があります。人のアルコール中毒同様、この症状による行為は一時的に軽減して再発します。新たなストレスが引き金となる可能性があります。だけど、毛引き・自咬症はその原因が改善された後になっても、継続するのはなぜでしょうか?

2.脳の構造的変化
チェリル・メーハン、J.メンチ、ジョー・ガーナー博士らは実験鳥としてオレンジウイング・アマゾンを使って、毛引きと恐怖反応に対して環境の向上がどのような効果を持つかを研究しました。この研究では、豊かな環境のケージとそうでないケージに生後4ヶ月の鳥たちを入れて、一年間その様子をビデオカメラで観察しました。

ケージでの環境向上は主として、採食スキルを使うための機会が与えることに重点を置いています(野生の鳥が一日に4〜6時間を餌探しに費やすのに対し、実験で使われたアマゾンは30〜70分だけであった)。その結果、豊かな環境のケージに入れられたアマゾンらは、毛引き、新しい刺激に対する恐怖反応(および自咬症)がかなり改善しました。

その後、普通のケージに入れられたアマゾンたちのケージの環境も向上させた結果、少なくとも、異常行動が確立したすぐ後にそういった変化があれば、一部は異常行動が改善しました。また、興味深いことに、もう一つの研究では、常同症は、動きと関わりのある別の神経化学物質、ドーパミン代謝に関連する脳(大脳基底核)の特定部位へのダメージによって起こるということが示されています。

彼らの研究はまだ途上段階にありますが、少なくとも毛引き症の一部は、退屈な環境によって引き起こされるか、または悪化するということが示唆されています。これを避けることはできますが、一度異常行動が確立してしまうと、環境を改善しても一部しか改善しないか、あるいは改善が緩慢になります。研究では、環境向上の後、恐怖反応が和らいだことが観察されており、この所見はタミー・ジェンキンズ博士の一部の観察「毛引きの鳥は過剰な恐怖やストレスの兆候を表す。恐れ、病的恐怖、パニックは毛引きという行動に変換される」の信頼性を増すことになるでしょう。つまり、一部の鳥の場合、恐怖症反応と強迫神経症候群はその因果関係が互いに結びついている可能性があるのです。

仮説2
鳥が若い場合は特に、早期に治療を始めると治る可能性があります。時間が経過すると脳の構造に変化が生じて、治療してもほとんど効果があがらなくなります。従って、できるだけ早いうちから環境の向上を行うことが必要です。そうでないと、毛引きの原因がなくなった後でも毛引きは続き、薬物治療でさえ望ましくなくなってしまいます。後期になると、過剰な恐れ、恐怖症、自噛症という結果が生じるかもしれません。

でも、脳の神経化学物質や構造が変化するのはなぜでしょうか?


3.脳内の神経細胞と遺伝子の変化
毛引きの謎を解明する3番目のパズルのピースはユタ医学大学院のMario
Capecchiとジョイ・グリアの研究にあるかもしれません。彼らは、hoxb8という遺伝子を欠いたネズミを作りました。これらのネズミは一見ノーマルですが、グルーミングや噛むといった行為を執拗に繰り返し、毛を引き抜き、ついには自噛まで始めます。この研究は「グルーミング」遺伝子を特定した初の研究であり、その遺伝子が損なわれると、強迫神経症と自噛症という結果になることを示しています。

飼われている鳥が脳に直接的な損傷を受けなくても、脳神経細胞が変化することがあり得るでしょうか? それはありうることです。ロックフェラー大学のフェルナンド・ノッテボム博士のゼブラフィンチの研究によれば、社会的な相互関係の有無は神経細胞の数に影響します(つまり、脳構造のサイズが変わってきます!)。群れで暮らすということは安全だけでなく、脳の発達にも役立つようです

仮説3
もし、飼い鳥の社会性習得と環境向上が不適切だったり、対他羽繕い(他の鳥と互いに羽繕いすること)が欠けていたりすると、鳥はその代償として過剰な一人羽繕いするかもしれません。こうした代償行為は、hoxb8遺伝子によって制御される神経細胞(これらの神経細胞は神経伝達物質の生理機能、特にセトロニンそして恐らくはエンドルフィンとドーパミンのそれを制御していると思われる)の機能不全または死によって引き起こされるのでしょう。

一度、神経の構造的変化が起こって、ついにはそれらの神経が死んでしまうと、環境を向上しても毛引きのプロセスはほとんど改善できません。更に、セロトニンのレベルを増す薬物に反応する脳細胞も変性してしまい、薬物治療の効果がなくなります。慢性的な毛引きや自咬症になる傾向にあるMoluccan Cockatoos、ヨウム、ボタンインコなどの鳥種の場合、「グルーミング神経」が機能しなくなるか、破壊される、というのは遺伝的な傾向によるものかもしれません。

実践的結論
1.退屈な環境により、毛引きを含む強迫神経症になるかもしれないことから、鳥が若いうちにできるだけ早い段階から豊かな環境を提供することがとても重要です。更に、自然な群れ環境は脳の成長を促進します。社会的・感覚的行動が長期間にわたって不自由であり、鳥が年を取るにつれて、回復の度合いは減少します。

2.メーハンは、おもちゃは人ではなく鳥の視点から選ぶべきだと指摘しています。カラフルで様々な形のおもちゃ、パズルのおもちゃでさえ、鳥本来のスキルを使ったり、自然環境の偶発性をまねられるようなものでなければ意味がありません。私たちはもっとおもちゃの開発を行う必要があります。

3.雛鳥の大量「生産」のあいだに適切な社会性を身に付けさせる訓練をしないことが、成長してから強迫神経症になりやすくなることの主な要因かもしれません。

4.インコ類の強迫神経症は、人の場合と同様に脳の化学物質の障害と関連している可能性があります。従って、少なくとも一部は、脳の神経伝達物質機能を修正する薬物で治療できるかもしれません。常同症は恐ら強迫神経症とは異なる症状の現れかもしれませんが、その鳥がこうむっている不自由さに早急に対処する必要があることを示す「赤信号」を提供しています。自咬は、脳細胞やその遺伝子が実際に「欠落」する段階にまで達してしまった、などといった症状を急速に促す増悪原因(ぞうあくげんいん:病状を悪化させる原因)の深刻さや期間を反映している可能性があります。

5.強迫神経症が続くと治療できる可能性は少なくなります。これは、強迫行動やその脳内化学物質を制御する重大な部位の遺伝子や脳細胞が実際に失われてしまったためかもしれません。これらの遺伝子の突然変異により、ある一定の鳥種や個々の鳥はよりいっそう強迫神経症や自咬症にかかりやすくなるようです。

6.症状が「固定化」してしまうと、人間のアルコール中毒と同じように再発する危険は常にあります。普通なら有害な習慣(毛引き、自咬)なのに、鳥がその行為を楽しんでいるように見えるのは、恐らく痛みがエンドルフィンを分泌して、その行為を中毒化していることを示唆しています。もしそうなら、オピオイドアンタゴニストによる治療が有効かもしれません。

7.しかし、以上のことは今の段階で治療が有効ではないとか、鳥をサンクチュアリに出せとか、安楽死させろとか断定的に言っているのではありません。また、今の段階では、どの鳥が治療可能で、どの鳥がそうでないのか確定することもできません。深刻な毛引き、自咬の鳥をレスキューしたり治療したりしている多くの人は、優れた獣医師による医療(一時的、あるいは深刻なケースでは最後の手段としての薬物治療を含む)、愛情に満ちた世話や群れ環境、環境向上(食物採取の機会提供、おもちゃ、可能なら室内や戸外での飛行 [管理人:戸外での飛行は日本の環境ではやめた方が無難と思われます])、噛むための木の提供、色々な人との交流、戸外に出ることなど)、一生に及ぶ不断ない用心を組み合わせることによって、驚くほど良い結果を目にしています。