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〜〜 カンアオイのこと 〜〜


〜〜カンアオイ目次〜〜

1.まえがき 2.カンアオイってなに! 3.どんな種類があるのだろう

4.どこに注目したらいいのかな 5.種どうしの関係はどうなっているの

2.カンアオイってなに!

カンアオイは、主に常緑で湿った林の下草であまり大きくない植物です。目立たない植物ですが、関東地方以西の方は注意していれば見る機会があるでしょう。花を見るのはもっと難しいかもしれません。林の中に入り葉をかき分けると花は、葉の付け根の地面の上に咲いています。


  :葉の模様は株によって異なる。模様の無いものもある。

 :オトメアオイの花、葉柄は紫褐色

漢字では「寒葵」と書きます。常緑で冬でもあおい葉をしているので、このようにいわれるようです。タチアオイやムクゲなどいわゆるハイビスカスの仲間である「アオイ科」の植物とはまったく別の植物です。ちなみに属する科は「ウマノスズクサ科」です。まぎらわしいことですね!

「ウマノスズクサ科」、これもまたあまり聞かない科ですね。果実の形が馬の首に下げる鈴を思わせるそうです。花の形は下の写真のように曲がった筒形です。熱帯地方には大型の種類があり、花の長さも30cm以上あり、植物園の温室で時々見かけます。ウマノスズクサ科は広い意味の、カンアオイの仲間とウマノスズクサの仲間に分かれます。ウマノスズクサの仲間はつる性です。 


  :オオバウマノスズクサ、左・葉と花、右・果実

オオバウマノスズクサは林の縁などで見られますが、ウマノスズクサは河原や土手など開けたところ見られます。

広い意味のカンアオイの仲間には落葉性の「フタバアオイ・双葉葵・二葉葵」とやはり落葉性の「ウスバサイシン・薄葉細辛」が日本にあります。


  :左・フタバアオイ、右・ウスバサイシン

「カンアオイ」は日本で多くの種に分かれ地域ごとに花の形や生育のしかたの異なった種類が生育しています。特徴が少なく花のわずかな差で区分することが多く、正確な名前を知ることはなかなかたいへんなようです。私は正確な名前を判別することはできません。悪しからず・・・。

〜家紋として〜

「葵紋」と呼ばれる多くの種類の紋があります。神社の紋、家の紋などとして使われてきましたが、もとになった植物は狭い意味のカンアオイではなく、フタバアオイのようです。

   

   :左・上賀茂神社の紋「神紋」、右・下鴨神社の紋「神紋」

京都の上賀茂神社や下鴨神社で使われている紋「神紋」は花付きの写実的な図柄で「フタバアオイ」であることがよくわかります。この神社に関係する家では古くから、さまざまな図柄の「葵紋」が家紋として使われていたようです。

徳川家が家紋として使う「三葉葵紋」は、知らない人がいないくらい有名ですが、図柄は3枚の葉が内向きに並んでいて花はありません。紋の図柄から植物名を特定することはできませんが、徳川家もこれらの神社と関係の深い家柄で、家紋もその流れの末なので「フタバアオイ」の葉ということになります。

 

  左:鎌倉の浄智寺の「三葉葵紋」、右:岐阜県飛騨古川町の「起こし太鼓」の葵紋

浄智寺の書院入り口にある、棟門(葵門)の左右の扉に1つずつ葵紋が描かれていました。この門は江戸時代後期(18世紀後期)のものと言われています。徳川家の「三つ葉葵紋」は細かく見ると多数の種類があり、将軍により、家筋により使い分けていたとも言われます。

古川町の「起こし太鼓」には「蔓三つ葉葵紋」が描かれています。徳川家の紋と葉の向きが異なり、尻合わせ三つ葉葵紋になっています。飛騨古川祭は気多若宮神社の祭りで、この紋は同神社の神紋とのことです。

飛騨古川祭の夜行われる「起こし太鼓」では、多くの若者に担がれたこの太鼓の上に2人の若者がまたがり上から太鼓を打つそうです。なお写真の太鼓は起こし太鼓の里にあった展示用のもので誰でも打つことができます。

〜薬草として〜

中国ではウスバサイシンの仲間の根と根茎を乾燥したものを「サイシン細辛」、カンアオイの仲間の根と根茎を乾燥したものを「土細辛」とよび薬にしてきました。日本でも漢方薬として使われることがあります。日本薬局方にサイシンの項目があます。

薬に使われるのは”根と根茎”です。葉や葉柄には有毒成分が含まれるのでくれぐれもご注意下さい!生兵法は大怪我のもと、素人療法は慎みましょう。

中国では乾燥した葉が使われ被害者も出ているようです。出所のはっきりしない漢方薬は注意が必要です。

〜園芸植物として〜

日本では、江戸時代に”斑入り青軸”のカンアオイを珍重して「サイシン細辛」とよび栽培されました。園芸植物の「細辛」は薬の「細辛」と同じ名前ですが別のカテゴリーです。

園芸植物「細辛」の”斑入り青軸”は、葉に葉模様とは別の白や黄の斑が入り、普通は紫褐色の葉柄が緑色に変化した変わりもののことです。

  :細辛「福牡丹」

栽培が盛んな頃には、相撲番付のような「細辛銘鑑」が作られ人気品種は高値で売り買いされたと言います。現在も江戸時代からの品種が栽培され、その後に発見された品種を加えた「細辛銘鑑」が作られています。今の銘鑑には青軸でない品種が2品種含まれています。「細辛銘鑑」:日本細辛連合会。

  :銘鑑の一部、下段中央に「福牡丹」

伝統的な「細辛」とは別に、オナガカンアオイやタイリンアオイを中心に色変わりの花の栽培、またさまざまな斑入りものの栽培が行われています。一方で原種の収集に熱心な人たちもいます。また一部には交配や実生繁殖に取り組んでいる人たちもいます。

品種もの増殖は、根茎を切り分けて、「株分け」か「根ぶせ」をする以外にありません。しかしカンアオイは一般に成長が遅いので大量に増殖することは困難です。それが高値を呼び、山取りの動機の1つとなっています。

組織培養により人気品種の増殖ができれば値も下がり山取りも減るのではないかと思います。自然保護の観点からは意味があっても、カンアオイの市場はとても小さく経済的には魅力がないのでしょう。カンアオイの組織培養は研究さえあまり行われていないのが現実のようです。

カンアオイの仲間は庭の下草としても使われます。カンアオイの仲間は日陰に強いので、日陰の庭の点景としてカンアオイが、グランドカバープランツとしてオウシュウサイシンやヒメカンアオイの仲間のソノウサイシンが使われます。関西地方では落葉性のフタバアオイもグランドカバー的に使われると言います。

適地は年間通して適度の日陰と適度な土壌水分のある所です、直射日光と乾燥は好みません。いずれも踏み圧には弱いので、踏まれる所には適しません。植え付けは暑さ寒さを避けて、春か秋がよいでしょう。

  :ソノウサイシン

ソノウサイシンの野生品は無いと言われます。手前の大きい葉は左右で5cm。葉は薄い雲紋斑があり、円く先がややくぼむ特徴があります。花は見たことがありません。根茎が枝分かれをして増えていきます。名前は「園生サイシン」の意味です。関東地方の一部には野生状態になったものがあるようです。花は4〜5月に咲くようです。

〜保護の対象として〜

最近は野生種カンアオイの栽培や変化花品種・斑入り品種の栽培などなどのために山取り・採集が行われり、それが販売されていると言われます。また住宅地・ゴルフ場などの開発や産廃処分場などで、自生地が消滅したり、荒らされたりして絶滅が心配される種類も増えています。

カンアオイの仲間は自生地が非常に狭く、個体数の少ないものが多く、実生から開花までの年数も長く、自生地が荒らされると絶滅に追い込まれやすい性質を持っています。日本産カンアオイは絶滅危惧種またはそれに準ずる扱いを受けているものが非常に多くなっています。

〜蝶の幼虫の食草として〜

日本には、「ギフチョウ」と「ヒメギフチョウ」というよく似た2種類の、たいへんきれいな蝶がいます。ギフチョウの幼虫は主に「カンアオイ」の葉を、ヒメギフチョウの幼虫は主に「ウスバサイシン」の葉を食べて育ちます。そのため蝶の愛好家や蝶の保護活動をしている人にもカンアオイに関心を持つ人がいます。日浦勇は最も熱心にカンアオイの仲間を研究した1人でしょう。蝶のきた道:日浦勇著

〜研究の対象として:進化の解明〜

野生の日本産「カンアオイ類」は現在のところ約50種類発見されています。種類は多いけれど1つの種類は、非常に狭い範囲にしか自生していない場合がほとんどです。つまり地域ごとに違う種類が生えていることになります。どうしてこうなったのでしょう?

前川文夫は多くのユニークな研究を行いましたが、その1つに日本産「カンアオイ」の進化に関すlる研究があります。「カンアオイ」の仲間は、種子の分散が狭い範囲に限られるため、生育地の地質的歴史と強い結びつきがあると前川は考えました。その事から日本産「カンアオイ類」は日本国内で進化したと考え、種類間の類縁関係・系統関係を追求しました。日本固有の植物:前川文夫

カンアオイの類縁関係・系統関係の研究はその後、形態的特徴に加え、染色体の数や形・核型、さらに遺伝子の塩基配列の比較なども行われています。研究はまた「カンアオイ類」だけでなく、広い意味のカンアオイの仲間全体の類縁関係・系統関係に広がっています。前川や日浦の考えの一部を否定するような研究結果も、いくつか出されています。

新しい研究で古い研究の一部が否定されていくのは、学問の常。カンアオイの進化は、前川や日浦の考えのを否定する新しい研究結果により、新たな地平線が見えてきたと言うことなのでしょう。

広い意味のカンアオイの仲間は日本だけでなく中国大陸、ミャンマー、ベトナム、台湾、朝鮮半島、サハリン、シベリア、ヨーロッパ、北アメリカ大陸などに自生しています。いつの日かすべての種類の関係が解き明かされ、カンアオイの仲間はどのように世界に広がっていったのかを聞いてみたいものです。

最近の被子植物に関する研究は、単子葉植物が原始的な双子葉植物から進化したと考えるようになりました。現在生きている原始的な双子葉植物の中でカンアオイの仲間は単子葉植物に最も近い関係にあると考えられています。カンアオイの仲間は、そんなことからも注目される植物の1つになってきたようです。

 
     :おおよその分布図です。イギリスのものは帰化です。

広い意味のカンアオイは、他に日本にも分布するカンアオイの仲間、日本には分布しないオドリコサイシンの仲間とアメリカカンアオイの仲間があります。

〜研究の対象として:花粉を運ぶ者〜

カンアオイの仲間は他家受粉(異なった株の花粉を受け取る)で種子をつくると考えられています。しかし長い間、”花粉を運ぶ者”ははっきりしませんでした。花の中で見つかった、小形のナメクジ・カタツムリ、ヤスデや小形のムカデが第一の候補に上げられましたが花粉を運んでいる証拠はありません。

”花粉を運ぶ者”は、体に付いた花粉がだめになる前に、同じ種類の花をみつけて雌しべに花粉をつけなければなりません。候補の虫はどんな目的・動機でそれをするのでしょう。カンアオイの仲間はもう少し効率のよい”花粉を運ぶ者”を持っているのではないでしょうか。

日本産のタマノカンアオイと、アメリカ産のフタバアオイの仲間で別々にキノコバエという小さなハエの仲間が花粉を運んでいるという研究が発表されました。しかもカンアオイの花はキノコバエをだまして、花粉を運ばせているというのです。腐ったような匂いを発散させて虫をおびき寄せる花は、多くの種類の植物で知られています。

カンアオイの花は人にやっと感じられる程度ですがむっとするような匂いを出していると言われます。どうやら、やっと納得できそうな研究が現れましたようです。キノコバエの研究はたいへん遅れていて、正式に分類・記載されたものも少なく、習性や生態はほとんどわかっていません。これからどんな研究が出てくるか楽しみです。

しかし、日本だけでも約50種類のカンアオイの仲間があり、花の形はすべて異なるといっても良いほどです。花の形がちがえば引きつけられる虫もちがうでしょう。まだやっと1つわかっただけなのですね。花の自然史・第五章・カンアオイの花生態:菅原敬著

〜研究の対象として:精油の種類〜

カンアオイの仲間の葉を傷つけるとスーとした香がします。この香の正体は精油と呼ばれます。カンアオイの種類によって、含まれている精油の種類や組み合わせ、含まれる量がちがうそうです。

〜ウェブ サイト〜

「寒葵分類一覧表」・・・寒葵の系統的分類のための調査をしています。と書かれているサイト。充実した写真付き一覧表。http://www.hpmix.com/home/ssc/ssc02/

「葵の御前会議帳」・・・写真付き掲示板です。質問に答えてくれます。
http://www2.ezbbs.net/13/sscbbsn1/

〜日本産全種の検索表など〜

「Flora of Japan Ua」2006、講談社。Asarumu 属は菅原敬が担当、日本産全種の検索表と種別の解説。すべて英文、図や写真はない。

掲載種数はフタバアオイ節2種、ウスバサイシン節2種1変種、カンアオイ節46種1亜種11変種、計50種1亜種12変種、合計63分類群。カンアオイの仲間は、分類学的に正式の記載がされず、この本に掲載されていないものも多い(いわゆる裸名)。

「史の花(ときのはな)・寒葵・細辛写真集」、日本カンアオイ保存協会。 野生種、変化花・斑入りなどの園芸種、細辛の写真など480枚。 野生種は詳しい解説が巻末にある。

「寒葵・登録名品集」、 日本カンアオイ保存協会。協会に登録されている登録品種全品種の写真および登録一覧。 写真数300枚、と解説。

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カンアオイのあれこれを、ざっと書いてみました。カンアオイは地味な植物ですが、ずいぶんいろいろな所で関心を持たれていることがわかります。あなたはどんなことに興味を持たれたでしょうか。私はカンアオイの進化です。永遠に解けないテーマかもしれませんが関心を持ち続けようと思います。

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