アジサイ分類の新しい試み

遺伝子DNAの解析

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  アジサイ科とアジサイ属日本産の主な野生種品種名は正しい?品種の分子系統
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●アジサイ分類の新しい試みについて

近年多くの生物で、核、葉緑体、ミトコンドリアに含まれる遺伝子DNAの塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列のデータに基づく分類が盛んに行われるようになりました。

DNA(核酸)やタンパク質のデーターに基づく分類(系統分類)は、しばしば従来の形態に基づく分類と異なる意外な結果が出てニュースになることもあります。

例えば、ゴリラとチンパンジーが近い関係にありヒトはそれらと系統的に距離があるとする従来の考え方に対し、ヒトとチンパンジーが近い関係にあるとする解析結果など。

アジサイ科の植物も葉緑体DNA等の塩基配列に基づく系統分類の試みが行われています。またより近縁の種や品種の関係がわかる、マイクロサテライトの解析も試みられています。

しかし、専門の学会誌などに発表されているだけで一般の人には読むチャンスがほとんど無いのが残念です。

インターネット上で関連のページをみつけましたが、表題だけのものがほとんどです。興味のある方は訪問してみてください。*印参照。2007.7.現在のものです。

*1−1.東京大学コレクションU:大地とその生物:大場秀章・西野嘉章 編

―展示品解説―、「植物:15.キレンゲショウマ」

日本人が初めて新種として発表したキレンゲショウマに関する、研究史の紹介です。新属、新種 Kirengeshoma palmataYatabe 、しかも1属1種という特異な植物です。いろいろドラマがあったようです。その中には、キレンゲショウマの所属が、ユキノシタ科(現在はそこから独立したアジサイ科)かウマノアシガタ科か等の論争も。

キレンゲショウマ研究史の最後に、「ソルテス等(1995年)のアジサイ科および近縁属の系統分類に関する研究」が紹介されています。

簡単な紹介とソルテス等の作成したアジサイ科にミズキ科などを加えた系統樹が図示されています。解析されたのは、葉緑体DNAの遺伝子rbcLの塩基配列で、その解析から作成された、系統樹(分岐図)にキレンゲショウマが含まれています。

この系統樹(分岐図)によれば、キレンゲショウマは、アジサイ科バイカウツギ族クラスターに含まれています。

インターネット上で具体的なデータが見られることは、少ないので一見の価値があります。系統樹(分岐図)のファイル形式がアクロバット形式でなくgifなので信頼度を示す細かな数字がはっきりしないことは残念です。

アジサイ族の部分の概要

http://www.um.u-tokyo.ac.jp/dm2k-umdb/publish_db/books/collection2/tenji_shokubutsu_15.html

*1−2.ソルテス等のアジサイ研究・その後

「葉緑体遺伝子 matK, rbcL の解析データーと形態分析データによるアジサイ科の系統発生」 2001年
『 A Phylogenetic Analysis of Hydrangeaceae Based on Sequences of the Plastid Gene matK and Their Combination with rbcL and Morphological Data 』

Larry Hufford, Michael L. Moody, and Douglas E. Soltis, 2001.

1995年の論文は葉緑体遺伝子 rbcL の塩基配列と形態学的データによるアジサイ科の系統分類でした。2001年に上記の論文が発表されています。1995年のデータに葉緑体遺伝子 matK ,の塩基配列が加えられています。

要約しか読んでいないので細部はわかりません。ていねいな要約がネット上にあるので、その要約の記述からから系統樹(分岐図)を作成してみました。

アジサイ科をジャメシア亜科(Jamesia , Whipplea)とアジサイ亜科に2分し、アジサイ亜科をアジサイ族とバイカウツギ族に分ける考えが出されています。また、信頼度はやや低いが、Decumaria、Pileostegia、Schizophragma、Broussaisia、Dichroa、の5属がアジサイ属 Hydrangea ときわめて近い関係にあり、アジサイ属に統合される日が来るかもしれない。

*2.日本植物分類学会 第1回大会、2002年3月17日一般講演

 「アジサイ属(Hydrangea)の分子系統と植物地理」

゚瀬戸口浩彰・徳岡 徹(京大・総合人間),百原 新(千葉大・園芸),十河暁子(京大・理・植物),C.-I. Peng(台湾中央研究院),Z.-K. Zhou(中国科学院・昆明植研),遊川知久(科博・植物園)

インターネット上には上記の表題のみで内容の紹介はない。

葉緑体DNAのmatK, trnK intron, trnS-trnG spacer、の塩基配列の情報に基づいて系統樹(分岐図)が作成されている。アジサイ属の多くの種および近縁属数種を含めた詳しい系統樹が提示され大変興味深い。現在、最も詳しい、アジサイ属の分析ではないか。

1−2にあげた Hufford 等の2001年論文の結果とは多少異なる。

概略紹介

この内容を川島流に読み解けばアジサイ属の内部は次のように区分され、従来の属・節・亜節の置き方と大きく異なったものになる。

アジサイ属 Hydrangea 属

  アジサイ節・・・アジサイ亜節:ガクアジサイ・ヤマアジサイ

         ・・・ガクウツギ亜節:ガクウツギ・コガクウツギ

         ・・・ジョウザン亜節:Dichroa 属、Broussaisia 属

  ノリウツギ節・・・ノリウツギ亜節:ノリウツギ、アメリカノリノキ、
                     イワガラミ Schizophragma 属

         ・・・タマアジサイ亜節:タマアジサイ、ツルアジサイ、
                      バイカアマチャ Platycrater 属

         ・・・クサアジサイ亜節:クサアジサイ Cardiandra 属、
                       ギンバイソウ Deinanthe 属

  *この分析結果ではアジサイ属の中に他の6属が吸収されることになる。
その結果、ジョウザン、ハワイアジサイ、イワガラミ、バイカアマチャ、クサアジサイ、ギンバイソウがアジサイ属 Hydrangea の種となる。

*3.園芸学会H14年度(2002年)春季大会 4月4日
    口頭発表:遺伝・育種部会RAPD分析

 「RAPD分析によるHydrangea macrophyllaおよびH. serrataの系統分類」

上町達也・○新庄康代・北風有理・西尾敏彦 (滋賀県立大環境科学部)

これも、インターネット上には、表題のみで内容の紹介はない。上町先生のご了解をいただくことができたので、概要を以下に記します。

なお、RAPD分析とは、DNAの塩基配列を直接比較するのではなく、塩基配列のパターンを比較する方法の1種です。この方法は、比較的手軽に短時間で解析できますが、あまり多くの種の比較には適さないと言われています。

「RAPD分析による、ガクアジサイH.macrophylla、ヤマアジサイH.serrata、エゾアジサイH.serrata var.megacarpaの系統関係を探る研究です。材料個体の葉から全DNAを抽出しRAPD分析を行っています。分析したのは、3つの種のサンプル29品種・系統で、北海道・三浦半島を除き全国の自生地からまんべんなく抽出し分析しています。

分析データーに基づいて系統樹(分岐図)が作成されています。それによると、学名から予想される、”ヤマアジサイとエゾアジサイが1つのグループ(クラスター)、ガクアジサイが別の1つのクラスター”にはなりませんでした。

分析の結果は、ガクアジサイとエゾアジサイが1つのグループ(クラスター)を形成しています。すなわちガクアジサイとエゾアジサイは近縁であることを示しています。

全国に広く分布するヤマアジサイは、3つのグループに分かれ、さらに複雑な様相を示しています。すなわち、九州・四国・中国群、近畿群、東海以東群の3つのグループ(クラスター)です。

しかし、なぜかヤマアジサイの九州・四国・中国群だけは、ガク・エゾアジサイグループと共に大きなグループを作っています。」

イメージをつかむため系統樹(分岐)図を単純な図にしてみました。

DNAの塩基配列に基づく新たな研究発表があった。ラピッド分析の結果とやや異なる。発表は2007年8月国際アジサイ会議で行われたが論文はまだ出されていない。詳しい紹介は論文の発表を待ちたいが、その時使われたスライドの1コマが日本アジサイ協会会報19号にある。
概要はガクアジサイグループ+エゾアジサイグループで1つのグループ。ヤマアジサイが1グループを作る。ガク+エゾとヤマが姉妹群となる。

ガクアジサイとエゾアジサイの系統関係、分布の広いヤマアジサイの地域差など、大変興味深い結果が示されました。今後より信頼度の高い分析方法で追試が行われ、この結果が再確認されると共に、種分化の全体像を明らかにしてほしいものです。

1,これらを通覧して思ったこと。

”種”をどのようにとらえるかは、常に論議されてきた大きな課題で異論なくまとめることは困難なようです。まして、似た”種”どうしをグループ化した属や科などは、いっそう意見の一致が難しいようです。

作物や園芸植物なら実用上使いやすい分類なら人為的な分類でもよいわけです。自然を解き明かすためには自然の成り立ちにそった分類が必要です。

自然をよりよく理解するためには、”種”どうしが歴史的にどのような親戚関係にあるのかを客観的に示した系統分類が望ましいわけです。しかし生物の歴史を見ていた人はいないわけで言うは安く行うは難しというわけです。

このようなジレンマに回答を与えてくれたのが、遺伝子やタンパク質に刻みつけられた”歴史の足跡(変異)”です。

理想的には生物の”進化”をそっくりたどり、それに基づく分類をすることです。”進化”を進歩と取る人がいますが間違えです、注意しましょう。”進化”は、イコール変化です。進歩であれ退歩であれ変化することが進化です。

そのような目でアジサイ属を見直してみると、親戚関係の強い4つのグループがあるように見えます。

すなわち、

1,アジサイ節:

従来の分類を支持しているようです。ガクアジサイ、ヤマアジサイ、ガクウツギ、コガクウツギなどが含まれます。ガクウツギや、コガクウツギに近い種が南西諸島から東南アジアに広く分布しているようです。

Dichroa属・ジョウザンアジサイ(中国)、Broussaisia属(ハワイの1属1種)などはここに入る可能性がある。

2,タマアジサイ節:

従来の分類を支持しているようです。タマアジサイに近い多くの種が中国大陸や東南アジアに分布しているようです。

Platycrater属・バイカアマチャはここに入る可能性がある。

3,ツルアジサイ節:

従来、ツルアジサイときわめてよく似た種だけの小さなグループでした。しかし、中南米に分布する常緑蔓性でコルディニア節とされてきた多くの種が実はツルアジサイと以外に近い関係にあり、同一グループと見なされる可能性が出てきました。

4,ノリウツギ節:

従来は日本、中国などアジアに分布するノリウツギとその近縁種のグループでした。しかし、北米大陸東岸に分布するアメリカナ節とされてきた種もノリウツギと同一グループとされる可能性が出てきました。

さらに、別属とされてきたイワガラミもこのグループの一員とされる可能性があります。

信頼度のこともあり、ここまで言い切るのには無理があるのかもしれませんがいろいろ考えるのは楽しいことです。上の表はストレートに信じないで、自身でデータに当たっていただくのがよいと思います。

また、各節内の系統関係は残念ながらまだ充分な信頼度で解明されたとはいえません。

2,滋賀県立大学の上町達也先生からのメールなどから

*3の研究を行った上町先生から、*3の研究には含まれていない貴重な情報をいただきました。

a,大山(だいせん):鳥取県のアジサイはヤマかエゾか?

質問:「ヤマアジサイの解説本では、鳥取県の大山産、兵庫県の美方郡産、京都府の日本海側産のもの等が、ヤマアジサイに属するか、エゾアジサイに属するかで意見が分かれています。」

上町先生より概略以下のような、諮詢に富むご見解をいただきました。

「琵琶湖周辺の比良山系、鈴鹿山系、伊吹山系のヤマアジサイには葉色が薄く、枝も雪の重みに耐えられるように匍匐性に近くなった、エゾアジサイのような特徴のものがある。

これらは、豪雪に適応した草姿となっているだけでエゾアジサイではないと思う。

上記のような、耐雪型となった琵琶湖北部のヤマアジサイをRAPD分析したが近畿のヤマアジサイ群に属しエゾアジサイ群には属さなかった。(*3の研究には含まれていない)

京都北部や大山のヤマアジサイは分析していないが、おそらくヤマアジサイの耐雪型草姿のものと思われる。」

b,ガクアジサイとヤマアジサイとの関係

*3に対する概略次のような、補足的な説明をいただきました。

「日本各地のガクアジサイ、ヤマアジサイ、エゾアジサイを用いて、花や葉の形態的特徴をもとに分析したことがある。そのときの解析では、ガクアジサイが伊豆半島のヤマアジサイと近いという結果にはならなかった。

伊豆半島の沿岸部のガクサジサイと内陸部のヤマアジサイ両者にほとんど類似点は認められなかった。また、中間的な特徴を持つ個体も見つからなかった。」

●私の独り言

ヤマアジサイはサンスククと呼ばれ朝鮮半島南部に分布しています。エゾアジサイ、ガクアジサイは、大陸には分布していないようです。中国からヨーロッパに渡ったアジサイは、日本原産のものが中国に渡りさらにヨーロッパに渡ったといわれています。

エゾアジサイ、ヤマアジサイ、ガクサジサイの3種に分かれた(分岐、進化)のは、日本列島ならそれは、いつどこでなのでしょう。大陸ならいつどのようにして日本に渡ってきたのでしょう。興味が尽きません。アジサイの古い化石はほとんど見つかっていないようで、この方向からの追求は難しそうです。

中国大陸奥地の雲南などには、ヤマアジサイに近い種があると云いますが、まだ確実な情報にはなっていないようです。

*3の研究では、ガクサジサイとエゾアジサイが近縁という園芸書にはない意外な結果が出ています。現在の分布は、ガクアジサイは太平洋側、エゾアジサイは日本海側で、間にヤマアジサイが挟まり接点がありません。どんな歴史があるのでしょう。

核DNAや葉緑体DNAの塩基配列の分析など精度の高い研究方法で、*3の結果が再確認される日が早く来てほしいです。私としては、地元である三浦半島のガクアジサイやヤマアジサイも分析してほしい気がします。

ヤマアジサイ東海以東群は両性花・装飾花とも白色です。まわりは両性花・装飾花とも青色のガクアジサイ、エゾアジサイ、ヤマアジサイ近畿群に囲まれています。解き明かしてほしいことの1つです。

また、中国大陸にはタマアジサイの仲間が何種類も分布していますが、日本のタマアジサイのように玉状の蕾を作りません。これも謎の1つです。

日本のタマアジサイの分布は、東海から関東地方にかけてと伊豆七島でしょうか。このタマアジサイの分布域から飛び離れて、トカラタマアジサイが九州沖の黒島・口之島・諏訪之瀬島に分布するのもまた謎です。

タマアジサイの先祖は、大陸から渡ってきたはずなのに、分布も形態も不思議です。アジサイの仲間は比較的起源の古い植物と言われています。地質時代には何度か大陸と陸続きになったこともあり、日本海がごく小さかった時代もあり今の地形で考えてもだめのようです。

「昔タマアジサイの先祖が朝鮮半島から九州に渡ってきて分布を広げた。朝鮮半島でタマアジサイの仲間からヤマアジサイ(サンスクク)ができた。そのヤマアジサイが九州へ渡ってきて分布を広げ、タマアジサイを東海・関東に追いつめた。」

こんなことが証明されたら楽しいですね。そのためには、ヤマアジサイ(サンスクク)が九州・四国・中国群と近縁と云う結果が必要です。そんな研究が進むことを楽しみに今日はここまでです。

   

       

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