種間雑種作成の取り組み

新たな園芸植物への挑戦

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  アジサイ科とアジサイ属日本産の主な野生種、| |

セイヨウアジサイ(ハイドランジア)の品種改良(育種)が盛んになり、毎年新しい品種が豪華な鉢仕立てとなって、花屋さんの店頭を飾っています。そのような流れとやや異なった品種改良の取り組みを、みつけたのでご紹介しましょう。

京都府立桂高校と群馬県立園芸試験場(2003年平成15年群馬県立農業技術センターに統合)です。紹介の前にちょっと蛇足。

品種改良について

日本の伝統的園芸植物(古典園芸植物)は、1つの種内に起きた変異を注意深く探しまた、それらを交配し、品種として発展維持してきました。

ツバキ、オモト、セッコク、フウラン、ハナショウブ、シュンランなどシダ類のマツバランやイワヒバまで、上げればきりがありません。最近ブームとなったダイモンジソウ、ユキワリソウ、ウチョウランなどこの流れに沿った品種改良です。

ソメイヨシノなどのような種間雑種起源のものも多くは自然雑種であり、欧米のような人為交雑は少ないように思えます。それでも驚くほど多様な品種群を確立したことは、日本人の感性の鋭さと情熱のなせる技といえるでしょう。

欧米の品種改良は、多くの近縁種を集め、それらを人為的に交配し新しい園芸植物を作り出して来ました。そのため近縁種が持っていた様々な性質が1つの園芸植物に集まり、変化に富んだ品種群を形成しています。

その現れの1つは、1つの園芸植物にあらゆる花の色をそろえる努力です。バラでは古くから多くの野生種の様々な形質を導入する努力が重ねられ、最近ではクリスマスローズで同様の努力が熱心に行われています。

パンジーやプリムラ・ジュリアンやプリムラ・ポリアンサは、ほとんどの花色がそろい成功した例でしょう。

したがって欧米で改良された園芸植物の多くは、近縁の野生植物が交雑により渾然一体となってできあがった野生にはない、全く新しい植物といえます。

日本でも明治以後、公立試験場や種苗会社が欧米流の品種改良に熱心に取り組んでいます。最近では最先端の遺伝子導入技術を使い、他種の植物から遺伝子を導入することも行われています。

アジサイの世界でも、近縁野生種から形質を導入する取り組みが日本で始まったようです。

1,京都府立桂高校の取り組み:作出品種群画像

a,ジョウザンアジサイ×ちちんぷいぷい桂の地球(ほし)

の組み合わせによる属間雑種

:品種名「桂夢衣」(2003年品種登録、読みカムイ)

桂高校の片山一平先生からのメール(2003.3.)よるとすでに開花直前の属間雑種苗を複数得ているとのことです。この組み合わせによる品種改良の目的は「ジョウザンアジサイが持つ、わき芽にも花を付ける形質の導入」だそうです。

アジサイ科の属間雑種は世界初?
ジョウザンアジサイは、常緑性で装飾花のない青い両性花だけの花房を付ける植物です。分布は広く、中国、台湾、東南アジア、ネパールなどといわれています。

和名、ジョウザンアジサイは、学名を、Dichroa febrifuga Lour. といい、
Hydrangea属の植物ではありません。生薬名を、ジョウザン(常山)という:強い殺マラリア原虫性を持つアルカロイドを含む。人に対する毒性も強い注意。

一方の、「ちちんぷいぷい桂の地球(ほし)」は、桂高校で作出した子持ちの花の新品種です(品種登録済)。育種経過は、ヤマアジサイの交配選別品種である「ニューバース桂」×ヤマアジサイ「キヨスミサワアジサイ」です。「ちちんぷいぷい桂の地球(ほし)」は、ヤマアジサイ Hydrangea serrata の園芸種でありHydrangea属の植物です。

したがって、新品種「桂夢衣」、読みカムイはDichroa属とHydrangea属の属間雑種です。

この品種の特性は花がジョウザンと同じ両性花のみ花房、青花でジョウザンよりやや大きい、常緑性で紅葉性があり葉も鑑賞価値がある。茎は立ち葉も立つ。

Dichroa属は、東南アジアを中心に分布する12種を含むと云われます。今後、アジサイの品種改良における、良い遺伝子資源になるかもしれません。

b,ウズアジサイ(オタフクアジサイ)×

ニューバース桂(ヤマアジサイ系の同校作出1号品種)による

種間交雑の新品種「桂のロクメイカン」(カタログ名は鹿鳴館)の作出(1997年作出)

野生種との交雑ではないが
「オタフク」(ウズアジサイ)はガクアジサイ系の品種であり、「ニューバース桂」はヤマアジサイ系の交配選抜品種です。

したがって、Hydrangea macrophyllaとHydrangea serrataとの種間雑種といえます。

「桂のロクメイカン」は品種登録申請中です。
ガクタイプの花で、装飾花のガク片がやや椀状となりオタフクの形質を受け継いでいます。装飾花は純白、両性花は開花前ピンク、開花後ブルーとなります。

アジサイでは新品種の作出が盛んになっていますが、その両親が明らかにされているものはきわめて少ないです。今後の品種改良のためにも可能な限り交配親を明らかにしていくことが大事ではないかと思います。

c,同校作出の他品種についても簡単に触れておきましょう。

「ニューバース桂」:同校作出の1号品種。ヤマアジサイの交配選抜品種です。鉢植向きの矮性種で、花はガクタイプ、花色は土壌条件により淡いピンクか淡いブルーになります。

「ピクシー桂の舞姫」:2002.3.品種登録されています。マイコアジサイとニューバース桂の交配選抜品種です。ヤマアジサイ系ということです。鉢植向きで、花はテマリタイプ、花色は土壌条件により淡いピンクか淡いブルーになります。

上記3品種ともタキイ種苗の通信販売カタログ「花ガイド」2002年夏秋号に掲載されています。

「ちちんぷいぷい桂の地球(ほし)」は、桂高校で作出した子持ちの花の新品種です(品種登録済)。キヨスミサワアジサイとニューバース桂の交配選抜品種。

同校では”草花クラブ”の活動として、1985年頃からアジサイの品種改良を行ってきたそうです。すでに多くの品種の作出に成功し、生産・発売も行っています。

2,群馬県立園芸試験場(農業技術センターに統合2003年)の取り組み

同試験場では、耐寒性の導入を大きな目的として種間雑種の作成に取り組んでいます。2003年春現在、3つの組み合わせでF1個体を得ることに成功したと発表しています。さらに1つの発表があった。
アジサイの研究は、同センター生産技術部生物工学グループに引き継がれている。

e,トキワアジサイ*とセイヨウアジサイの種間雑種、3品種を品種登録出願

ピンク系2品種とブルー系1品種を品種登録出願、、H17(2005)年3月31日。3品種とも常緑性、非休眠性**、超早咲き性をもつ全く新タイプのアジサイ。

今後の予定は、H18年度に群馬県内生産者にたいして苗の配布を、H19年1月頃には鉢花として市場出荷を予定しているとのこと。

同センターが長年取り組んできたバイオ技術を使った、全く新しいアジサイの育成が一つの結果を出したことはとても嬉しいことです。

群馬県農業技術センタ−によると、平成12年に Hydrangea cinensis×H. macrophylla の交配を行った。種子は完熟まで生育しないので胚珠培養技術を用いることにより、平成13年に雑種苗520株を作出することに成功した。

+品種登録時の説明では『「トカラアジサイ」に「チャーミングブルーリング」を交配して育成されたものである。』となっている。

いらい選抜を重ね、今回その中から3品種を品種登録出願した。バイテク技術(胚珠培養)を使ったアジサイ品種の育成は世界初とのこと。3品種の共通した特性として4点が示された。

・ 既存品種に比較して著しく早咲きである。(1月〜3月に開花)
・ 常緑性である。(セイヨウアジサイは落葉性)
・ 非休眠性である。(セイヨウアジサイは、休眠する。セイヨウアジサイの促成栽培における冷蔵庫での休眠打破作業が本品種では不要。)
・ 花着き及び花持ちが良い。

なお品種名(仮称)と品種特性は次のように説明されている。

(1)「スプリングエンジェルピンクエレガンス」(仮称)の特性
   ・開花期が2〜3月で早咲きである。
   ・花序(花の着き方)は額咲き、装飾花(額の部分)は大輪で不完全な八
    重咲き、花色はパステルピンクである。

 (2)「スプリングエンジェルブルーエレガンス」(仮称)の特性
   ・開花期が1〜2月で早咲きである。
   ・花序は額咲き、装飾花は大輪で一重咲き、花色はパステルブルーであ    る。

 (3)「スプリングエンジェルフリルエレガンス」(仮称)の特性
   ・開花期は1〜2月で早咲きである。
   ・花序は額咲き、装飾花は大輪で一重咲き、花色はピンク白あるいは
    薄いパステルピンクである。

ホームページの写真を見て感じたことなどを付け加えると、

ピンク2品種、ブルー1品種の3品種ともガク咲き、共に色は薄い、特にピンク。両性花も装飾花と同系の色のように見える。ピンク2品種は装飾花ガク片の鋸歯がめだつ、ブルー品種はガク片に鋸歯はない?

写真では横張り性が強そうに見える。トキワアジサイの形質受け継ぎのためか。葉はアジサイ型。

○群馬県農業技術センタ−のホームページには3品種の写真が1枚ずつ掲載されている。

http://www.pref.gunma.jp/hpm/nouseika/00120.html

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* トキワアジサイ
= カラコンテリギ Hydrangea cinensis (H. scandens spp. cinensis) 。品種登録時の説明では「トカラアジサイ」となっている。園芸店では台湾トキワアジサイ=トキワアジサイなどの名で販売されているが、台湾産で常緑、白のガク花をつけるがこの種が交配に使われたのではないようだ。落葉性のガクウツギ H. scandens に近縁とされている。

**非休眠性:温度が一定以上あれば成長と開花を年間通してくり返す性質。トキワアジサイはこの性質を持つが、日本では冬の低温で成長が止まる。
アジサイ、ヤマアジサイは休眠性で秋から冬にかけ休眠する。低温に一定期間さらされると休眠が打破され、気温の上昇と共に成長開花する。低温に一定期間さらされないと正常の正常開花ができない。

***この項は2005.12.13.に追加

d,カラコンテリギとセイヨウアジサイとの種間雑種の作出

園芸学会H15年度春季大会(日本大学生物資源科学部湘南校舎;藤沢市):2003年4月4〜5日 においてポスター発表が行われている。

「胚珠培養によるカラコンテリギとセイヨウアジサイとの種間雑種の作出」
 ○工藤暢宏1・木村康夫1・新美芳二2(1群馬園試,2新潟大農学部)

インターネット上ではこれ以上詳しい内容は示されていない。

a,セイヨウアジサイ(ブルースカイ)×アメリカノリノキ(アナベル)の組み合わせによる雑種植物の育成

セイヨウアジサイ(Hydrangea macrophylla)と北アメリカ原産のアメリカノリノキ(H. arborescens)の種間雑種です。

交雑による種子は、すべて結実せず不発芽となるそうです。若い種子から胚珠を取り出し培養しても培養途中や本葉展開後などにすべて枯死して、F1個体は得られない。

胚珠培養で生じた子葉を枯死前に切り取り、培養してカルスを形成させ、このカルスからの再分化により雑種個体を得ることに成功しています。成功率の低さを見るとその苦労が忍ばれます。

この方法で、20株の雑種個体を得ることに成功し、1999年10月現在この内の、1個体を開花させています。

花は、テマリ咲き、装飾花のガク片は肉厚、花色はピンクです。次のサイトに開花状態の写真が公開されています。写真で見る限り節間が詰まっていますがアジサイと変わらない印象を受けます。*参照 

染色体の観察により雑種性が確認されているそうです。耐寒性などその他のデータの記載はありませんが、培養条件や成功率などのデータがあります。

同時に行われた、ブルーダイアモンド×アナベルの組み合わせでは雑種個体は得られていません。この1個体の開花は大変な努力の成果といえます。

セイヨウアジサイ(ガクアジサイの園芸種) Hydrangea macrophylla cv.とアメリカノリノキ H. arborescensの種間雑種の成功は世界初とのこと。(以上2003.2.26.現在)

*開花株の写真

http://www.affrc.go.jp/ja/db/seika/data_kan-tou/h11/narc99K450.html

*両親の写真と未開花株の写真

http://www.aic.pref.gunma.jp/ensi/seikou/contenpic/azisai.htm

2002年秋現在、販売されたという話は聞きません。すでに開花株の写真もインターネット上に公開されているので、今後の販売が楽しみです。

b,セイヨウアジサイ×ツルアジサイの組み合わせによる雑種植物の育成

セイヨウアジサイ(Hydrangea macrophylla)とツルアジサイ(H.petiolaris)の種間雑種です。

2002年春の園芸学会で胚珠培養により雑種個体を得たという発表が行われています。同年秋の同学会でも続報が発表されました。インターネット上には発表のプログラムだけで、具体的内容も、画像もありません。

群馬県立農業技術センターのサイトに交雑結果の写真があります。
  母親(種子親)セイヨウアジサイ「ブルーダイアモンド」と
 父親(花粉親)ツルアジサイの写真。
この両親の種間雑種(子供)、花の色が少しずつ異なる4個体の写真です。
  花は白ではなく、きれいな有色花です!ツルバラのようにアジサイが壁面
  を飾る日が来るかも知れません。

つる性の導入と耐寒性の導入が交雑の目的だそうですが、雑種第一代F1は西洋アジサイに近いように見えます。

http://www.pref.gunma.jp/e/04/nougic/bio/hydranger.htm

ここで、この交雑の写真が見られます。2004年8月。

**2003年に群馬園試が農業技術センターに統合されたことに伴い、関連サイトも変更になっている。アジサイの研究は、同センター生産技術部生物工学グループに引き継がれている。

*印参照、2003.2.26.現在のサイトです。

今後の生育と、開花の続報がインターネット上に公開されるのが待たれます。

*H14年度園芸学会春季大会(千葉大):2002年4月3〜4日
2002年4月4日(木)展示による発表

ポ104 「胚珠培養によるセイヨウアジサイとツルアジサイとの種間雑種の作出」

○工藤暢宏1・木村康夫1・新美芳二2 (1群馬園試,2新潟大農学部)

http://www.affrc.go.jp:8001/jshs/congress/2002sp/program.htm

*H14年度園芸学会秋季大会(九州東海大学工学部):2002年10月13〜15日、2002年10月14日(月)展示による発表

ポ080 「胚珠培養により得られたセイヨウアジサイとツルアジサイの種間雑種の特性 」

○工藤暢宏1・木村康夫1・新美芳二2(1群馬園試,2新潟大農学部)

http://www.affrc.go.jp:8001/jshs/congress/2002at/program.htm

c、セイヨウアジサイとカシワバアジサイの種間雑種の育成

セイヨウアジサイ(Hydrangea macrophylla)を種子親に北アメリカ原産のカシワバアジサイ(H. quercifolia)を花粉親に用いて交配後60日以上で胚珠培養を行なって、種間雑種を作出している。

セイヨウアジサイの品種はブルーダイヤモンド、カシワバアジサイの品種はスノークイーン。この組み合わせの交雑の時、きわめて低い率で雑種個体を得ている。

胚珠培養数694に対し、得られた雑種個体は6個体。0.9%。交配後の日数が90日の時、もっとも結果がよく、雑種個体を得た率が1.7%となっている。

詳しいデータは下記のサイトを参照。カラーではないが雑種開花株の写真も掲載されている。2003.3.13.現在

http://narc.naro.affrc.go.jp/chousei/shiryou/kankou/seika/seika13/12/narc0112i22.html

交配したままでは、完全な種子はできない。胚珠培養すれば率は低いが雑種個体が得られる。雑種個体の生育は、きわめて遅く、夏季生育停止など不安定である。

雑種個体は節間がつまった福助作りのような草姿となる。掲載されている個体の花は、テマリ型のアジサイ風である。ガク片が肥厚し開花後も成長を続けるなど特異な生育をするという。

研究期間 :1999〜2000年度
研究担当者 :工藤暢宏ら
発表論文等 :胚珠培養によるセイヨウアジサイとカシワバアジサイとの種間雑種の作出.園芸学会雑誌, 70別1,135,2001

        

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