即席セイザー小説。かなり短い読みきり文書。 戻る

番外  ××は、平和なり。


 学生時代にタイムスリップですかい、あんたら。とよりにもよって秤谷仁が、豪にダメ出しした。
 ただいま、グランセイザー内の流行(なんじゃ、そりゃよぉ)は
「写真付携帯メール」
だったりする。大きいお友達、帰ってきなさい。
 ちなみに秤谷仁的の流行は大分前に終わっている。
 学生な剣や未加。十代の愛、ギャルな蘭はともかくとして、直人を除く(万年バッテリー切れなんだから、解約すればいいのにね、お金もったいないなぁ)皆がせっせと写真を撮っちゃ、皆に電波で回している。
 よりにもよってソレにだ、熱中しているのが、神谷豪と伝通院洸である。しかも、こいつら二人が完全にメル友状態。内容に関しても他のメンバーにいうことすらない。世も末だ。というか、洸にいたっては「どの面さげて撮影していてるのか、誰も見たことがない」「そもそも、どーいう写真を撮っているのか見たことがない」‥‥想像しても目撃しても怖寒いだけなんだけどね。世紀末的考え方として「ヤツらはデキている」のであろうか。考えただけでも脳に水疱瘡が出来そうだ。
 メール着信音が鳴った。相手は辰平。内容は『マッシュルーム1キロを50円で購入。本日、研究所にてマッシュルーム大会を企画』とマッシュルームの詰まったパックを手に勝利宣言のガッツポーズの映像。もちろん自分で撮影。‥‥マッシュルーム大会って‥‥なに。渋谷なんかに行きゃゴロゴロいそうな、辰平のような一見強面がマッシュルームと騒いでいたら危ないお薬(違うな乾しキノコだ)に連想が行ってしまう。
 蘭からメールを受信。アイスクリームのチェーン店、新作試食のレポート。この娘はホント、アイスが大好きだ。両手でアイスを持っている写真。撮影者は間違いなく獅堂剣。毎度毎度アイスを大量に食わされて、ポンポン痛くしないのか。お兄ちゃんはちょっと心配だぞ。心配って、そりゃ普通アノねーちゃんのすることだ。ん? 違うな。豪と未加に怒ってもらおう。
涼子さんから受信。なんだろ、なんか皆立て続けだな。時計を見たら18時を過ぎている。なんだあがりの時間か世間様は。オレ的上がりっていつなんだろ。はぁーぁ、仕事すすまねぇ。ここはひとつ、涼子さんのメールでも見て元気を出そう。CCだ。そーいゃ、さっきの二人もCCだったな。皆さん、筆まめね。
『マッシュルーム大会、参加します。あと、コレ買ったから皆でしましょう』
 ‥‥なんで、参加しますか涼子さん。写真をチェック。
 ‥‥。涼子さん、貴女、なに買ってるんですか。
「ドンジャラ」*ちゃんとドラえもん*
 ‥‥。彼女は、この不思議運命共同体が出来てから(カリンのとこに入り浸っていたときには、そーんなぁ、ことは全ぁっくなかった)彼女は、この手のちょっと懐かしい系のオモチャにはまっていた。そもそも獅堂剣が、場が持たなくなったときに取り出したジェンガがそもそものキッカケだった。ウノやトランプ、大いに妥協して花札、マージャンぐらいだったら「ああ、学校に持ち込んでやってるのね」で済むが、ジェンガだ。一瞬、合コンでもやってるんでないかと疑ってしまった。いや、あの弟君を叩いたら「いろんな埃が立ち込めそう」なんで想像をめぐらすのを停止した。怖いコワイ。
 でだ。ジェンガをやってよほど、その手のテーブルゲームにはまったのか、弟君が持ってくるゲーム大会には、必ず参加している涼子さん(いや、会うキッカケが合法的かつ、確実でこっちは嬉しいかぎりなんだよ)とうとう、自分で買っちゃったのね。あらあら。
 涼子さんは、もしかしたら、小さい頃から「いろいろあった」から。ボスニアで戦火を逃れたって経歴とかNGOであっちこっち行っていたのを聞いたときは正直びっくりしたけど。そういう、皆でわいわいするのに、もしかしたら飢えていたのかもしれない。まあ、オレとしてはだ。コロコロと笑う涼子さんが見られるってだけで、3日はハッピーな気分でいられるから、い〜んだけど。
 携帯が鳴った。電話だ。
「すまん、仁。仕事中か」
「そーだよ、豪。なんの用」
「ちょっと、見て欲しいものがあるんだが、京南病院まで来てくれないか」
「‥‥なんでまた、病院なんだよ」
「ちょっと、鑑定してほしいんだ」
「そんなのは、テレビ東京さんにしてもらってください」
 切るぞーといったら、まてまてとしつこく言われた。疲れるのではいはいと返事をした。

 


 オレが呼ばれた理由はすぐに分かった。サイフ、バッグ。いやに数が多い。そんなものを差し出された。「本物か偽者か、分かるか? 他のブランド物ですまないが。こういうのはお前が一番詳しいと思って」
「そゆことですか、警察でいう本店にもって行けばいいじゃん」
 少しいじめてみた。
 まかせなさいってもんだ。京南病院の地下室には、私服の豪と白衣の洸がいた。二人して携帯を手にあれだ、これだと喋っている。そこにオレ登場。
「直に触っていいの、これ」
「ちょっとまずい」
「悪い、洸。ほら病院で使うゴム手袋貸して」
 ティッシュのように箱から引き抜いて、手渡してもらう。
 まずサイフ。万札(ピンサツだ)を入れてみる。微妙なお札入れサイズ。サイフの中の内側になぞって指を這わせる。いつも持ち歩いているルーペで革を拡大する。
「‥‥ニセモノだよ、このサイフ」
「根拠は」
「まず、日本札が合うブランド物のサイフってあんまりなの。本来自国の札のサイズに合わせるから。あと内側の裁断が甘い。素手で触っていたら手を切るね。本物だったらまずないし。とどめは革だ、印刷。‥‥ほら、拡大するとテレビのブラウン管を間近で見たみたいに点点の色だろ、本物はこんなんじゃない。コピーものとしては、60点だね」
 うーんと、二人が唸った。
「凄いな仁」
と洸が褒めた。
 お次はカバン。
「こりゃ、凄いね90点。パチモンでここまで出来れば別な仕事をしたほうがいいと、進めたいね。このロッドナンバーから推測される時期に、このデザインは色を微妙だけど代えている。‥‥あと、ロゴが‥‥ほら、ここね。本来ならこういう風に(手近のメモ紙にスケッチ)穴が開いているんだけど、塞がっている。あ‥‥あと、ロッド打っている金具の溝が荒い。うーん85点。素人じゃまず本物って信じちゃうね、こりゃ」
「まるで質屋さんだな」
と豪。
「質草入れても、金ださないよぉ。で、なにさ二人してがん首並べて、どういうことだよ」
「いや、洸から連絡で『保険証と患者が違うかもしれない、それに怪我がどうみても普通では起きない怪我だ』とだ、写真付のメールが来てだ」
 といって二人は携帯で撮った写真を突きつけた。保険証、出血多量で気絶している患者、あと生々しい怪我。
「洸のところに入った患者が、指名手配中の偽ブランドのブローカーだって分かったんだ」
「逮捕されたの?」
「いや、まだだ。今見張りを立てている。逮捕状が出たらすぐ捕まえる」
「‥‥もしかして、オレって鑑識みたいなこと、したのかなぁ」
「あれだ。確認のために呼んだ。さすがに根拠もなくて逮捕するわけにはいかないからな」
「ふーん、これで一件落着ってやつぅ、オレ様大活躍じゃんっ。つか、豪も犯人捕まえられてよかったじゃん。昇進できるかも」
「いや、これは本店の事件だから‥‥」
 点には入らないよと、豪は静かに言った。
「最近さぁ、お前ら二人なにしてんの。前から聞きたかったんだけど、二人でコソコソ写メールのやり取りなんて」
 豪と洸は顔を見合わせた。で同時に洸は携帯の画面をこちらに向けた。
「‥‥なにこれ」
 アザだろうか、ずいぶんとひどい。ぷくぷくとした子供の腕に素人目でも不自然な紫色の斑点があった。
「これって、もしかして。幼児虐待ってやつ」
「幼児だけというわけではない。老人、若い女性。色々だ」
 静かに淡々と語るが、息継ぎ手前の言葉の語尾が力強かった。
「私がみつけて、豪に送る。民事ごとだから警察はしゃしゃり出ることが出来ないが、豪の口から役所の窓口にいってもらう」
「実際、警察も役所もそうそう動いてくれないのが現実だ。なにかしなくては気がすまないんだ、自分は」
「私も医者として放置することが出来ない」
 そういう、写真付メールの使い方もあるのね。
「世間様のお役に立つのはいいけど、隠し撮りはよくないよ‥‥しゃーないか、ことがことだからね。‥‥っつか、お二人さんが怪しい関係なんじゃないかって、オレ思っちゃったさ」
「「はぁ??」」
 豪と洸の脳内で計算がやっと終わったらしく、オレの言ったことがよぉぉーやく理解できたらしく(遅いって)ムーーーっと顔のシワが隆起した。とろいねぇお二人さん。
「バカなことを言うな、すぐに誤れっ」
「はいはい、ごめんなさい。ところで、急きょ今日開催予定の『辰平プロデュース・マッシュルーム大会』にゃ、いくの? お二人さん」
 二人は、声をそろえて。
「まだ、分からない」
と答えた。

 


 じゃらじゃらじゃら。
 扉のそとからも聞こえる、この雀荘のような音。やってるものはドンジャラなんだけどね。四人が即席の雀卓について、真面目な顔でやっている。あぶれた連中は、辰平の作ったマッシュルーム・カレーを食べながら雑談している。涼子さんは、まだ食べていない。一つに集中すると、お腹は減らないタイプらしい。
「ドンジャラっ、私ドラミちゃんで黄色揃えだから、点数高いわよ」
 はい、コインちょうだい。と手を差し出す涼子さん。
「オレ、パパ狙いだったのに、このリーチ寸前で持っていかれると、つらいなぁ」
「仁、渋すぎ。オレは手堅く揃いそうなキャラを集めてだな‥‥」
「そーいう、セコイ手ばっか使って上がっているから、全然点数低いじゃない。アンタもっと要領よく勝たないと‥‥」
「お姉ちゃん、負けてる天馬さんに、アドバイスするってのどーかとおもうよ」
 にっと、笑いながらドンジャラの牌をかき混ぜる涼子さんの顔が無邪気だった。いや勝とうとする気持ちマンマンで、ガキ大将の邪気は感じたけどね。
「いま、誰が勝ってるんだ」
と誠。
「勝ちの数だけだったら天馬さん。点数だけだったら涼子さん」
 辰平が答えた。点数をみて、
「やっぱり、天馬は気が短いんだな。トランプでいうところのツーペアで上がっているのか、戦略的に甘すぎだ。これじゃ勝てないぞ」
 誠が「勝ちたいんだったら、粘り強く戦え」とか天馬にいっている。二つ同じ牌をもつと次でどうにかしてやろうって浅はかに考える天馬にゃ無理なアドバイスだ。
 結局なところ、マッシュルーム大会に参加したのは、獅堂兄弟、腹のすいた天馬、オレ、誠、主催者の辰平だった。女の子二人は用事が済み次第、合流。万年行方不明な直人とは結局連絡がつかず、豪と洸はまだ病院っぽかった。
「おい、仁あがるのかよっ」
 天馬が文句の香り漂う声で吠える。
「オレ様はね、これから出前するのっ。辰平、カレー2皿盛って。豪と洸に持っていくからさ」
「了解」
 早速作業に入る。
「あの二人、最近仲がいいよなぁ、どーして」
と天馬。まさか怪しい関係じゃ‥‥と、シシシと笑うと涼子さんにオデコをボコっと叩かれた。
「おバカ」
「なにするんだよ、リョーコっ」
 手早く牌を積みながら、
「あの二人は、正義の味方してんのよ」
 あ、涼子さん。知ってたんだ。あのこと。
「おれ等だって正義の味方だぜ」
「そうね、でもちっょと違うのよ。‥‥行ってらっしゃい、仁」
「はい、涼子さんっ」
 カレーの皿を手にして、オレは部屋を出た。




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