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‘ブルドッグ’・・・、きっと、この犬種を知らない人はいないでしょう。
しかし、あの愛くるしいブルドッグが誕生する為には、人工授精による交配、帝王切開での出産、2〜3時間おきの人工哺乳を必要とすることが多い・・・・というのは、案外知られていないことです。
‘ブルドッグ’は、知ってのとおり、色々な犬種と掛け合わせて人間が人工的に作り出した犬種です。
今でこそ、「イギリスの国犬」と言われるようになっていますが、それまでは、闘牛犬としてひたすら改良を重ねられてきた歴史があり、イギリスで1815年に闘犬を法律で禁じられてからは、それに体型や性格を改良され、現在の家庭犬となったのです。
ブルドッグを家族に迎え入れた人には判ると思いますが、見た目とは裏腹に、色々な面(例えば、皮膚のトラブルや呼吸器障害、気温の変化に弱いなどなど・・・・・。)で、デリケートです。
このことは、ブルドッグが人工的に造られたというバックグランドが原因のひとつでもあります。
その土地で土着犬として生活している犬は、その環境に適応できるように自身で変化していきます。
ひとつ例にあげるなら、世界最古の犬種として、ノアの箱船に乗ったと伝えられているアフガンハウンドは、寛骨端が十字部の仙骨上に突出しています。(大雑把な言い方をすれば、腰骨が背骨より出ているんです。)これは、他犬種ではない特徴です。どうして、アフガンハウンドが、このような特殊な骨格なのかというと、原産地のアフガニスタンの山岳地帯を疾走するのに適していったからなのです。(大きく話はそれますが、先のアフガン戦争の際、焼け野原になった荒野や地雷が埋められていると言う砂漠地帯の映像が頻繁にテレビに映し出されていました。私はいつも、ここに住んでいる犬や猫たちはどうしているんだろうと心配になります。アフガンハウンドが故郷アフガニスタンの山岳を優雅に誇らしく走っている姿を見ることは、もうできないんでしょうか?)
このように、犬種によってそれぞれ特徴があります。
「全犬種標準書(STANDARDS OF THE BREEDS)」で、純血種の特徴(姿かたちだけでなく、本質や性格、動作に至るまで)を明示しています。
この「犬種標準書」は、それぞれの犬種の保存と繁栄のため長い年月をかけて先人たちが繁殖を通じ作り上げてきたものです。
私を含め、繁殖に関わる方は、このスタンダードを正しく理解し、よりスタンダードに近い犬の作出を心がけるよう努力することが大切だと思います。
よく言われていることのひとつに、ブーム(流行)の犬種は、質が落ちると言われます。
一昔前にシベリアン・ハスキーが流行しました。当時は、近所をお散歩していても見かけるほどポピュラーな犬でした。それと同時に、「ハスキー?アラスカン・マラミュート?」と悩むほど、サイズが大きい子がたくさんいました。
今、ちょうどトイ・プードルが流行しています。プードルは、「犬種標準書」にて、サイズにより、3バラエティー(トイ・ミニチュア・スタンダード)に分けられています。サイズは、体高だったり体重だったりするのですが、トイプードルの場合は、‘体高が28cm以下’と定められています。ドッグショーでも時折、審査員がスケールで体高をチェックします。それほど、サイズには厳しい犬種なのです。プードルの向上を願っている繁殖者は、定められたサイズの中で、より健全なプードルを作る努力をしています。しかし現在のプードル業界は、「売れるから産まそう。」という流れの中にいます。計画性を持たない繁殖は、その犬種のスタンダードからだんだんと外れていくのです。そうして増えた子孫たちは、また、スタンダードに近づけていく作業にどれほどの労力と時間(とき)がいるのでしょうか?
「犬種標準」(スタンダード)とは、ドッグショーに興味のある人だけでなく、ぜひ、自分の飼っている犬種を理解する為にも必要かと思っています。愛犬の沿革を知ることは、それぞれの犬種の先人たちがどういう思いでその犬種を作り上げてきたのかがわかると共に、今現在いる子達は、決して今日昨日できた子達じゃなく、脈々と受けついてきた血の結晶であります。そして、その子の子孫を残そうとするものは、未来の子達への掛け橋となるのです。
ただ、文字で表現しているこの「犬種標準」から、すべてのひとが同じ理想像を描くことは不可能です。
スタンダードにあるブルドッグの‘一般外貌’には、「中型の大きさの短毛種で、重厚なボディーを有し、頭部は巨大で短く、肩幅広く、頑丈な四肢をしている。」とあります。
この表現で、皆さんはどのようなイメージを持ちましたか?一人一人違っていて当然だと私は考えます。
スタンダードを逸脱しないかぎりで、個々に理想とするタイプがあるのが当たり前です。
我が家のブルドッグたちは、イギリスからの輸入犬を基礎にブリーディングをしています。
これは、私が目指しているブルドッグ像に近づける為の交配は丁度イギリス系の血が合っていたからにすぎません。
よくイギリス系かアメリカ系かという話を聞きますが、ただタイプが少し違うだけで、どちらが優秀か?ということでは決して無いと思っています。
まず、理想のブルドッグ像を描いてからそれに近づくように欠点を補っていくブリーディングをしていくのが、ブリーダーの使命であり、楽しみでもあると思っています。
一番私が危惧している繁殖は、ただ「女の子を持っているから子供を産ませてみよう。」という、安易な考えでの繁殖です。
計画性のない繁殖は、先天的な病気を増やす要因になりかねません。
例えば、ブルドッグは股関節の異常を持っている子が他犬種より多いです。
もともと、体型的に骨盤が小さく股関節が浅く付いています。それが、ブルドッグ独特のお尻をフリフリ歩くローリングゲイトを有するのですが。
そのため、成長期にびっこをひいたり、脱臼をしたりする子が時折います。
後天的要因によっての場合だと、繁殖には問題はありません。
先天的要因の場合は、遺伝と言う形で子供に引き継がれます。
股関節の異常の多くは、股関節の異常形成または股関節形成不全と言われ、ハーディ(Hip-Displeasure)と呼ばれています。
第2次世界大戦後、ドイツからアメリカに輸入された多くのシェパード犬から、この異常が多く見つかったことにより、遺伝性ではないかという研究がすすめられました。
その後、ドイツ・シェパード協会が、今日の‘a’マークの制度を確立し、急速にシェパード犬から股関節の異常が減ったのです。‘a’マークとは、専門家による鑑定にて、正常なもの、やや正常なものには繁殖に使ってもよいという‘a’マークが血統証に記載され、それ以外の犬の繁殖は忌避される措置をとることです。
日本では、やっと最近DNA鑑定を一部(種雄とチャンピオン犬や輸入犬)実施するようになったのですが、遺伝性の病気に対する処置にまでは至っていません。
ブルドッグを長年飼うことが夢で、やっと手に入れた子が先天性の関節不全で、獣医さんから「大きくなって体重が乗ってきたら歩けなくなるかも。」と言われ、購入先にそのことを伝えると、「ブルドッグは、たいがいそんなもんですよ。」との返事が来たと言うのです。
悲しい事ですが、このような知識不足の人や、障害があることが判っていても「売る時に、元気だったらそれでいい。」といった考えの人がいるのです。
その子は、今、リハビリをしながら優しい家族の元で暮らしています。
しかし今でも、少しお散歩に行っただけで歩くのが不自由になったりするそうです。
障害をもって生まれても、やさしい家族と出会い楽しい犬生を生きられるなら幸せです。
でも、障害をもって生まれたがゆえに、捨てられてしまった哀しい運命の子もいるんです。
ブリーディングは、その犬の欠点を認識し、その欠点を補う掛け合わせをすることが大切です。そして、それ以前に考えなくてはならないことは、繁殖者ひとりひとりが、先天的な病気のことや各犬種にそれぞれ定められている欠陥(失点と欠点として書かれている繁殖に関し注意が必要な事項。)を認識し、考えることによって、不幸な犬がちょっとでも少なくなるのではと思っています。
どんなに注意を払ってブリーディングをしても、すぐに天使になってしまったり病気を患って若くして亡くなってしまったり、スタンダードの欠陥がでたりすることがあるのも事実です。
私自身、ブリーディングの度に、考え・悩み勉強し、そして、諸先輩方のアドバイスをいただいています。
ブルドッグは、人間の補助なしでは交配・出産・子育てはできないといって過言ではありません。
ブルドッグを良く理解している信用のできる獣医さんがいること、そして、相談のできるブルドッグに詳しい先輩をもつ事は、心強いことです。
それでもなお且つ、母犬は妊娠・出産時にリスクを負います。
自分の手で子犬を育てた経験のある方は、この上ない幸福感を味わったことでしょう。特に、絶対的に人間の補助を必要とするブルドッグの場合は、ひとしおです。
私自身、今までに経験した繁殖・子育ては、哀しい結果を残したものも含めて、全てが心の財産として残っています。
繁殖に興味をもたれている人には、ぜひチャレンジしていただきたいです。
そして、ブルドッグ界の繁栄を担って欲しく思います。
ショー・チャレンジする犬を作ることだけが繁殖ではありません。
先天的な欠陥をなくすこと、母犬の欠点を補い母犬より少しでもスタンダードに近い子犬を望むことで、ブルドッグ界全体が向上するのではと、思っています。
ただ、粘土細工のように、母犬の欠点を取って父犬の良い所を貼り付けるといった単純なことではないのが繁殖です。
でも、一人一人の意識が、これから未来へのブルドッグへと繋がっていくのです。
私も、微力ながらその一員になれるよう邁進していきたく思っています。
