10月30日(木) オリジナル小説DCD「シャッガイ」前編
ここ数日、ウケ狙いの更新(別名「着飾らない更新」あるいは「素の更新」)が続いたので、野中飛鳥だってただのバカじゃない、少しはかっこいいものも書くんだということを見せておかなきゃ、と思って真面目にオリジナル小説を書いてみました。
頭が弱いイメージの払拭に成功してるかどうかの判断は、読者にまかせます。ダメかもしれない。
なお、オリジナル小説「DEAD CAN DANCE」(怒られそうなのでそのうちタイトルを変えるかも)は、第一回の掲載が8月23日。
「妖蛆の秘密」前編(8月23日)・中篇(29日)・後編(9月6日)
「屍食教典儀」前編(9月7日)・中篇(12日)・後編(10月27日)
このページ下の各日記へのリンクを参考にしてください。そのうちちゃんとまとめるつもりです。今は、ごめん、わかりにくくて。
あと、さっきアップロードした時に今回のタイトル間違えてました。最後までちゃんと書き終えたら首を吊るからどうかそれで許してください。
「シャッガイ」
手を振る動きに合わせて、黒髪は蛍光灯の光に淡く揺れた。
光司とチェイジアが小さくなるまで、部屋の戸口に立って、そういうふうに作られた人形みたいにずっと手を振り続けていた。
リカヴィネより可愛い、と思ったがそんな原始的な感想は抑えて、ただこう言った。
「あそこまでしてくれなくてもな」
「そうね、でもあの子は生真面目だから」
チェイジアは自分の性質を褒められた反応に似た、まんざらでもなさそうな表情をする。
「ねえ、あの子の言ってたこと信じる?」
「俺たちはお使い仕事に行かされるだけだろう、信じるも何も」
光司の気のない回答に、チェイジアはすとんと表情を変えて怒り出した。
「私は、無駄話がしたいの。そんな話の弾まない答えなんて絶対許せない。それに、それに、あのね、私は、あの子のすることに文句が言いたいの!」
「おまえらって、仲がいいのか悪いのかわからないな」
「仲がいいから悪口を言っても許されるの」
「すると、アマテラスがチェイジアの悪口を言っても許すと」
「そのときは怒るね」
なんだかうんざりしてきた光司は、話を打ち切る代わりに「あ、そう」と出来るだけチェイジアのほうを見ないで答えた。
「嫌だわ、もう。人魚の一族に伝わる予言なんて、そんなかび臭いもの、聞きたがる人なんてないって、あんたも思うでしょ?」
湿気の多い地帯に伝わる昔話のことを表現したのだろう。かび臭いとは、なかなかうまいことを言うもんだ、と感心した。それとも、海の中で伝わる予言だから、もう賞味期限が切れてるなら腐っているかもしれない。
「それか、潮風の吹く地域のことだから、塩でべっとりしてるかもしれない。確かにうざったい仕事だ」
「おっ」
何が琴線に触れたのか、チェイジアは腰をくねらせて、どうやら喜びを表現するダンスらしいものを始めた。この女は思考が未開部族だ。
「いいねぇ、潮風! 鼻につんと来る潮のにおい。海はロマンティックで良いねぇ。想像するだけで波の音が聞こえてきた」
「聞こえてはこないだろう、と思う」
あるいはチェイジアほどに脳内活動が変に活発な娘なら、ありえないものを見たり聞いたり出来るかもしれない。
考えてみれば、ありえないものを使役するのが彼女の能力である。光司が彼女の存在をどう受け入れるかにかかわらず、既にチェイジアは此岸にいながら同時に光司の知らない世界にいる。比喩表現でもなんでもなく。
「光司さあ、海は好きかい?」
チェイジアの口調はころころ変わる。よっぽど気分がハイなのだろう。もっとも彼女が落ち着いているときというのは、まだ光司は見たことがないが、今はいつにも増して、適当にあしらいたい女になっている。
「海なんて行かない。あ、でも」
「でも?」
「ああ、うん、今年の夏は奈良崎たちと海に行ったことを思い出した」
奈良崎の名が出たことでチェイジアは足取りのリズムが崩れる。短い時間だけ彼女が言いよどんだのは、親友と争い合う間柄になった光司の境遇に気を使おうとしたのかもしれない。結局チェイジアは気の利いた慰めは言わないで、普通を装って話をすすめた。光司が一瞬予想した通りの行動だった。
「楽しかった?」
「まあ……でも大変だった。波に荷物を流された女がいて」
「そりゃまた、さくらハイツみたいな出来事だ」
そういってぎこちなく笑う。その笑顔が溶けかけて残ったままの顔で、硬い沈黙をはさんで、チェイジアは小さな声で聞いた。
「その子ってさ、奈良崎の彼女の、友子ちゃん?」
「うん」
海にまで連れ立って行くような仲のいい女友達は友子の他にはいない。そう正直に言えばこの雰囲気が和らぐだろうか、ちょっとだけそう考えた。
「友子ちゃん、何も知らないんだよね」
「たぶん」
きっとまだ何も知らない。知っていれば、あのとき、荷物を流されたときの泣きそうな、でもそれさえ楽しい旅行のエピソードに変わりそうな、あんなふうに複雑な、奈良崎を頼りきった顔は見せることがなかった。
「あんたがこうやって時間を越えて遠い時代に来たことも知らない。あんたが奈良崎を殺そうとしていることも知らない」
光司は答えない。
「ねえ光司。友子ちゃんって可愛い?」
「うん、まあ俺の好みのタイプじゃないけどな」
正直にそう言ったら、張り詰めた空気がほどけていく錯覚が、少しだけした。
チェイジアが笑ったのは、お義理の笑いなのかそうでないのか光司には判別できなかった。
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