縁結び

どうしてこんなもの買ってしまったのだろう・・・
吹雪は手にした「縁結び」のお守りを手の中でもてあそびながら心の中でそうつぶやいた。「神様」なんていないはずなのに、ましてや「縁結び」のお守りのご利益なんてまったく信じちゃいないはずなのに・・・

元旦・11時
21世紀最初の元旦といっても単に世間が騒いでいるだけで、小林家では母親が例年同様朝から新年の挨拶回りにでかけ、弟妹たちは友達と初詣に出掛けてしまったので、吹雪はいつものように一通りの家事をすませてから、いつも家族でお参りしているお稲荷さんへ初詣に出掛けた。神社に着き、真っ先に本殿に向かった吹雪は、途中で手を清めていないことに気づいた・・・「神様や仏様にお参りするときは絶対に手を清めてからでなくてはだめよ。ご利益がないばかりか罰が当たるからね。」小さいころからお参りの時は母にそう言われて来たせいか、神様なんているのかしらと思う吹雪でも手を清めないことになんとなく罪悪感を覚えるのだ・・・(小さいころから親に言われてきたことって馬鹿馬鹿しいと思ってもなんとなくやめられないものよね)そんな自分に思わず苦笑しながら手を清め、本殿前でお参りを済ませて「さて、これからどうしようか・・・家に帰っても暇だしスーパーの初売りでも見てこようかな・・・」とつぶやきつつ、神社を出ようと思ったそのとき、社務所の軒先で売られているお守りや縁起物が目に入った。

(そういや、母さんが「神社行くなら破魔矢買っておいてね。」って出掛けに言ってたっけ。)吹雪は社務所に行き、破魔矢を手にとって「これ、ください・・・」と言って財布を出しかけたが、そこでふと目に止まった「縁結び」のお守りを見て動きが止まった。(「縁結び」のお守り・・・?ご利益なんてあるのかな?)

そのとき、横にいた高校生らしき女の子の二人連れがそのお守りを手に取り、そのうちの一人がもう一人に「ねえ、ここの『縁結びのお守り』、すごくご利益があるって評判だよ。去年これ買った○○、2年間ずっと片思いだった彼とついに両思いになったんだよ。」と言うと、もう一人も大きくうなずきながら「うん、これよく当たるんだってね。去年結婚した英語の△△先生もこれ買ったって噂だよ。」といい、結局二人ともそのお守りを買ったのだった。

そんな話を聞いたせいだろうか、吹雪はそのお守りがとても気になり、思わず手にとってまじまじと眺めた。ミントグリーンの袋に『縁結び』と刺繍が施してあるその小さなお守は、まるで「私を買ってくれるといいことあるよ。」と吹雪に語りかけているようだった。(そうよね。たまにはこういうものを信じてみるのもいいかもしれない。そうすれば今年こそ大和クンがみんなの・・・じゃなくって私だけの大和クンになってくれるかもしれないもんね)そう思いながらお守りと破魔矢の両方を買った。そして大和のあの陽だまりのような笑顔を思い浮かべた・・・はずだった。

ところが・・・一番最初に脳裏に浮かんだ顔は大和のそれではなかった。
(うそっ!なんで?なんでアイツの顔なんか浮かぶのよ!)見る見るうちに顔が紅潮してくるのがわかる。(なんであんなオヤジ・・・)居たたまれなくなって吹雪はあわててその場から立ち去り、初売りに行こうとしていたことも忘れて逃げ帰るように家に戻ったのだった。

そして今、自分の部屋で吹雪は思わず買ってしまったそのお守りをいじりながら一人あのとき浮かんだ「顔」と、必要以上にうろたえてしまった自分自身を振りかえりつつ、いまだその感情をもてあましてなにも手につかないまま時間だけが過ぎていく・・・

「おねえちゃん、おねえちゃん。」そう呼ばれてはっとした。見上げると妹の深雪が吹雪を覗きこんでいる。「呼んでも返事がなかったものだから心配で。どうしたの?なんかあった?」心配そうにそう話し掛ける深雪に「ううん、なんでもない。ごめんね、心配させて。」そう言って立ち上がった吹雪の手元を見て、深雪がびっくりして叫んだ。「おねえちゃんたら、縁結びのお守りなんて買ったの?」その目は好奇心に満ちていた。「誰か好きな人でもいるの?・・・もしかして去年お姉ちゃんが倒れたとき家に連れてきてくれた3人の『小林君』の誰か?」「ちがうったら!誰があんな・・・」「またまた〜」そんなやりとりが押し問答のように繰り返された後、吹雪は話を濁すように「ね、スーパーの初売り行かない?」ともちかけ、嫌がる深雪を引きずるようにして買い物に出掛けたのであった・・・・・

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(なんでこんなもの買ってしまったのだろう・・・)
健吾は自分の部屋でベッドに仰向けでねころび、手にした「縁結び」のお守りの紐を指にかけ、ぶらぶらと揺らしながらそう思った。(「学業」とか「交通安全」ならともかく、よりによって一番自分には縁のなさそうな「縁結び」のお守りなんて、何で買ってしまったんだ?オレ。)そんな自分の不可解な行動が自分でもわからず、首をかしげながらそれでもなんとなくそのお守りを手放せず、なおもぶらぶらと揺らしていた。

元旦・午後1時
親に言われて嫌がる慎吾をつれて初詣のためにしぶしぶやってきた稲荷神社は、お正月らしく人で賑わっていた。境内に入り慎吾とともにお参りを済ませ、「おみくじをひきたい」という慎吾と一緒に社務所まで行き、慎吾がひいたおみくじの中身を慎吾にわかりやすく説明してやった健吾は、慎吾が木におみくじを結んでいる間暇つぶしに軒先で売られているお守りや縁起物を眺めていた。と、きれいなミントグリーンのお守りが目に止まった。そこには「縁結び」という文字で金色の刺繍がほどこしてあった。そのままながめていると、老夫婦らしき二人の男女がそのお守りを手に取り、一瞬見つめあってなんともいえない優しい笑顔を交わし、そのまま買って大事そうに手にして立ち去っていった。

そのとき健吾は、亡くなった祖母の言葉を思い出した。「縁結びというのはね、普通は男の人と女の人のご縁が結ばれるという意味なのだけど、おばあちゃんはそれだけじゃないと思うんだよ。」それはまだ祖母が生きていたころ、一緒に初詣に行った健吾が祖母の買った「縁結び」のお守りを見て「これってなに?」と訊ねた時のことであった。
あのとき祖母はこう続けたのだった。「一期一会と言ってね、だれかとご縁があって出会ったとしても、その相手とは一度きりでもう二度と会えないかもしれない。そう思ってどんなご縁も、どんな出会いもそれが最後の出会いだと思って大事にしなければいけない。だからおばあちゃんは、今までご縁のあった全ての人、全ての出会いをいつまでも忘れないように、これから出会うどんな人とのご縁も粗末にしないようにと毎年こうやって縁結びのお守りを買うようにしているんだよ。」まだ幼かったが、健吾はその言葉がとても厳かなものに思え、子供心に自分も出会いや縁を大事にしたい。と思ったものだ。今までそんなこと忘れていたが、久しぶりに思い出した祖母の言葉に健吾は純真だったそのころの気持ちを取り戻したような、優しい気持ちになった。

そんなことを思い出したからだろうか?健吾は思わず手を伸ばし、「縁結び」と書かれたそのお守りを手に取った。最初はそれを手にしたままぼんやりと立っていたが、そのときふいにある人の顔が脳裏にうかんだ。と、健吾の顔は真っ赤になった。うろたえてそれを誰かに見られたのではないかと思うといたたまれなくなり、健吾は思わず手にしていたお守りを差し出し、「これ、いくらですか?」と言ってお金をはらい、健吾のただならぬ様子にいぶかしげな慎吾を引きずるように慌てて家に帰ってきて、そそくさと部屋に入ってしまい、それからなんにも手につかないままもう薄暗くなったこの時間までお守りを手にぼんやりとしていたのだった・・・・・・
(柄にもなくこんなもん買っちまったのはばーちゃんのせいだ。決してあいつのせいじゃない)健吾は最近自分より早くパズルを解いてしまう「委員長」の顔を必死で頭の隅に追いやり、お守りを誰にも見つからない場所に隠して、あとは何にも考えまいと無理に眠ろうとしてきつく目を閉じた。

新学期。吹雪は朝出掛けに迷った末、縁結びのお守りをかばんにぶら下げた。(私が大和クンが好きなことは周知の事実。それに大和クンにもそろそろ私の気持ちを知ってほしいからつけるの。)そう心の中でつぶやきながらも、どうしても脳裏から離れない別の顔を必死で打ち消しながら、吹雪は玄関を出た。一方健吾は朝起きてすぐかばんのポケットにお守りをそっとしのばせた。(お袋にみつかったらまたあれこれ詮索されてうるさいからな。ばーちゃんのコト思い出したせいで気の迷いからこんなもの買ったが、お守りじゃゴミ箱に捨てるわけにはいかないもんな。来年のどんと焼きまでここにしまっておこう)そう自分に言い聞かせるようにして、玄関から出るとき一瞬脳裏に浮かんだ「委員長」の笑顔を振り払うように頭を左右に振った。

しかし、バス停で立ち止まった健吾はまた急に例の祖母の言葉を思い出し、そしてにっこりと微笑んだ。(機会があったら小林大和にこの話をしよう。あいつは肉親の縁が薄く出会いや縁というものを人一倍大事にするやつだから、きっと幼いころのオレと同じように受け止めてくれるに違いない。・・・・・・もし、アイツにそんな話したらアイツはどんな反応を示すだろうか?馬鹿にされるか、あるいは・・・)そこで健吾はまた無意識に「委員長」のことを考えている自分に気づき、いったい自分はどうしてしまったのだろうと首をかしげながら向こうからやってきたバスに目をやった。吹雪が、今健吾のかばんの奥深くにあるものとまったく同じお守りをかばんにぶら下げて登校してくるとも知らずに・・・・・・

・・・・・・Fin・・・・・・



ぶうよんさんのお言葉

ちょっと時期がずれてしまいましたが、初詣ネタです。駄文にもかかわらず、読んでくださった方、本当にありがとうございます。
元旦に初詣に行き、厄年でもないのに厄除けのお守りを買ったのですが、そのお守りを見て思いついたネタです。高校時代には深く考えもしませんでしたが、「縁」というものの大切さや、「一期一会」という言葉の意味がこの年になってやっとわかりかけてきたような気がします。
その人生で出会う人の数など、地球規模で考えれば知れたもの。そんな中で出会えて、おまけにお互いに無視できずに気になって仕方ない吹雪と健吾の関係はやはり「縁の深い」ものなのではないかと思うんです。「今は亡き健吾のおばあちゃん」の言葉はそんな二人の縁がもっと深くなっていってほしいなという願いを込めています。
・・・そんなわけで、今回は大和クンや千尋クンの出番がありません。ごめんなさい。機会があれば彼らの出番も多い小説も書きたいと思います。


管理人の謝辞
吹雪と健吾、「以心伝心」といったところでしょうか。
彼らはもちろん、私たちもたとえPC越しであっても縁あって出会い
小説だっていただいてるわけですから
「縁」大切にしていきたいですね。
ぶうよんさん、本当にありがとうございました。