5『いいかげん当たりなさい、往生際が悪すぎますわ』

  爆音、閃光、それらの非常に興を惹きつけられてしまう光景の中。

  長い髪をなびかせ、一人の人間がその光景の影に見えた……気がした。

  気がしたのだが今はそれどころではなかった。

  私達二人の魔術は互いに衝突した瞬間、爆発を起こし辺り一帯を一つの方向へまとめ上げてゆく。

  それは破壊。

  私達がいたその場所は、黒いクレーターをはっきりと残し、熱気と衝撃の余波でなぎ倒された木々が無残に転がっていた。

  咄嗟に釘バットを構えなおし空中へと逃げた私と、自分自身を防護する魔術を使ってその破壊から免れたフォールズィ・メモリー。

  ……言いにくい名前よね、これ。

  今はそんなことはどうでもいいんだけど。

  兎も角、私達のお互い必殺の魔術が相殺した事実だけがあり、互いに怪我の一つもすることなくこうして存命している。

  「まさか私の魔術を防げるとは思いませんでしたわ。それでも私が有利であることに変わりありませんけど」

  「好きなだけ言ってなさい。私はこの先に進むために貴女を倒すわ」

  「それを止めるために私がいるわけなんですけれどね、それに……」

  そこで不意に口ごもるメモリー。

  「それに? 何を言いたいわけ?」

  「……なんでもないですわ。そして次は避けれない、避けさせない」

  「それこそやってみないとわからないことじゃないかしら?」

  そうして二人の対峙は対決へと形を変え開始される。

  この宴は此処から始まり、この宴はどこへ行くのか。

  どちらに傾いても、どちらが有利でも。勝つのは私、だってそうでしょ? 勝たないと帰れないのだから。





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  「………」

  爆発の起こったクレーターで凛が見た人影は見間違いではなかった。

  そこにいたのはサーヴァント、長い紫の髪をなびかせ空を舞うごとく疾駆するその姿は女性。

  サーヴァントクラスは『ライダー』

  彼女も大空洞での『事故』に巻き込まれて幻想卿へとやってきていたのだ。

  しかし凛と同じ意味でここへと飛ばされたわけではなかった。

  それを説明するには数時間ほど時を遡る必要がある。



  凛が目を覚ました森の広場から僅かに離れた深い森の中。

  ライダーが目を覚ました場所は誰にも見つからないような深い森の中だった。

  「………」

  目を覚ますと同時に自分が異世界にいることを感じ取った彼女はそこから移動を始める。

  ほとんど本能で異世界を感じ取った彼女は、しかし動じることもなく情報収集を始めたのだ。

  そして当然の如くライダーの存在を感じ取った妖怪達はその様子を伺うべくライダーの周りへと集まってきた。

  しかしそこでひとつの違和感に気がついた妖怪達。それは凛に対してはでてこなかった違和感。

  それがライダーにはある。その意味するところは……。

  「人あらざるもの同士……」

  そう、生身の人間でもなく、かといって妖怪でもない。

  ライダーは人間の姿形をしながら霊体として現世しているのだ。

  それが意味するところはひとつ。

  『幻想郷でも異質の存在』

  だから妖怪たちは戸惑った。

  幻想郷でもその事実は割と珍しいことだったからだ。

  おそらく幻想郷全体を探せばそういった類もいるのだろうが、少なくともここにいる妖怪たちはそれを見たこともなければ知りもしなかった。

  そしてその戸惑いが彼らの命取りとなった。

  「……っ」

  時間にしてライダーの一息。

  それでその場にいたライダー以外の動く生物は活動を停止した。

  「他愛ない……が」

  一瞬のうちに妖怪たちを葬ったライダーは、しかし自分の体の変調を感じ取っていた。

  「これは……サーヴァントの能力が半減している?」

  幻想郷へと飛ばされた際の影響か、それともマスターとの繋がりが薄れてしまっているのか。

  ともかくライダーは自分自身の能力の半分も発揮できない状態に陥っていた。

  自身の体を維持するための魔力そのものには問題はないのだが、戦闘行為というと今までと同じことが出来るわけではなさそうだった。

  「……ともかく元の世界へ戻らないと……………サクラ」

  月は一人きりで闇を照らす。

  一人呟くその言葉にどんな意味を込めたのだろう。

  紫の髪を持つ彼女は感情のこもらない声と、感情の読み取れない表情で己がマスターの名前を呼ぶ。

  この先、どんな結果になるか誰もわからないこの状況で。

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  「コレで決めますよ。いい加減私だって眠りたいですから」

  「それなら私なんて気にしないで眠ってちょうだい。誰も邪魔なんかしないから」

  そうやって軽口を叩いて見せたけど、はっきり言えば次に放たれるであろう魔術をどうにかする自信がなくなっている。

  何故なら彼女は間違いなくさっき放った魔術より強力な魔術を行使してくる。

  私が使った魔術は威力だけで言えばアレが限界だ。

  だから次に来る魔術を防ぐ自信がない。

  私は私を守ることが出来ないという不安にかられてしまう。

  逃げ出したくなる心を理性で押さえ、桜と対峙していたあの時のことを思い出す。

  思い出して今があの時より絶望的な状況ではないと思い込む。

  思い込むことで状況を冷静に分析する。

  そうすることで一つの結論へと至る。

  それは単純で、けれどそれ故に難しくて、でもだからこそ賭ける価値があって。

  「どうしたの? 早く撃ちなさいよ」

  なんて言葉が自然と漏れた。

  だからそれに呼応するかのように。

  「三度目の正直、というやつですか」

  メモリーのどこか呆れたような台詞が耳に届いた。

  「本当に終わりにしましょうか」

  メモリーの魔術が光を集め出す。

  それは先ほど行使した魔術と基本は同じ、空中から集まってくる僅かな光の粒。

  その光の粒は徐々に大きさを増し、ボーリングの玉ほどの大きさに………。

  ここまでは本当に変わりがない、その魔力の集中も量でさえも。

  だがそれでは私を倒すことは出来ない、その事に一瞬気がついていないかと思ってしまったがやはりそれは間違いであると思い知らされた。

  「……目の錯覚であって欲しいわね」

  「あら、遠慮なんてしなくていいんですよ」

  「できれば遠慮したいところだけどそうはいかないんでしょ」

  「そうね、受け取らないのは失礼じゃないかしら」

  「冗談」

  私が言った目の錯覚というのはメモリーが両の手を左右に広げた時のことだ。

  ひとつだけだと思っていた光の玉は両の手の平にそれぞれひとつずつに増えていた。

  と思ったのも一瞬の出来事であり、さらに次の瞬間はそのそれぞれが空中へと浮かび、分裂するように数を増やした。

  だからこそ私はそれが目の錯覚であり、冗談であって欲しいと願った。

  だってそうでしょ、一つ一つがセイバーの宝具並みの威力を持っているとしたら、私なんていう存在は砂漠に落とされた砂粒みたいな物なのだから。

  それでも意地があるし死にたくもない。故に。

  「いきなさい、すべてのルーン達」

  彼女の攻撃が始まる、私もそれにあわせて行動に移る。

  増え続けたその光球は、もはや一瞬では判断がつかないような数になっている。

  それらは最初はゆっくりと動き出し、それぞれが思い思いの方向へと真っ直ぐに飛んでくる。

  ひとつだけならば避けるのは簡単だろう、けれど数が違いすぎる。

  眼前に迫る光球は視界いっぱいに広がって……。

  「まさか、それは自殺行為」

  聞こえない、彼女のそんな台詞は今の私には届かない。

  今の私にはこれしか手が残っていないのだから。

  「……そこっ!!」

  視界に映っている光球は4つ、上の3つは頭をかがめてやり過ごし、右斜め前から飛んでくるのは釘バットの軌道を右へとずらして避ける。

  やり過ごすと同時に今度は7つ、角度から考えてスピードを緩めて通り過ぎたところを自分が進む。

  それでも私が存在できる空間なんていうのはギリギリで、光球が横を通り過ぎる度にガリガリと耳障りな音を立てて私を削っていく。

  「くぅ……」

  だけれど致命傷には至らない、だから前に進むのをやめない。

  「ん……しぶとい」

  彼女と私の距離は残り約5メートル。

  全神経を集中させて避けることだけに集中する。

  さしもの彼女も私がこんな行動にでるとは思っていなかったらしく、光球は数を増しているものの避けることだけならば可能だった。

  だけどそれは『可能』なだけで、気を抜いたり、またはそれ以外の僅かなイレギュラーで簡単に当たってしまうだろう。

  「けどっ!」

  その前にだ、その前に私は彼女を倒す。

  ここにある短い剣で。

  もうそれしか思いつかないのだから。

  「いいかげん当たりなさい、往生際が悪すぎますわ」

  避け始めてから30秒、そこまで避け続けること事態が予想外だったのだろうか。

  「アンタが」

  顔面に飛んでくる光球を避ける。

  「逆の」

  それを見て顔をしかめる。

  「立場だったら」

  さらに次を避ける。

  「どうすんのよっ!!」

  そして正面。

  「……っ!!」

  「チェックメイトよ」

  すべての光球を避けきり、私は彼女の前にたどり着く。

  手には宝石剣、胸には覚悟。

  そして大きな不安。

  それらを込めて、私は突き出す。

  その胸へと。

  「っ……まだ、この『赤の夕暮れ』ならっ!」

  「っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

  無我夢中、その番傘のことは眼中にない。

  だから突き抜ける、当然。

  「あああああああああああああああああああ!!!!」

  敵も夢中、魔力の爆発。

  「――――――!!!!」

  私を狙う最後の光球、宝石剣とぶつかる。

  時間がゆっくりと、巻き戻されるようなおかしさ。

  衝突の中心、渦巻く光。

  「――――――!!!!」

  聞こえない私の声、メモリーの声。

  そうしてまた意識が飛び去る……。







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  「………」

  横たわる凛に近寄る一人の女性。

  その紫の彼女は表情を変えぬまま凛を抱きかかえる。

  見えているのかいないのか、仮面の下は誰にも分からず。

  ただその行動だけが凛に対して敵意を持っていないことが分かる。

  横たわっていた人間は一人。

  他には誰もいなかった。

  それはつまり。

  「……あまりにも無様すぎます。次もこうなら帰れないと思いなさい」

  そんな予言めいた彼女の台詞。

  けれど厳しくはない。

  まるで諭すような声。

  けれど寝ている凛には届かない声。

  「それと……」

  届かないと知って言っているのか。それとも何かの意味があって言っているのか。

  「……出てこれるなら早くしなさい。でないと貴方のマスターが死ぬことになる」

  その真意は掴めぬまま、ライダーのサーヴァントは一人宵闇へと姿を消していくのだった。

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		It continues next Episode.










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