シーン2

  「セラギネラ9」

  彼女が言葉を発すると同時に沸き起こる魔力の展開。

  否、この場合は魔力の展開という表現よりこう言ったほうがいいだろう。

  「一つ一つが魔力の弾……弾幕ってワケね」

  「幻想卿じゃ割りと誰でもできるわよ。いいから当たりなさい!」

  その弾幕は彼女を中心に一度広がりを見せ、僅かに止まってから私に向かって飛んでくる。

  そこで私はまた間違いを犯しそうになった。

  「……くっ!!」

  「あら、どうしたのかしら」

  ニヤ、と笑う紅 美鈴。黙れ中国。

  私は戦闘中というのに見とれてしまったのだ、その植物の名を関した弾幕に。

  そう、まるで大輪の花。彼女を中心に咲き誇る花を錯覚してしまったのだ。

  相手が見とれる、そんなことまで計算に入れてこの弾幕を考え付いたというのなら彼女はかなりの実力者だと思う。

  花びらを模したその弾幕は無数に飛び交い、それを避けるのは至難の業だ。

  「赤、青、黄色って……もしかして貴女の趣味かしら」

  確かに避けるのは難しいが無理というわけではない。

  私は多少軽口を叩ける程度の余力を持ってその弾幕を避け続ける。

  「うるさいわね。好きなんだから仕方ないでしょ」

  その軽口に律儀に答える彼女、どうやら私にとって扱いやすい相手みたいね。

  だってそうでしょ、本当に私を倒したいと思っているのならそんな軽口無視すればいいだけなんだから。

  「へぇ、それじゃあ貴女の部屋はさぞかしカラフルなんでしょうね。原色そのもので」

  「なっ!!」

  その瞬間彼女の攻撃に一瞬の隙が生まれる。

  そこを見逃すほど私は甘くないっ!

  「……とった!」

  「っ!!」
  
  一瞬、その一瞬で私は間合いを一気に詰めてガンドを見舞う。

  ほぼ密着状態、避けるのは不可能。

  ガスンガスンガスン!!

  当たった、間違いなく。

  お腹の辺りに連続で4発、よほど魔力抵抗が高いかメモリーみたいな特殊な存在でない限りしばらくは動けないだろう。

  「ふぅ…案外簡単に片付いたわね」

  「………」

  私にもたれかかるように気絶している美鈴、少し苦しそうだけど呼吸はしている。

  「ま、ここで死なれたりしたら目覚め悪くなるからいいんだけど……」

  そうだ、ここに来るまでの間、それこそ人生そのものも含め、私は自分の意思で何かを殺すという行為、

  特に殺人ということに関してはまったくもってしたことがなかった。

  それにできる事ならそんなことはしたくないというのが本音だ。

  だけど私は魔術師だ。

  魔術師はその覚悟がなければ生きていけない。

  少なくとも頭ではそのことを理解している。

  理解しているつもりなのだが……今みたいな考えが浮かぶということはまだまだ中途半端なのだろう。

  魔術師として。

  「やめよう、ここでそんなこと考えても意味がない」

  「……いえ、少しは意味があったわよ」

  「ちっ!!」

  瞬間飛びのく。

  僅か10秒ほど、その10秒が命取りになるところだった。

  「礼は言わないけど感謝はするわ。まさかトドメをささないなんてね」

  「……何か言葉おかしいわよアナタ。今更言っても始まらないけどね」

  そしてまた両者向かい合う。

  お互いが緊張を持ち、一瞬でさえ気を抜けない空気が辺りを包む。

  私にはそんなにたくさんの種類の魔術があるわけじゃない。

  それこそガンドを相手に撃ちつけるか宝石剣の魔力で叩き伏せるしかないが、後者は肉体的な負荷が大きすぎて乱発できないのが事実。

  だからこそガンドで目の前の妖怪を倒したかったのだけれど……。

  「あら、どうしたのかしら? さっきのやつまた撃ってごらんなさいよ。今度は食らわないけれどね」

  あからさまな挑発、それに乗るわけにはいかない。

  ここでガンドを連射しようものなら私に決定的な隙ができてしまう。

  現状をどうやって打破しようか考えあぐねていると……。

  トコトコトコトコ。

  「………」

  「………」

  トコトコトコトコ。

  「…ちょっと」

  「何よ」

  トコトコトコトコ。

  「アンタのところは面白いペット飼っているのね」

  「ペットじゃないわ、不法侵入よ」

  「……出歩いてるじゃない」

  「……そうね」

  私たちの目の前をのんきに歩いている珍獣……いや妖怪?

  とにかく怪しげな生き物が私たちの目の前を通り過ぎようとしたおかげで毒気を抜かれてしまった。

  それは美鈴も同じだったようでがっくりと肩を落としている。

  「とりあえず気が抜けるからソイツさっさと捕まえて頂戴よ」

  「言われなくてもわかってるわ。でもそのまま先に進んだりしないでよ」

  「わかってるわよ、私もそんな卑怯なことなんてしないわ。今更」

  そう、本当に今更だ。

  毒気は抜かれたが変わりに何かが入ってきたわけではない。

  だから彼女があの不法侵入(?)を捕まえるまでは一時休戦だ。

  「ふぅ」

  私はその光景を一歩引いたところで観ていようと近くにあった木の幹へと背中を預ける。

  あぁ、しばらくまともに休息を取っていなかったから一時的とはいえとても心地がよい。

  思わずこのまま眠ってしまおうかと思ったがさすがにそれはやめてこう。

  かわりに彼女の姿を見ていようと、不思議とそんな感情が芽生えていたのだった。

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  幕間  ――美鈴の苦難――

  「このっ! いいからおとなしく捕まりなさいよっ!」

  紅 美怜はとても苦労をしていた。

  本日何度目かわからない、どうして普段は何も無い日常なのにこう立て続けに問題というのは起こるのだろうかと。

  思わずそんなことを考えてしまうのだが、それより先に目の前の侵入者を捕まえなくてはならない。

  「………」

  しかし手ごわい。

  喋れないのか無口なのか、ソイツは表情も変えず美怜の手をするりと抜けていく。

  「またっ!」

  ギリギリまでは近づくことができるのだ、しかしそこまで。

  あともうちょっとで手が届かない。それが一番もどかしい。

  「この…ちょこまかと!!」

  そして美怜は我慢の限界が来たのか、ついに捕まえることという目的を切り替えてしまった。

  それは。

  「彩光乱舞!!」

  スペルカードによる一面の破壊行為。つまりはプッツン。

  「アンタ何考えてんのよっ!!」

  後ろから聞こえてくる凛の声なんて耳に入ってない。

  彼女はただそのちょこまか動く生物を止めたかっただけなのだ。

  もはや手段は選ばぬ、その言葉しか頭には無かった。

  「どこに逃げようとも!! 全部壊せばっ!!」

  その言葉どおり、彼女の放った色とりどりの小さな塊は地面に触れるとことごとく爆発を繰り返す。

  それは地面をえぐり、辺りを土煙で曇らせ一体を焦土と……にはならなかった。

  「え……」

  実際に爆発したのは最初の数回。

  それから後爆発一切起こらなかった。

  「どうして……そんなことができるのよ」

  目の前の光景が信じられなかった。

  美鈴の目に映るものは彼女が信じられない光景。

  それは、彼女の放った全ての塊が空中で停止してしまっているのだ。

  まるで時間が止まってしまったかのよう、それはデジャブのようであり、しかし初めて見る光景。

  「…ごちゃごちゃうるさい。いい加減にしないと酷い目にあわす」

  「は……?」

  更に追い討ちをかけるように、その小さいイキモノはつぐんでいた口を開いた。

  かなり口は汚いようだが。

  「さっきから黙っていれば調子に乗って。この程度の魔力でどうにかできると思っているのか」

  「な、なによいきなり。喋れるなら最初から喋りなさいよね」

  「必要なければ意味も無い。私は誰かに指図されるのが嫌いだ」

  そして美鈴に対峙するように立っているそのイキモノは視線を尖らせる。

  「……どちらが上か思い知れ」

  次の瞬間、美鈴が放った固まり全てが術者本人に襲い掛かる。

  「い、いやぁぁぁぁぁ」

  ほぼ全方位からの攻撃、コレを避けろと言われたらほとんどの人間がこう言うだろう。

  「無理っ!!」

  否、彼女は人間ではなかったが同じ台詞が出るようだ。

  「無理でも何でも、自分で出したものの後始末はつけろ」

  そうしてそのイキモノは自分自身の障害である紅 美鈴の口を黙らせたのだった。

  とても穏やかとはいえぬ方法で。

  幕間  ――美鈴の苦難――  了


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		It continues next time.










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