第0話、プロロ−グ

1  『つまるところ私はとんでもないところへ来たわけね。』





  まさに拮抗状態ではあったのだ、黒化した桜の無尽蔵の魔力と、私の無制限の魔力。

  その二つのぶつかり合いは確かにまったく同一の状態であった。

  それでも腕の筋肉が悲鳴を上げているとか、桜の顔が苦しげになっているとか

  早くアイツがこないのかとか、それはもういろんなことが頭に浮かんでは消えていた。

  当たれば一撃で私なんかの存在を抹消できる黒い影、その攻撃を避け、相殺し、こちらの攻撃でその影そのものを討ち果たしてく。

  でも、遠坂凛の拮抗は此処まで、これ以上士郎を待つことなんて出来なかった。

  だから私は―――――――

  「Welt,Ende」

  唯一の対抗手段であるそれを投げ捨てて、桜を楽にさせるために走った。

  走ったはずだったのだ……。

  


  「つぅ……」

  軽い虚脱感、むしろ眩暈。

  私が一番最初に感じたのはそんなものであった。

  次に、目を覚まして世界の異常に気がついた。

  「何よコレ…」

  そう、私の記憶が確かであるならば大空洞の中で桜と戦っていたはずだ。

  しかも私は精一杯の覚悟で桜に終わりを渡そうと……。

  「それがどうして森の中で倒れているわけ?」

  月明かりがまぶしいほどの夜の闇。

  自身の置かれた状況が本当にわからない。

  もしかしたら私は桜に、もしくはそれ以外の何かに不意に殺されてしまって死後の世界にいるのだろうか。

  そんなことも考えたが自身の存在があまりに生前と変化がないことから私はまだ生きているのだと実感している。何より。

  「コレが手元にあることが証拠、か」

  私の手には宝石剣ゼルレッチ。

  無色の輝きを持つ刀身は、先ほどまで桜の繰り出していた影を打ち倒した時に使った魔力の残りをはっきりと示していた。

  「つまりは何かの影響で私はここに飛ばされたといったところかしらね」

  どうして飛ばされたのかなんていうのはわからないが少なくとも今この場で私は生きているし、体の調子だってすこぶる快調だ。

  快調? それってなにかおかしくはないだろうか?

  「って、ちょっとまった。何で魔力が回復してるのよ?」

  私の体は先日の戦闘の影響で魔力が空だったはずだ。

  それが今では満タン近くまで回復している。

  それもこの森の影響の所為だろうか、ここはマナが満ち満ちている。

  ならばその影響でということも十二分に考えられる。

  「ふぅ、ここで考えてても仕方ないか。とにかく誰か人を探して話を聞かないと……」

  その時だった。

  月明かりの綺麗な夜空、ふと見上げた月が黒く染まっていた。

  いや、それは黒く染まっていたわけではなく何者かが大挙して押し寄せていたために黒く見えただけだと気がついた。

  「ちょっと、まさかこっちにっ!?」

  予想は的中、黒い集団は近づくにつれて私を狙っているのだとすぐにわかった。

  「しかもどうみても友達になりたいって顔じゃないわねアレは」

  人間。一見するとそう見えなくもないのだが人間が空なんて飛べるはずがない。

  そりゃあ魔術の類で空を飛ぶ人間もいるかもしれないけれど、少なくとも私の知っている世界ではあんなに大量に空を飛ぶ人間の集団なんて知らない。

  「これはほぼ正当防衛よね」

  私はその集団の先頭に目を向けると呪文を発動する。

  「くらえっ!!」

  相手が生物であるならばガントは有効なはず。

  さらに私のガント撃ちはそこいらの魔術師なんかより威力があるんだから。


  ガスンガスンガスンガスン!!


  まっすぐに私に向かっていた先頭の何人(?)かがガントに当たって「消滅」する。

  「うそ…もしかして強すぎた」

  こっちは殺すつもりなんてないのに相手は掻き消えてしまった。

  なんて後味の悪い。

  「でも、私がやられるくらいなら!!」

  自身の回復した魔力を心のどこかで恨みつつ、私はその集団を悉く打ち落としていったのだ。

  ―――――――――――――――――――――――――――――――――

  ぶすぶすと燻っている地面。

  私のガントの威力が強かったのは確かに認めよう。

  だって地面が焦げるほどの威力だなんて、私が士郎を追い詰めた時くらいのものなんだから。

  「でもこいつらなんだったんだろう」

  すべて掻き消えてしまった先ほどの飛行物体。

  見た目は確かに人間だったけれど思えば雰囲気はまったくもって異質であった。

  それはつまるところ。

  「何かの使い魔ってところかしら」

  そういうことになる。

  「あぁ、そいつらだったら使い魔じゃなくて妖怪だぜ」

  唐突に頭上からそんな声が聞こえてきた。

  「っ!?」

  警戒心たっぷりに、右手にはいつでもガントが撃てるように魔力を溜め込んでから空中へと目をやるとそこには……。

  「よう、綺麗な月夜で嬉しいぜ」

  御伽噺に出てくるような、そんな恰好をした『魔女』が箒に乗って空を飛んでいた。

  「つまるところ私はとんでもないところへ来たわけね」

  そんな呟きが自然と漏れてしまったのは当然のことではないだろうか。



		It continues next time.










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