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ジノ・ヘルナンデス自伝 『右手の恋人』

 

○月×日
 今日は日本対フランス戦を観戦した。日本がどんなイカたプレイをしてくれるのかが気になったのはいうまでもないが、それ以上に気になるのがフランスのキーパーのアモロだ。なんでもやつは「フランスの恋人」と言われるほど人気のキーパーらしい。
 だが、なんか知らんがアモロのやつは不調だったのか四失点もしてた、ていうか1度もボールに触れてない。うーむ、奴がどんなセービングを見せるのか期待してたのだがな。でもまああれだけポンポン決められていたのにPKの時にはフランスサポーターから「アモロコール」が巻き起こっていたから人気者である事は間違いないようだが……。

 
○月×日
 この間やってきた葵に日本でのオレの評価を聞いてみた。なにしろJrユース大会は日本でも大々的に放送されたらしいからな。すると葵の奴はちょっと迷ってからこう言った。
「えーと、ジノはヨーロッパのヘタレキーパーとして評判だったよ」
 ほう、やはりオレの堅実なセービングはサッカー後進国の日本でも評価されたようだな。
「そうか。で、ヘタレってどういう意味なんだ? 」
「え!? えーとヘタレってのは……言いにくいんだけど……えーと」
「それなら日本ではどういった選手がヘタレって言われるのか例をあげてくれればいい」
「えー、日本では若い女性に大人気のキーパー若島津さんとか、アイドルキーパーとして知られる森崎さんなんかがヘタレって言われてるかな……」
 ほう、それから察すると、ヘタレというのは日本語でキーパーへの最大級の賛辞のようだな。さすがオレ、たった一試合しか出てないのにそこまで人気になるとは。今日はいい事が聞けて気分がいい。その後の練習でまたしてもシンゴの奴にゴールを奪われたがそんな事はどうでもいいな。


○月×日
 今日はWY大会開催のセレモニーだった。フフ、この大会で俺の華麗なセービングを見せ付けまくって会場をヘタレコールで埋め尽くしてやるぜっ。
 あたりを見まわすとライバルのシュナイダーを見つけたので声をかけてみた。
「HEY! シュナイダー、今回こそはお前にゴールを許さないぜっ!」
「えーっと、君誰だっけ? 」
 さらっと返されたのであたりから失笑が漏れる、ちょっと泣きたくなった。
「ジノだっ、イタリアの守護神ジノ・ヘルナンデスだ! 」
「ああ、あのヘタレか、せいぜい頑張れよ」
 そういうとシュナイダーは立ち去ってしまった。またしても失笑が漏れる。チクショウ。
 だがわかっているぜシュナイダー、これはあえて無視する事でライバルの俺に心理的動揺を与えようという作戦だという事をなっ。実際シュナイダーの奴も俺に対して「ヘタレ」というキーパーに対しての最大の賛辞を言っていた事だし。


○月×日
 今日はシンゴのいる日本との対戦。後半までオレとジェンティーレが出ていないせいもあって4−0とボロ負けしてしまった。特にシンゴの奴が大ハッスルしていたのが響いたな。
 シンゴの奴は「イタリアにオンガエシするんだー! 」とかシャウトしながらプレイしていたが、オンガエシというのは恩を仇で返すという意味の日本語のようだ。
 さすがにサッカー後進国の日本に4−0と大差をつけられた時には日本在住のイタリア人の観客がキレてブーイングをしだした。
 だが、みんなが「イタリアの面汚し! 」とか「イタリアに帰れると思うな! 」とかボロクソに言われている中で俺だけは「ヘタレキーパー! 」と最大級の賛辞を浴びせられた。やっぱり観客の皆はわかっているようだな。


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