シュナイダー、カルツ自伝『ゲルマン魂』民明書房刊

○月×日
 なれ親しんだハンブルクを離れて今日からいよいよベーミュンヘンでプレイすることになる。しかしミュンヘンの連中は弱すぎる、この間ハンブルクで5−1とボロボロにしてやった全日本ごときに3−0で負けるという醜態をさらしやがった。まあいい、この皇帝シュナイダー様がいちから鍛えなおしてやる。攻撃陣はオレが入るからいいとして問題はDF陣、とくにゴールキーパーだな。ここはひとつワカバヤシを西ドイツ一のキーパーにまで鍛えてやったオレが特別にコーチしてやるとしよう。さっそくGKをゴールに立たせる俺

『HA!』

 ワカバヤシのときと同じように顔面におもいっきりファイヤーショットを打ちこんでやる。フッ、思えばワカバヤシにも毎日のように顔面にファイヤーを叩きこんでやったものだ。しかしここのキーパーはたった一発でのびてしまった。まったく根性の無い奴だ、先が思いやられる……
 翌日、今日もキーパーを特訓してやろうと
『ヘイ! キーパー! ゴールに立て HA!』
と呼んだらなんかしらんが無視された。ムカついたので後ろ頭に思いっきりファイヤーショットをブチ込んでやった。スカッとした。
 練習後、ロッカーにいくとオレのところに
『ハンブルクに帰れ!』『お前のとうちゃんヘボコーチ!』
とかラクガキされてた。フッ、所詮皇帝は孤独か、HA!


○月×日
 ハンブルクが恋しくなったのでワカバヤシとカルツに手紙を書くことにした。
『(中略)……ミュンヘンに来て2週間になります。ここでは誰も 僕にパスをくれません。ワカバヤシやカルツに迷惑をかけておきながら いまさらおめおめと帰るわけにはいきません。いつか僕のプレイで みんなに借りを返せるようになるまで頑張ろうと思います。 サッカーの名門ミュンヘンの――その空気を吸うだけで僕はファイヤーショットがよく燃えると思っていたのかなァ……』
 涙で曇って続きが書けないでいたら親父がノックもせずに部屋に入って来てこう言った。
『おいカール喜べ、お前の一部への昇格が正式に決まったぞ』
 
 ……オレは書きかけの手紙を破り捨てた。フッ、弱冠15歳でプロデビューか、やっぱり皇帝ともなると凡人とは違うな。そうだ、いい事を思いついた。明日餞別代りにミュンヘン二部の凡人どもに皇帝じきじきにファイヤーショットをお見舞いしてやろう、ククク……
 

○月×日
 今日はワールドユース開催の祝賀会があった。メキシコの貧乏人どもと日本の小猿がみにくい小競り合いをはじめたため、このオレ皇帝シュナイダー様が
『ヘイ お前達! 決着はフィールドで付けろ! HA!』
と制止してやった。オレってつくづくカッコイイよな。すると、どう見ても痴呆症がはいってるっぽいオヤジが近づいてきて
『いやーナイスですね〜、スポーツマンの鑑ですね〜』
とか肩を叩きながらなれなれしくいいやがる。うぜェんだよボケ。しかもこのオヤジおもいっきり日本語で話しかけてきやがる、ワカバヤシから多少日本語を習っていたからかろうじて意味はわかったが普通ならつうじねーだろ。おまけによく聞いてりゃ日本語と英語のチャンポンじゃねーか、しかもどうやらこのオヤジの脳内では英語でちゃんと喋っているつもりのようだ。オレはドイツ人だぞ、見りゃわかるだろ

『ヘイ カール! ヘイ カール!』

 なんか知らんが気に入られたらしくこのオヤジはやたらとなれなれしく名前を呼びやがる、正直かなりムカついた。『ヘイ!』の後に名前を呼ぶのは俺の専売特許だ、ぱくんじゃねーよ!
 
 後で聞いた話だがあのボケ老人は日本を代表するプロスポーツ選手だったらしい、どうりでジャポンがサッカー弱いわけだな、HA!

○月×日
 小遣い稼ぎに日本のバラエティ番組にでた。出演依頼が来るのもオレがカッコイイからだな、HA! 
 スタジオにいってみると他にもスェーデンのレヴィンやウルグアイの火野も来ていた。まああいつらもなかなかルックスはいいからな……オレほどではないが 
 司会らしき男が馴れ馴れしく質問してきやがる、正直ウザい。話をよくよく聞いてみると先日のあのボケ老人の息子らしい、どうりでムカつくわけだ。
 しばらくすると大道具がゴールを持ってきた、どうやら司会の男をキーパーにして3人のシュートがどれが一番スゴイのか比べるようだ。一番はオレになった。

『HA!』

 先日の件でもむかついていたのでおもいっきり顔面にネオファイヤーをブチ込んでやった。かなりスッキリした、しかし司会の奴が鼻血を出して半泣きになったのでさすがにちょっとだけ悪いなと思った。しかし何故かスタジオは爆笑の渦に包まれた、日本人という人種はつくづく理解できない
 すると、それがウケると思ったのか火野のやつも司会の顔面におもいっきりトルネードショットをブチ込みやがった。敵を破壊する事を生き甲斐にしているレヴィンにいたってはいうまでもない。結局、司会の奴がノビて誰のシュートが一番強いのかはわからずじまいだった。そこでオレは
『ヘイ お前達! 決着は試合でつけよう HA!』
といって締めた。あいかわらずカッコイイな、俺って。
 後で聞いた話だがこの番組は視聴率が物凄くよかったらしい、やっぱりこのオレが出演したからだな、HA!

カール・ハインツ・シュナイダー自伝 『HEY! HA! FIRE!』 より抜粋

○月×日
 今日はシュナイダーのいるベーミュンヘンとの天王山の試合だ。開始早々このカルツ様の芸術的なプレイで一点リードした。あとはシュナイダーを完全にマークして逃げきるだけだ。シュナイダーへのパスを全てカットする俺。俺の活躍で前半を零点で終わろうという時にシュナイダーが話し掛けてきた。
『ヘイ カルツ! 昔は3人で一緒に戦ったのに今では敵同士とはな、HA!』
『ああそうだな、昔が懐かしいぜ』
 つい受け答えしてしまったのが失敗だった。まさかこれがオレのマークを振りきるための作戦だったとは。シュナイダーめ、頭脳的な作戦を使うようになって……
『源さんなんとかしてくれー!』
   俺以外のザコがシュナイダーを抑えられるとはこれっぽっちも思っていない俺はおもわずこう叫んだ……。

 後半開始、ついにシュナイダーのファイヤーショットで同点に追いつかれた。そのあと監督は引き分け狙いを指示してきた。『アウェイだし仕方がない』としぶしぶ従う俺。
 すると、オレがマークしているシュナイダーがオレにこう話し掛けてきた。
『ヘイ カルツ! 俺がいた頃のハンブルクはこんな消極的なプレイはしなかったぜ! つまらんサッカーをするようになったものだな! HA!』
 さすがにムカついたのでオレはこう言い返した。
『うるさいワイ、そもそもお前がバイエルンに寝返るから攻撃陣がヘタレたんじゃゾイ、この裏切りもん!』
 図星をつかれたシュナイダーは黙ってしまった。立て続けに続ける俺
『自己中心的すぎるんだよお前は。だいたいお前が皇帝って言われるのは実力じゃなくてワガママなプレイスタイルを評しての事じゃぞ!』
 それを聞いたシュナイダーは逆ギレしてこう叫んだ。
『ヘイ チームメイト! ハイボールでよこせ! オレはカルツに走力だけでなく高さでも勝っているんだ HA!』
 そりゃ身長差みりゃ誰でもわかるだろう、そう心の中でツッコみながらも果敢にシュナイダーとのヘディング勝負に挑むオレ。
『ボグシャ!』
 空中でシュナイダーの肘がオレの顔面にモロにヒットした。多分ワザとだ……くそぅシュナイダーめ、こいつとはもう2度と口を聞かん!

ヘルマン・カルツ自伝 『ザ・ハリネズミボランチ』