日向小次小次郎自伝『猛虎』民名書房刊

(この作品は某所の天才作家、日向小次小次郎氏の作品を許可をもらって

転載しております。感謝!)

 

日:若島津と始めて会ったのはまだ小学校のサッカークラブにオレが

入る前の3年生のころだ。オレはいつものように隣町の連中とサッカー対決を

していた。オレが圧倒的な力で得点するも、いかんせん周りが下手なので簡単

に点を取られてしまい、5点先取ルールも、4-4のまま、なんと味方がハンドの

反則をしてPKを与えることになった。「もう、終わりだ」そう思ったそのとき
「待てェ!キーパー交代だァ!」
 振り返ると長髪で帽子を被った奴がそこにいた。まさか、こいつが吉良監督

が言っていた、今度オレの仲間になるキーパーか?

ゆっくりと近づいてくるその男。そしてオレに向かって

「キャプテン、捕ったらパスいきますぜ」

なんて頼もしい奴だ。オレはカウンターに備えた。そしてPKが始まる。

ズバンッ!

 激しい音を立ててボールがゴールに突き刺さる。若島津はピクリとも反応して
いない。

「やったぜ勝ったぜひゃっほう!」

歓喜する隣町チーム。呆然としな がら若島津に近づき、どう言うことだと

詰め寄るオレ。しかし若島津の反応は
「捕ったらって言っただろ!捕ったらって!捕ってねーんだからしょうがねー
だろ!文句言うな!」

完全に逆ギレだ。呆然とするオレを尻目に若島津は去っていった。

残ったオレに隣町の連中が声をかける。

「おい、日向、約束どお り明日から1週間、またパシリな」

泣きたくなった。鬱だ。

 

 ×月×日:働けど働けど我が暮らし楽にならず。弟がケンカをしたらしく

相手の親が文句を言ってきた。どうやら先に手を出したのは相手らしい。

いつも「男ならやられたらやりかえせ、日向のように」と教えてきた甲斐があった

というものだ。ところが、やりかえす方法が悪かった。弟が相手の家の高級外車に

十円傷をつけまくったらしい。半年分の新聞配達のバイト代が飛んだ。鬱だ。

 

♪月○日:働けど働けど我が暮らし楽にならず。バイトから帰ってきたらえらく

母ちゃんがご機嫌だった。話を聞くと

「小次郎、母ちゃん、皆のためを思って、思い切って幸せを呼ぶ壺を買った

んだよ。何でも、今なら36回払いでOKだって言うし。父ちゃんの残してくれた

お金、前金で消えたけど、きっと父ちゃんも喜んでくれるよ」

目の前が真っ暗になった。鬱だ。

 

 ♪月×日:かねてから提案していた、明和特攻スライディング部隊がついに

完成した。まあ、個人個人の能力が低すぎたり、また名前が無かったりする連中
をひとくくりにすることによって何かと良いんじゃないかといった安易な考え
から生み出された部隊だが。とりあえず、ここはキャプテンらしく奴らに胸を
貸してやることにした。

「おい、お前ら。オレからボールを奪ってみろ」

 すると、奴らは最初こそ「お願いします」と丁寧な口調で挨拶をしたものの、
いきなり「死ねやァァー!」「殺せェェー!」と凄まじい気合で襲いかかってきた。

しかも、靴底が完全に見えるほど足を上げてのタックルはボールではなくオレの

足や腹に突き刺さり、背中に蹴りが入ったり、股間を痛打するやつまで出てきた。
 これでは身体が持たないと、ボールを足元から転がすオレ。しかし、最初から
ボールには目もくれずに襲いかかってくるやつらは、ボールがオレの足元にあ
ろうが無かろうが攻撃をやめようとしない。さすがに泣きそうになってきたその

とき、吉良監督が

「そこまでじゃ。良く成長したの、お前ら」

と止めた。 奴らはまだ物足りないと言った表情で「チッ」と舌打ちしたり、

地面につばを吐いたりして散っていった。その後、目にゴミが入ったから

洗ってきますと言って、校舎裏の水道に行き、物陰に隠れて人知れず泣いた。鬱だ。

 

 

×日:最近、オレを「猛虎」と呼ぶ奴が増えてきた。そもそもの名付け親
は尊敬する吉良監督だ。吉良監督は

「ヒヒヒヒ、ドサクサ紛れで上手くサッカ ーの監督として潜り込むことに

成功したわい。これも小次郎、お前のおかげじ ゃ。全く、お前はワシの大事な

虎の子じゃわい」と最初にオレのことを猛虎と して認めてくれた。

感謝してもしたりない。

 だが、最近、キャプテンとしての責任を果たそうとチームメイトにフレンドリーに

付き合いすぎた気がする。この前の明和特攻スライディング部隊の件もそうだが、

ちょっとあいつらオレへの敬意が薄れてる気がする。ここらでもう一度オレの凄さを

思い知らせる必要があるな。よし、まずはタケシからだ。こい つにはテクでは

勝てないからパワーを見せ付けてやる。

 そしてオレはタケシと二人の時、またとないチャンスに出会った。街路樹の

支えの木を見つけたのだ。これをオレのキックでへし折ってやる。よく、ヘタレ

プロとかは「大人になって骨が固まるまでやるな」とかいうらしいが、オレに
は関係ない。思いっきり蹴る。バキィッ!と音を立てて折れる木。破片が飛ぶ。
たまたま前にいた人の足元にも破片が転がった。警官だった。
「あ、お前!公共物損壊だな!」

「ち、違うよ

「違わねーだろ。つーか、この上ないほどの現行犯じゃねーか!」

「い、いやちょっと、素振りしたら足が滑っちゃってな、タケシ、説明してやっ

振り返るとそこにタケシの姿は無かった。警官はこれをふざけているのと思ったらしく

「てめー、なめてんのか?あったーきた。こっちに来い」

「違うよ、違うんだよ

そしてオレは交番に連れ込まれ三時間の説教を食らった挙句、町内会長まで

呼び出され、今後三ヶ月の商店街でのただ働きを命じられた。鬱だ。

 

日:昨年の全国大会で優勝した若林というキーパーを偵察。ためしに

シュートをかましてやったらピクリとも反応できなかった。ヘタレだ。こんなヤツが

全国優勝してしまうなら、この俺様は世界制覇も可能じゃないか?とさえ思った。

いい気分だ。人生最良の日だ。意気揚々と埼玉に帰ることにする。
 静岡まで来たが拍子抜けだったな、それほどこのオレがイケてる(死語)って
ことだろうか?南葛の地元駅に着いた。おっと、丁度電車が来たようだ。どうせ

明和までは一度に切符は買えないから、最短区間でも買って、後で精算だ。
閉まりかけるドアもお得意の強行突破でこじ開ける。さすがは若林に勝った男。
 明和に到着。さて、精算だ。ポケットに手を突っ込み金を出す。我が家の家
計から、オレは財布を持たない主義。ポケットにそのまま金を入れる。あれ?
千円札が無いぞ? おかしい、どこに入れたんだ? 慌てるオレ。

もしや、若林と勝負したとき落とした? そのとき、南葛で買った最短区間の

切符が足下に落ちた。すると親切にもそれを拾ってくれた人がいた。駅員だ。
「あ、お前!キセルだな!」

と駅員。

「違うよ!キセルじゃないよ!」

「じゃあ、金精算しろよ」

オレは誠意を見せるためにポケットに残った全財産を見せた。134円。

これが駅員の逆鱗に触れたようだ。

「てめー、なめてんのか!? あったー来た!こっちこい!」

「違うよ!違うんだよ!」

オレの叫びも空しく、オレは駅員室に連れ込まれ三時間の説教をくらい、

母ちゃんまで呼び出された。母ちゃんもオレの言い訳を信じてくれず

「小次郎、父ちゃんが生きてたら「父ちゃん情けなくて涙が出てくらぁ」って

言ってたよ」

と涙ながらに言う始末。人生最悪の日だ。欝だ。

 

日:南葛にはイカれた女応援団長がいる。ガクランなんぞ着て、翼と

書かれた旗を振って、大声を張り上げる。バカだ。ああいう女は絶対彼女に

したくない。嫁になんてもってのほかだ。結婚するヤツの気が知れない。そう

思ってたら、練習に向かう途中、応援に向かう途中のヤツに出会った。ヤツも

こっちに気が付いてこっちを向いた。そして
「オウ、ワレェ。何ガン飛ばしさらしとんねん。あぁ!?」

そう言ってヤツが近づいてきた。本能的に危険を察知したオレは眼を逸らした。

だが。

「オマエじゃ、オマエ。日向。今ワシにガン飛ばしたやろ、ワレ」

そう言って睨み付けてきた。
「ななんて鋭い眼をしてるんだ

オレは完全にビビってしまって動けない。
「ワレェ、何か勘違いしとらんかァ?たかが一度勝った程度で南葛のクビとっ
た思うたら大間違いやぞ

そのとき。
「あねごー!試合始まりますよー!」

「オウ、わかったワイ!ふっ、命拾いしたのう」そういってヤツは去った。

呆然としながらもオレは代えのパンツを取りに宿舎に戻った。欝だ。

 

♪月×日:よみうりランド近くの宿舎の食堂は使用者の人数の割に

狭くていやだ。今日も北海道のやつにぶつかられた。チームメイトの手前、

そいつを突き飛ばしてやったが、逆に胸倉を捕まれて、す ごい形相で

突っかかってきた。ちょっとびびって漏らした。鬱だ。

 

♪月△日:この前食堂でトラブったやつらと試合。だが、マジで

体調悪い。熱ある。意識が朦朧として、もはや負けかと思った相手のPK

の時、若島津が来てくれて何とか勝利。だが、その時は体調が悪くてそれ

どころじゃなかったが、後から聞いた話によると、若島津のやつは試合途中

から既に到着してたとのこと。人が死にそうになりながら点を取ってるのに、

のんきに観戦してやがったのかこの野郎。殴ってやろうかと思ったが、相手は

空手をやってるのでヤバイと思って今回は許してやることにした。そしたら

南葛に負けた。鬱だ。

 

♪月■日:働けど働けど我が暮らし楽にならず。せっかく東邦に入って

生活費の面倒は見てもらうことになったと安心したが、どうも額が少ない。

贅沢を言うつもりは無いが、この明細のスカウト費よいう項目等、気になること

がある。俺をスカウトしてくれたねーちゃんに話を聞くことにした。

「日向君、私達スカウトの人間は、スカウトして成功した人の給料の一部から

給料をもらっているの。その分が少し引かれてるのよ、気にしないで」

とはいえ、具体的にどれくらい引かれてるのか気になる。相手はやれやれと

いった表情で10万円を取り出し、俺に説明してくれた。

「あんたの取り分1万円、私の取り分3万円、あんたの取り分1万円、

私の取り分3万円、あんたの取り分1万円」

「…オイ」

「何?」

「何?じゃないだろ、今時こんな使い古されたコントで騙されるバカはいねーぞ」

…しばしの沈黙…すると彼女が突然

「オレ、修哲時代は点取り屋って呼ばれてたんだ…」

とつぶやいた。すると立ち上がり

「よし!滝!センタリングだ!このままとりかごいくぞ!」

と叫んだかと思うとそのまま去っていってしまった。追おうかと思ったが怖かった

のでやめた。大人って汚い。鬱だ。

×月□日:中学三年の都大会決勝、急に胸を抑えて苦しんだ三杉に気を

取られてボールを奪われたことに吉良監督が

「昔のお前なら三杉の心臓を蹴破ってでも云々」

といちゃもんをつけてきた。

「あんたと違って前科持ちにはなりたくねーんだよ」

と言いたかったが怖いのでやめた。すっかり引いている東邦のチームメイトの

手前、何とか穏便に済ませようとしたが、タケシも若島津も他人のフリを

しやがって助けようとしない。仕方なく単身沖縄に行くことになった。だが到着早々

ハブに噛まれた。鬱だ。

 

×月○日:吉良監督が言うには通常の3倍の重さのボールを海に向かって蹴る

ことによって足腰が鍛えられ新必殺技が生まれるという。おおよそ疑わしかったが、

渋々海に向かう。とりあえず泳いで適当に時間でも潰そうかと思ったがホテルから

吉良監督が監視してるようだ。仕方なく特訓に集中することに。海に入る。

いきなりエラブウミヘビに噛まれた。鬱だ。

 

♪月△日:どうにか沖縄の荒海にも負けないシュートが撃てるようになった。

我ながらこんな無茶苦茶な特訓で良く身体が持 ったなと思う。吉良監督が現れ

東京行きのチケットを手渡して くれた。エコノミークラスだがこの際そんなことは

どうでもいい。それより、俺の名当てのホテルの領収書はどういうことだと言い

たかったが取り合ってくれそうに無かった。帰りにまた ハブに噛まれた。鬱だ。

 

×月■日:人が苦労して新シュートを身に付けてきたのに北詰監督は

俺を使ってくれない。今日もベンチで観戦だ。憂さ晴らしに反町のシュート

に合わせてグラウンドの外の壁に向かってシュートを放ち、力の違いを

監督に見せつける。いい気味だ。久しぶりに鬱じゃない。

 

×月▽日:宿舎で寝ていたら球場側から昨日の俺のシュートでへこんだ

壁の修理代の請求が来た。シラを切りとおそうとしたが、いつもの

ストーカー記者どもの記事が決定的証拠となって言い逃れできない。

あいつらいつか殺す。とりあえず東邦学園に請求書を回してくれと言ったが

「その東邦学園から、日向本人から払ってもらえって言われたんですよ」

と言われた。泣きそうになりながら、空手道場の後継ぎに金を借りにいく。

『トイチ』。

目が笑ってない。来月は昼食は食べられそうに無い。鬱だ。

 

×日:なんとか監督の怒りも解け、南葛との決勝に出ることができる

ようになった日の朝、吉良監督がオレ達のホテルに現れた。これ以上話を

ややこしくするなよと他人のフリをしようとしたら突然、吉良監督が

土下座して、オレを決勝に出すようにお願いをした。ああ、吉良監督、

オレは色々とあなたを疑ってました
そう感極まっているときに、前回、オレが吉良監督に沖縄につれて

かれたとき他人のフリをしていたタケシと若島津がいつのまにか吉良

監督の元で

「吉良監督、僕らも吉良監督と同じ思いでさっきみんなで日向さんがでない

なら試合をボイコットすると直訴したんですよ」

と良い子ぶりやがった。

「おおお前達

と吉良監督。ちょっと待て、被害者はオレだぞ。そもそもアンタのせいで

こんな目にあったんじゃないか。しかし、北詰監督も東邦の他のメンバーも
取り込み、皆感動の渦に巻き込まれてる。オレだけかやの外だ(泣)。
 最後に吉良監督がオレに包みを渡した。

「小次郎、これで気合を入れていけ」
フフン、ちょっとは気が利くじゃねーの、と思い、それを受け取って、

ピッチに向かう。途中、中身が気になったので開けてみた。そしたらハブが

出てきてかまれた。あのクソオヤジ。鬱だ。

 

×月×日:ついに全国大会を制した。南葛と同時優勝だが。思い起こせば

この2年、決して強豪ではなかった東邦を2年連続全国2位まで率いたのに、

俺への評価は厳しいものがあった。だが、万年引き立て役という汚名も今日で

返上だ。早速、俺の勇士をスポーツ新聞で確認することに。するとコンビニで

大きく、「南葛V3」と見出しの書かれた新聞を見つけた。中学生の大会

なのにここまで大きく取り上げられるとは…ちょっとうれしい。

だが、肝心の東邦については書いてあるのが見えない。まあ、きっと

反対側のトップに東邦初Vと書いてあるんだろう。とりあえずその新聞を買う。しかし、裏面は虎は虎でも阪神10連敗の記事。よくよく見てみると、

先ほどの南葛V3に は続きがあり、新聞の折り目の都合上見えなくなっていた。全文は「南葛V3with東邦」だった。東邦は東○ポの「ネッシー感動の

出産か!?」の「か!?」の 部分かよ!ムカつきながらどこの新聞か調べたら、

例のストーカー記者二人組 みのとこの新聞だった。あいつらマジ殺す。鬱だ。

 

日:今日、JRユースのチームメイト(いつもの連中)と一緒に

久しぶりに若林に会った。小学校以来だ。若林が仲間になってくれるなら

心強いなぁと、フレンドリーに声をかけてみた。そしたら何か機嫌が悪かった

らしく、いきなり愚痴をこぼしてきた。今朝の朝食が不味かったのかなぁ?

そうこう思ってるうちに、血の気の多いチームメイトが

「やっちゃえよ、キャプテン」

とかオレをけしかけてきた。若林には悪いと思ったが、チームメイトの手前

引くことはできないので、軽く右フックをかましてやることにした。

そしたらカウンターで左ストレートが飛んできた。吹っ飛ばされた衝撃に

驚いて漏らした。大も。鬱だ。

 

 日:前々から、納得いかなかったことがある。それは、生意気にオレと
ツートップを組んでいる新田というヤツの存在だ。そもそも、地区予選止まり
のヤツがなんでジュニアユース代表に選ばれてんだ。片桐氏の弱みを握ってる
としか思えない。隼シュートなんて、単なるまっすぐシュートに名前つけやが
って。バカじゃねーのか。シメてやる。

宿舎を出たオレは運良く、ヤツが一人で歩いているところを見つけた。馬鹿な
やつだ。「おい、新田!」ヤツが振り向く。何だコイツ、フランスの太陽の下、
良い色に焼けやがって。「てめぇ、ムカつくんだよ!」しかし、ヤツはきょと
んとした顔をしやがった。バカにしやがって。とりあえず殴る。

ズシャァと音を立てて倒れる新田。「これに懲りたら二度と偉そうにすんじゃ
ねーぞ」と振り返ったオレを数人の外人どもが取り囲む。

Yo Ichi so ccer no rulewa katten noka?(訳:てめえ、うちのビクトリー
ノになにさらしとんねん?)」

どうやら、オレは人違いをしてしまったらしい。
そんなバカな。瓜二つじゃないか。そう思うも、ボコボコにされるオレ。命
辛々ロッカールームに帰ってきた。そこには

「あれ?日向さんどうしたんです?」

新田がいた。欝だ。

 

日:ワールドユースのためにプロ入りを拒否したオレ達の気持ち

も知らず、若島津のヘタレが日本代表入りを拒否しやがった。何か

「俺は若林の噛ませ犬じゃないっつーの」

とか、長州力みたいなことを言ってやがる。とりあえず殴ってでも

チームに入れてやろうかと思ったが、腐っても空手使いと思い、怖く

なったのでやめた。帰ろうとする若島津。
「若島津さん!」

くそっ、タケシのやつ、よせばいいのに呼び止めやがって。若島津も

無視すればいいのに立ち止まる。そしてタケシが「キャプテンなんだ
から何とかしろよ」みたくオレを見る。渋々、オレはシュートを若島津にぶち
込んで気絶させて拉致する作戦に出た。強烈なシュートが若島津を襲う。

「ぱしっ」若島津がシュートを止める。しかも片手で。「へっ?」あまりの

ショックにオレは目の前の出来事が把握できなかった。そんな中、若島津が、
「オレは強くなったんだい」とかグチグチ言ってきた。だが、動揺してるオレ
の耳には届かない。ふと、横でタケシが小刻みに震えているのに気が付いた。
「こ、こいつ笑いをこらえてやがる」睨み付けてやろうかと思ったが、

今目を合わすと涙がこらえられそうになかったので、目をそらす。すると、

若島津は一通り言いたいことを言い終わったらしく、去っていった。若島津が

オレの元に転がして返したボールを見て、通りがかりの警備員が「屋内で

ボール蹴んな、バカ」と注意する。まだタケシは笑いをこらえている。

泣きそうになりながら明日がどっちかわからなくなった。鬱だ。

 

日:ワールドユースの合宿をしていたら変なやつらが乗りこんできた。
リアルジャパン7とか名乗ってやがる。その響きに、昔、部活の帰りにゲーセ
ンでスーパーリアル麻雀シリーズで連日連コインして10万ばかし注ぎ込んだ

けど結局攻略できなかったなぁ、といった青春の苦い思い出がよみがえった。

だが、実際こいつらはそこそこプレイができる。なんだかんだ言ってオレ達は
ボロ負けした。そしたらこいつらを率いてきたオッサンがオレに

「自分で点を取るだけでなく自分がくさびとなるポストプレイを身につけろ」

とか言ってきた。とりあえず、意味がわからないので業界用語を並べないで

欲しいと思った。
だが、それより、オレの後に他のメンバーがチビだのデブだのサルだの

罵倒されてるのを聞いて吹き出しそうになるのをこらえるのが辛かった。

そのうち皆、それぞれ散らばっていった。吹き出すのをこらえていて話を

良く聞いてなかったので状況が把握できないが、とりあえず例によって

特訓してこいってことらしい。ちぇっ。ここなら三食昼寝付きだと思って

喜んでたのに追い出されるのかよ。さしあたって当ても無かったので、

また吉良監督にお世話になろうと沖縄に向かう。着いたらいきなりハブに

かまれた。「ああ、懐かしい」鬱だ。

 

日:さすがのオレでも、一人でポストプレイを身につける練習は

ムリだ。そこで沖縄の地元の連中がサッカーやってるところに潜り込む

ことにした。最初は見知らぬ奴が勝手に入って来たと、相手にしてくれなか

ったが、オレの実力を認めざるをえなくなったらしく、もうすっかり打ち

解けている。おや、キャプテンが呼んでるようだ。

「おい日向。ポカリ買って来い。ダッシュで」

「さすがですね日向さん。もうポストプレイはバッチリ身につけてる

じゃないですか」タケシが来た。どうやらあのガモウとかいうオッサンの

差し金らしい。
「まあ、こんなもの、沖縄まで来なくても身につけられたがな」

ちょっとフカシをこいてみる。
「え!?じゃあ、やっぱり沖縄に来た理由は、新必殺シュートを身につける

ためなんですね?」

とタケシ。不意を突かれたオレは

「あ、ああ。も、もちろんそうだ」と答えてしまった。

「それで、新必殺シュートはどんなシュートなんですか?」

「い、いやまだきっかけもつかめなくて

当然だ。そんなもの考えてもいない。明日にでも東京に戻ろうとして

たんだから。
「そうですか。でも、日向さんだったらきっと凄いシュートを身につける

ことができますよ。新シュートを身につけるまでは帰らないって皆に伝えて

おきますよ」そう言ってタケシは去っていった。

「えっ?ちょ、ちょっと」どうやらオレは新シュートを身につけるまで

帰る事が許されなくなったらしい。泣きそうになりながら吉良監督にもう

しばらく置いてくれと頼みに行った。すると。

「一泊五万」

しかも飯代は別料金らしい。鬱だ。

 

日:本来なら既に東京行きの飛行機に乗って空の上だったのに、

タケシのせいで沖縄に残る羽目になってしまった。クソ暑い中、仕方なく

グラウンドに来たが、タケシのやつは特訓の手伝いもせず、日陰で

ヘッドホンを聴きながら、ジュース片手に寝転がって、オレが特訓してる

かどうか監視してやがる。
渋々シュート練習を始めるオレ。だが、こんなことではいつまでたっても

東京に戻れない。そんな中、一人の女がグラウンドに入ってきた。

この女は何を思ったか、いきなり「コーラは体に悪い」だの、ココーラや

シが聞いたら気を悪くすると思われるような暴言を吐き、あろうことか、

今日のオレの唯一のカロリー源であるコーラを地面にこぼした。

さすがにいつもは温厚なことで知られるこの猛虎日向もこれには怒った。

だが、試合でも審判に文句を言うのには慣れてないので今回も「殺す気か!

ちくしょう!訴えてやる!」とダチョウ倶楽部の上島のようなしゃべりに

なってしまった。結局その後この女は暴言を繰り返し、泣きそうになっている

オレに無理やりキャッチャーをやらせた。

渋々キャッチャーをするオレ。だが、こんなときでも頭の中はサッカー

のことしかない。カーブが来れば「クソッ、早田のアホ!貸した千円返せ!」

とかフォークが来れば「翼のバカ!二度とブラジルから帰ってくんな!」とか。

それでもそつ無くキャッチャーをこなすオレだったが、それを見て業を

煮やした女が

「喰らいやがれや!」

と強烈なボールを投げてきた。女は腰に腕を当て、その反動を利用して

強力なボールを投げた。グラブをそれ、頭をかすめるボール。ビビって

ちょっと漏らした。だが、その瞬間にオレの頭に新必殺シュートの

イメージが浮かんだ。
そうだ、地面を蹴ってその反動を利用すれば強力なシュートが打てる!

自分で言っていてなんだが、この設定には相当無理がある気がしたが、今は

それより一刻も早く帰りたい気持ちでいっぱいだったので、とりあえずそう

いうことにしておく。早速特訓だ。まだ、おぼろげなイメージしか無いが、

タケシの助け があればきっと完成するはずだ。

「タケシ!オレはこれからあの山に篭もって特訓する!」

そして、タケシにも協力を頼もうとしたそのとき

「ああ、あの山ですか。遠いですね。僕の泊ってるホテルからじゃ通うの

無理です。仕方ないから町で待ってますんで、何かあ ったら携帯に電話

してください」

そう言ってタケシは去っていった。泣きそうになりながら山に向かうオレ。

道中で三回ハブにかまれた。鬱だ

 

日:いつかやると思ってたが、ついに翼の野郎がオレの雷獣

シュートをパクりやがった。しかもスカイウイングシュートなんて名前を

つけてやがる。試合には勝ったが頭に来たので、ロッカールームで抗議して

やった。そしたら、意外な反応が返ってきた。
「え?でも日向君、あのシュートはブラジルじゃスカイウイングシュート

って言って古くから親しまれてるシュートなんだよ。僕もロベルトから習った

んだし。パクリとか言うなら日向君の方がパクリになるんじゃないかな?」

すると、それを聞いたチームメイトが。

石「なんだよ、やっぱり日向の方がパクってたのかよ」(日向:やっぱりだと!
このハゲ!)

次「一人だけあんなシュートを身につけてくるなんておかしいと
思ったタイ」(日向:てめえは痩せてきただけだろ、このデブ!)

早「オリジナリティがねーんだよな」(日向:おめえにいたっては、
開き直ってカーブとシュートの練習じゃねーか!)

若島「またですか?日向さん」(日向:またってなんだよ、またって!)
反「いいかげんにしとけよ、パク男」(日向:てめー殺す!)

タ「やーい!パ・ク・男!パ・ク・男!」(日向:

そしてロッカールームにパク男コールが鳴り響き、いよいよ涙がこらえ

きれなくなりそうになったその時

翼「やめろよ!みんな!パク男だって、パクろうと思ってパクった

わけじゃないんだぞ!」(日向:最初にオレがパクったって言ったのは

てめーだろ!(怒))
 すると、あれだけ騒いでいた連中が皆静まり口々に

「やっぱり、キャプテンは翼だよな」

などと翼を賞賛し始めた。そのうちオレの話題などまるで無かったか

のように翼を囲んで盛り上がる連中。いたたまれなくなったオレは、

一人ロッカールームを後にした。鬱だ。

日:ついに念願の家を購入した。建て売りだが、建築会社の

倒産もあってこの大きさでは考えられないような安価(らしい。詳しい

ことはわからないが)で購入することができた。とはいえ、かなりの額

だったので父ちゃんの墓を建てるのが後回しになってしまったが。

「さあ、みんな、中に入ろう」

家族と一緒に新居に入る。すると、弟が、

「兄ちゃん、この家広いねぇ。廊下でサッカーができるよ。いくぞ、

雷獣シュート」

とふざけてボールを転がした。上機嫌のオレはそれに合わせてヘタレ
SGGK
の真似をしてあっさりゴールされてやろうとした。

 しかし、ボールは途中でかなりの勢いで右に曲がっていって壁に

ぶつかった。
「おいおい。カーブなんてかけてちゃ、早田のアホみたくなっちゃうぞ」

と言って弟にボールを返す。するとそのボールもやはり同じ方向に急激に

曲がった。

疑問に思ったオレは廊下の真ん中にボールをそっと置いてみた。

すると、何の力も加わっていないのにボールが壁に向かって転がり

だした。間違いない。この廊下には傾斜がある

「け欠陥住宅?」

良く見ると壁のところどころにヒビ割れが見える。倒れそうになり

ながらもオレはこの家を売った不動産屋に電話した。

「こんな物件を一億で売りつけやがって

呼んでいるベルが鳴る。やがて

「おかけになった電話番号は現在使われておりません」

鬱だ。

日:家を建てるため及びセリエA移籍に向け、CM活動に力を

入れることになった。オレとしてはあまりやりたくない仕事だったが、

マネージャーの香さんには何かと世話になっているというか弱みを

握られているので逆らえない。この前の「男を磨け日向のように」の

時点でかなり鬱になったので、今度は末代までの恥にならないような

CMに出たい。

そんな中、コカコーラからCM契約の話が舞い込んできた。契約書を

見ると、どう見ても修正液で消した跡が残っている、三文字分のところに

5文字詰め込んだような名前の欄と、同様に修正の後が残るニ文字分の

スペースに三文字分詰め込んだような契約金額の欄が気になった。だが、

相手に聞いても、印刷ミスとしか言わないので、まあ、そんなものかと

サインした。その後、翼から国際電話がかかってきた。

 

「オッハー、日向君。今日はうれしいニュースだよ。僕のとこに来た

コーラのCMの話なんだけど、コーラといえば日向君ですよって君に

譲ったんだ。契約金は5億円だって。悪い話じゃないでしょ。それじゃ、

オッハー(ブラジルにいる翼は日本の全ての挨拶がオッハーに変わったと

勘違いしているらしい。バカなやつだ。別れはバイチャだ)」

どうやら名前の三文字五文字は大空翼日向小次郎で金額の

二文字三文字は5→50万のことだったらしい。頭に来たので抗議

したら、既にサインがかかれてるから契約破棄するならキャンセル料

5億、とか言われた。その後、香さんに死ぬほど怒られた。鬱だ。

 

日:もうCMはやりたくない。そう思っても、香さんの命令は

絶対。とりあえず今度は優良な相手のCMだから大丈夫と言われたので

渋々出演することに。どうやらAC(公共広告機構)が今回の依頼人だ。

そこはかとない不安は残ったが、演技指導を受ける。

「大丈夫、君の台詞は一つだけ。適当にふらふら歩いて最後に「いじめ、

かっこわるい」って言ってくれればOKだから」

不安は的中した。おいおい、それはサッカー界ではタブーなCM

じゃねーのか?  オレもサッカー協会に干されたらどうすんだよ、

とか抗議しようと思ったらいきなり本番開始。簡単なCMなのでリハ

も無し。一発撮り。そう聞かされて急に緊張してきた。声が震える。

無我夢中の演技後、監督のハイオッケーが出て終了した。後日、緊張の

あまり引きつった顔で震えた声で、どう聞いても

「みじめ、かっこわるい」

にしか聞こえないCMが流れてから2週間。オレは沖縄で人目を避けて

生活することを余儀なくされた。鬱だ

 

日:今日も香さんに言われたように今までの鬱になった思い出を

書き出した。こうした思い出を専門家に見せてカウンセリングをして

もらうことによってよりメンタル面での成長を促すことができるらしい。

香さんが原稿を取りに来てくれたようだ。

   「プッ。今日もなかなかの出来ね。使えるわ」

そういって香さんは原稿を持って去っていった。だが、オレはまだ一度も

専門家のカウンセリングをうけていない。早くより強い精神を身につけたい

ものだ。青空の元、オレは晴れ晴れとした気分になっていた。

 

 

      おまけ

 

パク男の件に関してはオレとタケシ、反町の間では既に問題は解決した。

あいつらはオレが頼むからやめてくれと頭を下げたら素直にやめてくれた。

やはりオレは信頼されている。

また、雷獣シュ−トのネーミングだが、これはオレのスポンサーから

苦情が来たから使わなくなった。どうもタイガーに比べ、雷獣というのは親しみづらいらしく、雷獣グッズである雷獣饅頭も赤字を抱え在庫処分に困っている

そうだ。このことから雷獣を捨てタイガーに戻したと言うわけだ。

ちなみにワイルドタイガーの件だが、これを考えたのはオレではなく

香さんだ。ワイルドという名から誤解を生んでいるようだが、UNO

ワイルドカードのようにどんな時でも最高の威力を発揮するという意味合い

でつけられている。オレとしては常に芯を喰うタイガーショットという

ことから「狂虎」と書いて「タイガー・ジェット・芯」
と名付けたかったのだが、残念ながらこの意見は却下された。

最後に、オレとしてはこれからも細々とキャプテン翼を語っていきたい

と思うので、飽きてもいいから、削除依頼等を出さないで見守っていて

欲しい。それではみなさん。合言葉は「猛虎」と「鬱だ」の日向小次小次郎でした。

    分化放送、日向小次小次郎のドッキドキ・トゥナイトから生放送