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森崎有三自伝『SGGK』民明書房刊




◎月△日
今日はいよいよJr.ユース大会決勝だ。
昨日の準決勝フランス戦では、若島津が右手にひどい怪我をした。
いくらなんでもボールでその傷はないだろ、頸動脈でも切ったんじゃねーかというくらいだらだらと流血するその様子は結構笑えたが、そんなことはどうでもいい。
若島津が今日の出場は無理、ということは、いよいよ俺の出番がやってきたのだ。
うちのチームにはゴールキーパーは若島津以外には俺しかいない。
まぁ合宿にも参加してないくせに途中からいきなり合流してきた若林さんがいるが、 あの人は練習中にチームの連中にボロクソな暴言を吐いたりして いま軽くシカト状態にあるので チームワークのことを考えてもまず出場はないだろう。
それに実は若林さんはこの大会に出るつもりは最初から無いのだ、という 翼との密談を俺は偶然聞いてしまった。
ちなみにその時それを立ち聞きしておどろえている日向のマヌケ面も目撃し笑えた。

・・・おっと、そうこうするうちにスタメン発表だ。
「GK、若林源三!」
・・・ちょっと待て。
監督の見上のジジイの宣言にみんながざわめく。
そりゃそうだ、GKは全日本の最終兵器、俺だろう、俺。
「か、監督、俺はこの大会には・・・」
若林さんもあわてている。DFとの連携もできていないし、無理だという。
そうだ、その通りだ。
しかしここで俺は俺の唯一の「ウリ」であるいい人キャラをアッピールするために あえて若林さんに花をもたせた。
「若林さんしかいませんよ。  若島津が出れない以上今日の試合のゴールを守れるの若林さんしかいません。」
「森崎・・・」
若林さんの表情を見て、俺はヤツのなかで確実に俺の株があがったのを確信し内心ほくそえんだ。
どうせ俺がおだてたところで、この人はこの試合出るつもりはないのだ。
さぁ、もういいぞ、みんな。「そんなことはないぞ森崎!」「お前が守れ!俺たちのゴール!」という
熱いコールをレッツカモン。
俺がほほを染めてOKする演技の準備万端で待っていたのに、 あろうことか日向の野郎が
「そうだ若林、日本ゴールをまかせられるのはもうおまえしかいないんだ」
などとほざきやがった。
おい待て、「もう」ってなんだ!おまえ「しか」ってなんだ!
俺は全国大会優勝チームのGKだぞ?ふざけるなよこの牙のぬけおちた子猫ちゃんよぉ
と俺が怒りをぶちまけようとしたところ、
「若林!若島津がでれない以上キーパーは若林しかいないよ!」
松山!貴様低い弾道のシュートしか打てねえくせにしゃしゃり出れるんじゃねぇ!
「そうだ若林さん!」
滝!来生!俺を補欠メイトにとどめようと狙ってやがるな!ちくしょう足ひっぱりやがって!
「若林!」「でろよ若林!」「若林さん!」
・・・気づいたときにはもう俺の存在などその場にはないかのように 若林コールが渦巻いていた。
「わかった、でるぞ!おれはでる!!」
おいおい・・・ドイツデブがやる気になっちまったよ・・・
こうして俺の世界デビューの夢はもろくも崩れ去った。
決勝戦休憩時、みんなに配ったタオルに俺の涙がしみこんでいたことは言うまでもない。




 この文章はみーやさんから頂きました。感謝