■クロスレビュ第2回 10月公開

 石持浅海 『月の扉』 光文社カッパノベルス

 国際会議を控え、厳重な警戒下にあった那覇空港でハイジャック事件が発生した。三人の犯行グループの要求は、警察に不当逮捕された彼らの”師匠”を空港まで連れてくること。緊迫する状況の中、航空機の機内で乗客が死体となって発見される。一体誰が!? なぜ?どのようにして?ハイジャック事件のサスペンスフルな展開と、論理のアクロバットが融合した「クローズドサークル」ミステリ。これははたして奇跡の傑作か!?

 第1回目がネットミステリ系に対しての裏切りをこめた選択ならば、第2回目は翻って、順当に本格ミステリの何たるかをレビュ参加者と観客に問うてやりましょうぞという意味をこめ。ついでに非常に良いタイミングで、今年の本格ミステリを語る上で注目されそうな話題作が出たという僥倖にも乗っかり、この作品でいくことに決めました。皆はこの作品をどう評価するのでしょうか? あなたにとっての本格ミステリとは、そして、ミステリの楽しさとは一体なんですか?(リッパー@Unlocked Room
9 ■リッパー@Unlocked Room
『うさぎ、うさぎ、なにみてはねる。月の扉ひらいて、はねる』

 これは傑作です。ハイジャック事件もサスペンスフルでハラハラドキドキだし、本格ミステリとしても、誰が? なぜ? どうやって?という3要素を揃えた上に、論理的に解かれていて、読みながら思わずウットリ。座間味君萌えー。真壁x座間味(以下略。特に動機について、与えられた情報から真相を導き出すときの論理の飛躍っぷりが最高。トリックそのものはちゃちいけれども現実的。後をひくラストもまた物語として美しい。

『座間味君が最後まで仮名なままなのが神秘的で良いね』
9 ■久我明@switchingmystery
『萌えるためではなく、推理するためのミステリである』

 僕は月の扉大好きっ子で傑作と確信しその魅力を伝えたいけど上限百五十字では余裕がなくこうして句読点を省きさて何より凄い点は全ての事柄が偶然やヒラメキではなく論理で説明されそれも完成度が非常に高くしかしいわゆる萌えの要素は排除されそのため地味に見えてもこれは好みの問題であり読んで判断すべき作者はおそらく

『感じるな、考えるんだ』
4 ■合耕@魔法にかかる前
『夢がないよこれ』

 あー。今日本で真面目に本格ミステリを書こうとした場合、そこに現れやすい短所が見事に出ちゃってる気が。具体的には事件にまつわる動機への作者の思い入れの無さと言うか執着心の薄さが作品全体のバランスを悪くしてると思う。いや実は思い入れあるのかもしらんけど伝わってこなかったもんで。そんなだから辻褄合わせと新しいネタ開拓が最優先で説得力がまるでない動機に思えちゃうんだよなー。リーダビリティは高いだけに残念。
 
『座間味くんもっと嫌な奴でも良かったのにね』
1 ■元@コンバンハチキンカレーヨ再 
『リアル鬼ごっこは面白い論』

 密室・ハイジャック・クローズドサークルという異色の集合が面白くない筈がないのに、大変面白くない。全てにおいて中途半端であり、30秒で分かる開放的な密室であり、盛り上がりと緊張感に欠けまくるハイジャックに、今にも飛び出しそうなクローズドサークル。自然脱糞しそうなハイジャック中の論理展開に、お粗末なまでの足された結末は、当にクラスにいる暗い優等生ぶり。

『裏10点』
9 ■キセン@未明の研究 
『何かひとつが凄いのではない。すべてが組み合わさった姿が凄いのだ』

 スピーディーなサスペンスに突如発動する本格としてのの謎。背反要素は違和感なく同時進行し収斂し前提が覆りカタルシス発生。この美しさは何だ。超絶飛躍が炸裂するわけではなく謎と解決は論理的で地味ですらある。紛れもなさ過ぎる本格。だがそれが物語に組み込まれた瞬間に輝き最高に綺麗なエンタテインメントの要素に変化する。奇跡、歪の美の対極、つまり完全に整った完成形=円。奇跡の軌跡を辿り出来た円は最も美しい図形。

『本格がもっとも理想的な形で「要素」になっている』
8 ■未成年@炭酸カルシウムガールズ
『なんら問題はない。』

 面白い。特に文章が激ウマということもなく、ハイジャックという題材も使い古されたものなのに、どういう訳か引っ張られて読んでしまう。僕は本格にさほど思い入れがないので、ただ単にいち小説として読んだのが幸いしたかも。

『みんなが本格としてどう語るのか楽しみ』
4 ■もっち@Like A Monocled Cat
『文章とタイトル、カバーイラストは好きなんだけど』

 前評判も手伝ってか、ハイジャック遂行から機内での事件が発生するまでの前半はスリリングな展開で楽しめました。しかし推理が始まってからの弛緩した雰囲気が肌に合わず、徐々に熱が冷めていくような感じがしました。事件そのものも地味で盛り上がりに欠けるものだったし、「師匠」のカリスマ性がいまいち伝わってこないなどの作品内におけるリアリティも薄く思えます。ラストも好みには合わず。要するに、

『つまらん! お前の話はつまらん!』
5 ■さとる@[Hybrid No.9]
『のめりこまされる密室劇』

 読み終わったのは一ヶ月ほど前で、それからこの本には手もふれていないので勘で書きます。途中まではおもしろかった。状況設定、登場人物の造形、読みやすい文章、文句はありません。ただトリックの弱さが、終盤の唐突さ、甘さに繋がって、全体の印象を曖昧にしていると思います。出来は悪くはないんだけど、好きになれず。

『月の扉なんてない』
8 ■ピエロうさぎ@C/R
『栄養学的にも見た目的にも満足できるご飯』

 何を信じて、何を疑うのか。何に怒りを感じて、何に哀しみを感じるのか。この『何か』が導いた作品で、読了後に月を見て行きたくなった。ハイジャック事件の起こし方、推理のさせ方、そういった手腕に余り違和感を感じることがなかった。ただ惜しむらくは師匠の『特別』が理解できても共感できなかったことでしょうか。何もしないその何てことがないシーンが欲しかった。そして初読では、最後の動きに無理があるかと思ったけれども、再読ではそう感じなかった。全体的に美味しいご飯を適量食べた満足感があるかと……。最後に一言。

『座間味君。君のような彼氏が欲しい。。。』
9 ■トラック@コズミックサーフィン
『一度きりの、緊張』

 緊迫感のあるハイジャック中に浮くような殺人事件が起こる、という設定に引き込まれた。文章や作品の構成も無駄がなく非常に読み易い。けれど……もう少し無駄があればなあ、と思った。師匠がどういう人物だったのか、深く掘り下げられなかったのはあまり納得できないし、ハイジャック犯である三人の結びつきをもう少し教えて欲しかった。……だが、それは本作品にとっては些細なる塵のようなものであって、瑕にはなりえない。いやー、面白かった。

『……そして本格ミステリは新たなる世界を構築した』
8 ■なづな@京極夏彦ニュース
『最後がなあ…』
 
 ハイジャック機中での密室殺人と云う魅力的な謎。丁寧で論理的な推理の過程。その辺はかなり楽しめました。ハイジャック時の描写もリアルに感じられたし。ただ密室の解決があんな風になるとはなー。ちょっと拍子抜けかな。それとカリスマ性にもうちょっと説得力が欲しい。結末もそのカリスマ性の薄さで減点。
 
『飛行機モノは楽しいね』
6 ■めぐん@デニー様がみてる
『よくも悪くも平均的』
 
 文章が非常に読みやすい。多少無理に見える展開も、文章の力のおかげですんなりと入り込めた。ハイジャックがどのように解決されるのか、犯人グループの安否に注目して読んでしまったので、本格ミステリとしての評価は他の方にお任せしたい。しかし本格ミステリ的読み方をしていなかったおかげで、ラストは驚愕をもって読むことができた。怪我の功名ともいえる。読んでいる最中は気にならなかったが、読了後改めて考えると、設定・展開に無理がなかったとは言えない(ネタバレにつき自粛)。そこが減点対象となった。
 
『超常能力オチなら+3点だったのに』
4 ■ネコまっしぐら@鯨統一郎ファンサイト『調査捕鯨は駄目ですか?』
『乱暴な展開だね』

 飛行機が好きな私は、冒頭の座席表だけでウキウキした。そして結局、一番心躍らされたのがその座席表だけだった。物語としては、全般に渡り強引な謎解きを中心に語られているためか随所に粗雑さが見られ、その印象が最後まで拭えなかった。ミステリとしては、登場人物が一通りそろった時点でもう特定されたようなものだったからね……。とにかく。飛行機という密室に、個室トイレという密室。それはいい。ただ、人物背景の特殊さに、もっと気を配ってほしかった。

『キヨスク文学(駅売店で扱うような文庫の総称)としてなら高評価してもいいかな』
7 ■gMA@gMAs' world
『月は、太陽が無ければ輝くことはできない。
 だが、太陽が現れても輝くことができない。』

ハイジャック事件が起こりました。動機は不明です。

鮮やかな手口が、序盤から惜しげも無く披露される。
ハイジャック中の飛行機内密室で死体が発見される。
密室の謎、ハウダニット。
ハイジャックの謎、ホワイダニット。
いったい何が起こってるんだ?
最後には何が起こるんだろう?
期待は意外な形で裏切られた。

僕は思う。
片方の謎は、最後まで読ませるためだけの、
ストーリーを作るためだけの謎だったのか?
あなたは二つの事件、どちらが月だと思う?

『続きはgMAのサイトで(ネタバレあり)』
■平均 6.5

 本を読むという事は、感情としてプラス・マイナスの結果を生む事が多々ありますが、必ず経験としてプラスになっています。『最高だぁッ!!』と思っても『そっか』と思っても『ツマンネチクショ』と思っても、同じ本を読んだ、同じ経験を得ている、という不思議な経験を分かち合い、違う感情が生まれた事を堪能していただければ、と。

 『読書で何かが見つかれば』 元@10.05.2003