煙草
短くなっていた煙草を地面に落すと、啓介はぐしゃと火を消した。
本日、何本目かの煙草である。
消した煙草の側には、数本の同じように消された煙草の残骸が散らばっている。
FDのチューニングの間、持て余した時間を潰すために煙草を一本、取り出した。
はじめは缶コーヒーをちびちびと飲んでいたのだが、飲み尽くしてしまい、現在は煙草で暇を潰している。
話明いてもいれば、煙草の本数もここまではいかなかったのだろうが、涼介は車内で仮眠をとっているし、拓海はダウンヒルを攻めている。
他の人間も何かと忙しそうにしているので声がかけずらい。
ライターに火を点火し煙草の先を近づける。
「啓介さん」
呼ばれるのと同時に煙草が手から採り上げられる。
ライターの火は目的をなくして、二酸化炭素を作りだしただけで、火を失った。
「藤原。火を使っているのに、危ないだろ」
いつの間にか、ダウンヒルから戻ってきた拓海が啓介の側にいた。
「吸い過ぎですよ」
地面に散らばる煙草の吸い殻を見ると、啓介の持っていた煙草の箱を採り上げた。
「おい!」
取り上げられると思っていなかった啓介は簡単に箱を奪われて驚く。
「返せよ」
「ダメです。今日、吸う本数はもう吸い終ったでしょ?」
どっかの母親のような台詞を言って、拓海は取り上げた煙草の箱を後ろに隠した。
「本数って、誰が決めたんだよ」
以前から、吸い過ぎると拓海は注意していたが、記憶を掘り起こしても本数を決められた憶えはない。
「オレです」
「聞いてねぇぞ」
「そりゃ、聞いてないでしょうね。言ってませんから」
悪びれもなく告げると、隠した煙草をボケットに仕舞い込む。
「藤原!」
「どうしたんだ?」
少し声を荒げて、啓介が拓海から煙草を救出しようとすると、タイミングを計ったように入り込んで来た。
「啓介さんが煙草を吸い過ぎるから、取り上げたんです」
啓介が煙草を吸う事を涼介が快く思っていないのを知っていた拓海は心強い味方を得たとばかりに状況を報告する。
「当然だな」
拓海の行動を正当ととった涼介はあっさり拓海の肩を持った。
「兄貴」
情けない声を出して、啓介が涼介を見た。
「啓介。煙草は百害あって一利なしだというのは知っているだろ」
小学生でも知っているような事を告げた。
「そうですよ。煙草は百害あって一利なしなんですから」
涼介の台詞を拓海が繰り返す。
二人が正しいので啓介は反論の言葉がない。
元々、コレに関しては拓海だけでも納得させるのが難しいのに、涼介まで加われば勝ち目はない。
「煙草は吸う人間よりも吸っている人間の側にいる人間の方が悪影響を受ける。妊婦の喫煙は未熟児や先性異常の子供が生まれる可能性が高いし、喫煙量が多いほど、子供の体重減少も著しい。この主な原因は妊婦の」
「わかったよ、兄貴」
話が専門に移りそうになって、啓介は慌てて止めた。
「最後まで聞け」
「でも、兄貴。オレに妊婦の話をしてもしょうがないだろ。身近に妊婦なんていないぜ?」
再び語り出そうとする涼介に啓介が強引に言った。
男友達が圧倒的に多い啓介の友人には妊婦はいないし、妊娠してそうな女友達もいない。
「何を言ってるんだ。藤原がいつ、孕んでもおかしくないだろ!」
涼介の台詞に啓介と拓海が黙り込む。
目をパチクリさせて、涼介の台詞を必死に理解しようと務める。
先に正気に戻ったのは啓介の方だった。
「な、なんで、知ってんだよ!」
啓介の狼狽え振りを見て、拓海は顔をしかめた。
同じ名字を持つ女性の存在に疑った。
「二人を見ていればわかる」
ポンと拓海の肩に涼介が手を置いた。
「藤原が先性異常や自然流産、死産をしてしまう可能性が高くなるんだぞ?お前も藤原のためなら煙草を止められるだろ?」
「いや、まぁ…、藤原のためなら…。ってコイツは男だぞ、兄貴。妊娠するはずがないだろ!」
啓介の台詞にようやく話が掴めた拓海はパクパク、口を動かせて、青くなったり赤くなったりと表情を変化させる。
「ニコチンは男のテストステロンという性ホルモンを減少させる。それにより、精子形成能力が低下し、遊動精子の形態や移動性にも悪影響を及ぼし、結果的にインポに繋がる。藤原を二度と愛せなくなってもいいのか?」
そこまで力説すると、涼介はハチロクのチューニングをしている松本に呼ばれた。
茫然と立ちつくす二人を残して涼介は松本の所に歩き出す。
程なくして、少し離れた場所で涼介と松本がハチロクのチューニングについて話し合っている声が、微かに二人の耳に届いた。
「啓介さん」
拓海は俯いて呼んだ。
「……なんだ?」
「煙草、止めますよね」
「ああ、お前に元気なオレの子を生んで欲しいからな」
涼介にばれていたショックから早々に立ち直った啓介は真顔で答える。
「オレ、男ですよ」
「兄貴が生めるって言ったんだから、大丈夫だ」
がんばろうなぁ、と付け加え、拓海の両手をぎしっと握り込んだ。
が、数秒後、
バシン。
拓海に殴られる啓介がいた。



当分、拓海が啓介を無視したとか、しないとか…。



END


若葉様へ、企画参加有難う御座いました。
兄弟+拓海という事でしたが、こんなカンジでいいでしょうか?
論文作成の最中、図書館にてネタを考えてみたり(笑)
頭の中は不純な事でいっぱい。
赤城山の花の本とかもあったんでそっちにしようと
思ったんですが、借りたものの、中身を見る余裕がなくボツ(涙)
少しは赤城について詳しくなれるかも、と淡い期待があったんですが
無理だったみたいです(泣)
でも、啓介と拓海の子供は少し見てみたいです(笑)