こたつ隠れ


 確か今は5月ではなかったか。
 物の少ない殺風景な6畳間の真ん中に、どんと置かれた炬燵を見ればミホークでなくとも確認したくなるだろう。
 古びた炬燵は同じく古びた部屋の寒々しさのおかげで見た目だけならそう違和感はなかったが、天気の良い日はそろそろ気の早い半袖姿の子供も目に付くこの時節である、スウェットの部屋着に着替え炬燵に下半身突っ込んで背中を丸めた青年は男の眉をひそめさせるには十分だ。
「いい加減炬燵くらい仕舞え、だらしない」
 つい非難じみた口調になるには訳がある。
 ゾロは向かいで缶ビールのプルトップを開けながら、きょとんと丸い目を上げた。
「なんで?明け方なんか結構冷えるし、布団なしで寝るにはまだ早ぇよ」
「これで寝ているのかお前は。普通の布団はないのか?」
「あるけど出すのがめんどくせえ」
 興味なさそうに言って顎を上げ、白い喉を上下させる。
 自宅のリビングでソファにでも寄り添っていれば、すかさず引き寄せることもできたのに。晒された鎖骨や首筋を見るともなしに眺めながら、ミホークは多少乱暴に音を立てて缶を置いた。
 年季の入った炬燵は足にガタがきているのか、一方に力を加えるとぎしぎし揺れる。
 さすがにもう電気はついていなかったが、夜は布団代わりに寝起きして、昼は食卓、テスト前には勉強机、メンツが集まれば雀卓兼、恋人と差し向かいで酒を飲みもする。元々が狭い部屋だが必要なものは全て炬燵に入ったまま手を伸ばせば届く範囲に置かれているという念の入りようで、普段の生活が目に見えるようだった。
「…眩暈がするな」
「快適至極だ。あんたも暫く住んでみるか?」
「遠慮しておく」
 几帳面な男は即座に切り捨てて、色気も素っ気もない部屋を見回した。
 畳に直接置かれた型の古い小さなTVからは数年前にヒットした洋画が流れていたが、夜だというのにしょっちゅう鳴り響く近くの踏切の音が喧しくて碌に聞こえやしない。こんなところではいくら二人きりでいても良い雰囲気などなりようがない。
 食事の後たまにはうちに来いと誘われてやって来たのだが、やはりいつも通り己のマンションに連れ込めば良かった。ミホークは浮かない顔でぬるいビールに口を付ける。
「お前の観たがっていたDVDを買っておいたのに…」
「あんたんとこで映画なんか、最後まで観れた試しがねえ」
 TVに目を向けたままゾロが言った。
 男の部屋でくつろいでいると、いつの間にか良いようにあらぬ展開に持ち込まれてしまうことへの当て擦りだろう。
 それはそうだ。憎からず思っている相手と部屋を薄暗くして寄り添っていれば、当然の成り行きだ。
 と、そう思っているのはミホークだけらしく、ちらり艶やかな黒目が男を映して笑った。
「そのてん間にこいつがありゃ、あんたも余計な真似はできねえだろ」
 ビールを持った肘で炬燵の台をトン、と叩く。
 先刻からの不機嫌の理由はとうにお見通しらしい。
 いい性格をしていると言うべきか、知った上でにやにや笑い、足先で胡座をかいた男の股間の辺りを突いてくる。
「どうだかな…」
 言うなりミホークはその足を掴んでぐいと引っ張り上げた。こんなものでバリケードのつもりとは、たわい無くて笑える。
「ぅわっ」
 必然的にゾロの上半身が炬燵の向こうに沈む。手にした缶が畳に転がったが、幸い残り少なかった中身が少し零れただけだった。
「何しやが…」
 抗議もそこそこの内にがっちり掴んだ足裏を、ミホークは徐に擽りあげた。
「は!?やめっ、うはははは、ちょっ…勘弁ひゃっひゃっ…ミ、ミホ、あはははっ…はっ…ひっ」
 ゾロは目を白黒させて足をばたつかせたが、藻掻いて蹴り飛ばそうにも炬燵が邪魔で足がひっかかりうまく動けない。おまけに踵をがっちりホールドされている。ギブアップを訴えるように畳をバンバン叩いて身を捩っても無情な男は手を止めず、終いには息が詰まって引き付け寸前…、というところでようやく解放された。
 息も絶え絶えにぐったり倒れ込み肩を上下させるゾロに構わず、ミホークは更に足を持ち上げて健康的に窪んだ土踏まずをべろりと舐め上げた。
「ぁ…」
 先程までの擽ったさとは違う、むず痒いような感覚にゾロが思わず声を上げる。
 反射的に引こうとする足を捕えたまま、親指から小指まで一本一本銜えてしゃぶり、指の間まで丁寧に舌を這わせていく。
「ふ…っ、てめ、いい加減に…」
 すっかり息の上がった声に男の頬が緩んだ。
 懸命に肘をついて起き上がり、こちらを睨付けるゾロに見せつけるよう恭しくつま先に口付けて視線をやれば、赤い顔のまま口を開いたきり絶句している。
「どうした?こういうプレイは好きだったか」
「違…、うぁ!?」
 更にぐいと下半身を引っ張り出し、今度こそ首までずっぽりゾロがこたつの中に埋った。
 引き出した下半身を己の腰を跨ぐように大きく広げ膝の上に抱え上げ、スウェットの短パンを下着毎剥ぎ取ると少し暴れたが、戒めるように中心をきつく掴むとおとなしくなった。
「ぃて、……んっ」
 敏感な内腿に軽く歯を当て、手の内の杭を乱暴に上下に擦り立てる。すぐに硬く立ち上がり、先走りの滲み出した先端にちゅ、と音を立てて吸い付いた。
「は…、なせ…っ、ぁ」
 ゾロはといえば、小さめの炬燵が枷となってろくな抵抗もできないらしい。
 自由の利かない相手を幸い、角度を変えて何度も深く飲み込めばその度に口の中のものが容量を増し、声の調子も変わってくる。
「んん…ぅ」
 噛み締めても殺しきれないといった吐息が漏れて、手近なものに縋ったのだろう、ぎしりと炬燵の足が鳴った。
「…顔が見えんのが惜しいな」
 とはいえ何度も抱いた体だ。見えなくともどんな顔をしているか、想像するのは容易い。口を離してふっと笑うと濡れた先端に僅かな吐息がかかり、それだけで立ち上がった中心がびくびく震え、愛しさにまた口付けた。
 ゾロ自身の液に濡れた指を後ろに滑らせ、反射的に強張る内腿を優しく撫で上げる。何度か焦らすように指の腹で周囲を辿った後、つ、と指先を押し込んだ。
 一度入れてしまえば慣れた場所は簡単に解け、すぐに2本目を追加して奥を探る。知り尽くした場所を刺激する指先に、
「あっ、あ、ミホーク、ダメだっ」
 駆け上がるように強引に押し上げられ、ゾロは薄い布団に爪を立てた。
 弾け飛びそうな脳裏に頂が掠めたとたん、放り出すように顔が離され、指の挿入が浅くなる。解放寸前だった熱が行き場をなくし、狂ったように逆流して身の内を駆け巡る。
「や…めんな馬鹿!」
 思わず怒鳴ってしまい、炬燵の向こうで見えない相手が声を上げて笑った。
 ゾロは忌々しさに涙を滲ませる。邪魔な炬燵がなければ一も二もなく縋り付いてしまいそうな自分にだ。顔を見られないのが幸いだと思った。
 手を伸ばして自身を慰めることもできず、もどかしく腰を擦りつけるしか解放を促す術がない。
「早く…」
 たまらない声でせがんでも、ミホークは限界まで張りつめた中心をゆるゆる扱き立てるだけで、点きっぱなしのTVの音に混じって、ちゅく、と濡れた音がゾロの耳を打ち、白々明るい電灯から目を覆うように腕を交差させた。
「はぁ、も、…入れろ、バカ…っ」
 相手が見えない分感覚が敏感になり、ほんの少し触れられただけでビクビク腰が跳ねる。
 大きく広げたままで力の入らない足を上げ、男の肩をどついてやると、後ろに入っていた指が引き抜かれ、代わりに熱いものが押し当てられた。
 無意識に安堵の息を吐いて力を抜く。
「炬燵というのも悪くないな…」
 笑い混じりの言葉を理解する間もなく、押し入ってきた男の熱に突き上げられ、すぐに何も判らなくなった。



 脱力した体を下から強引に引っ張られ、炬燵の反対側からずるり引き出される。
 重い瞼を開けてニヤついたミホークの顔を見たとたん殴ってやろうと伸ばした腕は、気がつくと男の首裏を捕えて噛みつくように口付けていた。



 翌日ゾロが速攻で炬燵を仕舞ったのは言うまでもない。



48手の一つ、「こたつ隠れ」
…ですが隠れてません。隠れてません。すみません。
本当はお互い肝心な部分はこたつの中で…ということらしいです。

(2004.05.10)