第9回公判 被告人質問
〜その4〜

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裁判もいよいよ大詰めで、これが今公判においての貴志氏による最後の意見表明の機会になる。
貴志氏も相当力が入っていたようで、彼のこれまで歩んできた人生や、その人となり、価値観、人生目標が熱く、力強く語られる。



弁護人:弁護人山口から伺います。被告人は株式会社松文館を経営していますね?
被告人:はい、しております。

弁護人:ほかに経営している会社はありますか?
被告人:有限会社グループゼロというのと、道出版株式会社というのを経営しております。

弁護人:株式会社道出版というのはどういうことをやっている会社なんですか?
被告人:これは基本的には、同じ出版社なんですが、出しているものが違いまして、国会議員の方の出版物を出したり、医療関係の本を出したり、宗教関係の本を出したり、そういう方面の堅い本を出しております。

弁護人:株式会社松文館というのは、どういう出版物を出しているんですか?
被告人:これは私が漫画家のせいで漫画ばかり出しております。基本的にはH漫画を中心に、復刻漫画と言いまして昔の梶原一騎の原作のものや、少女漫画に類したものを出しております。それ以外のものは一切出しておりません。

弁護人:今回摘発された「蜜室」というのも株式会社松文館が出した本ですよね?
被告人:はい。

弁護人:なぜエロ漫画というのを被告人が出版されているんですか?
被告人:松文館は松本印刷という印刷所が持っていた出版社なんですが、その当時から松文館はエロ漫画を出していました。僕が10年前に引き受け、何を出版するかということをいろいろ考えたんですが、松文館がH漫画をずっと出してきたという書店との絡みもありまして、H漫画は僕があんまりかかわりを持たず不安だったんですが、2〜3ケ月一生懸命H漫画を読みあさりまして、H漫画のよさを自分の中で幾つも発見しました。
僕自身は漫画家で、硬質な線を持っておりまして、割と男を中心とした漫画しかかけなかったんですが、女性をかくのが特にうまい漫画家の人たちって、その当時たくさんいらっしゃって、その人たちがH漫画のほうをやっていたんです。私は3〜4本かいたことはあるんですが、なかなか僕には難しくて、かけずじまいで。

実は貴志氏がかつて漫画家だったことを結構最近までしらなかった。
別に顔で漫画を描くわけではないのだが、彼の外見、強面な風貌、パンチパーマちっくなヘアスタイル、そしてネイティヴな関西弁から、はじめはヤクザ系の人なのかなと思っていたりしましたごめんなさい。
でも警察の留置所では相部屋の皆さんから「何ぃ漫画?嘘つけシャブやろ?」と言われていたんだそうで、まあそのようなことなのだ。


弁護人:先ほど、エロ漫画の魅力というのが分かったということを言いましたが、それはどういうことなんでしょうか?
被告人:漫画の表現の中で、なかなか読みにくい漫画というのは、止まっている物体ばかりが描かれた、へばりついたような絵面がずっと並んでるというのは、これはなかなか読みづらいんです。逆にアクションものやスポーツ漫画なんかは絵が動きますから、読みやすいわけです。H漫画というのは女性の柔らかい線が絡むもんですから、動くわけですね。読者としても読みやすいと。
その辺の発見が1つと、当時、森山塔さんという漫画家さんがうちの出版社でも出していただいてまして、その人の本が、30〜40万部売れてまして、それでその先生が集英社のビジネスジャンプか何かにかきだしたわけです。ビジネスジャンプというのは、H漫画の100倍くらいの読者層を持っているところで、彼は山本直樹というペンネームで描きだしました。どういうふうにして描いているかと言いますと、簡単に言えばHシーンの部分を切り落とした芝居をさせれば、テーマがありますし、ドラマ性を十分に含んだ表現の仕方をされていました。それで読者を随分獲得されていましたので、これはひょっとしたらH漫画というのは面白いなと。裾野が広いし新人がたくさん入ってきます。たくさんの新人をこの場所で育てて、自分の表現みたいなものをそこでつかみ取ってもらえれば、大多数の読者がいる所へ羽ばたいていけるんじゃないかと、そんなふうに思いまして今まで出版を続けてまいりました。

弁護人:今、新人を育成するというふうに言いましたが、そこのところをもう少し詳しく説明してもらえますか?
被告人:私たちが漫画を始めたのは、ちょうど35年くらい前になります。そのころは漫画を描くために、売れてる先生のアシスタントに行くか、ラーメン屋の出前かなんかやりながら漫画を描く以外、漫画家になる道がほとんどなかったと言っていいくらい、かける場所がなかったわけですね。
それで、売れてる漫画家の先生のアシスタントをするんですが、そのアシスタントというのは先生が書いた下書きを消したり、ベタを塗ったり、背景をかいたりするんですが、確かにペン先は器用になったり、非常に慣れてくるんですが、自分の表現みたいなものが確立できていかないわけですね。漫画家というのは自分の中にあるものをいかにかきだして、描いたものを自分で見て、何がどういう表現をされているかということが本当に伝わっているかということを何度も繰り返しながらしていかないと、最低でも30本から40本くらい新人のうちは描きださないと、なかなか自分の表現みたいなものはつかめません。そういうことで僕はちょっと苦労してたもんですから、せっかく自分が出版社をやりだしたから、そういうことができるような場所を提供できればと思ったくらいです。
それでこちらも経営もやっていけて、それで新人さんも少し食べられて、それでエロをずっと追求したいという人はそこへ残っていただいて結構だし、違うジャンルのものを描きたいという人はそちらへ出ていけるような、そんなふうな出版社にしようと考えていました。

弁護人:先ほど、裾野が広いということが出ましたが、エロ漫画というジャンルは、なぜほかのジャンルに比べて参入しやすいんでしょうか?
被告人:同人誌のサークルがたくさん全国にあります。それでだと思います。

弁護人:サークルと言いましたけど、それは同人誌を出しているグループという意味ですね?
被告人:はい。そういうグループがたくさんありまして、それで、その人たちもやっぱり同じように、自分の作品を作るのに、男女の性交の部分をうまく描けば一定の読者が獲得できて、少し生活もできるんです。それ以上の読者はいないんですね。

弁護人:先ほど、アシスタントでは駄日だという話が出ましたが、アシスタントを何年やったとしてもやっぱり一人前の漫画家にはなれないだろうということですか?
被告人:それは無理だろうと思います。映画で言えば、映画監督から役者からカメラマンから、要するに後ろの背景まで、全部するのが漫画家なんですよね。先生のものを見るだけでは、吸収はできるんですが、自分の中で固まった表現として出せるまでには、やっぱり何作かかいていかないと出ていかないものだと思っております。

弁護人:ちょっと話が変わるんですが、例えば、先ほどラーメン屋の出前持ちという言い方をしましたけれども、アルバイトしながら漫画をかくというのはどうなんですか?
被告人:当時は力仕事とか、飲み屋の呼び込とかくらいしかバイトくらいしかなくて、食うに追われちゃって、描く時間がなかなかないもんですから。僕はそういう生活をしてきたもんですから、できれば、描きながら自分の表現をつかみ取っていける場所が見付かれば若い漫画家たちにとってはいいんじゃないかって、そんなふうに考えました。

弁護人:さきほど、エロ漫画の意味について言いましたけれども、要するにエロ漫画というのはマスターべーションのためのツールであって、要するに裸のお姉ちゃんをかいてれば何でもいいんじゃないかというのとは違うんですか?
被告人:そういうものもありますし、いろんなものを含んでるんですよね、エロ漫画界というのは。描いている作者と読んでいる読者が、割と近いんだろうと思うんですね。ですからその中に作者のメッセージも入っていたりするものを受け取る側は好きであったりということは多々あるんじゃないかと思います。
それで僕自身、エロ漫画が、検事さんたちもそうだと思うんですが、そのエロ漫画を見て、本当にいやらしくて、これはいいものだと思ったら、次も900円出して買おうかなというふうなものではないんです。本当に特殊な人があの絵を見て買うんだろうと思うんですよ。

弁護人:先ほど、森山塔という漫画家がエロ漫画のほうからビジネスジャンプというメジャー路線のほうにデビューしたという話を言いましたが、でもやっぱり「蜜室」なんかを見ると、エロ漫画って、集英社のジャンプとか講談社のマガジンとか、そういうのを見てると漫画として違うものなんじゃないかと思えるんですけども?
被告人:表側から見たら全く違うように思うんですが、中の構造自体は本当は一緒なんです。

弁護人:それは具体的にどういうことですか?
被告人:中にかかれているキャラクターといいますか人間がきちっとかかれておりますし、テーマはテーマでありますし、ドラマチックに描こうとしている部分はありますし、H漫画の性器の部分を、ボクシング漫画の殴っているシーンと入替えをすれば、十分成り立つのではないかと、そんなふうに考えております。

弁護人:では、質問が変わりますが、被告人はエロ漫画を出していることに誇りを持っていますか?
被告人:持っています。

貴志氏は即答した。
別に力を込めて強調するわけではなく、聞かれたから答えただけというように。
エロ漫画という表現に確信を持ってるし、それが若手の才能の登竜門になっているとも自負しているからだ。
確かに慈善事業じゃなくて商売なのだけど、そのスタンスが逆に、変な独善とか偽善とかを呼び込まなくていいのかもしれない。


弁護人:それはなぜですか?
被告人:漫画家として、こういう出版をやって、たくさんの若い人たちに描いていただいて、やっぱりその人たちが伸びていくのを見たいというのもありますし、だんだん巧くなっていくのを見て本当に気持ちがいい毎日を送らせてもらっております。

弁護人:自分のかいている、出版社で出しているものが、例えば青少年に害毒をたれ流しているとか、そういうふうに考えたことはないですか?
被告人:青少年のことは考えたことないんですが、一応、18歳未満には売らないということでやっておりますので。

弁護人:いわゆるHコミックというかH漫画の持っている社会的な有意義な機能はあると思いますか?
被告人:やっぱり勉強につかれたりとか、そういうときに読んだら面白いんじゃないかと思います。

弁護人:被告人はかつて漫画家だったとおっしゃいましたよね?
被告人:はい。

弁護人:そのときの経歴を簡単に説明していただけますか?
被告人:19歳の時にビッグコミックという雑誌の新人賞で、佳作1席で入選しまして、本誌の方に「ふとん」という作品を掲載させていただきました。それからさいとうたかを先生のところで少しアシスタントをしまして、その後真岬守先生の所で2年弟子をしまして、ヤングコミックから再デビューしまして、双葉社の漫画アクションや週刊アクションで描いたり、萌文社で描いたりしました。その後徳田虎雄さんという医療界の先生と出会いまして、その先生の本をかかせていただきました。その後は早稲田大学や慶応大学といった大学の大学誌、建学の精神をテーマにしたものを描いています。

弁護人:エロ漫画を描いたことはありますか?
被告人:さっきもいいましたように、3〜4回あります。

弁護人:エロ漫画を描くときに、性器の結合部分まで細かく描くのですか?
被告人:はい。描きました。

弁護人:それが本になったときに、消しは入ったのですか?
被告人:中央に白い消しが入りました。

弁護人:消しというのは、白く塗りつぶされているということですか?
被告人:はい。

弁護人:それは被告人が自分で塗りつぶして編集者に渡したんですか?
被告人:違います。編集者のほうが、出版社のほうが塗りつぶして。

弁護人:なぜ、せっかくかいた部分が塗りつぶされてしまうのかという点について説明はありましたか?
被告人:それはなかったと思います。

弁護人:特にそれに文句を言ったりもしなかったわけですか?
被告人:やっぱり、通例と言いますか、そういうものだなというふうに認識しておりました。

弁護人:ということは、エロ漫画、1本目は分からないけれども、2本目3本目と書いていくうちに、性器の部分とか結合部分とかをかいたとしても塗りつぶされるなということは分かっていましたよね?
被告人:分かってます。

弁護人:それでも、ちゃんと性器の部分はかいていたんですか?
被告人:それを描かないと、顔が違ってくるんですよね、やっぱり。

弁護人:塗りつぶされると分かっていてもですか?
被告人:ええ、分かっていても、やっぱりきちっとかかないと、その、人間が動いているものですから、紙の上で人間がどんどん動いているのに、下半身がきちっと入ってないと、顔がそういう顔をしないわけですよ。人間の下半身だけ切って絵がかけるというものじゃないと思います。

弁護人:でも、特になぜ消しが入るのかということについて意識したことというのはなかったわけですか?
被告人:それはありません。



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※尚、このレポートはメモ及び記憶を元に作成されており、あくまで公判のイメージを伝えるためのものですので、多少の記述の食い違いは御容赦ください。
※転載は自由です。
※制作は児ポ法改悪阻止青環法粉砕実行委員会が行なっています。 また、制作に当たり匿名の方の協力をいただきました。