ブラック・ジャックのツボ

「ブラック・ジャック」を知らない人はまずいないと思うが、念のため、作品に関する簡単な解説を「手塚治虫展(東京国立近代美術館)」より下記に引用する。


手塚治虫の代表的作品の一つである「ブラック・ジャック」は、「少年チャンピオン」で1973年1月19日号から1978年9月19日号まで連載されていた超人気作品である。毎回20ページ足らずで完結するこの作品は、元々5回ほどの短期連載の予定で始まったのだが、読者の人気が高まるにつれて連載が続けられ、最終的には244話の物語が描かれた。

そのため、手術の傷痕のある顔、鋭い眼、ふるめかしい黒マントといった異様な風貌に加え、無免許医であり、難病を次々と治療し、その報酬として時に何千万円といった法外な治療費を請求するといったアウトサイダーとしての基本的な設定は変わらないものの、それ以上のディテールは回を追うごとに付け加えられていった。例えば、その生い立ちや、ブラック・ジャックの命を救い恩師でもある本間丈太郎などは、後になって登場している。

アウトサイダーであるブラック・ジャックは、人々の命を救うとはいえ、かつての「鉄腕アトム」に見られるような理想主義的なヒーローではない。かといって、法外な報酬を求めるだけの金もうけ主義の悪人でも、またニヒリストでもない。手塚治虫自身はブラック・ジャックについて次のように語っている。

「ブラック・ジャックもね、はじめの2回か3回はもっと悪のつもりだったんです。ところが悪いことに、読者の方から「正義の味方」だっていう評価をしちゃったのね。本当はいい人だって。漫画の主人公なんてのは作家を離れてどんどん変わっちゃうんだよね。特にその作品が受けた場合はね」


というわけで、ここでは、手塚治虫初心者の方々に少しでも彼の作品を知ってもらうため、秋田書店チャンピオンコミックス「ブラック・ジャック」全巻を参考に、独断と偏見による「ブラック・ジャックのツボ」をお届けしようと思う。

初心者の為のブラック・ジャック Q&A

1. ブラック・ジャックの本名は?

→間黒男(はざまくろお)。「ブラック・ジャック」というあだ名は、本人曰く、「ブラック=黒、ジャック=男」 からきているらしい。手塚先生の話では、海賊のドクロマークの旗をブラック・ジャック(以下B・J)に見立てたそうである。

2. 髪の毛が白黒で顔に傷があるのはなぜ?

→幼い頃、処理されないまま残っていた不発弾にやられ母親は死亡、B・Jは身体の14ヶ所が離断、皮膚の三分の一がただれ、4ヶ所が破裂という瀕死の重傷。どうにか一命は取りとめたものの、その時の恐怖で髪の毛は白く変わり、全身に手術の生々しい傷が残った。顔の傷もその時できたものであるが、なぜ半分だけ色が違うかというと、皮膚の提供者タカシが混血児の子供だったからである。(見舞いに来たクラスメイト達は、皮膚の移植を怖がって皆逃げてしまった)

3. B・Jが結婚式をあげてたって本当?

→本当である。「ブラック・ジャック」8巻(チャンピオンコミックス)第74話「かりそめの愛を」で、確かにB・Jは結婚式を挙げている。お相手は、ガンにおかされ後1週間の命である青鳥ミチル嬢。このミチル嬢、何か望みはないかと問う両親に「病室へ一番最初に入ってきた男の人と結婚したい」とのたまったものだからさあ大変。手術をするためにやってきたB・Jに、見事白羽の矢がたってしまったのである。(B・J大迷惑) しかし、しょせんはまねごとの結婚式。完治したミチルは、結局幼なじみと新たな人生を歩むことになるのである。(B・Jちょっと気の毒)

4. なぜ夏でも黒マントを着ているの?

→手塚先生が、あのドラキュラ伯爵のマントをイメージして作ったB・Jの黒マント。実はあの黒マントの裏には、メスがずらりと仕込まれており、悪漢に襲われた時など手頃な(?)武器の役目を果たすのである。生地は何で作られているのか不明だが、かなり丈夫で防弾チョッキにもなるらしい。まさに攻防一体の黒マント。おそるべし・・・。

5. 法外な手術代を請求する理由は?

→不発弾の処理を完全に行わなかった管理責任者5人に復讐するため。一方で、稼いだ金を島の購入にあてていたりする。(B・Jはナチュラリストなのだ)

6. 若い頃、恋人はいたの?

→いた。名前は如月恵。大学の先輩・後輩の関係で、同じ医局に入って勉強していたらしい。互いに自分の気持ちを伝えられずにいたのであるが、彼女が助かる見込みの無い子宮ガンにおかされていることが判明した時、執刀医を名乗り出たB・Jは、手術の直前に初めて彼女に自分の気持ちを打ち明ける。手術は無事成功したものの、子宮と卵巣を全て摘出された恵は、女を捨て男として生きることを決心する。その後、彼女は船医の仕事を選び、二人は別々の道を進むことになる。ここだけの話、まだお互い友情以上の感情を抱いているようである。

7. ブラック・ジャックは天涯孤独の身?

→母親は不発弾によって死亡、父親は重傷の母子を捨て愛人と香港へ逃亡、成人したB・Jと一度再会したが後に死亡。愛人と父親との間にできた腹違いの義妹「小蓮」が、判明している限りでは唯一の血のつながった肉親であったが、彼女もB・Jをかばって死亡。よって、結局天涯孤独の身である。

8. 医者になったきっかけは?

→B・Jの恩師でもある天才外科医、本間丈太郎に命を助けてもらったことがきっかけで医者を目指す。皮膚の提供者タカシへの恩返しの気持ちもあったらしい。

9. 「ブラック・ジャック」の最終回は?

→「少年チャンピオン」1978年9月18日号に掲載された、第192話「人生という名のSL」(チャンピオンコミックス20巻)でいったん連載は終了。その後、読者の要望に答えて不定期に掲載されていたが、先生がお亡くなりになったため、結局連載は再開されないまま未完となってしまった。事実上の最終回である「人生という名のSL」では、夢の中のSLに乗ったB・Jが、彼の人生に深く関わりあってきた人々に再会する。恋人であった(?)如月先生、医学に対する考え方で反目しあっているライバルのドクター・キリコ、死んだはずの本間先生、そして美しく成長したピノコ。彼の人生を通り過ぎていった人々との夢の中での再会に、B・Jは何を思ったのだろうか。

10. 手塚キャラが総出演してるって本当?

→本当。そもそも「ブラック・ジャック」は、「今まで登場した手塚キャラクターが総出演する漫画」というのをウリに始まった作品である。ゆえに、おなじみのヒゲオヤジやアセチレンランプの他、写楽やどろろ、ばるぼらといったキャラクターまで登場している。手塚先生はこれを「スター・システム」と呼んでいた。

初心者の為のよく分かる手術講座

1. 自分で自分の身体を手術するB・J先生

→第15話では、上に鏡をつるし、手術台に横たわった状態で「腹膜炎」を執刀。途中、誤って腸間膜を傷つけ血が止まらなくなるという緊急事態が発生した。さらに第88話では、自分の腹に寄生した大型サナダ虫の一種「エヒノコックス」を摘出。野外手術だったため、血の匂いを嗅ぎ付けた狼の群れに囲まれながらの命懸けの大手術であった。

2. ブラック・ジャック VS 見えない患者

→第13話「雪の夜ばなし」において、墜落した飛行機に乗っていた女性の首の損傷を治す。手術料は3000万円。患者は松本アヤ45歳。本体はすでに全焼しておりその魂だけを運んできたため、患者の姿が全く見えないまま手術は決行された。(同行した子供達は体が焼けていなかったので姿は見える)子供達のアドバイスを受けながら、姿の見えない患者の首の損傷を治し、ちゃんとギプスまではめたB・J先生。もはや天才の枠を超えている。が、本人は「手術のまねごとをしただけ」とあくまで謙虚な態度を崩さなかった。

3. 鳥になった少女に母親の面影を見た?

→第5話「人間鳥」において、生まれつき足が不自由な少女の「空を飛んでみたい」という願いをかなえてやるため、両手を鳥の翼に改造。しかし大衆の好奇の目にさらされ自由に飛ぶことができなくなったため、元の姿に戻そうとするB・Jに、少女は両腕だけでなく完全な鳥に手術してくれるよう希望。その願いはかなえられた。しかし我々読者は、人間鳥にする方がかえって人目を引くのではないかとひそかに思うのであった・・・。

4. B・J先生、古代人のミイラと対決!!

→第53話「のろわれた手術台」では、1500年前の古代人の女性ミイラを手術。負傷した発掘調査員を手術しようとした医者が、不思議な現象によって相次いで倒れていき、ミイラの呪いのせいだと噂される。そこで、ミイラの呪いを全く信じていないB・Jが、手術の依頼を4000万円で承諾。頭の横に穴が空き、両足が骨折しているミイラを見た後、「手術もせずに放ってある傷は性格的に我慢できない」と、ミイラも一緒に手術台に運ぶ。発掘調査員の手術は無事に終了、治療してもらったミイラも心なしか嬉しそうであった。

5. ブラック・ジャック版「未知との遭遇」

→第179話「未知への挑戦」では、何と宇宙人の執刀が行われた。患者はイウレガという星からやってきた宇宙人。地球人に突然攻撃されたため治療用の装置が破壊され、患者のことを決して他言しないB・Jにお鉢が回ってきたわけである。原則的には地球人と同じ身体の構造なのだが、血管の走行は違うわ、人間にない器官はあるわ、おまけに血の色は青くて目がくらくらするわで手術は難航。しかし、そこは天才外科医B・J先生、見事に手術は成功し、宇宙人達も大喜びであった。ちなみに手術代は20万ドル。

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