歴史から学ぶ

 米国の進歩派 12/11/03

 米国の民主党と共和党 

米国の民主党と共和党の違いは、英国の労働党と保守党ほど明確でないと思う。 英国の労働党は、労働者の権利を守る側に立つ。 一方、保守党は、富裕層を支持基盤とする。 米国の場合、私の目には、民主党も共和党も共に富裕層、労働者側の双方から支持を得ているように写る。 今回、「格差はつくられた」(ポール・クルーグマン著、三上義一訳、早川書房、2008年刊)を読んでみた。 米国の格差の歴史を通して、民主党、共和党、進歩派、保守派について知ることができた。 1980年以降、米国市民は右傾化した。 進歩派は、旧保守派の考え方に近い。 保守派は、急進右派の位置にある。 従って、民主党は、旧保守派的な政党になっており、共和党は、大きく右傾化して急進的な考え方の政党になっている。

 1980年代以降中産階級が次第に消滅した 

米国は、第2次大戦後から1970年代まで、中産階級の社会であった。 米国経済は均質で、米国人は似たような生活を送り、物質的にも恵まれていた。 政治も穏健で、外交や国内政策で民主党と共和党の間で、広くコンセンサスが存在した。 ところが、1980年代以降、中産階級が次第に消滅して超富裕層が出現し増大した。 著者は、格差拡大の原因は、グローバリゼーションや技術革新による経済的要因ではなく、政治権力のバランスの変化が原因であるとしている。 また、格差是正のために、国民皆医療保険の創設が、重要な課題であるとしている。(2007年、原著刊行時) そして、2010年、実際に、民主党のバラク・オバマにより、「医療保険改革法」が成立した。

 現在の格差の状況は大恐慌前と同じである 

    総所得における最高所得者の占有率(除く、キャピタルゲイン)
    
               最高所得10%   最高所得1%
    1920年代の平均     43.6%      17.3%
    2005年         44.3%      17.4%
    
大戦後から1970年代まで、米国の所得分配は、大恐慌以前よりはるかに平等で所得格差がなかった。 経済格差が大恐慌以前の状態に戻ってしまった原因は、政治によるのか、それとも市場の力によるのかが、問題となった。
結論として、政治によって変えられたのだとしている。
1980年代まで、ほとんどのエコノミストは、「クズネック循環」により市場の力に起因して、格差が拡大すると説明してきた。

「発展の初期段階では、カネのある者の投資機会は増大するが、地方から都市に流入する労働者の賃金は、低く抑えられる。その結果、国が工業化するにつれ、格差が開く。 裕福な少数の実業家が誕生するが、一般の労働者は、貧困に喘ぐ。 格差の拡大は、発展の当然の結果である。 だが、次第に資金は、より潤沢になり、地方からの労働者の流入も細り、賃金は上昇し、利益は横ばいか下降線を描くようになる。 国の繁栄は広く浸透するようになり、経済の中流化は広くゆきわたる。」

このような発展が、19、20世紀の米国がたどってきた格差のサイクルだと考えられてきた。 ところが、1980年代半ばから、縮まったはずの格差が、また広がり始めた。 このことから、この格差の変化は、突然の変化であり、政治権力のバランスの変化によってもたらされたものだと結論づけている。

 レーガンが格差の拡大を進めた 

共和党のロナルド・レーガンが格差の拡大に果たした役割は大きい。 共和党は、米国特有な人種問題を選挙で悪用し、内陸部(太平洋側でない西部、中西部、南部)の白人票を獲得している。

    ミルトン・フリードマンが提唱し、レーガンが実践した新自由主義の考え方とは、次のとおり。
    
    1.経済に関する規制緩和
    2.商業・産業の自由化
    3.国営企業の民営化
    
    具体的な政策は、次のとおり。
    
    1.大企業・高額所得者の減税
    2.社会保障の削減
    3.インフレ抑制をめざす金利政策
    4.小さな政府
    5.労働運動の抑制
    6.経済のグローバル化
    

 米国民は自信を失っている 

格差拡大の結果、米国民は、自信を失っている。 理想は高いが、立ちはだかる現実を前に、多くの米国人は、呆然自失という状態である。

        
    「努力はした分だけ報われるものだ」と考えている人の割合
    
    米国	           61%
    カナダ          48%
    フランス        23%
    
しかし、現実をみると、富裕な家庭の子が、より多く大学を卒業している。 また、成績が悪くても富裕な家庭の子は、貧しい家庭の成績の良い子以上に大学を卒業している。
        
    1988年当時の8年生(14才)が大学を卒業した割合(%)
        
                            下位1/4の成績       上位1/4の成績
    下位1/4の親               3%              29%
    上位1/4の親              30%              74%
  
また、超富裕者のヘッジファンドの経営者は、税制面で優遇措置を受けている。
        
    一般の高額所得者の税率    35%
    キャピタルゲイン税率     15%
    

 大恐慌後に格差縮小が取り組まれた 

反対に、1980年代以降の格差拡大が、政治によって行われたのと同様に、大恐慌、第2次大戦以降の格差縮小も、また、政治によって行われた。
民主党のフランクリン・ルーズベルトのニューディール政策によって富裕者に対する税金が増大した。

              1920年代        1930年代−1950年代半ば
    最高所得税率    24%	           63−91%
    不動産相続税    20%           45−77%
    法人税       14%           45%
    
このことによって、富の集中が弱まった。

    最も裕福な米国人の0.1%が国の富に占める割合
        
    1929          20%
    1950年代半ば      10%
    
ルーズベルトは、第2次大戦下、賃金統制を実施した。 労働組合を擁護する立場から、平均賃金をあげるべきだとした。 そのため、低賃金労働者の賃金があがった。 結果として、産業間、産業内の賃金格差が縮小した。

当時、このような格差縮小策に対して、次の懸念が示された。
    
    1.賃金統制期間後、格差は戻って、拡大するだろう。
    2.労働意欲を減退させ、経済がだめになるだろう。
    
しかし、事実は、戦後30年以上、悪い結果は生じなかった。
1947−1973の世帯の実質収入は、倍増し、年率2.7%の成長率を示した。

 米国の国民皆医療保険は緊急の課題である 

日本では、健康保険は、国民皆保険なので、誰でも病気になれば、医師の診察、治療を受けることができる。英国、フランス、ドイツなどの西ヨーロッパ諸国、カナダも同様である。
しかし、米国は先進国であるにもかかわらず、国民皆保険ではない。 米国でも、税金で対応している医療保険はあるが、一部であり、次の2種である。 多くは、民間の医療保険に加入している。

        
    1.メディケアは、65才以上の老人、身障者を対象としている。
    2.メディケイドは、民間の医療保険を負担できない低所得者層を対象としている。
    
しかし、民間の医療保険は、掛け金が高く、中間層労働者の年収の1/4、最低賃金労働者の年収と同じという額であるため、米国の人口の15%の約5000万人が、医療保険未加入となっている。
1993年に、民主党のビル・クリントンが医療保険改革に取り組んだが、失敗した。
保守派、保険業界、製薬業界の反対にあったためである。

1.保守派は、ニューディール政策がめざした中央集権的福祉国家が再来すると反対した。
2.保険業界は、リスク回避(過去の病歴にもとづく保険料掛け金の引き上げや加入拒否、保険料支払い時の支払い除外チェック)にもとづき高コスト体質のため、国民皆保険となると、高コスト体質が不要となり、業界縮小が必然的であり反対した。
3.製薬業界は、高い処方薬の使用をすすめてきたので、国民皆保険になるとチェックされ収益減となるため反対した。

 米国の民主党と共和党 

米国の進歩派は、米国人の良心である。 民主党には、進歩派が多いが、イコールではない。 保守派は、右傾化し、ネオ・コンサーバティブが主導している。 共和党は、ほとんどが、急進右派となっている。
2012年11月6日の大統領選挙で、民主党のバラク・オバマが勝利すれば、格差が縮小するだろう。 一方、共和党のミット・ロムニーが勝利すれば、オバマケア(医療保険改革法)は、2014年の施行前に廃止され、格差の是正はされないだろう。






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