ザイルの伸びを考慮した制動確保モデル式による支点確保とボディービレイの比較他について

                        谷関 等
1.はじめに

 岩登り時の確保をより安全に行う目的で、以下の項目について検討した。

(1) ザイル、カラビナ、制動確保器を使ったトップの墜落者確保システムで重要な点は、まず各部に発生する力はどの程度のものかを知ることである。よって、まず初めに“この力を求めるモデル式”を作った。

次に、このモデル式を検証するために百丈やぐらにて確保実験を行い支点に発生する力を測定し比較したところ、計算値とほぼ一致した

(2) このモデル式を使って、“墜落率・落下距離・制動距離及び各部に発生する力の関係について”検討した。

従来の認識と変わったところがある。

(3) さらにこのモデル式を使って、“制動器を支点にかける支点確保と、確保者の体にかけるボディービレー”に関して検討した。

2.墜落確保時のモデル式と実験データーの比較

(1) トップ確保システムのモデルとモデル計算式

確保システムに掛かる力のモデルについては、図ー1から図ー4を参照。

注)?1、?2はそれぞれ区間1、2のザイルの伸び(m)

??は区間1、2のザイルの伸びの和(m)

計算式は,下記の二次方程式となる。

F1=-b±(b2-4ac)1/2/(2a)

F2=F1/?2

F=F1+F2

ただし

a={[L1+L2/?22]+[(1−1/?2)L2/?2]}/(2AE)

b=[X-(L1+L2/?2)W/(AE)]

c=-[h+X]W

ここで各変数は次の通り

L1,L2 : 各区間ザイル長さ (m)   ?2 : 中間支点のザイル張力増幅率

A     : ザイルの断面積   (m2)    E : ザイルのヤング率  (Kgf/m2)

W     : 墜落重量     (Kg)    h : 墜落距離     (m)

X     : 制動距離     (m)    F1 : 墜落者に作用する力 (Kgf)

F2    : 区間2のザイル張力(Kgf)     F  : 中間支点加重    (Kgf)

本モデル式は落下エネルギーをザイルの伸び制動により吸収するものと考えた。又中間支点のカラビナをザイルが通過するときに摩擦力により発生する制動エネルギーは、ザイルに最大張力が発生してからザイルを流すことによって発生するものの他に、中間支点より確保器側のザイルが0〜?2伸びる間に発生するものが考えられるのでこれも考慮した。(実際に発生する制動力は一定ではないが、我々が制動器として使用するバネ付きシュテヒト環の制動力のピーク値は平均値の1.2倍程度なので制動力のばらつきは無いものとして図−3に示す様な状態と考えた)。

実際は壁に当たりながらの落下もあるが、ここではザイルの衝撃力が大きくなる空中落下で考える。

また、実際の落下は中間支点から水平方向に離れたところから発生するものが多く、この場合回転による遠心力が生じるが、その値は小さいものと考えられるので無視する。

さらに本モデル式を実測値に近づけるために、ザイルのヤング率、支点でザイルが屈曲する事によるザイル張力の増幅率(?)について、あらかじめ確保実験に使用したザイルで計測した。

『実は、私のアイデアが入っているのはザイル張力が徐々に大きくなりながらカラビナを通過するときのエネルギーの見方だけで、その他は機械工学便覧と河野 仁さんの論文1)からちょうだいしました。』

(2)計算値と測定値の比較

図−5 は墜落距離2m、墜落率0.54の場合、図−6 は墜落距離は同じで墜落率が0.2の場合である。

上側グラフは横軸を制動距離、縦軸を中間支点加重とし、その関係を示したものである。制動距離 0 から 3.4m の各支点加重を結んだ曲線は計算値であり、黒丸が今回の測定値(ピーク値)を示す。測定記録に示す通り今回は2ケースについてのみの測定でありデーター数が少ないこと、さらにヤング率の測定にも少し不満があるが、今回のテストデーターは計算式とほぼ一致していると考える。

ザイルは細い素線を捩った直径2〜3mmの束を数本あわせ外皮でおおった構造となっており、組織が単一ではないためヤング率は一定にはならないことがわかった。しかしながら図−5、−6で示すように計算値には大差がない。

下側のグラフは制動距離と“合計ザイル伸び+制動距離”の関係を示したものである(計算値)。制動確保は衝撃力を下げる反面、落下距離を制動距離の分だけ延ばす欠点があると考えていたが、図−6の例では1mの制動確保をしても制動確保しない場合に比べ、その増加量はわずか0.3m程度である。これは制動確保で衝撃力が下がった分、ザイルの伸び量が少なくなったためである。


図−5 計算値と測定値の第1支点加重比較

墜落率中:0.54、墜落距離小:2m、墜落重量:90kg

ザイル径:9mm




図−6 計算値と測定値の第1支点加重比較

墜落率小:0.2、墜落距離小:2m、墜落重量:90kg

ザイル径:9mm


3.墜落率、落下距離、制動距離の関係の検討。(2項のモデル式にて検討)

条件

図−8は図−7の様な墜落距離が比較的少ない1mの場合を示す。

図−10は図−9の様な墜落距離が比較的長い4mの場合を示す。

検討結果

(1)制動無しの場合は、墜落率が大きい程各部に発生する力は大きい。

(2)又、墜落率が同じなら各部に発生する力はほぼ同じになる

(3)制動有りの場合は、制動距離を長くすると、あるところから各部に発生する力は墜落率に関係なく同じになる。(注※1参照)

(4)又、墜落距離が短いほど、短い制動距離で各部に発生する力が同じに又急激に小さくなる。(注※1参照)

(5)中間支点加重を、350Kgf以下(良く利いたハーケンやフレンズ、ボルトなどの強度は約600Kgf2)なので安全を考慮した)にするには、図−8、−10共、相対制動距離(制動距離/墜落距離)を 0.3程度に、つまり墜落距離の1/3程度の制動をかければ良いことになる。

4.ボディービレーと支点ビレーについての検討

(1) 図−8より、墜落距離が1m程度の場合で、かつビレー点最寄りランニング支点までの距離が1m以上ある場合(図−7のケースA〜C)は、確保位置の加重(F2=区間2ザイル張力)が体重近くになるので、ボディービレーでエネルギーを吸収する(体重×浮き上がり距離)ことが出来る。この場合は一定の力で制動をかけることが出来るので、ボディービレーは有効と考える。

2) 図−9より、墜落距離が4m程度になれば、墜落率が小さくなったケースBにおいても、制動距離1mで確保点のザイル張力は100Kgf程度となるため、ボディービレーでは浮き上がってかつその体制で制動をかけることになる。この場合は支点ビレーの方が安全と考える。(注※3参照)

 以上より、支点が確実で1ピッチのみ、又支点間隔が非常に近い場合はボディービレーが有効と考える。

 マルチピッチのためケース@の様な状態がある、支点間隔が遠い様な場合はボディービレーは有効とは言えない。固定支点による制動確保にすべきと考える。(注※2参照)

 


  図−8 墜落距離小の場合、各ケースの加重と制動距離の関係




 図−10 墜落距離大の場合、各ケースの加重と制動距離の関係


図−11 墜落距離“3m,10mの場合、各ケースの加重と制動距離の関係



注※1) 従来(今でもそうであるが)墜落率が同じであれば各部に発生する衝撃力は同じであり、墜落距離が大きくても墜落率が小さければ安全と言われてきた。(最近の雑誌でも、30m上で10m落ちるよりも5m上で3m落ちる方が衝撃力は大きい等と書かれている4))が、これは全く制動確保を無視した論理であり、実際の確保には当てはまらないと考える。むしろ確保者やトップに、“繰り出したザイルの距離が長ければ少々落ちても安全だ“と言った危険な認識を与えることにもなると考える。

図−11に示す通り、墜落距離が大きいと、制動距離を長くしてもなかなか衝撃力は小さくならない。

注※2) トップの確保システムにおいて重要な点は、登り初めから一本目のランニングビレーまでの距離を出来るだけ少なくすることである。これが長くなると、1ピッチ目ではグランドホールの危険があり、2ピッチめ以上では長い墜落距離と墜落率が墜落の衝撃力を大きくする。

2ピッチ目以上でトップをボディービレーした場合、1本目のランニングビレーをとる前に墜落すると確保者が墜落者に引き込まれ支点と墜落者の間で固定されてしまい身動き不能となってしまう。又、引き落とされる事により確保そのものができなくなり墜落者をさらに落としてしまうことにもなりかねない。

これを防ぐためには、

1. 1ピッチ目を終了しビレー支点に着いたら、そこにランニングビレーした後さらに次のランニング支点まで登った後再びビレー支点まで下る事により上記の危険を回避する。7)

2. 2ピッチ目の登り初めには必ずビレー支点に最初のランニングビレーを取る。

等が考えられるが、上記1.は、つるべ式で登るときにはやりにくい。また、ザイル長さも考慮しなければならない。上記2.は、ボディーにつけた確保器と最初のランニングビレーまでの距離が長くとれない(制動エネルギー=確保者の体重W×浮き上がり距離Xのうちの浮き上がり距離のこと)ので、ボディービレーの効果がない。又、確保者が突然引き上げられる事によりバランスを崩したり、岩にぶつかったりする危険性もあり、又そうなれば浮き上がった後、残りのエネルギーを吸収する制動確保も出来ないであろう。特に、上記1.2.共、墜落距離が長くなる場合は非常に危険であると考える。

以上より、確保支点がしっかりしている場合(ボルト3本で約1800Kgfの破断力/労山発行、岩登りの確保技術/1992年2)から算定)は支点確保にするべきだと考える。ただし、安定した一定の制動力と適度な制動距離で停止させるために十分な確保訓練が必要である。また、ザイルの無駄な繰り出しや、ビレー支点での無駄なたるみをなくすための考慮が必要である。これらの無駄が墜落距離を大きくする事によって、各部に発生する衝撃力を大きくするからである。

注※3) ボディービレーの場合、ビレー者の体重による慣性力が有利に働く様に感じられるが、引っ張り上げられる加速度が変化するだけで、ビレー者ボディー部のザイル張力が体重を超えればビレー者は持ち上げられる事になる。

5.おわりに

この報告を行うきっかけとなったのは、昨年の屏風岩の相棒から、“ボディービレーにするか支点ビレーにするかは教えてくれる人によってバラバラ”と聞いたからでした。私が岩登りを始めた頃教えてもらったトップの確保は、最低2本以上の確実に利いたもので支点確保を行うことでした。(出来れば3本以上)その後、各労山によるヤグラ等での墜落確保実験が行われ、1992年2月に中川和道さん、河野 仁さん、生信良明さん/YMCC、達によって、“確保器を体につけた確保の有効性の検討”と言う研究論文3)が発表されました。ここでも、体に確保器をつけても確保支点にかかる力を小さくできないと発表されています。

しかしながら最近になって、労山内でも前記の様なことを聞いたり、最近の雑誌4)やフリークライミングの本5)にも“支点確保はダメでボディービレーにすべき”と、述べられています。そんなわけで、ボディービレーに少し疑問を感じたので、今回の報告となりました。硬直した脳味噌をもみほぐし取り組んだつもりですが、勘違いや、間違いがあれば(仮定の間違いや無理な仮定等も)御指摘いただきたいと思います。

興味のある方も無い方も、岩登りをされる方は、一度読んでいただきコメントお願い致します。

少しでもクライミングによる事故が少なくなることを願って。

尚、本報告書は、YMCC虫の広場1999年10月号(第97号)に載せたものを一部訂正し要点について述べたものです。又、テストの詳細データーを読みたい方は、別冊の“ザイルの伸びを考慮した制動確保モデル式による支点確保とボディービレイの比較他について・論文資料”を参照下さい。

さいごに、テストにあたりYMCCのメンバー、モデル式作成にあたり岡尾年克さん、又本文の原稿に関し河野 仁さんに御意見を頂戴し調整していただきましたことをお礼申し上げます。

参考文献

1)大阪府勤労者山岳連盟教育遭対部登攀技術研究会 河野 仁他「科学的な確保技術テキスト」1984年

2)河野 仁、松葉桂二他「ハーケン、ボルトの支持力実験」及び松葉桂二、伊藤正俊「フレンズ、ロックス類の支持力実験」“岩登りの確保技術”日本勤労者山岳連盟発行1992年 P57-62,P63-72

3)中川和道、河野 仁他同上“岩登りの確保技術” P73-78

4)菊池敏之「アルパインクライミングのためのマルチピッチクライミングABC」“ROCK&SNOW1999No.5”山と渓谷社発行 P97-99

5)杉野 保、杉守千晶“フリークライミングテクニック”山と渓谷社発行1996年 P20

6)ベアール社カタログ(日本語版)(株)ロストアロー

7)マイクル・ロフマン著/平田紀之・戸田直樹 共訳“フリークライミング入門”山と渓谷社発行1984年 P140

<コメント連絡先>

■山の虫クレマントクラブ(YMCC)会員 谷関 等 

■山の虫クレマントクラブ(YMCC)代表 中川好治