株式譲渡問題

2001/12/29

  

プロ野球協約に関する解釈について いろいろ

1 協約32条はオーナー会議の承認が必要

11月15日の実行委員会で一度,マルハからニッポン放送への株譲渡が承認されました。これに対し,読売ジャイアンツの渡辺オーナーが反対し「(球団の参加資格を変更する)重要事項だからオーナー会議の承認なしでは有効でない」(11.18日刊スポーツ)と主張しました。その後,11月29日の実行委員会でこの承認は白紙撤回されましたが,「32条もオーナー会議の承認を求めるように改正される方向」(12.29スポニチ)にあるとされ,現時点(2001/12/29)では,協約32条はオーナー会議の承認が必要がないとされています。

B_wind の解釈

参加資格の取得,変更,停止および喪失に関する事項は,協約17条4号により,実行委員会の審議事項とされ,協約35条により実行委員会の決議により決定されるとされています。ところが,協約17条の最後に「(17条)第4号のうち,重要な事項についてはオーナー会議の承認を得なければならない」とされています。マルハからニッポン放送への株譲渡を実行委員会が最初,承認しましたが,32条(株式の譲渡)および31条(参加球団の変更)は17条による実行委員会の審議事項であり,かつ,重要な事項と思われることからオーナー会議の承認が必要であると思われます。しかし,このときはオーナー会議の承認を受けていません。オーナー会議の承認を受けていない場合の効力ですが,協約35条で実行委員会の決議により決定される,とされていることから効力は失われないと思います。ただし,実効は伴わないと思います。


2 協約183条に関する78年の西武・大洋の例と今回の横浜・ヤクルトの違い

西武の堤義明オーナーは78年当時,大洋球団株の全体の45%を保有していました。しかし,その堤氏自身が国土計画(現コクド)によるクラウンライター買収後,西武球団のオーナー(役員)に就任したため,野球協約に抵触することとなり,大洋球団株を売却する必要が生じました。今回のケースでは,ニッポン放送と同じフジサンケイグループのフジテレビが,ヤクルト球団株を保有していることが問題になりましたが,横浜のオーナーに就任する予定だったのはニッポン放送の川内通康会長,別会社であると同時に経営責任者も異なるため,78年当時の,西武の例には当てはまりません。(11.17サンスポ記事を一部加筆)

今回のケースでは,その後,コミッショナーが「ニッポン放送がフジテレビの株を34.1%所有している」ことから「ニッポン放送はフジテレビの実質的支配をできると考えてしかるべきだ。ニッポン放送はヤクルト球団株の間接的所有にあたり,野球協約第183条に違反している」とされました(11月29日朝日コム)。つまり,これは183条についての新しい解釈となります。ただし,これは巨人の渡辺オーナーの「今はコミッショナーに一任している。だが,裁定が協約に反していたらプロ野球機構から脱退する」(11月27日日刊スポーツ)という恫喝を背景に出されたものであり,この解釈には大いに疑問があります。


3 協約36条の5および6の加盟料の根拠

日本プロ野球組織(NPB)というのは,連盟とその構成球団から成り立っています(協約1条)。NPBの参加資格を有する球団は,NPBから地域権・選手契約権・選手保留権といった諸権利を付与されています。新規球団がNPBに加盟しようとするときは,この対価(義務)として協約36条の5により60億円の加盟料が発生します。また,参加資格を譲り受けた球団は30億円を支払うこととされています(36条の6)。

一般に会社譲渡の方法には,営業譲渡による方法と,株式譲渡による方法かあります。前者は,通常の売買契約と同じで,会社の権利義務は一括して承継されるわけではありません。これに対し,後者は単なる株主の変更であり,法人格は当然に替わらないわけですから,会社の権利義務も当然に一括して承継されます(というより変更はありません)。球団譲渡(協約31条)の方法にも,営業譲渡にあたる参加資格の譲渡(31条)と株式譲渡による保有者の変更と(31条,32条)いう2つの方法があります。

参加資格の譲渡は,通常の営業譲渡にあたり,一括した権利義務の承継ではないことから,NPBから付与されている諸権利の譲渡を,NPBの規約(協約)によって担保することが可能です。このため,協約の36条の6によって30億円の加盟料が発生することになります。球団譲渡のもう一つの方法である株式の譲渡の場合は,法人格は当然に替わらないわけですから,地域権・選手契約権・選手保留権といった諸権利も当然に承継され,変更はありません。このため対価としての加盟料は発生しません。

加盟料の条項は,NPBの品位を守るための条項ではなく,参加資格に伴う地域権・選手契約権・選手保留権といった諸権利に対する対価としての条項です。30億円の加盟料を支払えば,消費者金融もNPBに加盟できるということであり,品位をカネで買うということになってしまいます。


4 品位を守るための条文と金銭授受の条文
今回の株譲渡問題ででてきた協約の条文は,品位を守るための条文と金銭の授受を明記した条文に分けることができます。前者が協約の31条・32条・183条であり,後者が36条の5と36条の6です。協約の36条の5及び6が1991年に設けられた趣旨は,球団の転売を防ぐというNPBの品位を守るためでしたが,加盟料を支払えば,消費者金融もNPBに加盟できるということであり,品位をカネで買うということになってしまいます。副次的に品位を守る役割があったとしても,36条の5及び36条の6は,加盟料という金銭授受の規定として見たほうがいいと思います。厳密性が求められる金銭授受の規定で品位という抽象的な概念を守ろうとすることには無理があります。

品位という抽象的な概念を守るためには,条文の解釈も緩やかに解釈するべきであり,実際,条文の表現も曖昧なものなっています。協約31条では「実際上の」,協約183条では「間接」という曖昧な表現がされています。31条と32条では実行委員会の承認を必要としていますが,承認するかしないかの基準は明示されていません。その判断は実行委員会の判断に委ねられています。曖昧な条文と緩やかな解釈によって初めて,抽象的な品位という概念は守ることできるのだと思います。

ですから,「球団」という言葉にしても,経営権を持った「実際上の保有者」まで広げて考えていいと考えます。これによって,今回のニッポン放送が横浜球団の株式の51%以上を取得し,球団の経営権を持った場合,ニッポン放送と横浜球団を一体として捉え,183条の「球団」でニッポン放送が間接的に他球団の株式を所有しているかを判断することができると考えます。ところが,30%の現状では,横浜球団の経営権を持たず,183条で判断することはできないことになります。この解釈は現状との整合性を持っています。

※ ニッポン放送が横浜球団の30%の株を保有し,同じフジサンケイグループのフジテレビがヤクルト球団の株式の20%を保有しています。これについては183条に抵触するとはされていません。ところが,ニッポン放送が横浜球団の51%以上の株式を取得しようとしたとき,183条に抵触するとされてました。

これに対し,36条の5と36条の6は厳密に解釈されなければならず,逆に解釈されなければ株主代表訴訟の対象になりかねません。36条の6で参加資格の譲渡に,保有者の変更の場合を加えたり,加盟料の支払いを保有者に課すことはできないはずです。支払わなくてもよかった加盟料を支払った場合,経営者は経営責任を取らされかねません。