野球って何だろう

更新日2000/11/25


 野球ってなんだろう。野球は,日本で最初に普及したスポーツですが,考えてみると誠に不可思議なゲームです。野球は団体競技ですが,投打の対決は個人競技のようだし,場外ホームランはフィールド外なのにフェアです。作家の佐山和夫氏は野球は奇妙なスポーツであるといい,大リーグ通でお馴染みの池井優,宇佐見陽氏は野球をユニークな競技と表現しています。

 この不思議な競技を明らかにする方法として,二通りの方法があると思います。一つが比較論的アプローチで,これは,他のスポーツと比較することにより,野球独特の特徴を明らかにしようというものです。もう一つが,歴史的アプローチです。これは,野球のルーツを探ることにより,野球のルールの由来を探ろうとするものです。 ここでは,この奇妙でユニークな競技の秘密をこの二つのアプローチを通して見ていきたいと思います。

第1章 比較論的アプローチ(2000/11/25)

1 タイプ別比較
2 道具の使用の有無による比較
3 発祥国別比較

第2章 歴史的アプローチ(2001/02/05)

1 ベースボール誕生

第1章 比較論的アプローチ

1 タイプ別比較

 野球は奇妙な競技であると表現したのが池井優監修,宇佐見陽著の「大リーグ野球発見」です。その中で,球技について次のような分類を行っています。

  体で直接球を扱う 道具,乗り物を使う
 a サッカー・タイプ  サッカー
 ラグビー
 アメリカン・フットボール
 バスケット・ボール
 アイス・ホッケー
 ホッケー
 ラクロス
 ポロ
 b テニス・タイプ  バレー・ボール  テニス
 卓球
 バドミントン
 c クリケット・タイプ  野球
 クリケット
 野球
 クリケット
 d その他   ボーリング  ゴルフ

 この表をもとに,比較分類をしてみましょう。まずは,サッカー・タイプかテニス・タイプかといった競技タイプ別の比較です。球技を大別すると,同じフィールド内に敵と味方が入り乱れてプレーするラグビーやサッカーといったaのサッカー・タイプとネット越しに敵と味方が対峙しボールを交互に打ち合うテニスやバレーボールなどのbのテニス・タイプに分けられます。ところが,野球は,このどちらにも属さない奇妙な競技なのです。

 aのサッカー・タイプは,さらに足を使うフットボール系,道具を使うホッケー系,手を使うバスケット・ボール系のなどいろいろなタイプの競技にわけることができ,チームスポーツといえばほとんどがこのタイプに含まれます。これに対し,bのテニスタイプは,主にテニスのほかバトミントン,卓球といった個人競技で,チーム競技はバレー・ボールなど数種です。これに対し,cのクリケット・タイプには,野球のほかクリケット,ソフトボールなど数えるほどしかありませんし,このタイプは,団体競技のようであり,個人競技のようでもあります。

 以下,この野球という奇妙な競技を,aのサッカー・タイプ,bのテニス・タイプの競技と比較してみることにしましょう。
 なお,ここでは,野球との比較を主に行い,クリケットなどとの比較は,第2章歴史的アプローチでみていくことにします。

(1)試合進行

【野球は,時間や点数に制限されない】

 aのサッカー・タイプは,一定の時間内に何点とれるかを競い合い球技で,試合の進行は時間によって管理されます。bのテニス・タイプは,一定の点数にどちらが先に達するかを競い合う競技で,時間の制限はありません。得点やセット数によって試合の進行が管理されています。

 これに対し,cのクリケット・タイプの野球は,このどちらにも属さず,イニングで制限される特徴があり,しかもイニングを計る単位としてアウトカウントを使います。試合進行が,時間や点数によって管理されるのではなく,イニングやアウトカウントといった回数によって管理されています。

試合の形式
a サッカー・タイプ  一定の「時間」内に入れた点数で競う
b テニス・タイプ  一定の「点数」にどちらが先に達するかを競う
c 野球  一定の「回数」の間に入れた点数で競う

(2)得点方法

【野球は,人間が得点の主体である】

 aのサッカー・タイプは,相手のゴールに球を入れることにより得点が入ります。bのテニス・タイプは,対面相手のコートの人がいない部分に球を落とすことにより得点が入ります。どちらのタイプにしろ,球自体が得点の主体です。

 ところが,cのクリケット・タイプの野球は人間がホームに帰らないと点数になりません。その人間がホームベースを踏んでいるとき,肝心の球は,グラウンドを転々としていたり,たいていはホーム・ベースからかけ離れたところにあります。

得点の決定方法
a サッカー・タイプ  球が「ゴール」に入る
b テニス・タイプ  球が「コート」に落ちる
c 野球  人が「ホームベース」を踏む

(3)攻守の関係

【野球は,攻撃と守備が分離している】

 サッカー・タイプは,攻撃する選手と守備を中心とする選手に一応別かれていますが,競技の中で攻撃と守備の局面は常に変化し,選手は,ボールの状況により攻撃と守備の要素の切替を瞬時に行う必要があります。テニス・タイプは,選手は,攻撃した直後,守備側にまわり,守備と攻撃が交互に繰り返されます。

 この点,野球はイニングにより運営されており,表と裏で攻撃と守備が明確に分かれています。 

攻撃と守備の関係
a サッカー・タイプ  攻撃と守備が「一体」になっている
b テニス・タイプ  攻撃と守備が「交互」に繰り返される
c 野球  攻撃と守備が「分離」している

(4)競技場

【野球は,敵と味方で陣地が対称的に作られていない】

 サッカー・タイプもテニス・タイプも,敵と味方が正面を向かい合って戦います。サッカー・タイプはセンター・ラインを挟んでゴールやラインが対称的になっています。テニス・タイプはネットによって敵と味方にコートが対称的に配置されています。

 ところが野球は,グラウンドが敵と味方の陣地に分かれているわけではなく,一つのグラウンドを,イニングの表と裏で攻撃側と守備側が交代で使用します。グラウンドは,攻撃と守備とで形状が異なっています。なお,クリケットは,敵と味方の陣地が対称的になっています。

競技場の形状
a サッカー・タイプ  敵と味方の陣地がセンターラインを挟んで「対称的」
b テニス・タイプ  敵と味方の陣地がネットを挟んで「対称的」
c 野球  イニングの表と裏で陣地を入れ替えるため「非対称」

(5)プレーエリア

【野球は,攻撃側のプレーエリアが限られている】

 サッカー・タイプは,一応陣地が敵と味方に分かれていますが,実際は,敵と味方が混然となってプレーします。プレーエリアには,敵味方の区別はありません。ただし,ゴール付近には,何らかの制限がある場合があります。

 テニス・タイプは,コートがネットなどにより半分に区切られ,プレーエリアが敵と味方にはっきり分かれています。選手は,相手のエリアでプレーすることはできません。

 野球は,攻撃と守備が分離し,攻撃側のプレーエリアは,バッターボックスとダイヤモンドの周囲に限られています。これに対し,守備側はグラウンド全域でプレーできます。

プレーエリア
a サッカー・タイプ  敵味方の区別がなくラインで囲まれた「全域」
b テニス・タイプ  ネットで「半分」に区切られている
c 野球  守備側はグラウンド「全域」だが,攻撃側は打者席と塁上・塁間など「一部」

(6)フェアエリア

【野球のファウルラインは無限である】

 サッカー・タイプは,ラインで囲まれた区域が選手のプレーエリアであるとともに球のフェアエリアです。球がラインの内側ならイン・プレー,ラインを超えたらボールデッドになります。

 テニス・タイプは,球が相手コートのラインの内側に落ちたら自分のポイント,外側に落ちたら相手のポイントになり,自分側のコートの場合はその逆になります。ラインで囲まれたコートは,球のフェア・エリアを示しています。どちらのタイプにしても,フェア・エリアは,ラインで囲まれています。

 これに対し,野球では,グラウンドは,ファウルラインによってフェアエリアとファウルエリアに分かれますが,グラウンド外であっても,ファウル・ラインが延長されており,ラインの内側(フェア・エリア)に落ちた球は,グラウンド外に落ちた球であっても,ホームランとして得点になります。また,ファウルラインを超えても,必ずしもボール・デッドになるわけではなく,ファウルフライを捕ればアウトになります。
 

 なお,クリケットには,ファウル・エリアはなく,フェア・エリアしかありません。

フェアエリア
a サッカー・タイプ  プレーエリアがフェアエリア
b テニス・タイプ  コート(地面)が,フェアエリア
c 野球   グラウンド外でもフェアエリアがある 

7)団体競技・個人競技

【野球は,団体競技であるが,個人競技の要素もある】

 サッカー・タイプは,複数対複数の対戦型の団体競技です。ラグビーなら30人,サッカーなら22人の敵味方が併せて一つのエリアで混在して戦います。このタイプには,1対1の個人戦はありません。

 テニス・タイプは,ラケットなどの道具を使う場合は,1対1のシングルスが主流で,多くても2対2のダブルスです。体で直接球を扱う場合は,バレーボールのような団体競技があります。

 野球は,人数的には9対9の団体競技ですが,実際にプレーするときは,守備側が9人なのに対し攻撃側の打者は1人です。また,この打者に球を投げるのは守備側でも投手1人ですから投手対打者の対決は1対1の対戦ということになります。

団体戦か個人戦か
a サッカー・タイプ  団体戦
b テニス・タイプ  道具を使う場合は個人戦,体で直接球を扱う場合は,団体戦
c 野球  団体戦だが,投打の対決は個人戦 

(8)接触型・非接触型

【野球は,非接触型の競技であるが,接触型の競技でもある】

 サッカー・タイプは,敵と味方が混然となって戦うもので,得点源であるボールを体と体で奪い合う接触型(コンタクト型)の球技です。氷上の格闘技といわれるアイス・ホッケーのように○○の格闘技といわれる競技はこのタイプです。ただし,サッカー・タイプのうちホッケーなど道具を使う競技はノン・コンタクト型の場合が多い。

 テニス・タイプは,ネットなどにより敵と味方にはっきり分かれ,敵味方がぶつかり合うことはないので非接触型(ノン・コンタクト型)の競技といえます。

 野球は,攻撃と守備が分離し,攻撃側のプレーエリアは,打席と塁間・塁上に限られています。打席では,投げられた球を打つだけですから,選手同士は接触しません。基本的には,テニス・タイプと同様に非接触型の競技といえますが,塁上や塁間では,タッグ・プレーなど接触プレーの要素もあります。

接触型か,非接触型か
a サッカー・タイプ  接触型(コンタクト型)が主流,道具を使う場合は非接触型
b テニス・タイプ  非接触型(ノンコンタクト型
c 野球  非接触型(ノンコンタクト型)だが,接触型(コンタクト型) の部分もある

(9)球の支配権

【野球は,守備側の投手が主導権を持っている】

 サッカー・タイプやテニス・タイプは,攻撃する側が球の支配権を持っています。サッカー・タイプは,手(足)で操る権利をなるべく自分の方で長く持てるよう相手と競う競技です。テニス・タイプは,攻撃側が球を打つことから始まり,球を交互に打ち合う競技です。打つ側が常に攻撃側になります。

 ところが野球の場合は,逆に球を扱う権利が守備の側にしかありません。攻撃側にこの権利はなく,バットコントロールと足を使うのみです。野球の打者は攻撃側でありながら,投手の球を打ち返すという受け身の状態にあり,一人で守備側の9人を相手にします。

球の主導権
a サッカー・タイプ  攻撃側
b テニス・タイプ  攻撃側
c 野球   守備側の投手

 

(10)監督

【野球の監督は,ユニフォームを着ている】

 サッカー・タイプやテニス・タイプの監督はヘッドコーチのことを言い,監督やコーチは,コートやフィールドでユニフォームを着ません。コートやフィールドに入らない場合もあります。

 野球の監督は,マネージャーのことであり,ユニフォームを着て,フィールドで指揮をとります。

監督
a サッカー・タイプ  ヘッドコーチ,ユニフォームを着ない
b テニス・タイプ  ヘッドコーチ,ユニフォームを着ない
c 野球  マネージャー,ユニフォームを着て指揮をとる

目次 第1章 第2章

2 道具の使用の有無による比較 

次に,同じ表から,道具の使用の有無による比較をしてみましょう。

(11)道具の使用の有無

【野球は,攻撃側だけが道具を使う】

 サッカー・タイプもテニス・タイプも,敵と味方が正面を向かい合って戦い,グランドやコートが対称的に配置されています。敵と味方,攻撃側と守備側は,同一条件で競い合います。道具を使うホッケーやテニスなどの競技は,攻撃側も守備側も同じ道具を使います。道具を使わないバレーボールやサッカーは,敵も味方も道具は一切使いません。

 ところが野球は,攻撃側だけがバットという道具で球を扱い,守備側は,手で直接球を扱います。守備側のグラブは,手の一部にすぎません。また,守備側が9人同時にプレーするのに対し攻撃側は一人づつ打席に立ちます。野球は,攻撃側と守備側は異なる条件で戦います。

(12)球の大きさ

【野球は,身体で球を扱う競技の中で,球が一番小さい】

 ホッケーやテニスなど道具を使って球を扱う競技の球は,片手サイズの小さい球です。球にはバドミントンのシャトルやアイスホッケーのパックといった球状でないものもあります。概してテニス・タイプの球は柔らかく,ホッケーなどの球は硬くできています。これに対し,サッカーやバレーボールなど球を身体で直接扱う競技の球は,両手サイズの大きな球で,柔らかい空気ボールになっています。

 ところで,野球は攻撃側がバットという道具を使い,守備側は素手で球を扱うという両面性を持っています。ところが,球のサイズは,攻撃側に合わせ,片手サイズの小さなものになっています。このため,野球は身体で球を扱う競技の中で,球が一番小さいものなっているのです。ここに,投手主導の近代野球誕生の秘密があります。

 以上のように,野球は,サッカー・タイプやテニス・タイプとは異なり,ユニークで奇妙な競技なのです

目次 第1章 第2章


3 発祥国別比較

 社会の近代化とともにイギリスで生まれた近代スポーツは,アメリカに渡って大衆文化として大きく発展しました。
 そこで,ここでは,ラグビー,サッカー,ホッケーといったヨーロッパのスポーツと野球(ベースボール),アメリカンフットボールといったアメリカのスポーツを比較することにより,野球の特徴を明らかにしたいと思います。これは,歴史的アプローチを加味した比較論的アプローチということができます。

 ヨーロッパのスポーツとしては,サッカー,ラグビー,クリケット,ホッケーがあげられ,アメリカのスポーツとしては,ベースボール,アメリカンフットボール,バスケットボール,バレーボールがあげられます。
 
 アメリカン・スポーツの特徴について,「スポーツとは何か」玉木正之著から引用します。
  

(1)メンバーチェンジ=スポーツの大衆化

【野球は,大衆のスポーツである】 

『 アメリカン・スポーツの第一の特徴は,メンバーチェンジが可能なことです。ヨーロッパ生まれのスポーツは,選手交代を最近まで認めていませんでした。それは,エリート中心のヨーロピアン・スポーツと大衆化を自然に志向したアメリカン・スポーツの最も大きな相違点といえます。』 

(2)アメリカン・スポーツはデモクラシー

【野球は,民主的である】

『 アメリカのスポーツには,ほかにも「複数制の審判」「情報の公開」という特徴があります。
 サッカーやラグビーは,一人の絶対的な権限を有する主審があらゆる判定を下し,時間の経過も主審が身につけている腕時計のみで判断することが基本になっています。一方,アメリカのボールゲームは,すべて審判が複数で(主審を置く場合でも副審との競技によって判定が下されケースが多く),試合時間の経過も,観客が見ることができる会場内に設置された大時計によって公開された形で客観的に判定されます。
 それらのルールは,アメリカンフットボールのファーストダウンの成否を10ヤードのチェーンを用意して観客の前で測定することも含めて,アメリカン・デモクラシーをスポーツで具現化したものと考えられます。
 アメリカでデモクラシーが発展し,大衆に浸透したのは,それが,歴史の浅い国(過去の事例の少ない国)で物事の判断をくだすときの最も合理的な方法だったから,といえます。
 それに対して,スポーツをエリートのものとして発展させたヨーロッパでは,アメリカ合衆国の歴史に存在しない絶対王権的な嗜好を,それが最も迅速に判定が下せるシステムとして採用しました。エリート中心のヨーロッパ・スポーツ界では,少々の判定ミスや数分の試合時間の長短など,長い歴史のなかで些細なことと考えたのかも知れません。』
 

(3)「間」でドラマを楽しむ

【野球は,インターバルが長い】

『 アメリカのスポーツのもうひとつの大きな特徴は,「間」が多いことです。
 ヨーロッパのスポーツには存在しないタイム・アウト(作戦会議)が認められていたり,アメリカンフットボールで攻撃ごとにハドルが組まれたり,ベースボールにおけるイニングごとの攻守交代,選手交代,回数制限のない作戦タイム,ピッチャーの投球ごとの「間」等々,アメリカのスポーツにはやたら「間」が存在します。とりわけベースボールでは,約3時間の試合時間中ボールがインプレー状態にある時間は,わずか25分前後で,あとの約2時間半はボールデッドの状態(プレーを休んだ状態)にあります。
 これほど「間」が多いのは,アメリカが「演劇の文化的基盤がない国」だったから,という指摘があります。開拓時代原住民との闘い等で劇場を造る余裕がなく,演劇が発達しなかった。演劇を楽しめなった分,その役割を広場でプレーされるボールゲームに求めた。観客は,プレーがとぎれる「間」のうちに,プレーヤーが何を考えているのか,次は何をしようとしているのか,といったことを想像し,頭の中でドラマを楽しんだ。
 一方ヨーロッパでは,シェークスピアやモリエール以来の演劇,モーツァルトやロッシーニ以来のオペラが大衆に楽しまれていました。そこで,ドラマは演劇やオペラにまかせ,スポーツでは「間」がなく,終始動き続けるプレーが好まれるようになりました。』
 
 このように玉木正之氏は,アメリカン・スポーツは,ヨーロピアン・スポーツに対し,大衆性・民主性・演劇性という特徴あることを指摘しています。
 アメリカン・スポーツの中でもベースボールは,アメリカンフットボール,バスケットボール,バレーボールといった机上で人工的に作られたスポーツと異なり,タウンボールという遊びから生まれたもので,最古のアメリカン・スポーツです。ベースボールは,アメリカのナショナル・パスタイムとしてアメリカ精神を体現しているといわれており,アメリカのスポーツを代表するものといえます。
 
 ですから,アメリカ大衆文化の申し子であるベースボールこそ,アメリカン・スポーツの特徴を明確に保持していると言えます。

目次 第1章 第2章 


第2章 歴史的アプローチ

1 ベースボール誕生

 ベースボールは,1845年,ニューヨークのビジネスマン,アレグザンダー・カートライトがボランティアで行っていた消防団の仲間の健康と団結のために定期的に行えるスポーツとして,タウンボールを改良し考案したものです。
 ベースボールの考案にあたっては,消防団は男性に限られていたことから男性のスポーツとして,よりスピーディーに,より激しくなるように改良されました。そして,消防団員の団結を深め親睦を深めるため,団員の家族や恋人たちが,安心して楽しく見られるよう工夫されました。

◆ 改良のポイント ◆ 

タウンボール ベースボール
1 老若男女のスポーツだった。
2 誰もが参加(すること)できるスポーツだった。
1 男性のスポーツになった。
2 見物人(スペクテイター)を考慮したスポーツになった。

(1) カートライト・ルール

 カートライト・ルールといわれる初期のルールは次のとおりです。

@ ダイヤモンド型のベースと打者席の配置 正方形の各頂点にホームから三塁までのベースを置き,打者席を正方形の頂点であるホームの横に配置した。塁間を90フィートととした。
A ファウルラインの設定 ファウル・ライン(ホームから一塁及び三塁の延長戦)を設け,それより外に出た打球は,ファウルボールとした。
B 人数とポジションの固定 プレーヤーの数を1チーム9人とし,ポジションを明確にした。
C 3アウト制 アウト三つで,攻守交代とした。
D 捕殺 走者に球を当ててアウトにする代わりに,打球が相手側の手に渡り,走者より先に塁に送られた場合,アウトとすることとした。走者が塁に着く前にボールでタッチされた場合もアウトとなる。
E 21点先取制 21点でゲームが成立,攻撃回数は同じとし,必ず裏の攻撃までやること。
F ノーバウンド+ワンバウンド 打球がノーバウンドで捕られたとき,及びワンバウンドで捕られたとき,打者はアウトになる。
G 下手投げ 投手の投球は下手から。
 
 @からDは,タウンボールから改良されたルールで,EからGはタウンボールのルールを引き継いだもののその後変更されるルールです。
 
◇ @からDについて,どういう点がタウンボールから改良され,どういう効果があったかを次にまとめておきます。

 @ ダイヤモンド型のベースと打者席の配置
改良点 ベースボール 正方形の各頂点にホームから三塁までのベースを置き,打者席を正方形の頂点であるホームの横に配置した。塁間を90フィートととした。
タウンボール マサチューセッツ・ゲームは初期には長方形にベースを配置していた。後に60フィートの正方形になるがそれでも打者席は,正方形の頂点ではなく一辺の中央だった。
効果 プレーヤー 攻守の中心がホームに集中し,ゲームとして引き締まった。
スペクテイター ホームから出発し,ホームに還ることによりゲームの性格が明確になった。

 A ファウルラインの設定
改良点 ベースボール ファウル・ライン(ホームから一塁及び三塁の延長戦)を設け,それより外に出た打球は,ファウルボールとした。
タウンボール タウンボールの打球は全てフェアであったため,守るのが大変であったし,ゲームのしまりがなかった。
効果 プレーヤー 守備範囲が明確になり,ゲームにしまりができた。
スペクテイター 打球を気にせず,安心してゲームを見られるようになった。

 B 人数とポジションの固定
改良点 ベースボール プレーヤーの数を1チーム9人とし,ポジションを明確にした。
タウンボール タウンボールは人数の規定がなく,ポジションが固定されていなかった。
効果 プレーヤー ポジションが固定したことにより専門化し,技術が高度化した。
スペクテイター どこで誰がプレーしているか簡単に分かるようになった。

 C 3アウト制
改良点 ベースボール アウト三つで,攻守交代とした。
タウンボール ウンボールでは一つのアウトで交代であった。このため,攻撃があっけなく終わってしまう欠点を免れなかった。
効果 プレーヤー 打撃と走塁に機会が増え,ゲームとして面白くなった。
スペクテイター ゲームが複雑化し,見て面白くなった。

 D 捕殺
改良点 ベースボール 走者に球を当ててアウトにする代わりに,打球が相手側の手に渡り,走者より先に塁に送られた場合,アウトとすることとした。走者が塁に着く前にボールでタッチされた場合もアウトとなる。
タウンボール タウンボールでは,打球を拾った野手が,走者に球を投げ当てた場合,アウトになるとされた。
効果 プレーヤー 硬い球を使えるようになり,打球の飛距離が伸びた。捕殺を設けたことにより,試合の進行が速くなった。
スペクテイター 試合がスピーディーになり,迫力も増した。
 

(2) 近代ベースボールへの道程

◇ 次に,EからGについて,その後の変更の経緯と効果を整理します。

 E 21点先取制
変更点 1857年 従来は一方が21点入れるまでやった試合を9回までにした。
事由 守備力の向上とともに得点しにくくなり,試合時間が延びる傾向があったため
効果 試合の進行がスピーディーになった。
 
 F 捕球 ワンバウンド+ノーバウンド
 当時は,グラブやミットがなく素手であったため,ワンバウンド捕球も認めていた。実際には,選手は,ノーバウンド捕球を積極的に試みていた。
変更点 1859年 実験的にノーバウンドルールで試合が行われ好評だった。
1864年 アウトのワン・バウンド捕球が廃止され,ノー・バウンドのときのみアウトとされた。
事由 守備力が向上し,ノーバウンド捕球が当たり前になっていたし,ノーバウンドルールのゲームは好評であった。
効果 簡潔で,見るものにとってもスリリングなゲームになった。

 G 投球 下手投げ 
 タウンボールは「打つ」ことから始まるゲームであったため,ベースボールになっても打者は投手に「高」「中」「低」という投球の指定ができた。投手の役目は,打者に打ちやすい球を投げることであった。そして,ベースボールの投球法は肘を曲げない下手投げのみに限定された。
変更点
1858年 見逃しのストライクのコールが始まった。
1863年 ボールのコールの開始
1879年 全ての打たれなかった投球はストライクかボールに区分され,9ボールで一塁へ。
1880年 8ボールで一塁が与へ。
1881年 投手席→本塁間の距離は45フィートから50フィートの延長された。
1882年 7ボールで一塁へ。横手投げの解禁。
1884年 上手投げの解禁。6ボールで一塁へ
1886年 7ボールで一塁に逆戻り
1887年 打者が投手にハイピッチ,ローピッチを要求できなくなった。5ボールで一塁へ。この年のみ5ボールは安打と記録され4ストライクでアウトだった。死球で一塁が与えられた。
1889年 4ボールで一塁へ
1893年 投手席→本塁間が50フィートから60フィート6インチ。
事由 投球技術や野球用具の発達により,球速が増し変化球も発明された。プロ化にともない,試合をよりいっそう面白いものする必要があった。
効果 「打つ」ゲームから「投げて打つ」ゲームに変わった。投打の対決というスリリングなゲームに変わった。
 

近代ベースボールへのルールの変遷

ルール・用具等 その他
1857 9イニング制を採用。 最初のアマチュア全国組織NPBBP(14クラブ)が発足初代会長ニッカーボッカーズ・クラブのダニエル・アダムズルール整備委員会も同時発足。
1858     参加クラブ22。二代会長ゴッサムズのウィリアム・H・ヴァンーコット。初めての有料試合が実施される。
1859 実験的にノー・バウンドルールで試合が行われ好評だった。 参加クラブ50
1860      
1861    南北戦争勃発 参加クラブ激減
1862      
1863 バットの大きさが規制された。投手席は12×4フィートになった。   
1864 アウトのワン・バウンド捕球が廃止され,ノー・バウンドのときのみアウトとされた。ヘンリー・チャドウィックが最初のスコアリング・システムを開発し,翌年から各種の「率」が登場した。   
1865    南北戦争終結 参加クラブ91
1866    参加クラブ200を超える
1867 投手席は6×6フィートの正方形に変更された。   
1868      
1869    初のプロ野球レッドスットキングズがシンシナティに誕生
1870      
1871    プロ選手の全国組織NAPBBP結成され,リーグ戦を行った。
1872 ボールの大きさ,重さが現在使用中のもののように定まった。   
1874 この年のみ,10人制,10イニング制となる。不評のため1年でもとに戻る。 2チームが合同で英国遠征を行った。
1875 初めてグラブを使用される。捕手のマスクが考案される。 八百長などの不正事件のためNAPBBP解散
1876 バットの長さは42インチまでとなり,投手席は4×6フィートに変更された。試合中のメンバー変更が4回までに限って認められた。 最古の大リーグ・ナショナル・リーグ(8球団)が誕生した。
1877 15インチ平方のキャンパス型ベースが登場,この大きさは今日まで変わりない。本塁は今日のように一・三塁の交点に置かれるようになったが,まだ正方形だった。 最初のマイナー・リーグ,インターナショナル・リーグ結成された。
1878    ターン・スタイルと呼ばれる計数器が採用され,有料入場者の計数が正確にできるようになった。
1879 全ての打たれなかった投球はストライクかボールに区分され,9ボールで一塁へ。 ナ・リーグに正式な審判が設置された。日曜日の試合が禁止された。
1880 8ボールで一塁が与えられるようになった。走者が打球に当たればアウトになった。捕手が第三ストライク目の球を直接捕球すれば打者は三振でアウトが取られるようになった。   
1881 走者はファウル・ボールのときは,塁に戻る前に送球があってもアウトにならなくなった。投手席→本塁間の距離は45フィートから50フィートの延長された。   
1882 7ボールで一塁へ。一塁線にそって3フィートの打者走者ラインが設けられた。この年初めて一塁手が塁を離れて守備についた。 この年,8球団で結成されたアメリカン・アソシエーションは,優勝決定に勝率を採用したり,専属の審判(給与制)を採用したり先進的で,ナ・リーグと同格扱いされた。
1883 投手は腰から上でも投球していいことになった。 ナ・リーグ審判,給与制になる。
1884 投球の角度に対する制限が取り除かれ,6ボールで一塁へ アメリカン・アソシエーションが12球団となる。これにより,前年秋に結成されたユニオン・アソシエーションは主要都市での球団増設が困難になり,1年で消滅した。ナショナル・リーグ,勝率を採用。
1885 本塁は大理石製又は白色ゴム製と定められた。捕手や審判のプロテクターの開始  
1886 投手席は4×7フィートに変更され,7ボールで一塁に逆戻り  
1887
 投手席は4×51/2フィートに変更され,打者が投手にハイピッチ,ローピッチを要求できなくなった。5ボールで一塁へ。この年のみ5ボールは安打と記録され4ストライクでアウトだった。死球で一塁が与えられ,本塁は白色ゴムのみに限定された。12インチ角。コーチが初めて規則の中で定められた。
プロ野球選手組合,結成・解散
1888   第2回海外遠征(ハワイ,オーストラリア,セイロン,エジプト,イタリア,フランス,英国,アイルランド)
1889 4ボールで一塁へ。犠牲バントが他の打撃方法と区別された。  
1890 投手席の区画戦は鉄,大理石からゴムで示すようになった。 プレーヤーズ・リーグが結成されたが,1年で消滅した。
1891 試合中どんな時点でもメンバー変更していいことになった。大型のパット入りのミットの使用が捕手に認められた。 プレーヤーズ・リーグ消滅時の選手の引き抜き問題を契機に,アメリカン・アソシエーションとナショナル・リーグが対立し,アメリカン・アソシエーションがナショナル・リーグに吸収される形で決着。
1892    ナショナル・リーグがアメリカン・アソシエーションを吸収し12球団となる。日曜日の試合解禁。
1893 投手席→本塁間が50フィートから60フィート6インチになり,ボックスではなく12×4インチのゴム・プレートになった。バットの一面をフラットするのが禁じられ,断面は円形に限定された。   
1894 ファウルになったバントはストライクをとるようになった。 ワールド・シリーズの前進と言えるナ・リーグ1位・2位球団によるテンプル・カップ・シリーズ始まる。(1897年まで)
1895 投手版は今日のように24×6インチに拡大された。バットは直径2インチ4分の3以下,長さ42インチ以下と決められた。インフィールド・フライの規則が定められた。   
1896         
1897       
1898    試合数が154試合制に統一された
1899 投手は牽制球を投げる前に完全静止しなければボークが取られるようになった。打者又は各塁にモーションだけ起こして投げないのは禁止された。    
1900 今日のような5角形の本塁プレートが登場した。 第2の大リーグ,アメリカン・リーグ発足(8球団)。ナショナル・リーグ8球団に戻る。プロ野球選手組合,再度結成も2年で消滅。
1901 ファウルストライク規制はナ・リーグのみ,ア・リーグは1903年から採用   
 

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