Mikey's Column

マスターズリーグについて書いた文章を掲載しています。


■『感謝しています。』〜プロ野球O.B.リーグ/マスターズリーグ〜 (Baseball Monthly Vol.033 12月10日号掲載)

 今年も11月6日を過ぎ、あの事件から早2年が経とうとしています。第一報を私が受けたのは、同日夜にTVのけたたましい「ピンポンピンポン!」という臨時ニュースを知らせる音と共に流れた、白いテロップからでした。

 『元ヤクルトスワローズ投手 高野 光氏自殺。』

 詳細が次々に明らかになってくるにつれ、私の胸中には「ああ、やはりこうなってしまったか。」というまるで不吉な予言が成就してしまったかのような、苦々しい思いが去来しました。

 ”元プロ野球選手”という肩書きだけで食えるほど世の中は甘くないという事は、過去に引退していった何千人もの選手達のその後を知っていれば、至極当然に導き出される結論です。

 更に追い討ちをかけるように、日本プロ野球界における年金制度の不確立(実際は在籍10年以上は生涯年金、10年未満は一時金を貰えるがその額は雀の涙ほどである)や柳川事件に端を発するプロアマ交流の断絶(改善されつつあるが、未だプロ野球選手は高校生を指導出来ない)があります。ましてや最近はたった入団2年で、戦力外通告を行う球団もある始末です。

 長く現役生活を続けたとしても人生の半分がやっと過ぎた程度で、プロ野球選手は引退後一体どうすればよいのでしょうか?その優れた技術・理論を大勢の人々に伝える事は出来ないのか?言い換えるなら、その"DNA"を後世に残す事は出来ないのか?

 そんな熟々たる気持ちを抱えながら日本プロ野球を見続けてきたある日、「プロ野球O.B.によるリーグ戦が行われる」との知らせが舞い込んで来ました。どうせ名球会メンバーによる真剣さの欠けたO.B.戦の一環だろうと最初は冷めた見方をしていましたが、色々なマスメディアからの情報を得るうちにそれが全くの見当違いであった事がわかりました。

 まず(財)日本プロ野球機構に属さない独立リーグである事、二つ目にほとんど名も聞いた事のない選手が参加している事、三つ目にフランチャイズを札幌に置く球団がある事(当時、ファイターズのフランチャイズ移転は全く話題に上っていなかった。)でした。

 私は大洋ホエールズという今は亡き球団を応援していて、その中でも一斉を風靡したスーパーカートリオの1番バッター、高木豊遊撃手のファンでした。しかし他球団の選手でも一種"職人"と呼ばれるプレーをする好捕・好走のセカンド・ショートストッププレイヤー、中でも南海ホークス ジェフ・ドイル二塁手、ロッテオリオンズ 水上善雄遊撃手の華麗なステップ・送球・横っ飛びのファインプレーに目を奪われていました。

 そんな過去に思いを馳せながら参加メンバーを見ると・・・。東京ドリームスなるチームに水上善雄の名前があるではありませんか!と言う事は高木豊選手もいずれ・・・。(後日札幌アンビシャスに参加し、念願叶いました。)

 こうしちゃいられないと慌ててネット上を駆け巡りましたが、未だ公式サイトも無ければ、ウェブ上の文章はスポーツ紙で読んだ記事ばかり。それなら自分で作ってしまえと、日本初のマスターズリーグHP「Master's Master」を'01年6月に開設しました。

 その後、(社)全国野球振興会日本プロ野球O.B.クラブにマスターズリーグについて訊くと、マスターズリーグ事務局があるとの事。色々と詳細を聞こうと思いそこに連絡をしましたが、一回目は「ああ、やりますよ。」程度の素っ気無い返事。(今思えば、事務局が一番忙しかった時期だったのでしょう。)そのまま1ヶ月が過ぎて行きました。

 なにせ公式サイトは無い、マスメディアもどこかで聞いたような話題を繰り返すばかりで、内容の充実も図れず困っていました。その時に頼りになったのは私のHPを見てくれた方々からのメールでした。参加される事が決まったO.B.の知人の方、全試合放映が決まったスカイパーフェクトTVの関係者の方、そして最後にはマスターズリーグ事務局の方から情報を送って頂きました。

 そして'01年11月1日、東京ドームにて念願の開幕戦を迎える事になりました。参加チームは、札幌アンビシャス・東京ドリームス・名古屋エイティデイザーズ・大阪ロマンズ・福岡ドンタクズの5チーム。チーム名は全て一般からの公募によるものです。

 アンビシャスは札幌農学校(現 北海道大学)のW・S・クラーク博士が残された"Boys be ambitious"、「少年よ大志を抱け!」に由来。

 ドリームスはたくさんの人々の色々な夢が存在する東京という意味で決定。

 エイティデイザーズは"ひさしぶり!"と言う意味の名古屋地方の方言、"八十日目(やっとかめ)"から命名。

 ロマンズはそのまま個性と感情を重んじる思潮という意味のロマン主義から。

 ドンタクズは日本の祭りの中でも特に勇壮な”博多どんたく”からつけられました。

 あの開幕の日、東京ドーム22番ゲートの上に高々と掲げられた『プロ野球マスターズリーグ』の看板は、私の胸を熱くさせるには充分なものでした。しかし私を感動させたのはそれだけでなく、引退して何年も経っている選手達の一挙手一投足でした。

 開幕戦のカードは、東京ドリームス対札幌アンビシャス。村田兆治投手(元ロッテ)と宮本和知投手(元巨人)の先発で、ドリームスのスタメンには広瀬哲朗(元日本ハム)、駒田徳広(元横浜)、張本勲(元ロッテ)選手などの名が並び、対するアンビシャスは土井正三、中畑清、簔田浩二選手などの元巨人軍の選手達が主体で構成されていました。

 試合は6回裏、もうすでに59歳になった伊藤勲捕手(元大洋)のフェンス直撃ツーベースなどにより、3対0でドリームスが勝利。

 圧巻だったのは、先発の村田投手が134kmのストレートを計測した事です。現役を引退して11年、御年52歳の選手がどうしてあんな球を投げれるのか、観客は感嘆の声を上げ驚愕の眼差しで見ていました。

 11月1日から1月23日まで行われたリーグは、黒い霧事件で球界を追放された池永正明投手(元西鉄)の涙の復活登板、ロマンズ杉浦忠投手コーチの遠征先での急死、札幌アンビシャスの記録的な13連敗など色々な事がありましたが、中西清起投手(元阪神)や小川享選手(元近鉄)、そして助っ人として数試合参加したランディ・バース選手(元阪神)などの活躍により吉田義男監督率いる大阪ロマンズが初年度リーグを制しました。

 ただ、幾つか問題点が露呈しました。

 やはり現役当時のイメージで動こうとするため体に無理がかかり、たくさんの怪我人が出た事。リーグに参加しているものの、ほとんど試合に出てこない選手がいた事。30歳代の選手が重宝がられ、その歳以上の選手がなかなか試合に出場出来なかった事などです。

 以上の点を解決するためにまず、今年はニ回、選手のセレクションが行われました。駒崎幸一選手(元大洋)、弘田澄男選手(元阪神)、池谷公二郎投手(元広島)などが選ばれ、更にマスターズリーグ委員会(大沢啓二・広岡達朗・土井淳・佐々木信也氏など)推薦として川口和久投手(元巨人)、福本豊選手(元阪急)、東尾修投手(元西武)などが参加する事に決まりました。  30代選手の処遇については初回から3イニングまでは出場を認めず、4イニング目以降はグラウンド上に3名まで。更にDHでの起用は出来ないと決定されました。

 今回このメールマガジンに執筆させて頂く為の取材と自身がお手伝いさせて頂いているインターネットラジオのインタビュアーも兼ねて、6・7日の東京ドームでの試合前と16日の西武ドームでの試合前において、選手の方々にお話を聞く事が出来ました。

 その中で私が最も印象に残った言葉。それは数人の方が異口同音に仰った感謝の言葉です。

札幌アンビシャス 萩原康弘選手(元広島)
「今年もまた呼んで頂けると思わなかったので、リーグに参加させて頂いてありがたいと思っています。」

札幌アンビシャス 八木沢壮六投手(元ロッテ)
「引退から23年経って、もう一度マウンドに立たせて貰える。チャンスを与えてくれたことに感謝します。」

東京ドリームス 大川章投手(元ヤクルト)
「引退したらもう出来ないと思っていた、硬球で野球をする喜びを噛み締めています。」

東京ドリームス 水上善雄選手(元ロッテ)
「参加させて頂いて、感謝の気持ちで一杯です。今年はズバリ無理をします。」

 上記のような感謝の言葉は日本人選手だけでなく、今季参加している札幌アンビシャス ウォーレン・クロマティ選手(元巨人)と東京ドリームス オレステス・デストラーデ選手(元西武)も述べていました。使い古された表現かもしれませんが、”もう一度野球が出来る喜び”を味わえる事に大半の選手が感謝している。1年間で何千人の中から選ばれた人間にこの特権を味わって頂けるだけでも、私はこのリーグの意義があると思っています。

 私はよく「なんであんなロートルリーグを金払って観るの?」と意地悪な質問をされます。

 もちろん、現役時代と同じプレーは望めません。 ただ私がこのリーグを見続けている理由は、第一に”未だ選手が向上心を持ち続けている”点、第二に”ファンとの距離が非常に近い”点、そして最後に上記の”全ての人に感謝しながらプレーしている”点です。

 東京ドリームス 高橋直樹投手(元西武)は130kmを出したいと子供のような笑顔で答えてくれました。札幌アンビシャス 小川邦和投手(元巨人)は新しいチェンジアップをマスターしました。福岡ドンタクズ 松永浩美選手(元阪急)は嫌な顔一つせず、喜んでサインをしてくれました。

 そして選手ひとりひとりだけでなくリーグとしても、試合前選手自らがスタンドに上がり行われるサイン会の実施、1回と5回に行われるスタンドへのサインボールの投げ入れ、ファールボールの持ち帰り、少年野球教室はもちろん大人の野球教室の開催など充実しています。日本の球場で必ずと言っていいほど行われる鳴り物による応援も無く、渡辺謙太郎さんをはじめとする名アナウンサーの方々が、的確なコメントで試合を盛り上げてくれます。

 まだまだ興行として未成熟な部分もありますし、選手からの要望も多々ありますが、今年も11月6日から1月26日、北は札幌・南は沖縄浦添まで色々な球場で行われています。

 もう一度見たいあの選手、NPBで実現しなかった対決、、ありがとうと心に秘めながらのプレーを是非一度御覧になって下さい。そして選手からの"DNA"を存分に受けて下さい。