第80回箱根駅伝往路プレイバック

出場チーム
駒澤大・山梨学院大・日本大・大東文化大・中央大
東洋大・東海大・順天堂大・日本体育大・中央学院大
法政大・亜細亜大・神奈川大・帝京大・東京農業大
関東学院大・早稲田大・城西大・国士館大・日本学連選抜


第80回箱根駅伝往路オーダー(2004.1.2)
チーム名 1区 2区 3区 4区 5区
駒澤大太田内田佐藤田中村上
山梨学院大橋ノ口モカンバ小陣高見澤川原
日本大中谷藤井白柳下重高橋
大東文化大村井佐々木宮地野宮馬場
中央大田村原田中野池永中村
東洋大久保田三行信清永富菅原
東海大生井一井村上越川中井
順天堂大村上今井長山松瀬難波
日本体育大鷲見保科四辻熊本稲垣
中央学院大石田中東江藤渡辺信田
法政大圓井長嶺黒田岡田佐藤
亜細亜大滝澤岩崎梁瀬木許鈴木
神奈川大中山吉村下里八津川内野
帝京大中尾戸村佐藤井上坂口
東京農業大山内中田加藤山田宮本
関東学院大北川鈴木瀧田末次
早稲田大杉山空山篠浦藤森五十嵐
城西大田上河野高岡中安千島
国士館大首藤坂斎原田佐藤
日本学連選抜白濱加藤村刺中川鐘ヶ江


1区   21.3km 大手町読売新聞社前〜鶴見中継所 
区間記録 渡辺康幸(早稲田大) 1時間01分13秒 70回大会@‘94年


 午前8時、関東学連会長・廣瀬豊氏によって号砲が鳴らされる。19大学20チーム20人の選手が一斉に飛び出していった。待ち兼ねた80回大会の幕開けである。既に多くのファンの間では有名な話だが、スタート直後の読売新聞社角を最初に曲がった選手は、区間賞が取れるという。過去を紐解くと確かに73回大会の早大・梅木蔵雄や、74回大会の専大・湯浅龍雄が獲得している。これは75回大会の実況中に中大の1区・久保田瑞穂が話したエピゾードとして紹介されている。以降は中大の選手が最初に曲がることが多かったようだ。今回は田村航を持ってきた中大だが、大外から一気に切れ込んで曲がっていったのは日体大ルーキー・鷲見知彦だった。

 その鷲見が引っ張るかに見えたが、やはり橋ノ口もついてきた。1キロの通過は3分ちょうど。ここ数年のスローペースを考えれば“速い”ペースかもしれないが、何せまだ最初の1キロだから断定のしようが無い。俗に言う「5キロまでは様子見」の如く、大きな動きはない。2キロ通過は5分57秒。ペースが極端に速いわけではなかったが、早くも集団は縦長になってきた。後方にいた関東学院大・林竜司、国士大・首藤弘憲、神大・中山慎二郎が集団からやや遅れ始めた。

 駒大・太田は集団の前方で、鷲見、橋ノ口をマークする。その後ろにやはり優勝候補の大東大・村井、そして3年振りの1区となる中谷がいた。一方、生井は集団の歩道寄りでじっと待機する。有力どころは概して遅れていない。ただもう一つの注目だった白濱は後方待機。それは前哨戦での位置取りを考えると、予想以上に後ろだ。その白濱がまさか田町で早々と遅れ始めるとは、誰もが思いもしなかったはずだ。学連選抜の中心選手的存在だけに、この後どうなるのだろう。橋ノ口が次第にペースをあげる。順大・村上康則、中央学院大・石田直之も白濱と前後して離れていった。

 5キロ通過が14分36秒。ここで田村、早大・杉山一介も離れる。駅伝の名門どころが序盤で集団から遅れ始めたことになる。前方では橋ノ口が集団を引き離しにかかった。しかし2位集団は様子見の段階。ただ一人ついた久保田も6キロ過ぎには集団に吸収された。むしろ追わなかったという表現が正しかったのかもしれない。2位集団は久保田、鷲見らが引っ張り、法大・圓井彰彦、亜大・滝澤優が遅れていった。が、この2人はこれまでの選手とは違い、ずるずると下がっていくような感じではなく、八ツ山橋のアップダウンで再び追いついてきた。

 後方集団は先に脱落した中山が杉山、田村に追いつき、ほぼ同じような位置にいた白濱、石田もついてくるという展開。しかしこれが13位グループで、更に村上は後方約30メートルぐらいの位置にいた。しかしこの集団も8キロを24分だから、それほど遅いわけではない。

 先頭の橋ノ口は10キロ通過が29分5秒だった。しかし滝澤、鷲見を先頭にした2位集団でも29分26秒だから速い。とにかく橋ノ口、モカンバで後続には大きく水をあけたいという思惑がある山梨学院大にとってはまさに“計算通り”の展開だろう。後半にやや勢いが失速したとしてもその差は30秒前後になるのではないか。そういう予想も十分に可能になっていた。これで2区のモカンバが更に差を広げる作戦。それは森本の欠場が決まった時点で上位進出への“必要条件”になっていたことは想像に難くない。

 しかし12キロ付近から次第に2位集団と差が詰まってくる。一時は20秒余りついていた差はその後頭打ちの状態になっていた。14キロ手前で東農大・山内貴司が離れていき、8人となった2位集団との差は既に10秒あまりに縮まる。走りに余裕が無くなって来たのか、橋ノ口が何度も後ろを振り向くようになってきた。15キロが44分5秒だからこの5キロは15分かかっていることになる。明らかに序盤に飛ばしたことが裏目に出たと誰もが予感し始める。黙々と追いかける2位集団がこれを見逃すはずは無い。給水を機に鷲見が飛び出し、これを太田が追いかける。逆に久保田、生井が集団から遅れていった。蒲田ではその差がもう6秒差に詰まってくる。その後ろは帝京大・中尾誠宏が先頭に立って4位集団を形成。ただ彼らの中で飛び出そうという動きは無い。 中山、杉山をはじめとする13位グループは1分15秒離れていた。

 16キロ手前で遂に鷲見、太田が橋ノ口を捕らえにかかる。鷲見が先頭に立った。橋ノ口はやや苦しくなったようで、追いつかれてから500Mほどで前の2人から離れて、間もなく後方集団に吸収されていく。圓井、中尾が引っ張るペースにも何とか食らいつきたかったはずだが、ほどなく六郷橋の上りで城西大・田上貴之と共においていかれた。六郷橋の終盤で太田が初めて前へ出る。その差は2、3秒ぐらい。懸命に歯を食いしばって前へ行くが、鷲見が思ったほど離れていかず、すぐに並ばれてしまった。再度並ばれた時の太田はやや不意を突かれたような表情だ。再び鷲見が前に出る。スピードに駆け引き…1区に必要な要素をまさに兼ね備えている、この1年生はまさに大物と言えるだろう。

 一方橋ノ口の失速は止まらない。先に集団から脱落した久保田、生井にも19キロで逆転されてしまう。20キロを59分10秒前後で通過。太田が既にきつい表情だが、対する鷲見はそれほど表情を崩さない。5キロに渡る両者のデッドヒートは中継所手前300Mで決着がついた。鷲見が一気に離した。その勢いにもう太田がついていけない。大歓声に沸く鶴見中継所に鷲見が突入していった。その6秒後に太田。やはり1年生に負けたのが悔しかったのだろうか。中継後にカメラが捉えた彼の表情から伺えた。

 その後ろはやや離れて点々とやってきた。川崎市内で分裂した3位グループは中尾が32秒差でやってきた。その後ろに4位の大東大・村井が35秒差。亜大・滝澤を挟んで日大・中谷、東海大・生井と優勝候補が相次いで襷を渡していった。9位の東洋大・久保田までトップと1分差以内。初出場の初走者ながら終盤まで好位についた城西大・田上は1分7秒の10位とまずまずの出足。山梨学院大・橋ノ口は1分31秒差の11位。鷲見と太田に先頭を譲ったのが16キロ手前のはずだったから、残りの5キロでこれだけの差をつけられてしまった。トラックでは既に学生でもトップクラスの実力を証明済み。しかし駅伝ではどうも芳しくない結果が続いていた。全日本では4区区間賞で自身初となる大学駅伝区間賞を獲得し、やっと駅伝に活路を見出したと思った矢先のこの結果。序盤のオーバーペースが災いしたとしか言いようが無いが、しかしこれがもし、森本が出場できていれば、彼は最初から行っただろうか?今となっては推測でしかないのだが、チームの作戦とは言え、この飛び出しは彼にとって本意だったのか、それとも…。ただ、ここ数年の1区が超スローペースだっただけに、敢えて“果敢な”と書いてしまうが、彼の走りがある意味で本来の“1区らしさ”を取り戻させたことは間違いないだろう。惜しむらくは、最終的にその結果が彼に微笑まなかったということだ。

 その橋ノ口を自ら捕まえに行って、最後は太田を競り落とした鷲見の走りは立派だ。1年生とは思えないような勝負根性、そしてラストの切れが素晴らしかった。90年代後半から長く低迷期が続いていただけに、日体大としてはこの区間賞が67回大会8区・松井紀仁以来、実に13年振りだった。更に1区としても61回大会・仲西浩以来、19年振り。1時間2分51秒は歴代7位の好記録。67回大会で1時間3分26秒の区間新記録(当時)をマークした早大・武井隆次以来の1区1年生による区間賞だった。当然この区間の学年別最高記録でもある。

 神大、早大、中大の名門校はトップとはそれぞれ1分55秒差、1分58秒差、2分10秒差で13位から15位。12キロ手前で一時はこの集団にも追いついた村上だったが、終盤に再び遅れだし、2分47秒差の17位と大きく出遅れた。19位、20番目の関東学院大までは3分42秒。優勝候補は揃って駒大に先行を許す誤算こそあれ、大差なく無難にスタートを切ったが、逆に名門校には厳しいスタートとなった。

1区成績
通過順位大学名トップ差選手名区間タイム
日体大   ―  鷲見 1:02:51
駒大  0:06  太田  1:02:57
帝京大  0:32  中尾  1:03:23
大東大  0:35  村井  1:03:26
亜大  0:40  滝澤  1:03:31
日大 0:50  中谷 1:03:41
東海大  0:52  生井  1:03:43
法政大 0:56  圓井 1:03:47
東洋大 0:59  久保田  1:03:50
城西大  1:07  田上  1:03:58
山学大  1:31  橋ノ口  1:04:22
東農大 1:37  山内  1:04:28
神大 1:55  中山  1:04:46
学連 ―  白濱  1:04:49
早大 1:58  杉山  1:04:49
中大  2:10  田村  1:05:01
中学大 2:37  石田  1:05:28
順大 2:47  村上  1:05:38
国士大 3:08  首藤  1:05:59
関東学大 3:41  林  1:06:32


2区   23.0km 鶴見中継所〜戸塚中継所 
区間記録 三代直樹(順天堂大) 1時間06分46秒 75回大会@‘99年


 先頭を行く日体大・保科光作は1年生ながら、高校3年の春に既にハーフマラソンで64分台をマークしている大物ルーキー。今回1年生を主要区間に配置した別府監督が自信を持って送り出す選手である。1キロは2分56秒とゆったりとした入りだから、6秒差でスタートした駒大・内田直将がすぐに追いついてくる。内田の1キロは2分50秒。すぐに前へ出るが、保科は無理をせず背後で控える。後方では区間賞候補最有力と言われる山梨学院大・モカンバが2分55秒の入りで進撃を開始。ただ前回序盤を飛ばしすぎた反省もあるのか、思ったより入りが遅いような気もする。日本人では最も区間賞の可能性が高いと言われた日大・藤井周一が6位スタートから前を追っている。ただ、前回のような中大・藤原正和、駒大・松下龍治クラスの選手が今回の2区にはいないのだ。これは決してレベルが低い訳ではなくて、小粒なメンバーという表現が正しい。大東大、東海大のように優勝を見据えた区間配置の結果、エースを他の区間に配置したところもある。依然“華の2区”が “学生長距離界のエース決定戦”的な趣は根強いが、近年の戦国駅伝でやや変わりつつある。

 3キロを8分40秒で通過した内田がじわりじわりと保科を引き離し始める。これはモカンバと全く同じタイムである。それを上回るペースで突っ込んだのが藤井。それでも大東大・佐々木誠が率いる3位集団はじわりじわり詰まっている程度。このグループから脱落した帝京大・戸村将幸を6キロで捕まえ、5位に浮上してくる。過去に2区を2度も走りながら、不本意な結果を度重ねてしまった藤井にとっては、エースであり、キャプテンでもある彼の走りが優勝への足掛かりになると信じていた。この藤井と内田、そしてモカンバの3人はほぼ同じようなペースを刻んでいる。それで2位につけていた保科が5キロ過ぎから次第に離れていった。

 しかし、この3人を上回るペースで走っていたのが、9位スタートの東洋大・三行幸一である。 ラジオでも、そしてテレビの実況でも彼の名前が初めて登場したのが7キロ過ぎ。それもかなりの 突っ込みを見せた藤井に追いついてしまったのだから、相手が驚いたのは言うまでもない。藤井の 5キロが14分23秒だから、三行もほぼ同じようなペースで前を追ってきたことになる。戦前の 区間賞争いに名前があまり出てこなかったが、前回2区7位の選手である。  横浜駅の先、高島町ガード付近で内田と保科の差が約5秒。 その後ろは3位集団が崩壊して大東大・佐々木、更に亜大・岩崎洋平、その後ろから 三行、藤井が続いていた。東海大・一井も約1分差で7位。モカンバが1分20秒程の 差で9位。  早大・空山隆児、中央学院大・中東亨介が15位集団として通過。1区から 更に順位を落としている空山は明らかに本調子ではないことが伺えた。是が非でも前半から上位で 繋いでいかないと苦しい早大にとっては、あまりにも痛すぎる展開だ。中大も14位通過。神大は11位通過。順大は18位通過と苦しい。ただ、早大に比べると後者の3校は選手層に余裕があるので、よほど大きく遅れなければ挽回できる可能性は多分にあった。しかし早大は違う。これではシード権すら危なくなるのでは…?或いはそんな不安を抱いたファンも少なく無かっただろう。

 横浜駅前の区間記録では三行がトップ。これを内田、モカンバが4秒差で追う展開。昨年ほどでなくとも前半から突っ込んでいくと思われたモカンバが、区間順位でこの位置取りというのが何か解せないような気もした。それでも2キロで城西大・河野孝志、5キロで法大・長嶺貴裕、そして10キロで戸村を交わし、順位を上げていく。この間に三行、藤井が岩崎を逆転し、4位に浮上。三行は10キロを29分13秒で通過している。並ばれた藤井も遅れることなくついていく。

 先頭の内田は保科との差をじりじりと広げつつあったが、アップダウンをあまり得意とはしない内田にとって、これからが正念場になる。一時は20秒程開いていた差が12キロを過ぎた頃から縮まり始める。ペースがやや鈍りだした内田を着実な走りの保科が追いかけていく。既に権太坂の上りに入っており、内田と保科の差があっという間になくなってしまった。遂に15キロで保科が並ぶ。この2人が45分15秒前後で通過。既に内田の表情は苦しい。この2人に迫ってきたのは三行だ。13キロ過ぎで藤井を振り切り、間もなく佐々木を逆転した。

 権太坂を保科、内田が通過したが、既に三行が迫ってきた。佐々木、一井もスタート時から差を広げられることなく続いている。モカンバが8位通過したが、前との差はそれほど詰まっていないようだ。中団では神大・吉村尚悟が順位を上げている。入学当初からエースとの呼び声が高かった吉村だが最終学年にして初の2区で見事な走りを見せている。更に後方から順位を上げているのは国士大・坂斎亨だ。権太坂の区間順位では三行から12秒遅れの2位で通過している。河野、空山は更にその後方。どちらも鶴見中継所から順位を落としている。落ち方が急だったのは河野だが、その河野を空山がなかなかとらえることができない。坂の下りで再び差が広がり始めた。往路での上位進出が絶対条件だった早大にとっては、絶望的な展開になっている。

 伸びない内田を振り切った保科は、次第にその差を広げつつあったが、既にその後ろには三行が迫っていた。内田とは02年の全日本1区、前年の全日本2区に続く3度目の対決。最初の対決は先に仕掛けた三行が、猛追する内田を同タイムながら振り切って区間賞。1年後は追いついてきた三行を内田が早々と振り切って独走。そして今回は全くその逆の光景だった。抜き去られた内田がついていけない。勢いを得た三行が17キロ手前、遂に保科を交わして先頭に立った。後方からは佐々木がやや見え隠れしているが、内田、保科に並ぶところまではいかない。

 三行は20キロを59分ちょうどで通過。後方は20秒差で保科、そして息を吹き返した内田が2位集団。その後ろの隊列も大きな動きは無い。ただ、区間賞候補最右翼だったモカンバが一向に前に上がってこないのが意外だ。そのモカンバは最後の3キロで藤井、一井、岩崎を抜いて5位まで浮上してきた。しかし「15キロ過ぎからペースをあげていくはずだった」というモカンバだったが、区間2位のタイム。1時間9分12秒だから、前年よりも1分以上遅い。実はこの時点で気温の上昇が激しくなっていた。

 最後の坂で内田と保科が激しい2位争いを演じ、モカンバが6人抜きで沿道を沸かせたが、それでも先頭を行く三行は次第に広がっていくばかり。先頭に立った時点で足に痙攣を起こしながらも後続を引き離していく。62回の出場を誇る東洋大が初めてトップで2区を通過した。三行自身も1時間8分45秒で区間賞獲得。同校としては55年ぶりの2区区間賞だが、複数の文献によると2区がエース区間になったのは60年代からのようだ。つまり“華の2区”を東洋大が制したのも初めてということになる。

 その後ろ24秒差で内田が続いた。残り4キロのデッドヒートの締めくくりはさすが内田らしい渾身のスパート。保科も1秒差で続いて、先頭を狙える位置をキープ。佐々木を挟んで6人抜きを演じたモカンバ。その後ろでは岩崎が1秒差で一井に先着。一井と吉村が区間3位タイ。中盤では好走した坂斎も区間5位の走りで、15位まで順位を上げている。13キロ過ぎから勢いの鈍った藤井は区間11位に沈み、順位を8位に下げてしまった。藤井の走りで先頭、若しくはそれに近い位置につけたかった日大には、明らかな誤算に違いない。前回こそ4区2位(歴代5位)の好走を見せたが、あくまでも2区での勝負に勝ちたいという思いは恐らく一番強かっただろう。

 戦前優勝候補と言われたチームは大きく遅れることは無く続いていた。しかし大東大、東海大、日大はこの2区でも駒大よりも前に行くことが出来なかった。何しろ区間3位から11位までが僅か23秒の間にひしめいている。内田は区間7位だから、同3位の一井、同5位の佐々木、それから藤井も23キロ走って、殆ど位置関係が変わらなかったのだ。それゆえに彼らより約1分以上速いタイムで区間賞を勝ち取った三行の走りがより際立つことになる。

 保科は区間9位。後方から5人抜きを見せた順大・今井正人が1秒差の区間10位と、初めての大舞台で健闘。16位中央学院大までは3分31秒差で、まだまだ混戦、上昇の余地が残されると思うが、17位の城西大はそこから2分9秒差。18位の早大が2分34秒差と離れてしまった。先行してあわよくばシード圏内を目論んでいたこの2校にとっては致命的な差だ。

2区成績
通過順位 大学名 トップ差 選手名 区間タイム 区間順位
東洋大 三行 1:08:45
駒大 00:24 内田 1:10:02
日体大 00:25 保科 1:10:09
大東大 00:50 佐々木 1:09:59
山学大 00:59 モカンバ 1:09:12
亜大 01:01 岩崎 1:10:05
東海大 01:02 一井 1:09:54
日大 01:23 藤井 1:10:17
法政大 02:00 長嶺 1:10:48
神大 02:05 吉村 1:09:54
帝京大 02:45 戸村 1:11:57
順大 03:13 今井 1:10:10
中大 03:16 原田 1:10:50
東農大 03:17 中田 1:11:24
学連選抜 加藤 1:11:04
国士大 03:19 坂斉 1:09:55
中学大 03:31 中東 1:10:38
城西大 05:40 河野 1:14:17
早大 06:05 空山 1:13:51
関東学大 07:07 北川 1:13:10


3区   21.3km 戸塚中継所〜平塚中継所 
区間記録 小林正幹(早稲田大) 1時間02分49秒 71回大会@‘95年


 戸塚中継所で2区区間賞インタビューに答えていた三行は「次がちょっと不安だったので…」と漏らしていた。その次の走者、信清高志は当日変更で入った選手だ。追ってくる日体大・四辻聖と駒大・佐藤慎悟は前回もこの区間を上位で走っている実力者。後者の2人が有利なのは誰の目にも明らかだった。4キロ手前で24秒差は一気に解消。そのまま信清が振り切られ、2人が並走したまま後続を引き離していった。6キロ通過が17分43秒。浜須賀交差点あたりまで続く緩やかな下りということもあって、1キロ3分をやや切るペースが刻まれていった。

 2区終了時点で16位までが3分31秒差。往路の中でも比較的“つなぎ区間”と言われてきた3区だが、ここ数年で変わりつつある。28分台ランナーは勿論のこと、スピードのある選手が集まるようになった。加えて近年の戦国駅伝、更にここ数年の1区のスローペースが輪をかけた。この3区でも集合離散はもはや当たり前。前回は3区では記録となる9人抜きを2人が達成するという現象も起きた。今回も四辻、法大・黒田将由が28分台。更に佐藤、順大・長山丞などの実力派ランナーが揃い、激戦も予想された。

 黒田はこれまで2年連続1区。駒大・内田と同様、1区のスペシャリストと言われていたが、前回は故障で出場できず、チームの惨敗に直結する原因となってしまった。今シーズンも予選会やロードレースへの出場を極力控えて、この本番にリベンジを誓った。5秒遅れでスタートした神大・下里和義が2キロ付近で追いついてきて、そこから共に前を目指して進んでいく。2人から1分ほど前で東海大・村上智、亜大・梁瀬建蔵、山梨学院大・小陣良太が5位集団を形成。互いに位置を入れ替えながら、4位の大東大・宮地章弘を追っていく。

 先頭が入れ替わったのが4キロ手前で、ちょうど藤沢バイパスの分岐点にあたる。信清、四辻、佐藤が通過して約6分後、ここでちょっとしたハプニングが起こる。17位の城西大・高岡寛典がバイパスの側道を通るところを、誤って直進してしまったのだ。幸い気付いたのも早くて、慌てて戻ったところに早大・篠浦辰徳がやってきて順位が逆転。このあたりにも初出場ゆえの初々しさが現れていると言えるのだろうが、2区で17位まで転落してしまった城西大陣営にとってはとてもそんな悠長なことを感じている余裕は無いはず。むしろひやりとしただろう。

 先頭は、藤沢市内の8キロを23分39秒で通過。相変わらず2人の並走が続いている。信清はそこから既に33秒離れており、直後には宮地、更には村上らが率いる5位集団も30秒後ろに迫ってきた。その中から小陣がやや遅れ気味だ。下里、黒田の9位集団が1分55秒差で前との差を若干詰めてきた。その後方では2区坂斎の健闘が追い風になったのだろうか、国士大・原田拓が順位を上げている。中大・中野裕介が逆に15位に転落。まだ浮上のきっかけをつかめない。まだ区間の3分の1を終えたばかりで大きな順位変動は見受けられない。

 先頭は10キロを29分37秒で通過。ここで大本命が動く。手袋を取った佐藤が前に出る。これに四辻が反応できず、じわりじわりとその差が開いていく。追う四辻も決して厳しい表情ではないように見受けられるのだが、差は開いていく一方。浜須賀から湘南海岸道路に出るあたりでは既に10秒ほどの差。

 湘南海岸道路に入ってくると、幾つかの動きが見られるようになってきた。既に5位集団からは離れてしまった小陣を下里、黒田がとらえて8位に浮上。そこで下里が10キロ以上に及ぶ並走に決着をつけて抜け出した。下里には2年前に3区2位で走った実績がある。1区中山でやや遅れたものの、吉村、下里の4年生コンビが順位を上げてきた。前回は2区で17人抜かれという悪夢を味わっただけでなく、10区でもまさかの展開に泣き、シードを手放す結果になったが、さすがに今回は同じような結末は無いだろう。

 茅ヶ崎では佐藤と四辻の差が21秒。一時は30秒ほどまで開いたが、四辻も何とか粘って差を押し戻そうとしている。宮地は3位をキープしているが、次第に差が開きつつあり、むしろ後方の梁瀬の走りに勢いがある。梁瀬に離された村上だが、順位は5位に上げてきた。その後ろに信清、下里、黒田が約10〜15秒間隔で続いている。

 湘南大橋手前では後方で下里が5位に浮上してきた。抜かれた村上の状況がむしろ気になった。足をしきりに叩いている。恐らく痙攣と思われるが、優勝候補とも言われた東海大にとっては少し痛い状況である。それは18キロ過ぎで梁瀬に振り切られた宮地を見つめる大東大も同じだろう。気温は14度で、とても1月の気温とは思えなかった。優勝候補の中で今のところ順風満帆なのは大本命・駒大だけである。5区に強力布陣を敷いている東海大、大東大も、安易に駒大を逃してはならないことは重々承知だ。だが目論みはやや崩れてきた。村上は痙攣で終盤の伸びを欠き、また宮地も苦しい走りになっている。

 駒大がトップで平塚中継所を通過。2位の日体大とは1分10秒差。そこから31秒差でやってきたのは神大だ。下里は湘南大橋を過ぎてからも勢いが衰えず、前を行く選手をどんどんかわして結果7人抜きの快走。この下里と佐藤が1時間4分16秒の同タイムで区間賞を分け合うことに。前半で先頭争いに決着をつけた佐藤を、後半で一気に順位を上げた下里が区間記録でちょうど同じだったということになる。神大の区間賞獲得は75回大会以来5年ぶりだった。

 4位は梁瀬の健闘が光った亜大。黒田の力走で6位まで順位を上げてきた法大も、ここで流れに乗り上位戦線へ浮上してきた。9位の日大まで3分1秒差だから、まだいくらでも順位変動が起きうる展開だった。その中で大東大、東海大がいま一歩上位へ浮上できない。優勝候補がまたここで流れに乗り損ねる格好となった。逆に神大、亜大、法大と予選会突破組の健闘が目覚しい。中でもほぼノーマークの状態だった亜大の快進撃には驚くばかりである。岡田監督曰く「唯一の不安」と言われた2区を岩崎が区間8位で乗り切ったことで、勢い付いたのは間違いないだろう。

 逆に名門校には相変わらず光が見えない。山梨学院大は11位まで転落し、順大も長山が前回の走りに及ばず13位。中大も16位と苦戦が続く。早大は区間3位の力走を見せた篠浦が中大から16秒差に詰め寄ったが、結果的には序盤に城西大を抜いただけにとどまる。もう少し2区までに前が見えていればと悔まれる。

 3区のごぼう抜きは下里の7人抜き。原田の健闘が光った国士大も4人抜きで12位に浮上し、19番目の大学とは思えないような大健闘だ。逆に急遽選手変更をした東洋大は7人抜かれで8位に転落。2区三行の区間賞で得た貯金を吐き出す形になった。山梨学院大も6人抜かれで再び11位まで下がってしまった。

 名門校は流れに乗ったと思ったところで、伸びきれずに順位を落とす。一方で有力校と言われたチームも駒大より後ろにいる。駒大以外は決して順風満帆ではないようだ。戦前、大八木助監督が「4区でトップにたっていたい」と言っていたのは、5区に中井、馬場を擁する東海大、大東大を意識したものであることは明らかだ。その駒大が3区でトップに立って、対照的に有力校は未だに抜け出せないでいる。

 この3区で駒大が先頭に立った…これで大方の予想は決着してしまうのか?

3区成績
通過順位 大学名 トップ差 選手名 区間タイム 区間順位
駒大 佐藤 1:04:16
日体大 01:10 四辻 1:05:25
神大 01:41 下里 1:04:16
亜大 01:47 梁瀬 1:05:26
大東大 02:10 宮地 1:06:00
法政大 02:33 黒田 1:05:13
東海大 02:43 村上 1:06:21
東洋大 02:57 信清 1:07:37
日大 03:01 白柳 1:06:18
帝京大 03:48 佐藤 1:05:43
山学大 03:49 小陣 1:07:30
国士大 04:06 原田 1:05:27
順大 04:45 長山 1:06:12
中学大 04:48 江藤 1:05:57
東農大 05:16 加藤 1:06:39
学連選抜 村刺 1:06:51
中大 05:40 中野 1:07:04
早大 05:56 篠浦 1:04:31
城西大 08:19 高岡 1:07:19
関東学大 08:56 鈴木 1:06:29


4区   20.9km 平塚中継所〜小田原中継所 
区間記録 藤田敦史(駒澤大) 1時間00分56秒 75回大会@‘99年


 駒大・田中宏樹は2分58秒で入りの1キロを通過した。出雲、全日本とアンカー勝負で結果を残せなかったことは田中にとっても相当な痛みだったに違いない。しかし直後の大島合宿には参加せずリフレッシュしたことで、調子を取り戻してきた。田中を4区に抜擢したのは「東海大の中井と同じ区間で戦わせたくない」という陣営の狙いもあったようだ。現在は1分10秒の貯金があり、田中にとっては安心して走れる展開だろう。

 駒大にとってはこの4区は優勝への足掛かりとなる区間と言えるようだ。75回大会はエースの藤田敦史が2分20秒差をひっくり返して先頭に立ち、初の往路優勝へ導いた。この時マークした1時間0分56秒は、4区の区間記録として燦然と輝いている。78回大会では序盤でやや苦戦を強いられたものの、4位で襷を受けた松下龍治が3人抜きでトップに立ち、2年ぶりの総合優勝へ大きく前進した。今回は既に先頭にたっているが、この4区で早くも追いすがる有力校にとどめを刺してしまうのか。その田中は1キロ3分ペースで快調に飛ばしている。

 まさに“順風満帆”を絵に描いたような駒大に比べて、2位の日体大以下9位日大まではいくらでも変わりそうな位置関係だ。この中では大東大・野宮章弘が前回も4区4位タイの実績がある。ロード巧者の東洋大・永富和真、日大・下重正樹にスピードランナーの日体大・熊本剛、東海大・越川秀宣…。現在は下位に低迷しているが中大・池永和樹も前回は4区8位だ。更に山梨学院大・高見澤勝も28分台ランナーの実績にかけて巻き返しを狙っているはずだ。また西脇工業高校から旭化成に進み、一転24歳の1年生となった城西大・中安秀人の走りにも注目が集まった。更には学連選抜は関西インカレ4冠の実力者でもある京産大・中川智博を起用し、上位浮上を狙う。

 3区終了時点でまだ二転三転すると思われた上位争いは、スタート直後に動いた。6位の法大・岡田拓也に越川が並ぶ。そして6キロ過ぎで前方にいた野宮に追いついた。駒大を倒す筆頭候補と言われた東海大と大東大が今大会初めてクロスする。序盤に並ばれて以来岡田も離されること無く5位集団を形成。この300M程前方では亜大・木許史博が神大・八津川裕二をとらえて3位へ。それぞれのポジションで細かな順位変動が始まった。

 二宮では2位を行く田中と日体大・熊本との差は2分1秒に広がった。2分39秒差で通過した3位集団を挟んで、越川率いる5位集団は3分22秒差。その後ろからは永富、下重が8位集団として前との差を詰めている。3位集団から8位集団までが1分差という混戦だ。高見澤はそこから50秒近く離されて単独10位。何としてもシードラインより内側の位置で往路を締めくくりたい山梨学院大にとってはまさにここが正念場だ。順大・松瀬元太率いる12位集団がそこから1分の差をつけられている。中大は6分22秒差の15位。前が見えている状況で池永が踏みとどまっている。しかし早大は7分1秒差の17位と苦しい状況が続く。

 前哨戦での敗戦が嘘のように余裕の快走を続ける王者・駒大。追いかける各チームがそれぞれの位置で混戦を繰り返している。

 その混戦は11キロ付近で更に加速する。5位集団の後ろから永富、下重が迫ってきた。それを見た岡田が「えっ?」と言う感じで横を見た。すぐに永富が5位集団を引っ張る展開に。後ろには 越川、野宮がいて、直後には岡田が控える。追いついてきた下重は永富と対照的に集団の最後方で待機。つまり後方から追いついてきた永富と下重が5位集団をサンドイッチにしている。けれどもその状態は1キロあまりで解消を迎える。永富が仕掛けて集団が縦一列に変わると、真っ先にその集団から抜け出した。5キロ過ぎからやや苦しい表情だった野宮が遅れ気味。追い上げたいという目論見とは裏腹に離され気味の野宮。大東大が3区に続いて波に乗り切れない。

 1区橋ノ口が終盤失速した山梨学院大、2区藤井で流れに乗り切れなかった日大が苦しい展開を強いられている現在、駒大を倒せる可能性があるのは大東大と東海大に絞られていた。しかし既に3分以上の差をつけられてしまっている。1区から駒大に食らいついていた日体大も、3区四辻が離されると熊本も伸びずに、更にその差を広げられている。有力どころといわれた大学が今ひとつ波に乗り切れないことが、駒大に余裕を与えていた。

 田中の18キロ通過は54分15秒前後。前半には細かいアップダウンが続く4区とはいえ、ここまで3分ペースを維持してきた。だが4区の難しさはここからである。小田原市内を通り抜けると山風の為に体感温度が下がるだけでなく、じわじわと上り坂が始まっていくのだ。前哨戦の敗戦で一度は挫折も経験したが、そこから這い上がった精神力は見事なもの。追ってくる選手の姿はもう見えない。小田原本町では2位の熊本に2分36秒の差をつけていた。追う熊本にとっては何とも厳しい展開だ。何しろスタートしてからずっと一人旅。前との差は開いていくのに、後方から誰も上がってこない。

 それもそのはずで、3位集団は10キロ以上に渡る並走を続けていて、熊本から約1分20秒も離れていたのだ。これを単独5位に浮上した永富が射程圏内に入れ、そこから約10秒差で越川が率いる6位集団がいる。一度は遅れかけた野宮も何とか食らいついた。岡田と越川は既に1キロの手前からずっと並走を続けている。

 田中は最後の坂も乗り切ってトップで襷を渡した。1時間3分20秒で区間賞を獲得。明らかに気温が高かったこともあって記録的にはやや伸び悩んだが、それでも後続に影すら踏ませぬ走りは5区へ向けてそのまま大きなアドバンテージとなった。そして何よりも秋シーズンの失敗を見事に晴らす快走は、次期エースとしての絶好のアピールになったことは言うまでもないだろう。そして日体大が2位でやってきたが2分51秒差。既に1キロ近くに広がっていた。3区途中まで駒大と並走していたことを考えると、四辻、熊本で離されたのは痛い。別府監督の思惑によれば「4区で勝負」のはずだったから、微かに抱いていた往路優勝へのシナリオも消えてしまったことになる。裏を返せばそこからの30キロで2位にこれだけの差をつける駒大の凄さとも言えるのか。

 トップ通過から4分が過ぎようとしていたその頃。小田原中継所はリレーゾーンに7校の選手がひしめいて待機するという異常な事態になっていた。それもそのはず。小田原本町で3位集団から5位東洋大・永富を挟んだ6位集団までが約20秒差に迫っていたからである。その6位集団では日大・下重が残り1キロでしかけて遂に集団が崩壊。それと同時に何度も食らいついていた野宮と岡田が離されていく。先に抜け出した永富は前の3位集団へ追いつき、神大・八津川がやや遅れていった。永富は直前で亜大・木許をかわして3位に浮上。5位の八津川まで僅か3秒差。そこから10秒差で下重と東海大・越川が並んで襷リレー。更に10秒開いて大東大・野宮と法大・岡田も同時に襷リレー。3位東洋大から9位法大までが僅かに23秒の間にひしめく大混戦だった。特に 5人抜きを演じた永富は区間2位、3人抜きの下重は区間3位と好走。 この争いに加わってもおかしくないと思われていた山梨学院大・高見澤は区間10位と伸び悩み総合でも10位のまま。前との差を縮めるどころか、逆に広げられてしまった。強い4枚のうち、森本を欠き、残りの3枚を使い切ってしまった時点で10位では、前よりも後ろが気になる位置と言って良いだろう。

 実際に山梨学院大の後ろに複数の大学が見え隠れしていた。2区坂斎の勢いで3区では12位へ上昇していた国士大は大学院生・岡賢宏が頑張って23秒差の11位まで躍進した。10年ぶりに箱根路に復帰したとは思えないような健闘だ。同様に序盤出遅れていた中央学院大、順大、中大も渡辺祐介(区間5位)、松瀬元太(同8位)、池永和樹(同6位)と奮起。何とかシードラインまで見える位置に残っている。池永は中継所直前で転倒し、一瞬周囲を悲鳴が包み込んだが、何とか無事に襷リレー。15位の中大までが7分26秒差。その17秒後ろに学連選抜が16番目で続いている。しかしこの後ろが開いてしまった。早大は9分41秒差の17位。城西大も中安が区間14位タイとやや精彩を欠き18位のまま。往路優勝をも目論み、その勢いで何とかシード圏内へ滑り込みたかったはずの両校には致命的な展開となった。

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4区成績
通過順位 大学名 トップ差 選手名 区間タイム 区間順位
駒大 田中 1:03:20
日体大 02:51 熊本 1:05:01
東洋大 04:18 永富 1:04:41
亜大 04:19 木許 1:05:52
神大 04:21 八津川 1:06:00
日大 04:31 下重 1:04:50
東海大 04:31 越川 1:05:08
大東大 04:41 野宮 1:05:51
法政大 04:41 岡田 1:05:28
山学大 05:58 高見澤 1:05:29
国士大 06:21 1:05:35
中学大 06:30 渡邉 1:05:02
順大 06:35 松瀬 1:05:10
帝京大 07:09 井上 1:06:41
中大 07:26 池永 1:05:06
学連選抜 中川 1:05:34
東農大 09:37 山田 1:07:41
早大 09:41 藤森 1:07:05
城西大 10:51 中安 1:05:52
関東学大 14:03 瀧田 1:08:27


5区   20.7km 小田原中継所〜箱根 
区間記録 中井祥太(東海大) 1時間11分29秒 79回大会@‘03年


 先行する駒大・村上和春から約3分差で日体大・稲垣晃二が続き、その後ろ約1分差で、先程の3位争いの延長戦は続いていた。7位スタートの中井は日大・高橋秀昭と前を追っていた。これを馬場と法大・佐藤浩二が差なく追う展開。近年では往路の激戦が5区へも波及。大きな順位変動は決して珍しいことでは無くなった。中井は3分8秒、馬場は3分15秒で最初の1キロを通過している。登っているコースを考えるとまずまずのスタートと言えた。

 しかし意外だったのは6位集団に迫ってきたのは馬場ではなく、佐藤だった。馬場はじりじりとその差を広げられていった。先頭の村上は中井の区間記録を意識して序盤から快調なペースで推移している。追手を心配する必要も無い。前回は走れなかったが、それでも5区のリザーブ要員だった。よってこの起用は別に不思議なことではない。ただ、追ってくる中井との力関係を考えた時、先に大八木助監督が述べていた通り「4区までには先頭に立っていたい」という思惑の意味が理解できる。その意味で4区終了時点での4分あまりの貯金は出来すぎだった。

 村上、稲垣と続いてきてその後ろの3位争いで、沿道は一気にヒートアップする。まずは東洋大・菅原寿和と亜大・鈴木聖仁の3位争い。差が無く神大・内野雅貴が続いていたが、そこへ高橋を振り切った中井が追いつかんとする。直後に佐藤が迫って、馬場もまだそれほど離れていない位置に食らいついている。その差は30秒無かっただろう。まるで1区や2区のような混戦がまさかここまで続いてくるとは、誰もが思わなかったに違いない。

 函嶺洞門の手前で中井が3位集団に追いついた。これまではトータルでずっと7位をキープしてきた東海大だが、もうここで出来る限り前を抜いていかなければ勝ち目は無くなる。3キロ通過は中井が9分40秒だが、先頭の村上はそれより3秒速い。しかし、中井はひたすら前を追っているはずなのにいつまでたっても単独にならない。抜かれたはずの菅原と鈴木が、中井の後ろについたまま離れていかないのだ。それも2キロ以上に渡って、である。実績でも明らかに秀でているのは中井の方だ。大平台ではその中井が直後の2人ではなく、更に後ろを気にしている。と言うのもその後ろには20秒あまりで佐藤が迫り、更に内野、高橋もカーブによっては見えるような位置にいたからだ。馬場は既に中井と1分の差をつけられていた。ここまではやや重い足取りだったが、それでも前に高橋が見えてくると走りを取り戻したようだ。

 先頭の村上と稲垣の差は3分弱の状態を保っていた。序盤やや差を詰めてきた稲垣だが、しかしそれ以降はやや抑えに徹して、3区の途中からの一人旅が続いている。1年前には西脇工業高校の3年生として、都大路に登場。見事に頂点の座を勝ち取った。同学年の鷲見、保科が序盤からその名に恥じない結果を残しているだけに、この稲垣も置いていかれるわけには行かない。村上が小涌谷の踏切を通過した頃、遥か後方では、もう一つのスポットライトが当てられようとしていた。小田原では16番目のスタートだった学連選抜・鐘ヶ江幸治が既に10番目に浮上していたのである。ここまで6人抜き。実は大平台では鐘ヶ江が最も良いタイムで、25秒差で中井と中大・中村和哉が追っている。中村は鐘ヶ江にこそ抜かれたが、10位まで浮上してきた。これを中央学院大・信田雄一、山梨学院大・川原誉志文が追う展開になっている。1年前には先頭で山に入った山梨学院大にとって、この展開は予想外のはずだ。

 小涌園では稲垣は3分29秒差。やや駒大とは離されつつあった。その後ろに50秒差で中井と鈴木が続いた。10キロあたりで3位争いから菅原が脱落したが、しかし鈴木はまだ中井の後ろにぴったりとつき、時には横へ出るなど、山巧者らしい走りを見せている。法大・佐藤も落ちてきた東洋大・菅原を視界にとらえる勢いだ。後ろに約1分差で日大と神大が通過。この2チームはやや足取りが重いようだ。

 何とか9位をキープしている馬場を見送った小涌園の観衆はその直後にどよめいたに違いない。次にやってきたのは鐘ヶ江だったからだ。ここまでに6人を抜いている計算になる。これまでの歴史でも5区で6人抜きという記録は無い。しかも前年の中井が作った区間記録を上回るペースという展開だ。間もなく鐘ヶ江は12キロ過ぎで馬場を逆転し、9番目に浮上した。宮ノ下で3人の集団だった10位集団は信田が振り切り、中村はここにきてややペースダウン。川原もそこからは離され気味で、後ろからは順大・難波祐樹、帝京大・坂口大助が迫っていく。

 健闘の鐘ヶ江に比べて、ここまではやや押され気味の中井は13キロ付近で鈴木をようやく振り切った。すると前には稲垣の姿が見えてくる。4人抜きの“快走”に見える中井の走りは、しかし実際には予想外の展開だっただろう。思った以上に前との差が開き過ぎた。前を追って抜いていく度に並走状態になった。特に亜大・鈴木には10キロ近く食い下がられた。15キロ過ぎでやっと日体大・稲垣をとらえて2位に浮上するも簡単には引き離せない。芦ノ湯までに振り切ったもののここでも9番目通過の鐘ヶ江よりは遅いタイムだ。

 山頂近くになってくると前方から激しい風が吹いてくる。思い出されるのは77回大会でのあの死闘だろう。逃げる法大・大村一に、追ってくる順大・奥田真一郎、中大・藤原正和が迫った時、猛烈な突風が吹き降ろしてきた。下りに入っているのに前へ進めない。彼らが苦悶の表情を浮かべながら、懸命にゴールを目指す。そしてあの3人の猛烈な先頭争いが生まれたのだ。今回は駒大が余裕の先頭。追ってくる中井もまだ3分以上の差がある。

 ここで3位争いが面白くなってきた。やや失速気味の稲垣に鈴木、そして直後に迫ってきたのは法大・佐藤だった。3人抜きの走りを見せる佐藤は前回も5区を予定されながらも、直前の故障で欠場。しかし今回は快走を見せるどころか、前を行く3位の稲垣までを射程圏内にいれた。もしも稲垣まで抜けば5人抜きだ。

 しかしそれも先頭を行く村上には全く関係無い。今季成長を見せて陣営からは“秘密兵器”とも称された村上は積極的な走りを見せた。後半は風の影響もあって伸びを欠いたが、区間5位ならば上出来だ。5時間34分34秒の往路優勝は、駒大にとっては76回大会以来、4年ぶり3回目である。しかも3区途中からは全くの一人旅だった。追ってくる中井も5人抜きの快走で往路2位のゴールを切るも、その差は3分26秒。東海大にとってはかなり厳しくなった。それでも4年ぶり3回目の往路2位は往路最高順位タイだ。ただ、中井の区間記録は1時間12分54秒。前回より1分25秒遅い。風の影響もあったのだろうが、追い抜く度に直後につかれる展開で、予想以上に走りに集中できなかったことも考えられる。

 その中井に中盤まで食らいつく走りが光った鈴木の健闘で、50秒差の3位に入った亜大もまた往路最高順位を更新。その後ろ10秒差で4位日体大、6秒差で5位法大と続いた。やや離された東洋大も前年の轍を繰り返さず6位に踏みとどまった。予選会からの出場となった亜大、法大には誰もがびっくりだろう。まさか往路成績で5位以内に入ってくるとは誰も予想していなかったはずだから。中井の5人抜きで優勝戦線に踏みとどまった東海大、2区三行の区間賞が光った東洋大、1年生が額面以上の健闘を見せた日体大も前回は予選会からの出場だったチームである。それでも駒大には4〜5分の差を許してしまうほど、駒大の力は磐石だった。

 その後ろからやってきたのは何と鐘ヶ江だった。日大、神大も抜いてしまったことになる。その数何と9人抜き。これは勿論5区のごぼう抜きとしては記録である。しかもここまで中井を上回るペースで刻んでおり、区間賞への期待も膨らんでいた。そして7番目でゴールした鐘ヶ江の記録は1時間12分21秒。中井を33秒上回り、これで鐘ヶ江の区間賞は確定した。ここまで見せ場を作れなかった学連選抜だが、それでも前との差を保つ走りで繋ぎ、鐘ヶ江の快走で一気に浮上してきた。往路7位相当の健闘は立派の一言に尽きる。70回大会以来チームとしての出場が途絶えている筑波大にとっては、61回大会以来19年振りの区間賞となった。しかも区間記録保持者でもある中井を破ってのものだけに、その価値は大きい。

 その後ろはやや開き、神大、日大が戻ってきた。そこへ割って入ったのが3人抜きの快走だった中央学院大・信田。日大は前よりも後ろが気になる9位。藤井で流れに乗れなかったのがあまりに痛すぎた。約1分後に難波が戻ってきたが、直後につけていた帝京大・坂口が最後の右曲折を前に猛然とスパートして10位に入った。予選会で喜多監督が(10000Mで)31分台の選手を使わなきゃいけないほど選手層は薄い」と漏らしていたが、坂口もその一人だった。しかし苦手の山で3人抜きの快走を見せた坂口が、シード権奪還へ望みを繋いだ。難波はゴールを目の前にしてやや失速気味。そこへ山梨学院大・川原が猛然と追いついて、11位、12位。途中まで健闘していた中大・中村だが後半失速で13位。これは5区でブレーキに泣いた前回を下回る順位である。

 駒大がゴールしてから翌日の復路一斉スタートとなる10分が近付いてきた頃、芦ノ湖にやってきたのは14位の国士大・佐藤幸也だった。予選会をインカレポイントの“恩恵”によって通っただけに、「19位」の予想がされる中、4区で11位に浮上する健闘。しかも早大、中大、順大を後ろにみる展開には関係者も沸きに沸いたという。準備不足の5区で失速したのは致し方がない。10分とほぼ同時に佐藤がテープを切ったが、正式計時では10分1秒差で、国士大以降の大学が復路一斉スタートということになった。

 さぁ、その復路一斉スタートとなる大学はどこだろう?沿道の観衆も指折り数えていたはずだ。そして異変に気付いた。まだ、大東大・馬場がきていないことを。終始足取りが重かったのは承知でも、いくら何でも遅すぎる。その馬場は20キロ過ぎまできていたが思うように足が動かない。早大・五十嵐毅に逆転されて16位に転落してしまう。抜いていった五十嵐が急速に離れていく。対して馬場は真っ直ぐに走ることが出来ない。すかさず運営管理車から只隈監督が降りて、馬場の下へ駆け寄り水を渡す。その声に反応はするが、既にもう正常な意識を失っていた馬場は真っ直ぐに走れない。何とか16位でゴールはしたものの、9人に抜かれてしまった。もう総合優勝は望めない。それどころか最低限の10位も霞む状況だ。

 17位東農大、18位城西大、19位関東学院大と続いた。城西大は1区好発進も、2区以降で精彩を欠いた。やはり箱根の厳しさを味わったと言えるだろう。

 優勝した駒大の順風満帆さだけが際立った。逆に優勝候補が次々と脱落した。まず山梨学院大が1区で、日大が2区で躓いた。そしてこの2区間を乗り切った大東大、東海大さえも3区、4区で連続区間賞の駒大に大きく水をあけられた。大東大は5区で優勝どころかシード権さえも絶望的な順位に転落した。東海大は中井の粘りで何とか意地を見せたが、如何せん前との差が開きすぎた。

 それは名門校、伝統校にとっても厳しい結果になった。日大が9位と何とかシード圏内にいるが、山梨学院大が11位、順大が12位、中大が13位、早大が15位、そして大東大は16位という体たらくである。この中で復路にも駒を残している日大、順大、中大には何とか巻き返しの余地が残されているが、前半重視の策が実を結ばなかった山梨学院大、早大はここでシード権は絶望的となった。大東大も復路での巻き返しは必至だが、シードラインには届くかどうかといったところ。こんな結果を誰が想像したのだろう。

 対照的に戦前はシードライン、或いはそのラインよりも外側に弾かれるのではないかと言われた亜大、法大の健闘が光った。日体大、東洋大、神大、中央学院大も誤算を最小限にとどめており、上位進出、シード死守へ可能性を広げた。6位の東洋大までは大きく崩れなければシード権を失うことは無いだろう。しかし7位神大から13位の中大までが1分53秒差の間にひしめいている。復路でもシード権争いは予断を許さないだろう。このラインへ大東大が僅かな望みを繋ぐことは出来るのだろうか。学連選抜の動向もまた注目されるところだ。

 こうして往路を終えた時点で、東海大だけが駒大に対抗できる唯一の存在になってしまっていた。

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5区成績
通過順位 大学名 トップ差 選手名 区間タイム 区間順位
駒大 村上 1:13:59
東海大 03:26 中井 1:12:54
亜大 04:16 鈴木 1:13:56
日体大 04:26 稲垣 1:15:34
法政大 04:32 佐藤 1:13:50
東洋大 05:10 菅原 1:14:51
学連選抜 鐘ヶ江 1:12:21
神大 07:00 内野 1:16:38
中学大 07:03 信田 1:14:32
日大 07:18 高橋 1:16:46
帝京大 08:22 坂口 1:15:12
山学大 08:25 川原 1:16:26
順大 08:25 難波 1:15:49
中大 08:53 中村 1:15:26
国士大 10:01 佐藤 1:17:39
早大 10:48 五十嵐 1:15:06
大東大 11:35 馬場 1:20:53
東農大 12:34 宮本 1:16:56
城西大 15:19 千島 1:18:27
関東学大 18:56 末次 1:18:52