第80回箱根駅伝復路プレイバック

出場チーム
駒澤大・山梨学院大・日本大・大東文化大・中央大
東洋大・東海大・順天堂大・日本体育大・中央学院大
法政大・亜細亜大・神奈川大・帝京大・東京農業大
関東学院大・早稲田大・城西大・国士館大・日本学連選抜


第80回箱根駅伝往路オーダー(2004.1.3)
チーム名 6区 7区 8区 9区 10区
駒大吉田斉藤本宮塩川糟谷
山梨学院大矢崎飯上片貝元原向井
日大末吉仙頭土橋武者原田
大東大古川田口矢嶋柴田島澤
中大野村家高山本高橋河合
東洋大南川川畑濱田渡辺鈴木
東海大永松小出影山根立古賀
順大長谷川和田井生長門三原
日体大上野関根梅枝山田青野
中央学院大斉藤杉本河南蔭山奥村
法大白田山口原田中村秋山
亜大五十嵐尾崎中村堀越山下
神大竜田森脇村井島田佐藤
帝京大清野白石斉藤東山
東農大渡辺 長谷部早川横峯恒松
関東学院大粟飯原小沢伊藤阿久津惣台
早大高岡大浦河津岡部
城西大斎藤内田前田富岡南谷
国士大新井神山菅原細美岩澤
日本学連選抜稲井(立命)辻(京産)末吉(岡)秦(國)片岡(北教)


6区   20.7km 箱根〜小田原中継所 
区間記録 金子宣隆(大東文化大) 58分21秒 77回大会@‘01年


 駒大・吉田繁はこれが3年連続3回目の6区である。トラックにはそれほど姿を見せず、ロードでの実績もない。まさに山下りの為だけに磨きをかけてきた“職人”である。前回は区間5位ながら本人にとっては不本意な結果と振り返っているだけに、最後の舞台での雪辱が期待された。

 吉田が1キロを通過した頃、芦ノ湖畔ではスタートラッシュを迎えていた。2位の東海大・永松剛が飛び出してから50秒差で亜大・五十嵐利治、その後ろ10秒差で日体大・上野飛偉楼、更に6秒差で法大・白田雄久がスタートしていった。この中では前回1年生ながら区間3位で走った白田が面白い。しかも前との差は僅差で上位浮上が更に望める位置だった。

 その後ろからスタートしていった東洋大・南川勝大はランニングシャツ姿でスタートした。さすがに昔に比べて寒さが緩みつつあるとは言え、この6区は半袖か厚手のシャツが多い。スタート時にはまだ0度前後だからである。山を下れば幾分気温も高くなるが、それでも選手はそれぞれに寒さ対策をしてこの6区に臨んでくる。

 7番手スタートが学連選抜・稲井義幸で、その後ろ55秒差で7位の神大・竜田美幸がスタートして行った。この辺からはシード権という見えないボーダーラインを挟む攻防が見えてくる。そして後ろの選手をどこかで気にしながら、或いは完全に度外視する作戦で、6区をスタートしていった。

 “後ろの選手”とは8分53秒差、14番目でスタートした中大・野村である。1年時は区間3位。そして昨年は雪の降りしきる悪条件の中で唯一60分どころか、59分台も切る58分54秒で堂々の区間賞をマークした。6区の区間賞候補の最右翼である。しかもチームは往路13位に苦戦。“優勝を宿命付けられた名門”がこのような地位に甘んじているわけにはいかない。せめて復路優勝だけでもという狙いが野村の走りにかかっていた。前回は4人抜き。今回は57分台突入も視野に入れるという。加えて田幸コーチからは「前を行く6校を(=7位の神大)抜くこと」も言われたという。その流れで上位進出を狙い、結果として復路優勝で名門の意地を見せたいというところか。

 一斉スタートの中には大東大・古川の姿もあった。この中でシード権の可能性が唯一残されていると言えるが、一斉スタートであることを考えると、10位校より更に前へ行かないと10位にはならないことになる。大東大は見えない敵をも相手にしなければならなかった。

 先頭の吉田が慎重すぎる入りに徹した背景には前年の反省があった。山下りの6区とは言われるが、最初の5キロは登っている。そして最後の3キロは平坦コース。足の使いどころが全く違うこの6区は想像以上に難しいコースである。吉田は前年、序盤の登りで気負いすぎてしまい、それが全体の走りに響いたと考えていた。ただ、過去2回とは違うのが先頭を、しかも3分以上の貯金がある状態で走っていることだ。無理に気負う理由は無い。加えて前年より調子も良く、自分のペースで刻んでいるという印象を受けた。

 後続は前後が詰まった位置で動きが見られる。1キロで五十嵐に上野が並び3位タイに。直後からは白田も迫ってくる。4キロ付近ではこの3人が約5秒間隔で並ぶ。上野は前日に往路を大いに沸かせた1年生のうちの一人である。“強力な1年生”と言われる日体大1年生カルテットのトリを飾る選手。そして芦ノ湯では前を行く永松の姿が大きくなってきた。上野が更にペースをあげて迫る勢い。置かれ気味の五十嵐に白田が迫る。7キロ過ぎで五十嵐を抜くと、2位争いを演じていた上野と永松まで抜き去った。5位の五十嵐がその後方で何とか見える位置に食らいついていた。

 そして遥か後方で野村は2キロを5分58秒とまずまずの入り。まずは芦ノ湯で順大・長谷川清勝と帝京大・清野祥啓をあっという間に抜き去って11位に浮上。ダイナミックなフォームを繰り出して、更に前を追った。7キロ過ぎで山梨学院大・矢崎登久を逆転して10位。

 小涌園では白田が単独2位に浮上したが、7秒差で永松、上野が粘って、五十嵐も15秒遅れているだけ。日体大と法大は若干ながら駒大との差を詰めてきたが、東海大は51秒更に離されてしまった。逆に言えば吉田の走りが下りに入って変わってきたと言える。野村は8分15秒差まで詰めてきた。シード圏内に突入させたが、しかしまだあと3人抜かなければならない。幸いな事に前を行く選手とは少しずつ迫ってきている。

 一斉スタート組では早大・高岡弘が先頭で通過。そこから22秒差で古川が続いた。シード権死守に向けて古川はひとつでも順位を上げなくてはいけない。既に前回から“秘密兵器”と言われながらも、直前の故障で能力披露は1年持ち越された。高校時代はバスケットボール部に属し、インターハイをも射止めている異色選手だ。

 区間賞争いでは野村が優勢。11キロで中央学院大・斉藤伴和を交わし、更に前へ迫る勢いだ。既に1キロを2分30秒前後のペースで刻んでいる。前方では白田が吉田をじりじりと詰めている。前回は惨敗した法大陣営にとって、この白田の走りは大きな収穫だったろう。成田監督からは「6区はお前の区間だ」と絶大の信頼を置かれているが、ここまでは期待に違わぬ走りを見せている。前半は健闘した上野がここにきてやや離され始め、そこへ永松を抜いた五十嵐が盛り返してくる展開。2位争いはまだ予断を許さない。

 しかし吉田には余裕が感じられる。16キロ過ぎでは沿道のファンにガッツポーズで応えているのを見ると、混沌の2位争いやシード権争いとは、まるで別次元のようなレースに見えてきた。遥か後方を行く野村との差は大平台で7分49秒差。1分以上差を詰められているが、首位の座は安泰だ。直後をいく白田との差も一端縮まったものの、再び開きつつある。

 野村は14キロ過ぎで日大・末吉翔を抜いて8位に浮上。こうなってくると今大会で初めてと言える区間新記録への望みも見えてきた。しかしここからが6区の難しいところだ。箱根湯本を過ぎてからの残り3キロは、一転して平坦なコースになるが、ずっと下ってきた選手にとっては上りのような感覚にみえるという。たちまちブレーキを起こしてしまう危険性も多分に孕んでいるのだ。

 吉田は20キロを58分10秒で通過し、最後の平坦コースでもスピードが落ちない。60分1秒と結果的には60分切りを逃したが、区間3位に粘った。2位には上がったものの終盤やや苦しくなった白田との差は5分2秒。その後ろには永松が盛り返し、上野、五十嵐まで53秒差。流れ一つで2位はまだまだ変わるだろう。しかし優勝への望みを託していた東海大にとって5分23秒差は痛すぎる。

 注目はいよいよ野村の記録に移る。19キロ過ぎで6番目の標的となった稲井を射程圏内に入れた。しかしここで稲井が粘りを見せる。学連選抜にとっては山そのものが特殊区間。稲井も決して得意ではないが、平坦コースで粘りを発揮。逆に野村のペースがやや落ち始める。区間記録とはほぼ同じようなペースを刻んでいるだけに、何とか粘りたいところだったが、58分29秒…。惜しくも区間記録には及ばなかった。それでも歴代2位タイの走りで文句なしの区間賞を獲得。復路反撃への狼煙を高らかに上げた。中大は山の区間だけで6つ順位を上げたことになる。 しかしそれ以上に順位を上げたのは7位アップの法大だ。4区9位から、往路終了時点では5位へ。 そして6区2位に躍進。これまでは超エース依存型で、山の区間は苦手という印象があったが、見事な変貌ぶりだ。61年振りの最高順位3位も見えてきた。総合順位こそつかないが5区鐘ヶ江の区間賞で波に乗った学連選抜も8番目で推移。

 復路で注目されるシード権争いは9位日大を基準に、10位の中央学院大が4秒差、11位の順大が31秒、12位の山梨学院大は1分11秒差にとどまっている。しかし往路を10位で終えた帝京大は清野が区間最下位タイと苦しみ、山梨学院大・矢崎から更に2分8秒離される13位に転落。大東大も古川が区間15位と伸びず、16位のまま。10位との差は5分44秒と逆に開いてしまった。

 復路成績では当然中大がトップで、これを1分27秒差で神大、1分32秒差で駒大が追う展開だ。神大・竜田も59分56秒で60分切りを達成したが、野村の走りが勝っていた。それは“優勝”への執念を感じた中大の反撃が始まった。しかし駒大も復路3位の出足なら上々だろう。

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6区成績
総合順位 大学名 トップ差 選手名 区間タイム 区間順位
駒大 吉田 1:00:01
法政大 05:02 白田 1:00:31
東海大 05:23 永松 1:01:58
日体大 05:35 上野 1:01:10
亜大 05:55 五十嵐 1:01:40
東洋大 06:33 南川 1:01:24
神大 06:55 竜田 0:59:56
学連選抜 稲井 1:01:11
中大 07:21 野村 0:58:29
日大 08:07 末吉 1:00:50
中学大 08:11 齋藤 1:01:09
順大 08:38 長谷川 1:00:14
山学大 09:18 矢崎 1:00:54
帝京大 11:26 清野 1:03:05
早大 11:42 高岡 1:00:55
国士大 13:05 新井 1:03:05
大東大 13:55 古川 1:02:21
東農大 15:26 渡辺 1:02:53
城西大 18:22 斎藤 1:03:04
関東学大 21:43 粟飯原 1:02:48


7区   21.2km 小田原中継所〜平塚中継所 
区間記録 武井隆次(早稲田大) 1時間02分53秒 69回大会@‘93年


 先頭を行く駒大・斉藤弘幸は3キロを8分57秒で走っている。序盤やや下っていることを考えると慎重すぎる気もするが、これは日差しとそれに比例して上昇する気温を考慮してのものだろう。復路はとにかく上昇する気温、そして照りつける日差しとの戦いでもある。往路のようなスピード感だけでは危険を伴う。脱水症状に陥った選手も少なくないことが何よりの証拠だ。

   それでも2位法大に5分2秒の差をつけた駒大は、大ブレーキさえなければ総合優勝は堅い状況だ。そうなると2位争いに注目が集まってくる。53秒の間に2位法大から、東海大、日体大、亜大までがひしめいている。更に東洋大を挟んで、神大、中大も見えてきたし、日大、順大も終盤では上位戦線に割ってくる可能性がある。1位以外はまだまだいくらでも順位が入れ替わることが予想できた。それはここ数年の終盤でのめまぐるしい順位変動が物語っている。実際に5キロ付近からその2位争いが熾烈になっていた。法大・山口航の後方から東海大・小出徹が迫ってきたし、その後方からは日体大・関根靖史も見え隠れしていた。いずれの大学もここ数年はやや精彩を欠いていただけに、復活、そして上昇を確定させたい。特に法大と東海大には最高順位の期待も残っている。まず8キロ付近で関根が小出に追いついた。お互いに前に出ようとしたり、視線を合わせたり、コース取りを意識したりと“肉弾戦”の様相を呈してきた。

 先頭の斉藤は5キロを14分57秒で通過したが、その後は3分5秒前後のペースに落としている。後半の細かいアップダウンを意識して抑えている感がある。序盤を抑えて、後半上げるというのは今や復路の鉄則だ。競り合う展開が少なく、気温の高い復路では、いかに自分の走りを見失わないで区間を全うできるかが、チームの成績を左右するからである。

 遥か後方ではシード権争いも動きを見せていた。11位スタートの順大・和田真幸が快調なペースで前を追う。すると6区で10位に転落していた中央学院大・杉本芳規が次第に近くなってくる。そして6キロで和田が杉本を逆転。今大会初めて順大がシード圏内に姿を現した。日大・仙頭竜典も9キロの先で追いつき、並走が始まった。

 一端静まったかに見えた2位争いは、中盤再び動きを見せる。二宮で斉藤と5分27秒差に広がった山口の後ろ10秒差に、3位争いの2人が迫ってきた。ここで小出が一気にペースを上げる。それまで何度か前に出る仕草を見せていた関根がみるみるうちに後退していく。山口のペースが落ち気味だったことも、小出の仕掛けを助長させた。12キロ過ぎで小出が並ぶ間もなく交わして2位に浮上。山口の表情は厳しく、関根の姿はどんどん小さくなっていく。

 後方では6位争いも熾烈になっていた。東洋大・川畑憲三に神大・森脇佑紀が並び6位に。その後ろ10秒差で中大・家高晋吾と学連選抜・辻裕樹が迫る。この2人はスタートしてから12キロあまり、ずっと並走状態が続いていた。中大は6区野村の快走で流れを取り戻した感がある。それは3区躍進のあと一端7位まで下がっていた神大も同じことだ。

 復路では比較的大きな動きは限られてきたのがこれまでの箱根駅伝だった。それは今も変わってない印象を受ける。しかし、細かな動きが以前にも増して見られるようになってきたことは、全体の戦力が底上げされてきたこと、拮抗してきたことを意味する。以前とは違い、復路一斉スタートになる大学が減ってきた。シード権争いの当落線上になる10位付近でさえ時差スタートだ。従って見た目の順番と実際の順位が一致しないという観戦上の特性も薄れてきた。前回からチーム数が増えたのに、である。

 そのシード権争いでは仙頭と和田の並走状態が続いており、ここが9位争いだ。二宮では24秒差で杉本が何とか見える距離で粘っている。12位の山梨学院大・飯上幸哉はそこから更に1分47秒差。小田原よりも前との差が開いてきた。山梨学院大にとっては厳しい展開だ。早大・原英嗣もそこからは約2分後ろ。全日本では4区途中棄権の無念を味わった選手だが、追っても追っても前が見えてこない厳しい戦いを強いられている。大東大・田口康平はまずまずの走りだが、やはり15位のまま。何とかシード権を目指したいという有力校の思惑が、はっきりと明と暗に分かれている。

 しかし先頭を行く斉藤にとって、後ろの激しい順位変動は全く気にならなかった。とは言え上昇する気温のせいか後半になってもペースが上がってこない。18キロを55分30秒前後で通過。1キロを3分15秒近くかかるようになった。明らかなブレーキとは行かないが、ただ後ろを離せるだけ離しておいた方がいいのだ。駅伝において言われている「貯金はいくらあってもいい」とはこのこと。19キロも58分40秒前後。後ろが全く見えてこないだけに逆に恐いのだ。区間記録は小出の方がやや有利で、家高、和田、斉藤、森脇らも大差なく続いていた。

 斉藤は最後の1キロで何とか走りを切り替えてトップでたすきリレー。1時間5分21秒というタイムは区間3位。昨年は低温で、今年は高温というコンディション。10区間で最も走りやすい区間であると言われる7区ではあるが、気温差の大きい区間でもある。

 追ってきたのはやはり小出。最初こそ関根と並走する展開であったが、それはあくまでも後半勝負を意識してのもの。10キロ過ぎに切り替えると、関根とのつばぜり合いに決着をつけ、前を行く山口を抜いたばかりでなく、一気に差をつける走り。

 1分15秒差で法大が3位に粘ったが、この後ろは大きく順位が動いた。二宮では6位だった神大が4位に浮上。1年生森脇の快走が光った。この区間やや苦戦気味の亜大・尾崎良知、更にはついさっきまで小出と3位争いを演じていた日体大・関根が後退してきたのだ。これを後ろから家高が逆転するという展開。しかし4位の神大から8位の東洋大までが1分3秒差。まだまだ順位が入れ替わるだろう。ここに学連選抜もいる。辻が家高に振り切られたものの、区間6位の力走で、7位亜大の後ろ10秒につけた。5区鐘ヶ江の区間賞で俄然勢い付いた学連選抜はロードに強いメンバーを復路に残しており、更なる上位食いが期待できそうだ。

 9位争いは区間2位の走りで和田が振り切った。17秒差で日大が10位に踏みとどまり、そこから49秒離れて中央学院大が11位にいる。ここまでがシード権争いに加われる位置だろう。昨年同様に中央学院大は微妙な位置だ。追う山梨学院大は飯上が区間18位のブレーキとなってしまった。順位は12位のままだが、11位とは2分53秒開いてしまい、シード権は絶望的となった。大東大もいまだ15位にもがいている。微かに残っているシード権への望みはほぼ消えかかっていた。

 復路成績では中大が1分31秒差で以前トップをキープ。2位の駒大から神大、順大まで僅か9秒。小出の区間賞が光った東海大は順位を8つ上げて5位に浮上。逆に山梨学院大は7つダウンの15位へ転落。往路では振るわなかった早大が復路順位ではここまで8位と健闘している。

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7区成績
総合順位 大学名 トップ差 選手名 区間タイム 区間順位
駒大 齊藤 1:05:21
東海大 04:55 小出 1:04:53
法政大 06:10 山口 1:06:29
神大 07:01 森脇 1:05:27
中大 07:22 家高 1:05:22
日体大 07:27 関根 1:07:13
亜大 07:28 尾崎 1:06:54
学連選抜 1:05:44
東洋大 08:04 川畑 1:06:52
順大 08:33 和田 1:05:16
日大 08:50 仙頭 1:06:04
中学大 09:32 杉本 1:06:42
山学大 12:25 飯上 1:08:28
早大 12:54 1:06:33
帝京大 13:48 1:07:43
大東大 14:58 田口 1:06:24
東農大 15:52 長谷部 1:05:47
国士大 16:48 神山 1:09:04
城西大 21:32 内田 1:08:31
関東学大 23:03 小沢 1:06:41


8区   21.3km 平塚中継所〜戸塚中継所 
区間記録 古田哲弘(山梨学院大) 1時間04分05秒 73回大会@‘97年


 野球でもサッカーでも、ホームチームは決して諦めない。場内を埋め尽くした多くのファン、そしてサポーターを前に、いかに叩きのめされようとも、決してただでは負けない。そしてそれを彼らもまた信じているからだ。箱根駅伝において東海大はホームタウンを持つ大学だろう。平塚から湘南にかけてはまさに地元中の地元だ。その最中を箱根駅伝のコースが通っているだけに、出場は大学にとっても長年の悲願だったと聞いたことがある。49回大会に初出場して以来32回連続32回目の出場だ。“湘南の暴れん坊”の異名を取りながら、一方では77回大会では途中棄権の涙に濡れたこともある。そしていよいよ訪れた初優勝のチャンスだった。

 しかし往路では3区、4区で伸びを欠いてしまい、結果として駒大とは大きな差がついてしまった。大崎コーチは復路のメンバーを集めて「優勝は出来ないよ」と伝えた。それが逆に自分達の走りを取り戻させることになった。確かに駒大が大崩れしない限り優勝は難しい。6区終了時点でついてしまった5分23秒差をひっくり返すには、“他力要素”まで呼び込まない限りは難しかった。

 だからといって可能性がゼロになるわけではない。復路優勝というタイトルは可能性がある。それに今回の躍進が近い将来、初優勝への布石となるかもしれない。ましてやここは東海大の地元。遥か前を行く王者にホームチームが黙って勝ちを譲るわけには行かなかった。

 前を行く駒大・本宮隆良が5キロを15分21秒と序盤をゆっくりと入ったのは、やはり計算のうちだろう。対照的に東海大・影山淳一は3分ちょっとのペースで入ってきた。先頭が序盤を抑えて入り、追っ手がやや速めに入るという構図は7区とあまり変わらない。茅ヶ崎で4分31秒差に詰まってきたところをみると、今年もまた“8区の法則?”が始まるのかと思った。

 実は75回大会以降、この8区では全て2位校が先頭を詰めているのである。その75回大会、更に77回大会、79回大会では、この8区の流れが後で首位交替劇の序章になっている。10区間で最もつなぎ的要素が強い8区は、上位校とてそんなに強力な選手が配されることは無い。配されたとしても本調子ならばもっと違う区間に登場している可能性が高かった選手ばかりだ。

 茅ヶ崎を法大・原田航が3位で通過していく。後方とはまだ1分近い差があった。このままの順位を維持していけば過去最高順位タイに並ぶ。神大・村井勇二との差は少しずつ離れている。区間順位でも影山と原田が上位にきている。中大・山本亮、日体大・梅枝裕吉、亜大・中村健太郎の5位集団の後ろからは東洋大・濱田智也、学連選抜・末吉勇の姿が次第に大きくなってくる。この辺からはシード権も頭をもたげてくる。順大・井生知宏、日大・土橋啓太はほぼ一人旅の展開だったが、この2人も前との差を少しずつ詰めてきていた。その後ろを行く中央学院大・河南耕二にとっては前が次第に離れて行くのに、後ろからはどこも上がってこないという苦しい展開だ。いつもとはどこか違ったシード権争いになろうとしている。

 確かにシード権争いとは別のところで熾烈な争いが始まっていた。先程の5位争いは8区スタートの頃から殆ど変わらなかった。山本が引っ張り、中村が並び、梅枝が直後に潜める展開。12キロ過ぎに更に後方から濱田と末吉が迫ってくる。この濱田もかなりのペースで追い上げている。5位集団は更にペースを上げていき、藤沢では4位の神大の50秒後ろに迫る勢い。更に50秒差の9位で井生がいて、土橋が10秒差に詰めてきた。この後の上り坂を考えれば、4位から10位まで大きく入れ替わってもおかしくはない展開だ。土橋は直前に風邪を引いて本来ならば走るべき区間ではない8区に回ってきた。優勝も狙えたチームが今やシード権争いの渦中にいる。何としても上位浮上への布石を打ちたい。

 本宮は3分10秒弱のペースを刻んでいく。この区間には後半に遊行寺の坂があり、ここを意識して抑えているとも受け取れた。しかしペースが落ちていかない代わりに、上がってくる気配も見えない。流れに乗り切れていない感じでもあった。13キロ過ぎから上がってきたが、さすがに遊行寺の坂では表情が厳しくなった。5キロ過ぎから汗が目立っていたが、一度外していた手袋をはめ直して、それで汗を拭くという行為に、上昇していく気温を感じ取ることが出来る。

 追ってくる影山は15キロを45分55秒で通過。藤沢では4分21秒差に詰まってきた。駒大には簡単に勝たせないという粘りが、先頭との差を次第に減らしていく。

 本宮の20キロは1時間2分50秒。すかさず運営管理車から大八木助監督が檄を飛ばす。
「意地出せ!」
影取では影山との差は3分50秒まで詰められていた。往路終了時点で確実視された優勝が、東海大の粘りによって揺らいできただけに、何としても傷口を最小限に押しとどめなければならない。1キロは離れているとは言え、7区以降の反撃で勢いに乗った東海大が残り2区間で駒大に迫ってくる可能性は十分にあった。大八木助監督の檄で何とか本宮が最後の坂を乗り切ろうとしている。

 結果的には見えない後方からの追撃に、差を詰められてしまった本宮だが、それでも大八木助監督は「復路でブレーキが起きるとするなら、8区」と戦前から考えていたようで、これも予想された誤算の範疇だったようだ。結果区間4位に終わったが、それでも大崩れやブレーキとは程遠いものだった。

 坂でややペースが落ちた影山は、残り1キロで息を吹き返し、もう一度駒大との差を詰めにかかる。1時間5分27秒の快走は、駒大との差を3分28秒差まで押し戻す区間賞の走りだった。しかもこの時季としては暑い部類に入る気象条件の中で8区歴代9位のタイムを叩き出したのだ。これで東海大は後続との差も広げることに成功し、2位以内の座をほぼ確定させたと言って良いだろう。6区こそやや躓いたが、小出、影山の連続区間賞で反撃に転じた東海大は、結果として往路終了時点のタイム差とも2秒しか変わらない位置まで、駒大を追い詰めてきたのである。確かにこの差を残り46キロで簡単にひっくり返すことは難しい。しかし決まりかけた流れは、これで分からなくなってきた。

 法大は原田が区間2位に頑張り、3位をキープしている。前後が約2分開いている状態で、このまま行けば過去最高順位タイが一層現実味を帯びてくるだろう。神大も村井がこの区間ほぼ一人旅の展開を強いられながら4位を堅持。昨年のような悪夢は起きないはずだ。

 この後ろは熾烈な5位争いだったが、終盤の坂でまず梅枝が脱落。逆に末吉が抜け出した。これには序盤突っ込んできた濱田もついていけずに後退。学連選抜が5番目に浮上して中継するという大健闘。亜大、中大が続いて、ここまでが6位。終盤にやや力尽きた中村、山本だったが、落ち込みは最小限にとどめた。

 逆に心配されたのが5位争いから真っ先にはじき出された日体大・梅枝だ。17キロ過ぎでは井生に逆転されて9位に転落。間もなく土橋にも逆転を許して10位に落ちてしまった。その後も前との差が大きく広がってしまう。前日にはこの折り返しの位置で先頭争いを演じていた日体大だが、ここにきて大きな痛手だ。7区と8区だけで6つ順位を落としてしまった。勢いを得た土橋は20キロ手前で先に梅枝をかわした井生を捕らえ、次いで濱田も逆転し7位に浮上。区間3位の走りは見事だった。しかしやはりこの区間は1年生が多く登場する区間。土橋の1時間6分39秒は学年別順位でもベスト10に入らない。もし、本調子で他の区間に回っていれば…と悔まれるが、能力の一端は示しているだろう。更に東洋大、順大も差なく続いた。4位神大から9位順大までは1分19秒差の中にひしめいている。まだまだ順位が入れ替わる可能性が高い。その争いから弾かれた10位の日体大は、9位の順大からも1分3秒差離されてしまった。日体大は69回大会で8区6位の展開から失速して、最後は僅かに4秒差でシード権を失っている。まさかとは思うが、その再現を見ているかのような展開だ。

 しかし…やはり今年はどこかシード権争いにも緊迫感は無い。11位の座は依然として中央学院大が守り続けていたが、河南が区間13位と振るわず。10位との差は1分22秒差に広がってしまった。しかも平塚で10位だった日大が8区で7位に浮上し、落ちてきた日体大との差が上記のような差にも現れていた。12位の山梨学院大もそこから2分27秒後ろのまま。13番目にやってきたのが何とかシード権への望みを繋ぎたい大東大。矢嶋信が区間10位に粘って、14位に浮上してきた。13位の早大とは24秒差だが、12位の山梨学院大とは2分差。11位の中央学院大とは4分27秒差。更にシード権への可能性が遠のいていく。

 18番目に通過した関東学院大が見た目でトップと16分34秒差。このあたりから次第に繰り上げスタートの心配が漂ってくる。まだ国士大、城西大がきていない。このうち国士大は残り1分10秒でたすきリレー。走り出す9区走者細美達也を、8区走者菅原修一が力強く後押ししたのが印象的。だが城西大はまだ残り1キロを通過したとの知らせ。手元の計算でも間に合いそうに無い。走る前田健太は前回は関東学連選抜の一員としてこの8区を走っている。たすきを外したが、時間だけは止めることができない。

 中継所では富岡悠平が待っているが、もう間に合わない。号砲…どよめきの中で、富岡は走り出していった。前田が中継所にたどり着いたのはそこから37秒後。前田のタイムが前回より3分近く遅い。明らかに本調子ではなかったことが伺えた。城西大のたすきリレーは遂にここで潰えた。

 復路成績では中大が依然リードしているが、駒大、東海大以下が差を縮めてきており、2位駒大とは38秒差。亜大が3つ、大東大が4つ順位を上げたが、逆に日体大が6つ、早大が4つ下げた。1区の序盤からずっと一人旅の状態だった関東学院大は総合順位を1つ上げて18位としている。

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8区成績
総合順位 大学名 トップ差 選手名 区間タイム 区間順位
駒大 本宮 1:06:54
東海大 03:28 影山 1:05:27
法政大 05:22 原田 1:06:06
神大 07:23 村井 1:07:16
学連選抜 末吉  1:07:07
亜大 08:03 中村  1:07:29
中大 08:15 山本 1:07:47
日大 08:35 土橋 1:06:39
東洋大 08:38 濱田 1:07:28
順大 08:42 井生 1:07:03
日体大 09:45 梅枝 1:09:12
中学大 11:07 河南 1:08:29
山学大 13:34 片貝 1:08:03
早大 15:10 大浦 1:09:10
大東大 15:34 矢嶋 1:07:30
帝京大 16:14 白石 1:09:20
東農大 17:45 早川 1:08:47
国士大 18:50 菅原 1:08:56
関東学大 25:30 伊藤 1:09:21
城西大 25:56 前田 1:11:18


9区   23.0km 戸塚中継所〜鶴見中継所 
区間記録 西田隆維(駒澤大) 1時間09分00秒 76回大会@‘00年


 駒大・塩川雄也は2分49秒で入りの1キロを通過した。一方追う東海大・根立友樹が2分52秒である。2区の裏返し区間で、序盤が下り坂であることを考えると、これはまずまずの入りと言えそうだ。復路のエースと言われる9区。このタイム差を考えると優勝争いはここで決着がつく。駒大が決定打を打てば3連覇は確実だ。東海大が詰めれば、10区まで予断は許さない。

 遥か後方では7位争いが面白そうだった。日大・武者由幸は岩井の代わりに「自分が行きます!」と志願して9区へ回ってきた。往路終了時点で武者の発したこの言葉で、復路は何とか盛り返してきた。優勝候補と言われた力の一端は何としても見せておきたかった。東洋大・渡辺史侑、順大・長門俊介も差無く続いている。4位の神大まで1分30秒と離れていないだけに、一気に上位へ浮上する可能性も彼らには残されていた。このうち長門が快調で、渡辺を交わすと、2キロ過ぎで武者に並ぶ。

 この長門もそうだが、9区はロード向きの選手が台頭する区間だ。先頭を行く塩川も、そしてそれを追いかける根立も、他には中大・高橋憲昭、神大・島田健一郎、日体大・山田紘之あたりもどちらかと言えばロード巧者だ。5000Mで13分台を持ち、ハーフの実績もある大東大・柴田純一は、確かに位置取りとしては厳しいが、最後のカードとして登場。このような展開は予想外だったに違いないが、最後の一縷の望みをかけて飛び出していった。

 塩川、根立はともに3分前後のイーブンペースを刻んでいるが、じりじりとその差が広がっていく。権太坂では3分55秒差まで押し戻されてしまった。確かに一人で走る展開が多い復路では、これだけ前後のランナー差があれば、“見えない敵”を相手にするようなもの。それだけに自分のペースを守ることが最重要視される。ただ、優勝争いとなるとそうはいかないのだ。70回大会で早大・櫛部静二が前半猛烈な勢いで飛ばし、逃げる山梨学院大・黒木純を1分差まで追い詰めながらも失速。結果的には前よりも差を広げられてしまったというケースがある。確かに日差しもあるし、アップダウンの激しい9区において、最初から飛ばしていくことは難しい。しかし復路の重要な区間であるが故に、重要性も認知されている。ここで決着をつけたいという思いは、走る選手のほうが強いのかもしれない。

 塩川は10キロを29分50秒で通過。アップダウンなので波はあるが、それでもほぼ3分ペースで刻んできている。しかし横浜駅前を過ぎてからは平坦になるが、暑さとの戦いになって、このペースを維持することは難しい。その意味からすると、塩川の走りは安全運転そのものと言える。塩川と4位の島田との間が7分28秒差。2位から4位まではそれほど大きな動きは無い。そこから30秒ほど後ろに亜大・堀越勝太郎と学連選抜・秦玲が並んで通過し、10秒差で高橋が続く展開だ。前回は山で蹉跌を味わった高橋だが、これはチーム事情による急なコンバートだから度外視。ロードの適性はチーム内でも評価されており、今回はここまで一番良いペースできている。更に40秒後ろでは長門と武者が相変わらず7位争い。渡辺はそこから30秒離されていた。日体大・山田の姿はまだその1分ほど後ろだった。

 シードを挟むボーダーラインよりは遥かに後方ではあるが、大東大・柴田はまだ微かに残されていたチャンスを目指して、懸命の力走を続けていた。序盤には山梨学院大・元原卓哉をかわして13番目に浮上している。しかし一斉スタートの大東大はとにかく時差スタートのチームを次々にとらえない限り10位以内の座は見えてこない。しかも今回は前後にランナーがいない苦しい展開だった。15番目で東農大・横峯英実と早大・河津直行が並んでいく。権太坂では10位日体大と11位中央学院大との差が2分1秒、12位の山梨学院大はそこから更に2分16秒の差だ。13位の大東大は5分22秒前の日体大を標的にしなければならない。当然柴田が区間賞か、区間新記録ぐらいの走りで詰めていくことが条件になる。

 その中にあって塩川のペースは相変わらず3分ペースだ。14キロが42分4秒。ここで左手からは大勢の観衆が見届ける。正月の初売りで賑わう横浜駅前にさしかかってきた。過去に私もここで観戦をした経験があるが、40分前に既に幾重にも重なっていたのを覚えている。真上には首都高速があって何か騒々しい。その中を根立が通り過ぎて行ったが、4分30秒差と更に広がっていった。15キロの通過が46分7秒。やはり3分ペースの駒大・塩川にじわりじわりと差をつけられてしまった。

 その後ろはあまり動きは無く、7位争いが決着したぐらい。横浜駅前で長門が抜け出した。往路では日体大の1年生が沸かせたが、やはり有力新人を多数獲得した順大も黙ってはいない。往路12位から鮮やかな盛り返しを見せている順大は、10区に向けても更に上昇する気配だ。復路成績では中大にも優勝のチャンスがある。往路で盛り上げた日体大、東洋大と、復路で盛り返した中大、順大。これらの現在の位置関係を考えると、前後半の差がくっきり浮かび出てくるのがわかる。

 横浜駅前を過ぎると鶴見中継所までは日差しとの戦いになる。前半飛ばした選手がやがて脱水症状に陥ってしまうことも多い。76回大会では東洋大・石川末廣の姿が中継所で映し出された。襷を渡せず号泣する石川の姿が記憶に残る。時間的にも最も暑い頃だ。そして23キロの長丁場で、それも区間の終盤での“灼熱地獄”…。じりじりと痛みがくるような、そういう意味で“厳しさ”と表したのだ。

 根立のペースが落ちていった。20キロが1時間2分6秒。1キロ3分10秒を要している。先頭を行く塩川もやや走りが重くなってきた。しかしこの暑さの中では致し方ない。後続とは4分以上の差を保っているから、もう首位の座は安泰と言える。着実に優勝争いにくさびが打ち込まれる音が聞こえてきそうだった。「在学中には(箱根駅伝で)1度も負けたくない」と言い切る塩川にとっては、3連覇も当たり前の命題。そこへ更に区間賞を視野に入れた走りで、総合優勝を確定させる走りだった。塩川も後半はやや失速した為に、横浜駅前からは東海大との差はそれほど広がっていなかったが、4分48秒差まで押し戻した。この差を23キロでひっくり返すことは難しい。

 この後ろの3位争いがもつれてきた。法大・中村洋輔が横浜駅前まではほぼイーブンペースで刻んでいた。このまま行けば過去最高順位タイである。しかし終盤で失速。当然島田との差が詰まってくる。しかしそれ以上のペースで追い上げてきたのが堀越だった。横浜駅前までに秦を振り切った堀越だが、その後もペースは衰えない。16キロ過ぎで島田を交わし、20キロで遂に中村を捕らえての三つ巴になった。

 堀越はここ2年は6区を担当。前回は突っ込みすぎて区間最下位に沈んでいる。既に今回が2度目の4年生。リベンジを果たすべく卒業をせずにチームに残って、この舞台の為に牙を研いでいた。高校の先輩でもあった木村恵也も2度目の4年生として昨年は2区に登場したが、区間18位に沈んでいた。「木村さんの無念を晴らしたい」という思いが、自分のリベンジと重なって、物凄い追い上げになっていった。亜大、神大、法大…予選会の上位通過校が3位争いを演じている。

 真っ先にきたのは堀越だ。襷を渡してガッツポーズし、勢いあまって転がり込んだ。恐らく区間賞を狙っていたのかもしれない。その後7秒間隔で神大、法大と続いた。法大にとっては悔まれる終盤での失速になった。一方3位まで順位を押し戻した堀越のタイムは1時間9分45秒。塩川を45秒上回るタイムで区間賞。しかも暑さの中で歴代7位の記録だ。亜大としても72回大会以来、実に8年ぶりの区間賞でもあった。まさに先輩の分まできっちりとリベンジを果たしきったと言える。

 中大・高橋がそこから約1分差で6位をキープ。その後ろ約30秒差で長門と秦がほぼ同時にやってきた。長門は区間4位の健闘。しかも学年別区間最高記録だった。日大は順位を一つ落としたが、ただ急遽抜擢された武者が区間8位と頑張った。沿道1キロ毎に部員を配して声をかけたという。その後ろから東洋大が9位、山田の力走で7秒差に追い上げてきた日体大が10位。前回とほぼ同じような位置取りで襷を渡した両校だが、それでも前年のような緊迫感は無かった。それもそのはずで、後方が大きく離されてしまったからである。

 前述した長門の学年別最高記録。それを1年前に塗り替えていたのが中央学院大・蔭山浩司だった。今回もシード権獲得への重要な渦中に投じられたのだが、前との差はポイント毎に開く一方。明らかに前回の走りとは思えなかった。結果区間19位ではどうしようもなかった。10位日体大との差は実に4分48秒差。シード権への望みは断たれた。

 横浜駅前では見た目の位置で約30秒に迫っていた大東大・柴田が姿を見せない。先に山梨学院大、更に東農大にも先を越された。終盤足を痛めて失速してしまったのだ。その表情が苦痛に歪む。やはり優勝を狙える戦力を保ちながら、1区でやはりずるずると後退した3年前を思い出させるような光景。区間17位で、総合順位でも15位に下げてしまった。この時点で微かに残されていたシードの望みは断たれた。“ガラスのエース”の代表的存在だった柴田だが、最後の箱根は微笑んでくれなかった。

 戸塚中継所で城西大が味わった繰り上げスタート。鶴見中継所では国士大も味わった。結局先頭から20分経過してこの2校が繰り上げになった。10年ぶりの復活ながら、ここまでは無事に襷を繋いできた国士大だったが、最後の最後で1本にまとめられなかった。懸命に走る細美達也が中継所にやってきたのはそれから1分25秒後のことだった。城西大・富岡悠平は4分54秒後に到着。昨年から参加校が20校に拡大されながら繰り上げスタートが無かった。その知らせを雪降る厳寒の大手町で聞いた観客の「おお〜っ」という、その安堵にも感じたどよめきは、同じ場所で観戦していた私にも記憶に残っている。しかし…やはり2年連続とはいかなかった。

 復路成績では中大が依然としてトップだが、駒大が18秒差に迫っていた。島田の好走で神大もその後ろ25秒差の3位にやってきた。順大が更に5秒で続く。よくみると駒大以外の3校は全て半年前の全日本大学駅伝関東地区予選会で苦汁を舐めている。だがここ一番の集中力ではやはり強かったのだ。8区で失速した日体大も5人抜きで10位まで浮上。往路では苦戦した東農大が11位、関東学院大が13位と健闘している。

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9区成績
総合順位 大学名 トップ差 選手名 区間タイム 区間順位
駒大 塩川 1:10:30
東海大 04:48 根立 1:11:50
亜大 07:18 堀越 1:09:45
神大 07:25 島田 1:10:32
法政大 07:32 中村 1:12:40
中大 08:35 高橋 1:10:50
学連選抜 1:11:40
順大 09:01 長門 1:10:49
日大 09:33 武者 1:11:28
東洋大 10:16 渡辺 1:12:08
日体大 10:22 山田 1:11:07
中学大 15:10 蔭山 1:14:33
山学大 16:06 元原 1:13:02
帝京大 17:19 斉藤 1:11:35
早大 18:20 河津 1:13:40
大東大 18:26 柴田 1:13:22
東農大 18:58 横峯 1:11:43
国士大 21:26 細美 1:13:06
関東学大 26:17 阿久津 1:11:17
城西大 30:50 富岡 1:15:24


10区   23.0km 鶴見中継所〜大手町読売新聞社前 
区間記録 北浦政史(駒澤大) 1時間09分54秒 79回大会@‘03年


 駒大・糟谷悟は3キロを9分16秒。襷の大学名がきっちり見えるようにかけるという念の入れ様。こんなところにも王者としての余裕を感じることが出来る。しかしその余裕とは裏腹のような1年間であったことはもはや説明する必要も無いだろう。大エースの不在、前哨戦での敗退、新勢力の台頭…。様々な不安材料が今回の“戦国駅伝”説を一層高めた。確かに本命としての地位は揺るがないものかもしれなかったが、その地位が例年に無く脆さを見せたのも事実だった。けれども選手層の厚さ、そして意識の高さ、“勝ち”へのこだわり…。本番へ向けても着実に戦力を上向かせていった駒大は、結果3区途中からの独走になった。前回10区で驚異的な区間新記録を打ちたてた北浦政史ですら10人の枠に入りきれなかった。“大一番は落とさない”勝負強さが際立った。

 大八木助監督が最もマークしていた東海大は、大東大など優勝候補が早々と崩れていく中で、最後の最後まで食い下がってきたが、9区で再び離されてしまった。総合優勝はほぼ不可能となった。しかし10区の古賀孝志にとってはこの順位を維持する使命がある。東海大は73回大会でマークした4位が最高順位。これを上回ることは堅い。3位の亜大とは2分30秒の差がある。よほどのことが無い限りこの位置関係がひっくり返ることはないだろう。しかし、“よほど”のことが起きる可能性はあった。

 5位の法大までが僅か14秒しかない3位争い。この争いが相乗効果を生んだら、その標的はやがて2位争いまで波及してくることもありえた。亜大・山下拓郎、神大・佐藤健太、法大・秋山和稔。この3人の間隔が都内に入ってから詰まり出す。まず佐藤が山下に迫り、5キロ過ぎで追いついた。しかし山下も前を譲らない。8キロ過ぎで佐藤が初めて前に出るが、それほど山下と差は広がらない。神大としては前年鶴見中継所を6位で通過しながら、土壇場で11位に転落という苦い経験がある。少しでも良い順位を目指して、神大がベスト3入りを狙っている。再び並走状態になった2人をその後ろ、それほど離れぬ位置で、秋山の目が光っていた。11キロ過ぎでその秋山も追いつき、3人による並走へと状況が変わってきた。

 後方では前回10区であっと言わせた東洋大もやはり上がってこようとしていた。まず8キロ過ぎで日大・原田徹をかわした東洋大・鈴木北斗が区間記録に匹敵するペースで前を追う。鈴木の遥か前には微かに見える6位争い。中大・河合恵悟に学連選抜・片岡祐介と順大・三原幸男が並んでくる。つまり3位争いが3人、6位争いが3人(学連選抜を含む)、これを東洋大、日大が追う展開になっていた。23キロに距離が伸びた時から、何かと順位変動が波乱を呼んできた10区だけに、これらの大学には多くの順位が予想できる展開だ。しかし例年と違ったのはシード権を挟まない位置での争いということだろう。

 糟谷、古賀がほぼ一人旅の状態で八ツ山橋を通過したが、3位争いは先頭と8分16秒差。そこからやや離れて6位集団。順大・三原が接触して転倒したものの間もなく追いついた。8位の鈴木が3位と1分40秒差。この中に7チームがひしめいているのだから、今後の展開は全くよめない。9位の座は日体大・青野宰明が奪い返して、原田はやや失速気味に離されていく。これが例年ならば“シード権が危ない!”となるのだろうが、今回に関してはあまりその気配は感じられなかった。11位の座にいる中央学院大・奥村雄大も序盤から速いペースで前方を追っているが、八ツ山での長い直線でもその姿は確認出来なかった。

 前半やや抑え気味に入った糟谷だが、都心に入って少しずつペースを上げ始めた。前半から突っ込むことで区間新記録をうちたてた前年の北浦とは対照的だが、それでも前半抑えて後半上げるというのはもはや復路の鉄則とも言われること。後方の古賀との差は少しずつ開いているようだ。

 一方予断を許さない3位争いは14キロ付近で真っ先に神大・佐藤が脱落。山下と秋山の並走状態も15キロ過ぎで決着がついた。山下がペースアップすると秋山は離れていった。このまま行けば亜大、法大も現状の順位をほぼ確定できるはずだろう。むしろ前年の悪夢を思い出させるような佐藤の状態がやや気になった。確かに後ろとの差はまだあった。しかし残りの距離もまだある。後ろの大学が標的として狙ってくる可能性もあるからだ。

 6位争いは17キロ過ぎで順大・三原がやや遅れていった。片岡が河合を引き連れる形で推移。冬は雪に閉ざされる北海道で練習しながら「冷ややかにみていたけど、でも憧れでもあった」箱根駅伝への道を“日本学連選抜”という思いがけないチャンスでものにしたのが片岡だった。確かに往路ではやや苦しい戦いを強いられたが、5区でのジャンプアップをきっかけに盛り返して大健闘。離された三原も決して大きく崩れてはいない。後方から鈴木も追ってくるが、前半のハイペースが祟ったか、勢いではやや鈍り気味だ。

 糟谷は20キロを過ぎて区間記録で鈴木を逆転しトップに立った。恐らく復路成績もトップにたっているだろう。きっちりとつけた襷は最後まで正面を向いたまま、糟谷は歓喜のガッツポーズで大手町のゴールへ飛び込んだ。1時間10分31秒は結果区間賞へと結びついた。復路ではこれが唯一となったものの、安定感に満ち溢れたものだった。これで駒大は日大、中大、日体大、順大に次ぐ史上5校目の3連覇を達成した。

 追う東海大にとっては前も後ろも目標のいない展開が悔まれるが、しかし古賀も最後はサングラスを外して、小さくVサインでゴール。2位は勿論大学史上最高の順位である。駒大との差は5分57秒。逆に言えば近年にない大差の優勝を駒大は実現したことにもなる。

 今大会最大の波乱とも言えた亜大の躍進振りは山下の走りにも見えていた。追いつかれても動じず、15キロを過ぎてからの冷静なスパートに、岡田監督の「ロード重視、スタミナ重視」の教えが確かにチームへ浸透していることを感じた。東海大からは2分29秒離されたが、それでも亜大の3位もまた大学史上最高の順位だった。しかも前回17位からのジャンプアップも記録である。

 前回は日比谷から京橋にかけての僅か数百メートルに6人がひしめく大混戦だったが、それを彷彿とさせるデッドヒートが、今回は中央通りで展開されて、沿道をますますヒートアップさせていた。先に亜大との3位争いで脱落した法大・秋山を片岡が捕らえる。そして、転倒に巻き込まれ、17キロでは一度離されてしまった順大・三原が物凄い形相で追いかけてきた。神大・佐藤の姿はここになく、また昨年の悪夢を予感せずに入られなかった。東洋大・鈴木も迫り、中大・河合も片岡、三原から離されたものの、佐藤を逆転して6位をキープ。この展開で最も心配なのが佐藤だ。シード権まで手放すという最悪の展開は無さそうだったが、ついさっきまで3位争いに加わっていただけに、急激な後退は心配である。これがただのペースダウンならともかく、何か体に異常をきたしてのものなら、楽観できない。

 日本橋を曲がった4位争いは更に過熱していった。三原が追いついて、3人による体がぶつかり合う肉弾戦。JRのガードをくぐってから三原、秋山がスパート。これには片岡がついていけなくなった。間もなく秋山が前に出る。何度となく追いついてきた三原は相変わらず粘りを見せるが、今度ばかりは相手の方が上だった。じりじりと離されていく。法大も77回大会に並ぶ戦後最高順位タイの4位だ。しかも前回16位からのジャンプアップだ。3秒差で続いた順大は往路12位からの盛り返しで戦前に仲村監督が掲げていた目標通りに5位へ。“復路の順大”は健在だった。

 その後ろ僅か5秒差で戻ってきた学連選抜。片岡は襷を外して、高々と掲げながらテープを切った。総合順位こそつかないが、“6番目”のゴールは戦前の予想を大幅に上回る大健闘だった。全国からのオールスターでも関東と戦えることを証明したものだった。片岡をメンバーが出迎えた。

 その後ろでは最後の直線で鈴木が逆転し、河合、佐藤を抜き去った。6位東洋大は実に21年ぶりの連続シード権獲得だった。7位に終わった中大も、こちらは20年連続シード権獲得。優勝を宿命づけられている名門には“惨敗”に近い数字かもしれないが、この偉大な記録は十分誇るべきものだろう。その後ろにやや失速気味の佐藤がゴール。6位東洋大と15秒差。失速が悔まれる8位ではあったが、ますはシード権を奪い返せてほっとしたことだろう。

 復路ではやや失速し、前年同様にひやりとさせた日体大も2年連続9位で落ち着いた。ただ、前年と違って一度は先頭争いにも加わっていただけに、惜しまれる順位だろう。3位の亜大とは3分1秒差。例年とは違う上位の席次争いで盛り上がった10区になった。

 失速していった日大・原田は結果区間20位に沈んでしまったが、それでも一向に後ろからは選手がくる気配を見せない。“指定席”の最後の切符を勝ち取った。

 結果的に奥村が区間4位と頑張った中央学院大にとっては何とも悔みきれぬ11位だった。その差が2分10秒差。やはり例年のような緊迫感の伝わってくる秒差ではない。8区、9区でもう少し…とは禁句かもしれないが、しかし結果は結果。2年連続のシード権獲得はならなかった。その後ろは山梨学院大・向井良人、東農大・恒松太陽、大東大・島澤誉寛の3人がデットヒートだ。復路では健闘した東農大が12番目。恒松はガッツポーズで飛び込んだ。その差4秒差で島澤が入り、向井が5秒遅れて続いた。ただ総合順位は山梨学院大の12位が確定しただけで、復路一斉スタートの2校はまだ順位が決まっていない。山梨学院大は72回大会以来、8年ぶりのシード落ち。だがこれは途中棄権によるもので、それを除けば16年ぶりのことになる。後に13位と順位が確定する大東大も4年ぶりのシード落ちとなってしまった。

 1区途中からほぼ一人旅の状態になった関東学院大は復路では意地を見せて、惣台宜明は16番目で戻ってきた。見かけのタイムで20分が過ぎてから、早大・岡部祐介、帝京大・東山毅が入ってきた。復路時差スタートだった帝京大のタイムが確定して14位に。その差1秒で15位に東農大となった。更に25秒差で16位に早大。早大としては30年ぶりの最低順位タイ。しかも連続シード落ちという屈辱を味わった。

 残ったのは鶴見中継所で繰り上げスタートになった2校で、先に戻ってきたのが城西大だ。南谷塁はゴール後補助員に抱きかかえられる前に崩れ落ちた。初出場は苦い味になったが、これは多くの大学がこれまでにも味わってきた“通過儀礼”。一方、20番目に戻ってきた国士大は迎える選手達も非常に明るい。岩澤優治を笑顔と大歓声で迎えた。

 総合順位では17位国士大、18位関東学院大、19位城西大となり、19大学の総合順位もここに確定した。

 復路成績では駒大がやはり優勝。これまで首位を守っていた中大は順大にも逆転され3位。それでも駒大と順大の差が1分29秒。駒大の安泰振りが目立ったが、復路では区間順位が全て4位以内だった順大も光った。9区までとの比較では亜大、東洋大、中央学院大が順位を上げた一方で、神大、日大が順位を下げた。往路との比較ではやはり中大、順大の飛躍が目覚しかった。逆に帝京大、中央学院大がシードラインより後退したのは、復路成績がそれぞれ17位、13位だったことによる。

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10区成績
総合順位 大学名 トップ差 選手名 区間タイム 区間順位
駒大 糟谷 1:10:31
東海大 05:57 古賀 1:11:40
亜大 08:26 山下 1:11:39
法政大 09:51 秋山 1:12:50
順大 09:54 三原 1:11:24
学連選抜 片岡 1:11:29
東洋大 10:27 鈴木 1:10:42
中央大 10:30 河合 1:12:26
神大 10:42 佐藤 1:13:48
日体大 11:27 青野 1:11:36
日大 13:57 原田 1:14:55
中学大 16:07 奥村 1:11:28
山学大 18:05 向井 1:12:30
大東大 19:34 島澤 1:11:39
帝京大 20:30 東山 1:13:42
東農大 20:31 恒松 1:12:04
早大 20:56 岡部 1:13:07
国士大 25:43 岩澤 1:14:48
関東学大 28:24 惣台 1:12:38
城西大 34:24 南谷 1:14:05