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革命悟朗党理念


今回の選挙(2000年6月25日 衆院総選挙)は投票率が60%ちょっと,
ということは「寝てろ」といわれた人たちが本当に寝ていたと言うことですよね.
今回初めて有権者が1億人を突破したんですよ.
4千万票を政治に反映させないで,「何も変わらない」とは何事か.
4千万票を共産党に入れてみな,かわるぜ〜.
逆に言うと実は変化を望んでいないと言うことでしょうか?
事実結果も一応そうなってるし.
はっきり言って僕は義務と権利の違いなんてよく分からないけど,みんな悔しくないのかな?
「天皇を中心とした神の国であるということを国民のみなさんにしっかりと承知をしていただく」
もそうだけど,
「そのまま寝てしまってくれればいい」
なんて弁解の余地はないでしょ.
だってそのまんまじゃん.

ところで,僕はいま共産党に大いに失望しています.
原因は3つ.
柔軟路線と選挙戦略と不破さんの敗戦の弁.

まず現実的柔軟路線.
これは良くなかった.
もちろん政党である限り,政権を担いたいというのは分かるけど,
たとえば選挙戦が始まる前から
「首班指名は鳩山由紀夫氏もあり得る」
といってみたり,政見放送で
「当面の課題で一致点を見いだせたら...」
と志位さんがソフトに語っている.
おいおい,当面ってどのくらいだよ.

次に選挙戦略.
共産党は300の選挙区すべてに候補者を立てて一人も当選していない.
社民党だって当選してんのに(社民党さんごめんなさい).
やっぱり不破・志位・穀田氏ぐらいは重複でもいいから小選挙区で立ってほしかったよ.
そうすればこんなに議席は減らなかったと思うな.

そして6議席減らしての不破さんのコメント.
これは情けなかった.
「すべては自公の謀略ビラのせい」
みたいなこと言っちゃうんだもの,がっかり.
他人のせいにするのは越智通雄(何が下から読んでも「おちみちお」だよ,バーカ)と
西村真悟だけで十分.
不破さんが言うぐらいだから,すごい誹謗中傷があったんだろうけど,
まずその場で徹底的に自己批判するぐらいであって欲しかった.

結局多くの人は共産党という名前にアレルギーを持っている.
政権入りが結構現実的になってきてみんな怖がっちゃったんじゃないかな.
どっちつかずなんだよね.
(僕の文章のように)何が言いたいのか見えてこない.

その点,社民党はわかりやすかった.
「元気に福祉,頑固に平和」以上,みたいな.

そこで僕は共産党に2つの路線を提案する.
理想路線と現実路線である.
 
まず理想路線であるが,
これは現在実現不可能な我らが理想を追い求める路線である.
当然党名・綱領はそのままに,我が党結党以来の主義を貫いていく.
最近イデオロギー対立に勝利したと思われている資本主義・自由主義社会から,
新たな価値観を模索するなかで右翼化の動きがある.
このことは我が国においても例外ではない.
我々はこの動きに待ったをかけ,
21世紀後半の政権奪取に向けて断固戦っていくものである.(あれっ,主語が変わってる)
 
次に現実路線であるが,これはイデオロギー対立の敗北を認めた上で,
党名・綱領を改め,
改憲志向の中道左派として再出発する.
党名はズバリ「革命悟朗党(GMRevolution)」
(比例区は革悟またはGMRとお書きください,くれぐれもG党などと略さないように注意しようね)だ.
そして社民党との違いをはっきりさせるために,
改憲派であることを前面に押し出していく.


第9条の変更

日米安保・ガイドラインの見直し

米軍基地の接収・国軍基地化

徴兵制の実施をめざす.


なんか結局両方とも非現実路線みたい.
でも野党で議席を減らしたのは共産党だけ.
とにかくこのままじゃまずいことは確か.


ということでやっぱり革命悟朗党


Copyright By GOROU

セレシウス暦201X年、
「世界同時悟朗革命」を標榜した革命悟朗党は
国民の圧倒的な支持を得て政権を奪取した。

「アナコンダ みんなで噛みつきゃ そこんどこどーなの?」
「急がば悟朗」
「ゴホンときたら 悟朗党」
「転ばぬ先の アナログコントローラー」
「なんにもなくても ナイスベンチャー」
「日曜日は野球の日」
「一日三本 三日で九本 一年通して二千発」を党則とし、

国民の間で「超悟朗式 革命無論理論 はい ロンが二つで
ダブロンです そこんとこよろしく ここんとこご無沙汰」が
「ええじゃないか」的支持を受けた。

ぶっちゃけた話、
共産党は一党独裁政治になる可能性が極めて高く、
資本主義は今後爆発的な発展が期待できない。
ならば、悟朗革命だ!!!
とばかりに、エボラ出血熱バリの感染速度と
潜伏期間の短さで、日本国民に思想が蔓延。

政権党の最初の仕事は、
「日曜日は野球の日、国有遊休地は全部野球場にする」
「田原総一郎はチンカス」
「すべてのディスコを雀荘に」
そして、
「十二歳は立派なオトナ、だから選挙に行くべき、
 今度テストに出るからしっかり復習しておくように」
だった。

無論、組織票を最後の砦としている野党は大反対。
時の首相福田悟朗は
「ん? ナイベン? ベンジョンソンはドーピング?
 じゃぁ、ドリチンってことで解散」
てなわけで、前代未聞の年五回解散をぶちかまし、
資金の尽きた各種野党はあえなく撃沈。
革命悟朗党の、世界で一番のんきな一党独裁が始まる。

そして、第二の悟朗党革命はパプアニューギニアで起こる。
北朝鮮にも悟朗革命の兆候が。

そして、世界は戦争の消滅と共に、
人口減少問題に直面する。

どうなる? 
革命悟朗党



20XX年
佐々木フィギュアが大流行

しかしブームは一瞬で去り、街の中は
佐々木フィギュアの残骸で溢れかえり、社会問題に。
国会は佐々木の責任を追及。新たに「佐々木法」が可決。
即日逮捕された佐々木は懲役18年の実刑判決を受ける。
その数日後、

          ◆

高田馬場にある事務所で、二人は雁首揃えて悩んでいた。
キモカワ感を前面に押し出した佐々木フィギュアは
案の定一瞬で消滅。あおりを食って、
三河島の町工場を4つほど飛ばすハメになった。

やっぱり、気持ち悪いようでかわいいキモカワ感を狙った
佐々木フィギュアは、ピンポイントで気持ち悪いだけだった。

 次回作はキモキモ感を狙って、
 一瞬気持ち悪いようで、本気で気味が悪い
 
【ピグフィギュア】を次回作にすることにした。

 「でも樋口さん、もう資金がないんじゃ」
 「大丈夫大丈夫、W資金があるから」
 そのころ、網走刑務所では、

          ◆

早くも収監された佐々木が、囚人たちにいじめられていた。
何の技術も持たない彼は、ただただ拗ねるだけ。
看守にも見放され、独房に放り込まれた佐々木に、
「佐々木拗ね禁止条例」の適用が決定。無期懲役に格付けがアップした。

「・・・ひどいや」
これで何回目の「ひどいや」だろうか。
円道に話を持ち掛けられてから約1年、あの時
「うーん、まるちゃんがそう言うのなら・・・、いいよ」と言ってしまったことを
死ぬほど後悔した佐々木だった。
もし、まだここが昔の日本であったならば、佐々木が逮捕されることなど
まずありえなかっただろう。
しかし、今や日本は革命悟朗党の党首でもある福田悟朗大統領の
独裁である。ただ、悟朗が一言、
「あー佐々木君?いやーどうでしょう。頼むよー」
と言ったばかりに佐々木の運命が大きく変わってしまったのだ。
無論、実際は裏で松本崇首相が動いたことは、
刑務所にいる佐々木には知る由もなかった。

          ◆

その頃、東京の某所では極秘の会合が開かれていた。

「だからさぁ、悟朗ちゃんの携帯に直接電話して呼び出せばいいじゃん」
「あのねぇ、相手は大統領でっせ。通じるわけないじゃないですか」
「いやいやいや、わからないよ〜。そういう時代だから」
「でもさぁ常に松本が傍にいるって聞くぜ。あいつが目の上のたんこぶ、
 悟朗の上の黒松本だよなぁ」
メンバーは正面から順に、樋口・円道・加藤・山田。
悟朗革命が起こったとき、松本と一緒に福田悟朗を御輿に乗せたはいいが、
革命当夜歓喜の深酒をしたがため松本の裏切りにあい
政府からウォンテッドをくらってしまったメンツである。

  革命が成功したことにうかれて250円のスパークリングワインと
  秩父のにごり酒をしこたまかっくらい、
  夜中の3時には全員が死んだように眠ってしまった。
  1時間後、おじいちゃん化が著しい山田が便所に起きたとき、
  松本の号令一下隠密行動をとったG.S.P.(ゴロウセキュリティポリス)に
  周囲を完全に囲まれていた。
  すぐに松本の裏切りだと気付いた山田は、
  寝ている樋口・加藤・円道を叩き起こし、
  いざというときのために作っていた抜け穴から
  命からがら逃げ出したのであった。

「じゃあさ、清水君に頼ってみるのは?」
最後まで行く末を見守っていた清水は現在、
運輸大臣という政府要職に就いている。
もちろんこれは松本が、
「清水にゃこの辺与えとけば黙ってるだろ」
という一言で与えられた閑職である。
大臣とはいっても実はただのお飾りで、
現場はほとんど官僚が牛耳っているところは
革命前と変わっていない。
「さーてどうしますかねぇ・・・

          ◆

ひとしきり重い沈黙が続いた。
「・・・・
W資金しかないんじゃない?」
樋口が口火を切った。

W資金とは、大量流血クーデターで
ナイジェリアのビアフラ鉱区周辺を
まんまと乗っ取ったW氏の秘密資金である。

潤沢なオイルマネーを背景に
世界中を暗躍しているらしい。
しかし、真相に触れたものは誰一人生きていない。

「でも・・・、どうやって」
Wという単語に反応した山田がプルプルしながら言った。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ、
 Wさんならまだ連絡手段あるし。
 昔のよしみであってくれるでしょう」
すべての緊張感をそぐあの口調で樋口が言った。

「じゃぁ・・・」
樋口さんに任せましょう。
という言葉を全員が飲み込んだ。

いつ、Wさんと結託して裏切るかもわからない人に、
すべてを任せるとは口が裂けても言えない。

「あれー、みんなどーしたのかなー」
感づいているくせに、わざと聞いてみる。
人として最低教教祖の本領発揮だ。

(わかってんだろぉ)

全員の頭の中で、こういう大きな吹き出しがでてきたのは
想像に難くない。

さらに、樋口が言葉を畳みかけようとした瞬間、
勇躍、鼻栓をつめた加藤が黄金のフィンガープレイを披露。
悶絶する樋口を横目で見た
山田がロープをパスするや
円道が樋口を縛り上げる。
樋口のすまき一丁あがりである。
グリーンベレークラスのコンビプレーであった。

「んぐぅぅぅぅぅぅぅぅ」
なおもあらがおうとする樋口の鼻先に
円道は樋口の靴と伝説の佐々木'sタオルをおいた。

「ぐううぅぅぅぅぅぅぅん・・・・・」
樋口は泡を吹いて気を失った。

山:「ありゃ、蛇は自分の毒でも死ぬんだね」
加:「みたいだね」
円:「さっ、気を取り直して考え直しますか」

―――その頃、首相官邸では。

          ◆

治安維持法を強引に可決させ、一仕事終えた松本が
梅酒ロックを飲みながら思案していた。

「・・・」

とりあえずは、政治結社・西永福真理の会と、
反政府テロ組織・
若魔帝団の処遇についてである。

西永福真理の会については、革命当初、鼻に付く存在であったが、
政権を担った今、どうでもよい存在である。
フィギュア系のおたくショップで維持費を賄っているようだが、
彼らだけでは何もできないだろう。だからこそ、最近は泳がせておいた。
(まあ、一時期佐々木フィギュアが街中に溢れた時は余りの
鬱陶しさに佐々木を逮捕したが)

しかし、一番恐いのは若魔帝団である。
悟朗革命が起こった時、松本は最大の敵になるであろう若松を
何とか取り込もうと奔走したが、結局、他人に屈することのない若松は
松本の前に現われることなく、相変わらず世界を股にかけていた。

その若松が、ナイジェリアで莫大なカネを手に入れ、いよいよ世界を
征服しようと若魔帝団を結成したのが1年前。それ以来、G.S.P.
の密偵が多数行方不明になっている。

「松本さん、入ります」
「おう、どうした」
官房長官である横山が入ってきた。

「只今土屋が戻りました」
「・・・」
首相である松本に一礼もせず、ずかずか入ってくる土屋。
この辺の無礼さを、すでに松本は黙認している。

「横山、お前はもう下がっていいぞ」
「失礼します」

「で、どうなんだ?」
「間違いないっすね」
「だろ?やっぱ俺だな」

土屋は高田馬場にある西永福真理の会のアジトに入り浸っているが、
実際はG.S.P.とは違う松本の直属の密偵である。
勿論、樋口たちは土屋がスパイであるとは全く気付いていない。

「でも、まだ本格的には動いてないようですよ」
「じゃあ、まだ泳がせとくか。お疲れ。じゃあこれは報酬だ。とっとけ」
そう言うと、松本は札束を土屋の前に放り投げた。

          ◆

「あんまりだ」
佐々木は独房の中で一人拗ねていた。
無期懲役が確定したのは昨日。
仕切り板すらない便所に向かって一生懸命いきんでいたとき、
いきなり看守に呼び出され、
そう告げられたのだった。
もちろん裁判も何もしていないのにである。

「いったい僕が何をしたって言うんだよぉ」
そう、彼は何もしていないのだ。
強いて挙げるなら、"拗ねた"こと、
それぐらいである。
しかし世は革命悟朗党独裁政権下。
何でもありなのである。
「あぁ、
酢納豆が食べたいなぁ・・・」


そんなどうでもいいことを網走の地で佐々木が呟いているとき、
西永福真理の会秘密アジトではある事件が起こっていた。

「おい、誰か屁ぇこいた?」
樋口を簀巻きにして隣の部屋に放り込み
これで落ち着いて今後の対策を立てられるぞ、
と考え始めていた時だった。
「くんくんくん。やっぱ臭うな。誰か屁ぇこいただろう」
自分でもよく屁をこくくせに、
その辺に妙に敏感な山田が言った。

「こいてないですよぉ」
「うん、こいてないよ」
身に覚えのない二人は冗談じゃないという顔である。

「だってさぁ、臭わない?さっきから変な臭いがするんだけど」
山田はどうしても気になるようである。

「そういえば臭いますよねぇ。くんくん。
 ちょっと待てよ。何かこの臭い嗅いだことありません?」
「うん、記憶にある臭いだよね。」

「う〜ん・・・萌え〜・・・」
その頃隣の部屋では、簀巻きにされた樋口が
気持ちよさそうに眠っていた。
汚れて黒ずんだ靴下をさらして・・・

          ◆

全員が無意識に煙草をくわえながら
臭いの元を探し始めた。

「原因はこれみたいだね」
隣室を探していた加藤が
樋口の靴下を指さしてつぶやいた。
ドカッ。バキッ。ドカドカドカドカ。
円道は無言でマシンガンキックを樋口に加える。

「うーん、いま桜上水を超えたとこでーす」
寝言で遅刻の言い訳をしていた。
円道は何に取り憑かれたように蹴る力をこめた。

そのたびに、樋口の臭いは倍増する。
「まるちゃん、まるちゃん、延髄がしびれてきた」
「僕も頭が痛い」

異臭、悪臭、激臭、
すべてのカテゴリーから抜け出ている臭気である。
おそらく、古来からの日本人が嗅いだことのない臭気だろう。
したがって、日本語に樋口を表現する言葉はない。
地球上にこれを表現する言葉があれば
お目にかかりたいぐらいだ。

「とりあえず、裏の洗濯機にでもブチ込みますか」
「いいの?まるちゃん。洗濯機がダメになっちゃうよ」
「いーのいーの。この人に金出させるから」

それはさておき、

          ◆

現状は芳しくない。
このままでは、いずれは政府に捕まってしまうだろう。

「うーん、もう党に戻るのは無理でしょうね」
「俺達ゴロウと松本の事知りすぎてるもんな。つーか、なんでシミが
あっちにいるの?」
「人畜無害だからじゃないすか?清水さんほんと楽しそうですよね。
この前の新聞見ました?」
「超羨ましい。俺も練馬区に新幹線通してえ」

清水は運輸大臣になった途端に
高山新幹線の建設を決定、
この前起工式があったばかりだ。


「まあそれはいいとして、このまま燻っているのもねえ。
佐々木フィギュアはまあ売れたけど、ピグフィギュアはちょっと・・・。
二度目はないだろ。もう小銭稼ぎはやめよーぜ。野望を持たないと」
「俺もてつくんの意見に賛成なんよ。松本がいつまでも黙っている
わけがないじゃん。逆襲するなら今のうちだと思うんよ」
「おやめずらしいですねえ。お二人が強気な発言なんて」
「だってつまんないじゃーん」
山田は半ギレとも拗ねともとれるように言った。

「うぎいいい〜、寒い〜」
「あっ、気付いたみたいですねえ」
外の洗濯機から情けない声が上がっていた。
さっき、臭いに悩ませられながらも、樋口を洗濯機に放り込み、
回していたところだ。
外から「ぶわくしょん!」というくしゃみが聞こえる。

「ひどいなあ〜」
ドアが開き、樋口が入ってこようとした。
「あー汚い汚い。服を絞る!」
「あーい」

          ◆

その頃、土屋は山手線に乗っていた。

「くそっ、なんでこう人が多いんだよ!
 あ〜うざってえ。全員納豆にして食うぞ!ブツブツ・・・」

たかだのばば〜たかだのばば〜

「やっとついたか」
そう呟くと、足音をたてずに階段を下り
改札を抜け栄通りの方へと足を向けた。
幾度か道を折れ5分ほど歩き、ある雑居ビルの前でその歩を止めた。
そしてそのビルと隣の建物の間にある
人一人通れるぐらいの隙間に潜り込むと、
裏手にある地下室に通じる階段の前へと出た。

「どっからどう見ても、『ここにアジトがありますよ』ってな感じだよな。
 まったくバカと言うかおめでたいと言うか・・・」
「ぶわーくしょん!」
「ん、なんだ?」
「服絞ったよ〜。開けてぇ〜。」
「何だ何だ?」

階下から聞こえてくる声には聞き覚えがある。
たぶん樋口だ。
だが、何を言っているのか皆目見当がつかない。

「とりあえず下りてみるか」

下で何が起こっているのか分からないが、
まぁどうせこいつらのことだ、大したことではないだろう、
そう考えた土屋は、ゆっくりと階段を下りていった。
すると、扉の前で樋口が上から下まで湿った服を着て・・・

「ぶわーっくしょん!」

くしゃみをしていた。

「何やってんすか、樋口さん?」
「あ、つっちー。いやさぁ、気がついたら
 洗濯機の中で回ってたんだよねぇ」
「は?」
「でさぁ、寒いから中に入れてもらおうとしたら、
 服を絞んなきゃ入れてやらないって言うんだよぉ」
「はぁ」
「で、絞り終えたってなわけ」
「はぁ」
「おーい、つっちーが来たよー。入れてー」

ガチャッ

扉が10センチほど開いた。
誰かがその隙間からこちらを覗いている。

「ちゃんと絞りました?」
「もちろん!ほら、どう?」
「はいはい。じゃどうぞ。土屋も入れよ」

そう言うと扉の向こうから円道が顔を出した。

「どぅも。みなさんお揃いですか?」
「ああ、まあな」
「そうですか」

土屋が、誰にも密偵だと気付かれず、
なんなく秘密のアジト潜入を果たしたとき、
首相官邸で松本は電話をかけていた。

          ◆

「いやいや、どうもどうも」
入り口で加藤がボディコンタクトを土屋にやろうとした。
土屋は可能な限りのネガティブアイを加藤に投げかける。

一瞬ためらった加藤の手を外して、
部屋を見回すと、山田がすでにビールをクピクピ飲んでいた。

「おー、土屋、松本は元気?」
「山田さん、また根拠のないことを聞かない!」
「あ、ばれた?」
「・・・・・・・」

全く根拠のない思いついたことを
自信満々に聞くのは、山田の習性である。
円道が金髪女とつきあっていたり、
清水がカツラだったりと、なぁんの根拠もないのに質問を投げかける。

以前、これと同じ手でスパイ酒主が捕まっていた。
「おぅ、酒主。松本は元気だった?」
「あーはい、元気でしたよー」

あまりにもナチュラルな応対だったため
全員が一瞬流しかけたほどだった。

当然、酒主は、何を尋問されるわけでもなく
加藤愛撫と樋口体臭をフルコースで受けた。
ちなみに、その時となりにいた林も同じ目に遭わされている。

それはさておき、
土屋がうんざりしながら部屋を見回していると、
不意に土屋の携帯電話が鳴った。

「・・・はい」
「あ、土屋。ピグんとこのアジト、夜中G.S.P.に
 軽くご挨拶させることにしたから」
「え?」
射るような松本の冷たい視線を土屋はありありと思い浮かべた。
「そこら ピポッ を軽く爆発さ ピポッ 程度だから、で、ツーーーー」

途中で電波が切れた。
さすがに焦った土屋は、入り口に向き直った。
「ねぇ、どうしたの?」、
そこには、
ウール100%の胸毛をあらわにして、
今にも抱きつこうとしている樋口がいた。


臭い。
鼻センサーは全く感知していないのになぜか、臭い。
無言で樋口を突き飛ばそうとしたとき、

「なぁ、ブラックジャックしようぜ」
山田がまた思いつき発言をした。
「いいねぇ」
すかさず加藤がトランプを用意しながら、
「あ、土屋、君もやるよね」
と有無を言わさず土屋を座らせた。

「まるちゃーーん。ひぐちさーーん。ブラックジャックしましょーーっ」
仕方ないと言った感じで円道が席に着く。
負けねーぞーと、樋口が気合いを入れる。
「それじゃ、ワンコイン10円。マックスベットとりあえず100円。
 後はディーラー次第って事で」
「OK」
土屋が何をする暇もなくゲームが始まってしまった。

さすがの土屋も、この最低人間四人を相手に
中央突破するのは難しい。
しかしまだ、G.S.P.がやってくるまでにはまだ時間があるだろう。
土屋は仕方なくゲームをすることにした。

          ◆

「えっと、19ですね。じゃあ、円道さん勝負。・・・ぷっ」

表がハートのジャック1枚という円道の手。裏には無惨にも
ダイヤの5があった。
「えー、じゃあ樋口さんも勝負です」
「えへっ。いいの?恐いよ恐いよー」
「・・・勝負です」
表が4枚で17という樋口のカード。5カードの危険性もあるが、
土屋は容赦なく樋口のカードをめくった。
「ぷぷっ」
そこにあったのはクラブの10。合計は27だ。
労せずして200円を回収した土屋。
「面倒なので残りも勝負です」
「あらそう?21。10円ちょーだい」
「俺は20。10円もらおか」

ここまでは土屋の圧勝である。
すでに1万は突破しているのではないだろうか。

「まるちゃーん。いくら負けてる?」
「そういうこと聞きます? つーか、樋口さんはいくら負けてんすか?」
「5000円くらい? まるちゃんもそのくらいじゃない?」
「まあそうですけどね。でも、あんただけには絶対負けないから」
低レベルの争いが繰り広げられていた。
ちなみに、加藤と山田はずっとせこく賭けているので、
負けてはいるが、大した金額ではない。

「・・・スリーセブンって何倍ですか?」
「あらま」
「ひーやめてー」
「5倍だっけ?」

土屋の勢いは止まらない。親の総取りである。

「そろそろ休みません?」
円道がさすがにうんざりといった感じで言った。
「じゃあちょっと休もか」

時計は11時を指していた。

          ◆

「あ、すぐるん? 松本ですけど。ぼちぼちいいんじゃない」
首相官邸では、松本が素足を黒檀机に投げ出しながら
電話をしていた。
「う〜ん・・・。やっぱやるのかぁ?
 そりゃあさぁ、 あいつらダメ人間だぜ。
 でもよぉ、ちょっと可哀相じゃねぇかぁ?」
電話の相手は山下英。G.S.P.隊長である。
「だいじょーぶ、たぶん死にゃーしないって。意外と悪運強いから、ヤツら。
 とりあえず威嚇みたいなものだし。」
「そーかぁ?まぁ松本がそう言うんだったら大丈夫か・・・。
 じゃあ0時ジャストに決行するわ。」
「よろしく〜」
そう言って松本は受話器を置いた。
「いいから黙って支持通り動いてりゃいいんだよ。」
その時、けたたましく電話が鳴った。
「横山です」
「どうした?」
「国際電話がかかってきたのですが、『松本君に繋いでいただけますか』
 としか言わず名乗らないのです。どうしましょうか」
松本は誰からの電話かすぐに気がついた。
「もちろん繋げ。あと盗聴されていないか、厳重にチェックしてくれ」
「わかりました。それでは繋ぎます」

・・・・

「はい、松本です。」
「あ〜、松本君? お久しぶり〜」


(ぼちぼちやばいかもしれない。どうやってづらかろう)
その頃未だアジトから脱出が出来ない土屋は焦っていた。
松本から、強襲決行の連絡が入ったのが8時。
もう3時間以上が経っている。
さてどうする。
その時
「おい土屋ぁ。腹減らない?」
ブラックジャックでボロ負けして少しイライラしている円道が、
声をかけてきた。
「お前ボロ勝ちしたよな〜。飯ぐらい奢ってくれてもいいんじゃない?」
「あ、いいねぇ〜。」
同調するのは樋口である。
「オレさぁ、カップヌードルが食べたいなぁ〜」
たかる気満々なのが伝わってくる。
しかもどうやらパシらせるつもりらしい。
これは渡りに舟だ。
このままパシりに行くふりをして脱出すれば、
自分だけがこの場から消えることが可能になる。
フッ、馬鹿なヤツらだ。
「しょ〜がないですね〜。じゃあ行ってきますよ。
 他に何かないんですか?」
「う〜んとね〜・・・」

          ◆

じゃがりこを、ひとつ」

その声に、誰もが耳を疑った。

「あー
サラダ味で」

間違いない。全員が確信と驚きを持って
その声のする玄関の方向に向き直った。

「いやいや、ここんとこご無沙汰、そこんとこヨロシク」

ゴロウがいた。
いや、初代日本国大統領福田悟朗がそこに立っていた。
ジャージにサンダル姿。ちゃんと靴下をはくのがゴロウ流だ。
立ち居振る舞いは一切無駄がない。

「こんち」

たおやかに微笑をたたえながら
全員に握手をしてゆく。
心なしかゴロウの左手は湿っていた。

「どうしたんですか、ゴロウさん」

あっけにとられたみんなの中で
円道が口火を切った。

「いやいやいやいや、ヘグラ島で
 海女デビューだって言うから行ってきたんだよねぇ。
 そしたら、キャンセリングって言うじゃない。
 おいおいおいおい、聞いてないよぉー、ってことで
 まぁ、現在に至るわけだよね
 困っちゃうよね、ちゃんと硬球も用意して行ったのに」

「そうですか、でも、何でこちらへ」
山田がかぶせた。

「実は・・・」

          ◆

「一家に一台全自動麻雀卓明るい家族計画いい日本って感じ?」
「はあ?」

意味不明な悟朗の言動に、思わず山田は素っ頓狂な声を上げた。

「いやいやいや、麻雀って、面白いよね。だから義務教育でお子様から
大人まで? おはようからおやすみまで見つめられても困っちゃうなーもー」

「あはははは! わけわかんねえ」
加藤が吹き出した。
「よーするに、
麻雀したいんですね? じゃあ、どうします?」

「いやあ、そのなんつーの?やっぱり、実態を掴んで、その傾向と
対策を練らないとねえ。いわゆる実地調査?」

悟朗は麻雀をしたいだけなのだが、それに関連して、麻雀についての
法律を作りたいらしい。
一応大統領である悟朗だが、実質国を動かしているのは松本である。
悟朗は自由奔放に生き、たまに自分に都合の良い法律を可決させたり、
気に入らない法律は廃止させている。
具体的に挙げると

・少年法の廃止
・公然猥褻の認可
・プロ野球の開始時刻を早朝に
・茅ヶ崎を政令指定都市に。
・革命悟朗党、共産党、スポーツ平和党以外の政治活動の禁止

この中で、公然猥褻を認可した時など、
率先して新宿駅東口で路上オナニーをやったのだから恐れ入る。
また、革命以後、千葉ロッテマリーンズの勝率は9割を越えている。
この辺にも何か裏がありそうだ。
そのほかにもその場その場で適当に作ったり廃止された法律は数え切れない。
それでいてほとんど治安は悪化しないのだから
わけがわからない。

「てゆーか、あなた大統領でしょーが、こんなとこにいていいんですか?」
円道が呆れながら尋ねた。
「いやいやいや、ここいらで民衆のハートをガッチリとキャッチ?
早く失業率100%でも安心して暮らせる世の中にしたいね」
「あのー、悟朗さん・・・」

呆気に取られていた土屋がやっと口を開いた。
実際、悟朗の登場に一番驚いたのは彼である。まあ、そういう素振りは
見せなかったが。

「いいんですか? 
レッドハウスに戻らなくて」

レッドハウスとは、皇居の跡地に建てられた大統領の官邸である。
天皇制は無論革命と同時に廃止され、皇族は一民間人となって追い出された。
ホワイトハウスがあるならここはレッドハウスでしょう、
という悟朗の一言で、真っ赤に塗られている。
無論、傍には野球場がある。
ついでに雀荘も造られたのだが、悟朗の側近は皆麻雀が出来ない。
麻雀、これが悟朗の唯一の欲求不満であった。

「いやー、都会はだめだ」
「・・・」土屋はパニック状態に陥っていた。

「じゃあ、サンにでも行きますか」
「えへっ。ちょいとつまみますか」
「あーどーもどーもぜひ。いやーうれしいなー」
樋口も悟朗も嬉しそうだ。
「じゃあ2抜けでやりますか」
「あのー、270円しかないんすけどいいすか?」

もう徹マンをすることは決定的となった。

「えっ、ちょっ・・・。はあ?」
錯乱状態の土屋。どうしていいか分からなかった。

「土屋、お前どうする?」
円道は土屋に尋ねた。

          ◆

「えっ、あっ、えっ、いやでもオレ麻雀できないし・・・」
「覚える気はないの?」
行く気満々で、既に頭の中は
バカホンモードに入っている加藤が尋ねた。
「いや〜でも・・・」
「ま、見てるだけでもいいじゃん。行くべ」
しょーがねーなー、という顔をしながらも
ここでバカ共の巻き添えを食って
G.S.P.にやられるよりはマシだと判断した土屋は
付いていくことにした。

「23時50分・・・。あと10分か。やっとだな」
アジト近くで待機していた山下は、
実は暇を持ち余していた。

最初はちょっと可哀相かなぁと思ったが、
いざ実行が決まると、それはそれでいいか
と単純に考え始めていたのであった。
それにしても待機時間1時間は彼には長かった。

あまりにも暇なので、
近くに落ちていたサッカーボールで
リフティングを始めようとして、
隊員に止められたのが23時20分。

松本に電話をかけて、
あっけなく切られたのが23時30分。

他にすることもなくなり、
サッカーマガジンを買いに行こうとして
またまた隊員に止められたのが23時40分。

ようやくたどり着いた10分前だった。

その頃松本はといえば・・・熟睡していた。

「ん、なんだなんだ?」
あと少しでお仕事だ〜、と張り切り始めていた
山下の目に飛び込んできたのは
アジトからゾロゾロと出てくる集団だった。

「サン(雀荘)空いてなかったらどうする?」
「ん〜、西武でしょ」
「ルールはいつも通りですよね?」
「そうだよ〜」
「あ、そうだ! 社長さん呼ばなくていいの?」
「あ〜社長さんね〜。でもさ〜、あの人今何してんの?」
「さぁ〜?」
「たぶんダビスタでもやってんじゃないですか?」
「いやまぁそうだろうけど・・・、じゃなくて
 仕事とかしてんの? というより東京にいるの?」
「あの競馬漬けの身体ではもう福島の山奥では暮らせないでしょ〜」
「それもそうだよね」

          ◆

誰にでも等しく朝はやってくる。
ただし、すがすがしい朝がやってくるとは限らない。

円:「ちーんこ、ちんこ、ちーんこ」
山:「うーんこ、うんこ、うーんこー」
円・山:「まー○ーこーさーせーろー」

まるで、大日本ちんこま○こ学会の結束力を
誇示するかのように、円道と山田は
ロート製薬のCMソングにあわせて
猥褻な単語を連発していた。

山「ドゥドッピドゥ、ちんこ」
円「ドゥドッピドゥ、ま○こ」
山「ままままままま、まー○こーー」
円「ままままままま、まー○こーー」
山・円「まー○こーー、まー○こー、まー○こーーーー」

朝っぱらの高田馬場で、
とうとうソンシのマーチにあわせて
放送禁止用語を連発しはじめた。
当然、徹夜麻雀でこの二人は負けていた。
ゴロウ大統領の顔パスで、
場代が無料になったのをいいことに、
かっぱぎモードになった二人は
あえなくオーラスで加藤に仕留められ続け
フライングトゥギャザーまでぶちかましていた。

猥褻な単語を繰り返す二人の隣では
加藤がコンスタントに屁をこき、
なぜか樋口は臭かった。

「ゴロウちゃーん。これからどうすんのー」
樋口が聞いた。
「これから野球があるんで帰ります」
「タフだねーゴローちゃーん」
「それじゃぁ」
「僕も、ここら辺で」
ここぞとばかりに土屋が言った。
おつかれさまーです。と、全員が声を合わせた。

ゴロウと土屋を見送った後、
いつも通り残った四人衆はダラダラと歩きはじめた。

「みなさん、これからどーします?」
「そーだねーメシでも・・・」

「「「ぶっ」」」」


加藤がひときわでかい屁をこいた
「いやいやいやいや、出物腫れ物所構わずってね」
「にゃははははははは」

加藤の屁に対抗すべく山田はいきんだ。
「あ゛」
屁ではなく、特急かりんとう号が発射してしまった。
正確には、5ccほど液便を漏らしてしまった。
(エマージェンシー、俺?)山田は思った。

「あー、俺眠いから帰るわ」
いち早く事態を打開するため
できるだけだるそうに、山田は言った。
もちろん、
ウンコパンツを洗うためである。

「俺も眠いから帰ります」
「いーんだよまるちゃん、メシ食ってきても」
「んじゃ、僕も帰ろうかな」
加藤がかぶせた。
「僕も帰って寝ますー」
樋口も乗っかった。

「んじゃぁ、帰りますか」
山田は気を取り直して列の先頭を歩き始めた。

早足で歩く山田は
「あの山を越えれば、海が見える」
という小学校の時習った物語の一節を思い出していた。

「あの角を曲がれば、ウンコパンツが洗える」
無意識に山田はつぶやいていた。

しかし、そこに海はなかった。
あるはずのアジトが消し飛んでいた。

          ◆

とある雑居ビルの一階。革命後、つぶれた雑誌社の編集部をそのまま
流用していた彼らのアジトは、変わり果てていた。

「あれ? もっと先? わし方向音痴じゃけん。わからんのよ」
脳を垂らしていたせいか、方言交じりの山田は本気で場所を間違えた
と思い込んだらしい。

「いえ・・・。合ってますよ・・・」
「・・・」
呆然とする円道。その横で加藤と樋口は声を失っていた。

「ガス爆発じゃないし、Wさんは・・・違うな。となれば、
G.S.P.にやられた可能性が高いですね・・・」
燻る室内に入り、我に返って冷静に分析する円道。
その後ろで悲劇は起きていた。

「うおーーーーー!!!!!!!
 千鶴さんがああああああ!!!!!!!
 レヴォの新刊がああああああああああ!!!!!!」

「沙希ちゃあーーーーーーーーーん!!!!!!
 沙希ちゃあーーーーーーーーん!!!!!!
 沙希ちゃあーーーーーーーーーーん!!!!!!!」



「肛門が・・・痒い」

真っ黒な消し炭と化した同人誌とポスターの前で取り乱す樋口。
溶けて不気味な物体と化した虹野沙希等身大フィギュアを抱きしめて泣き叫ぶ加藤。
そして、焦げ臭い中でも解かってしまう、
赤ん坊のおむつを取り替える時のような臭い・・・。

「二人ともこんなとこまで持ち込んだりするからだめなんですよ。
ちゃんと部屋掃除してればよかったのに・・・。で、山田さん」
「あうー」
「その辺のコンビニのトイレ借りて、パンツなんとかして。
パンツくらい売ってるっしょ」
「あうー」
「戻ってきたら、とりあえず西永福に移動しましょう。
まあ一両日中は大丈夫だと思うから」

一方その頃、首相官邸では極秘会議が行なわれていた。

出席者は、首相の松本崇、官房長官兼環境庁長官の横山純、
運輸大臣の清水孝治、厚生大臣の林信郎、外務大臣の中澤元、
農林水産大臣の関隆一郎、あと、その辺にいた酒主晴久。
つまりは、松本の腹心のほとんどが揃っていた。

          ◆

「さーてと、みんな揃ったな。それじゃあ横山、司会よろしく」
一番上座、いわゆるお誕生日席に座る松本が、
タバコを燻らせながら隣の横山に指示した。
「それでは始めさせていただきます。まずは新憲法について」
松本政権が抱える問題は多岐に渡っている。

・新憲法
・外交
・W氏対策
・国内治安維持

現在のところ、この四点が最重要課題と考えられていた。
高田馬場の一件程度の問題は歯牙にもかけられていないことは言うまでもない。

「草案はほぼ出来上がっています。あとは公布の時期ですね」
「ん〜、その辺はお前に任せるわ。完成したら持ってきて。
 あとちゃんとゴロウに憲法に盛り込みたいことだけ聞いといて」
「了解しました。みなさんも『これ入れて』っていうものがあれば
 わたくし横山までよろしくお願いします。」
その時、部屋の隅で一人立たされていた酒主が、
目を輝かせながら発言しようとした。
「あの〜、アメフト専用のスタ・・」
「それでは次に・・・」
もちろん相手にされない。
「外交についてなんですが。中澤君よろしいですか」
「はい。えー現在我々新政府を認めていない国は・・・、
 はっきり言ってほぼ全世界と言えます。ひじょーに厳しい状態です。
 逆に支持してくれている国は キューバ、シリア、イラク、アフガニスタン、
 アフリカの小国が数カ国、とまぁこの程度です。もちろん、国連からは除名されました。」
「いやぁ厳しいよねぇ」
今まで置物のように黙っていた清水が相づちを打つ。
「そうです。そこで一つ提案なんですが、いっそのこと鎖国しませんか?」
「はぁ?」
「いや、だから鎖国です。そして伊豆大島、佐渡島、対馬、沖縄を
 現代の出島にして、国交がある国とやり取りを・・・」

ピロリロリロリ、ピロリロリロリ

懸命に演説する中澤のことなぞお構いなく誰かの携帯電話が鳴った。
「あ、オレだ」
松本は背広の内ポケットから携帯を取り出し、
「ちょっとタンマな」
と言って通話ボタンを押した。
「もしもし」
「ああ松本?オレオレ山下だけど。いや〜キレイに爆発したよ〜」
「で、ヤツらは?」
「なんか爆発10分ぐらい前に全員出てきてどっか行っちゃったんだよな〜」
「で?」
「いやぁ、『で』って言われてもそう言うことなんだよな」

ピッ

「中澤続けて」

          ◆

「はい、革命悟朗党における鎖国案ですが、
 日本を州制にして、ある意味世界連邦を目指します。
 そして、国交を極限まで減らし
 海外の好ましくない文化の流入を排除します。
 それによって教育制度の改革も容易になります。
 出島には総合貿易施設を設置し利潤を政府に一元化します。
 そして、全日本の鉄道網を一新し京急の車両を全国に走らせます」

「むむむ」
先日、ノーパンしゃぶしゃぶで白滝をむさぼり食っていた清水が
珍しく顔をしかめた。


構わず中澤はまくし立てる。

「地震に強い都市の造成と共に工業の逆流を目指します。
 退行ではなく、むしろ自然社会への回帰を持って現状の改革を訴えたいんです」

ここで、中澤は手元の分厚い資料を全員に配り更に持論を展開する。
論陣は30分にも及び次第に中澤の目が狂気を帯びてきた。

「・・・そして、権力闘争よって私の国家が」

松本の目が光った。
「中澤、それはどういう意味だ」
松本が問いただそうと資料から目をあげた時
扉が盛大に開かれた。

「よぉーー松本。元気ぃーーーーーっ」
最悪のタイミングで山下英がズカズカと入ってきた。

「松本よー、ちゃんと仕事したんだからさー、
 ちょっとつれねーんじゃねーの?」
「で?」
「で、じゃないだろー。閣議だって聞いたからさー、
 サッカーサッカー。サッカー場つくろーぜ! 松本」


松本は不快感をあらわにして、
失せろと、吐き捨てた。

「そりゃぁねーんじゃねーのー。
 お前チョーシにのってるんじゃねーかー」
この場合、調子に乗っているのは英の方である。

英は半ば逆ギレ気味に
「オメーよー、オメーが何を指令したのか分かってんのかー。
 これがばれたら大変なことになるんだぞー」
と、脅迫まがいのことを言い出した。

「なら、黙って死ね」
松本は懐から拳銃をとりだして、英に照準をあわせた。

「おー、撃てるもんなら撃ってみろー」
英には松本が撃てないと思っていた。

しかし、松本は何もためらいもなく引き金を引いた。
英は苦痛とも、嗚咽ともつかぬうめき声を上げた。
パンパンパンパン。さらに連続して銃声が響いた。
かすかに松本のベレッタの遊抵が開く音がした。

英が崩れ落ちるのを確認すると、
松本は何もなかったように席に座った。
もっとも、普通の人間が興奮や緊張するシチュエーションは
彼にとって冷静さを加速させる触媒でしかないが・・・。

「酒主、片づけておけ。中澤、さっきの議題は保留だ」
と、手短に現場を収拾した後ゆっくりと煙草に火をつけた。

そして、掃除が終わったのを確認すると、
おもむろにこう切り出した。

「昨日、ある人物から電話があった・・・」

          ◆

苦虫を噛み潰したような顔で松本は言った。

「え? 誰なんですか?」
閣議中、ずっとじゃがりこを食い続けていた関が尋ねた。
ちなみにこのじゃがりこ、革命後はゴロウが出入りするところには
必ず備蓄されているものである。

「Wさんに決まってるだろ。なんでも今、平壌にいるらしい・・・」

溯ること数時間。
たった今処刑されたばかりの山下に指令を下したばかりの松本に、
国際電話が掛かってきた。

「はい、松本です」
「あ〜、松本君? お久しぶり〜」
「え・・・。もしかして、Wさんですか?」
「はいWです。いやー、この前の
テポドンは大変失礼いたしました」

Wが言うテポドンというのは、一週間ほど前に起こった事件である。
山梨県小淵沢町が爆撃され、爆心地にいたM大教授N氏が死亡したほか、
半径数百メートル内の住民が負傷したものである。
松本的には大した事件ではないので、大掛かりな調査もしなかったが、
どうやらテポドンらしいという報告は受けていた。
「ふーん、最近金正日が発狂したみてえだからな。
 テポドンの一発や二発どーってことねーだろ。
 まあ一応首相官邸に迎撃ミサイル用意しといて」
そのときWが一枚噛んでいたとは思いもしなかったのである。

「あれWさんだったんすか?」
「ええ、最近正日さんと仲良くなりましてね。
 軍部のほうを譲ってもらえることになったんですよ。
 で、おととい歓迎式典がありましてね。
 いやあ、すごかったですよ。
 それにしても、あの
マスゲームというのは退屈でたまりませんね」

「Wさん、とりあえず、ご用とはなんなんでしょうか?」
「そうですね、今すぐにとは言いませんが、
 あなたがたに協力していただきたいんですよ。
 テポドンを発射して、『いずれ韓国のみならず、日本もここの領土になる』
 みたいなことを言ったら大フィーバーでしてね。
 なんだか私のことを英雄扱いするんですよ。
 まあ外国の方々は全員排除しましたので情報は一切漏れていないと思いますが。
 で、そろそろ正日さんを追放しますので、
 北朝鮮はまもなく我が若魔帝団のものになる予定です」
「はあ・・・」
「それでですね、とりあえずそのうち韓国を攻めようと思いますので、
 その時ご協力いただけませんか?なあに、お金はたっぷりありますので大丈夫ですよ」
「ちょっ、ちょっと考えさせて下さい。明日会議しますので・・・」
「はいわかりました。よろしくお願いしますね。それでは」


「・・・てなわけなんだ」

          ◆

場は英が殺されたときより静まりかえっていた。
ある意味タブーとされていたWという名前が
原因になっているのは明らかである。
重苦しい空気の中、自ら何かを発言しようとする者は誰もいなかった。

その時、またしてもいきなり扉が開いた。

「いや〜、
こんち。みんな何してるの? なになに、内緒話〜?
 こ〜まるよ〜、仲間はずれにしちゃ〜」

早朝野球から悟朗が帰ってきたのである。

「今日もノーヒットだったよ〜。ピッチングじゃないところが残念なんだけどねぇ。
 そうそう、久々に徹マンもしてきました。
 どうもありがとう。やっぱり麻雀は楽しいねぇ。
 もちろん 『またぜひ』って言ってきたよ。みんなも覚えようよ〜」

よほど楽しかったのであろう。
部屋に入るなり、場の空気などお構いなしに、
ベラベラと喋りまくっている。

「あ〜そうだそうだ。横山君。今日のフットサルって何時からだっけ?」

いきなり話を振られた横山は、呆気にとられつつも答えた。
「えー、14時からです」
「まだちょっと時間があるねぇ。どーしよーかなー。
 そうだ、みんな 何話してたの? 僕も入れて欲しいなー」
しょーがねーなー、という顔をしつつも松本が
「酒主、椅子」
と言って自分の隣に椅子を持ってこさせる。
「どーもどーも。で、何話してたの?」
ちゃっかりと自分の場所を確保した悟朗は、
いい暇つぶしとばかりに話を催促してきた。
すかさず横山が
「Wさんについてです」
と言うと
「Wさんね〜。懐かしいね。今何してるのかな〜」

          ◆

そうつぶやきながら、
机上の消しゴムを雀牌に見立てて
ゴロウはツモの練習をし始めた。

「Wさんが北朝鮮のボスになりました」
松本は今まで話していたことを力の限りかいつまんで話した。

「あー、じゃぁ、北朝鮮との国交もちゃんとなるんじゃない?」

ゴロウは、これまでの会議で最も有効な発言をした。
ピタゴラスの定理の証明のように、簡明でエレガントな発言だった。

今回のような、フェルマーの仮説のように場合分けが無数に考えられる、
一見複雑怪奇な命題も
煎じ詰めればイエスかノーなのである。

(この人を人身御供にすればなんとかなるかもしれない)
ゴロウの発言を聞いた全員がそう思った。

眼前に座っている人間は日本国大統領なのだ。
圧倒的なカリスマで宰相にまで上り詰めた奇跡的な人物なのだ。
もしかしたら、この人物を見誤っていたのかも知れない。
全員が、この逼塞した状況に光明を見いだし始めた。

「あ、フットサルの時間だ。それじゃぁみなさん頑張ってください」

やはり見誤ってはいなかった。

ゴロウはそそくさとフットサルのユニフォームに着替えると、
出ていってしまった。

一気に毒気を抜かれた松本は、
空になったマイルドセブンスーパーライトのソフトケースを握り潰しながらつぶやいた。

「この話は明日にすっか」

全員が席を外そうとしたとき、
ゴロウと入れ違いに駆け込んできた官僚が横山に一枚の紙切れを手渡した。
それを覗き込んだ横山は、珍しく瞠目しながら松本の方に向き直って叫んだ。

「首相。内閣調査室より緊急入電です!」

          ◆

「ああ? 何だよ一体」
やっと閣議が終わり、これから梅酒ロックで一杯と思っていた松本。
あきらかに不機嫌そうである。

「ハイジャックです。羽田発新千歳行き日航501便が福島県上空でハイジャックされました」

「ふーん。で、今はどうしてんの?犯人の要求は?」
「三沢空港に臨時着陸しています。それで、ミヤセと名乗る犯人から、
『俺も政権に入れろ』という要求が出ています」
「なんだよ大した事ねえじゃねーか。ほっとけよそんなもん」
「ですが、乗客乗員337名がまだ機内におりますが・・・」
「ったく面倒くせえなあ。横山、テレビつけて」
横でじっとしていた横山がテレビに向かい、上に乗っていたリモコンでテレビをつけた。
画面にジャンボ機が浮かび上がった。
テロップには『ハイジャックされた航空機』とある。
どうやら、『
ヌップヌップこんち』という番組らしい。

梅酒を片手にしばらく眺めていた松本だが、やがて口を開いた。
「直ちにG.S.P.を派遣して。到着しだいミサイルをぶち込んでやれ」
「はっ、ですが乗員乗客はよろしいのですか?」
「しょうがないんじゃない? 運が悪いんだよ」
「わかりました」

「ふー」
ふかふかのソファーにどかっと座ると、松本はまた梅酒ロックを胃に流し込んだ。
「酒主、なんかつまみ持ってこい」
酒主をパシらせると、松本は浅い眠りについた。


一方その頃、場所は西永福。
「ぎゃははははははははははははははははは!!!!!」
大笑いしているのは樋口である。
いまだに14インチのテレビに、ハイジャックの映像が映し出されている。
「ほんっとにバカだな宮瀬は」
樋口、山田、円道、加藤。一同大爆笑。
「第三弾出来たよー」
加藤が鍋から鶏肉、ネギ、白菜を自分の器に取り分けた。
まだ昼だというのに鍋とビール。
数年前から、彼らには昼とか夜とかいう概念はない。
「さーて松本くんはどうすんのかなー? やまーだ氏はどう思う?」
わくわくする樋口。
こういう事件事故がある時は人として最低教教祖の本領発揮である。
「多分ほっといて成り行きに任せるんじゃないすか?」
「そーお? ミサイルかなんかでがつーん、とやってくんないかなー」
「あんたほんと最低だわ」
円道が呆れたように突っ込んだ。

          ◆

革命時に米軍を追い出してスッキリした感のある三沢空港では緊張が続いていた。
相変わらず宮瀬は、政権に入れろと主張している。
ハイジャックされた機体が着陸してもう5時間は経過していた。

臨時でG.S.P.の隊長に任命された土屋は
東京にある本部で命令を下そうとしていた。
「おい、三沢と繋いで」

 ・・・・

「あ、空港の人? あのーG.S.P.隊長の土屋と言いますが
 これから飛行機に爆弾撃つんで・・・
 え? 人質はどうするんだって?
 いや〜そんなこと言われてもね〜。
 ボクも命令されただけだから。
 ということでよろしく。」

一応連絡した方がいいと思ってやったことだが
やはり予想通りの返答だった。
連絡なんてしなけりゃよかったと後悔する土屋だった。

「んじゃあやりますか。あ、その前に犯人にコンタクト取ってみるか」

「あ〜、宮瀬さん? お久しぶりです。お元気ですか」
「お〜土屋〜。お前何してんの?」
「今はG.S.P.の隊長してます」
「だったらちょうどいい
だぎゃー
 お前からもさぁ、松本さんかゴロウさんに口きいてもらえないかなぁ、
 オレを政権に入れてくれって」
「ん〜、でもな〜。」
「頼むよ〜」
「個人的な意見を言わせてもらうと
 入ってもあまり面白くないと思いますよ」
「なんで?」
「それはねぇ・・・ちょっと言えませんが」
「いいよ、それでも。頼むよ〜」
「いや〜そう言われても。
 あそうだ、これからミサイル撃つんで」
「え?」
「そういうことですんで。それでは」

あ〜やだやだ。
いつもこういう役はオレだよ。
と、またしても後悔した土屋だった。

やなことはさっさと終わらせてしまおう。
そう決意した土屋は、さっそく現地でスタンバイしているG.S.P.に連絡した。
「んじゃあよろしく」

ヒュ〜・・・・・・ちゅどーん!
ボカーン!
ドカーン!
バコーン!



もちろんその風景はテレビで生中継されていた。

ぎゃはははははははっははははははははっは!!
西永福にまたもや大きな笑い声が響き渡っていた。

          ◆

ひとしきり大笑いをした後、
「ハーイみなさん、百円ずつね」
と、樋口が嬉しそうに言った。

「ちっきしょー」
と、山田。
「金を払うよりあんたに負けるのがくやしい」
と、円道。
「いやー、読みは間違っていなかったんだけどなぁ」
と、加藤。

こともあろうに、ハイジャック事件をバクチのネタにして
24時間以内にどういう結果になるかを賭けていた。

四人の予想は、

樋口:ミサイルでちゅどーん
山田:何も起こらない
円道:G.S.P.突入で宮瀬射殺。まきぞえ数名。
加藤:乗客がハイジャック犯をボコボコにする

であった。

「いやー、みんなごめんねー」
そんなことはビタ一文思っていない樋口が言った。

それが引き金になって、
ひとしきり、樋口さんへの最低人間批判と、
フルパワー死者への鞭と、全員一丸となった最低邪推会話が続いた。

要するに、いつもの西永福トークである。
話すネタが森羅万象に広がっているだけで、
思考や推論パターンは変わっていない。
最低なだけだ。

何時間ぐらい経っただろうか。
全員が睡魔に襲われていた。
気がついたら全員が眠っていた。
外では太陽が燦々と照り輝いていた。
傍らでは、佐々木フィギュアが寂しそうにほこりをかぶっていた。

          ◆

「ぐわっ・・・」
臭い。部屋のドアを開け、まず感じた知覚といえばそれだった。
「・・・(これで佐々木さんがいたら・・・。変わんないか。アレがいるんじゃ・・・)」
午前10時。西永福の扉を開けたのは土屋である。
別に偵察に来たわけではない。
土屋にしてみれば、ただ帰ってきただけである。
そう、彼の住居は何年も前からここなのだ。
とはいえ、現在は革命悟朗党西永福対策本部でもある。
まあそれらしい設備は何もないが。

「んん?おはようさん」
電子音にはほとんど反応しないが、人の気配には敏感な山田が一瞬目を覚ます。
しかしそれも束の間。再び目を閉じた。

「・・・」
なんでこの人は寝てる時いつも前歯で下唇を噛むのだろう、
などと思うこともなく、土屋は自室に戻った。

♪♪♪♪〜

突然、携帯が鳴った。液晶画面に目を移す土屋。
その表情は露骨に渋いものであった。

「もしもし?」
「あー土屋? 松本だけど」
「んー、なんすか?」
「悪いけどさあ。いますぐ戻ってきて」
「やです。寝ます」
プチッ。

傍らにあったバスタオルを手に取ると、土屋はシャワーを浴びに部屋を出た。

「ったくしょうがねえなあ。おい、横山。お前ちょっと見てきて」
その頃、永田町ではちょっとしたいざこざが起きていた。
昨晩のハイジャック犯爆殺事件への抗議デモである。

「松本さん、やっぱ共産党と右翼ですよ」
「うぜえなあ。そろそろつぶすか? マジで」

革命悟朗党が政権を奪取してから、
共産党は唯一の反対政党、そして野党となっていた。

これは悟朗の
「レッドフラッグ?いいんじゃない?」
の一言でそのままにしておいたのだが、
実際は、残しておいた方が、一部反対勢力によるクーデターや
テロの発生が抑えられると読んだ松本の考えによるものである。
しかし、いつのまにか共産党委員長にのし上がっていた明大教授Nが、
小淵沢で爆撃を受けて死亡した事件についてほとんど捜査をせず、
また今回のような人命尊重を全く無視した行動が積み重なり、
共産党を中心とした反対集会が各地で行なわれるようになっていた。
そればかりか最近では、
同じ反対勢力として天皇制復活を訴える右翼団体と共闘しているからわけがわからない。
これにはさすがの悟朗もおかんむりだった。

「全員逮捕。皆殺しでもいいけど、あとで掃除すんの面倒だからな」
「わかりました」

横山が部屋を出ていくと、松本はタバコに火をつけた。
その途端、たった今横山が出ていったばかりの扉が再び開いた。
入ってきたのは掃除機を持った男。
松本に一瞥することもなく、掃除機のスイッチを入れると、
黙々と掃除を始めた。

うぃぃぃぃぃーん。

「社長! うるさい!」
W対策について考えようとした矢先にこの雑音。
半ギレの松本は掃除機を持つ小柄な男にヘッドロックを仕掛けた。

「お、俺は悟朗ちゃんと麻雀がしたいだけだっぺ」

          ◆

「カーン」
松本の大脳でゴングが鳴った。

もちろんメインエベンターはジャイアン崇、
噛ませ犬はゴルゴンゾーラ社長である。
BGMは「猪木ボンバイエ」が望ましい。

あーっと、ヘッドロックの体勢から必殺のSTOが飛び出したぁ。
社長、後頭部から地面にたたきつけられる。


おーっと、人間凶器ジャイアン崇、
口から泡を吹いている社長を起こして
デンジャラスジャイアンドライバーの体勢に入る。
いよいよでるのか、
死を呼ぶ、カウントスリーの半月斬。

社長! グロッキー状態で受け身が取れない。
松本、全体重をのせて、
いったぁぁぁぁぁぁぁ。
後頭部から社長落下、後頭部から社長落下、
ワン、ツーーーーーーー、スリー!!!!!

きまったぁぁぁぁぁぁぁ。
社長動けない、社長動けない。
耳から血を吹き出して悶絶している。
わずか1分、なぶり殺しマッチを制したのは松本。

松本、けいれんしている社長を踏みつけて
勝利の勝ち名乗りだ、
いーち、にーぃ、さん、だぁぁぁぁっ


時は流れて、その2時間後。

「酒主が死んだのか・・・」

新G.S.P隊長土屋正範は執務室にいた。
手元には、今さっき爆破した飛行機の乗客名簿がある。

さすがに疲れたので西永福で帰る気でいたのだが、
このまま一人でいたら生きていくことが面倒になりそうなので
彼は執務室で残務処理をしていた。

しかし、10分で集中力が切れた土屋は
机上に置いてあった乗客名簿に目を通し始めたのだった。

ペラペラと乗客名簿をめくっていると
その名前が目に入ってきた
【サカヌシハルヒサ 男 24 日本 
包茎

まさか、酒主が乗っていようとは、
酒主のことが、ブチ殺したいほど大好きだった土屋だが、
本当に殺してしまうとは・・・。

「・・・・・」

少々の罪悪感はあったが
気にせずに乗客に目を通すことにした。

「!!!」
土屋は目を疑った。

【キム・ジョンナム 男 38 北朝鮮】

とりあえず、50回ほどカベに頭を打ちつけ
10分ほど奇声を発してから、もう一度乗客名簿を見た。

【キム・ジョンナム 男 38 北朝鮮】

おもむろに
男根を握りしめ

一心不乱に三回ほど果てたあと
もう一度だけ乗客名簿を見た。

【キム・ジョンナム 男 38 北朝鮮】

尿道に針を刺して新たなる快感を得ようとした瞬間に
土屋は我に返った。

まさか。
全身から脂汗が吹き出し
治りかけていた胃が激しく痛み出した。

「いや、まさか」

【どがぁぁぁぁぁぁん】
運輸省の方から爆音が響いた。
机の上では、
国家レベルの緊急事態を伝える
第一級緊急警報のコールサインがけたたましく鳴り響いていた。

「・・・・・報復? ・・・・・侵略?」

土屋は、これから日本に降りかかることと
G.S.P.に降りかかる汚れ仕事をありありと想像した。
当然、G.S.P.隊長である土屋がやるであろうことも。

「・・・・・だるい」

そうつぶやくと、
短銃を手に取り
銃口をこめかみに当てた。

          ◆

清水は走っていた。

新築の第二合同庁舎が被弾したとき彼は第三合同庁舎の資料室にいた。
古今東西の鉄道資料に目を通しつつ、
これから敷設すべき鉄道路線を赤鉛筆で日本地図に書き入れるのが
午前中の日課であった。

轟音がとどろいた時、とっさに何事かは把握できなかった。
内閣調査室から国務大臣の携帯に発送される緊急メールで
彼は事態を了解した。

隣国の長距離弾道ミサイルの命中精度は
半数必中界半径2キロメートルと聞いたことがある。
つまり、直径4キロメートルの円の中に
50パーセントのミサイルが着弾すれば御の字、
といったレベルのミサイルである。

偶然にしても精度が高すぎる。
すでに第二合同庁舎は取り返しのつかないことになっていた。
全身に悪い予感が駆けめぐる。

清水は駆けだしていた。
外務省脇の坂を駆け上がり
国会議事堂を右手に見ながら
首相官邸にたどり着くまでわずか500メートル。
5分ほどの時間がもどかしすぎた。

人は、草原や砂利敷きの道を歩きながら
何かに対処するために心の準備をすることは滅多に、ない。
病院の廊下、タクシーの中、彼のように大通りの路上などで、
ごく短時間に考えを決める。
運命と対決して怯えているときにきちっとやれるよう、頭に叩き込んでおく。

首相官邸が左手に見えたとき、
彼は懐に忍ばせておいた遺書に手を当てた。
ハイジャック事件の一報を聞いたときに、
手短にしたためて執務室の机の中に忍ばせておいたものだ。
担当大臣として彼は、
人質の身代わりを含めて最悪の事態を想像したのだろう。
事件の顛末は先に述べたとおりだ。

事態が明らかになるまではまだわからないが、
簡単な事態ではないことだけはわかっていた。
「また、これが必要になるかもな」
不思議と笑みがこぼれた。

彼は最悪の予想が外れることを祈りながら
首相官邸に入っていった。

          ◆

その頃、網走では、
独房にいる佐々木が陰部摩擦罪で懲罰を受けていた。

「おまえ昨日の夜、陰部を摩擦していただろう。おぉ?
 気持ちよかったか? あぁ?」
「い、いや、してません、そんなこと……」
「何寝惚けたこと言ってんだ、コラ!
 
センズリこいてたことわかってんだよ」
「ううぅ……」

もちろん佐々木は、塀の外でなにが起こっているのかまったく知らない。
ハイジャックも、運輸省の被弾も。
それはある意味幸せだったのかもしれない。
しかし佐々木のなかでは、そんなことよりも、
家に置いてきたマイフェイバリットエロ本を思い出しつつ
一心不乱にシコっているのを見られたことの方がよっぽど重要だった。

そして西永福では。

「おっ? 何か聞こえなかった?」

相変わらず昼間っからビールをかっくらって
ブラックジャックに勤しんでいる加藤が呟いた。

「うん、聞こえた」

隣で、既に借金生活突入中の円道も応えた。

運輸省がある霞ヶ関から西永福までは直線にして約8キロ。
この距離で聞こえるわけだから、
間近で聞いた清水は生きた心地がしなかっただろう。

「テレビテレビ」
つけられたテレビからは、
霞ヶ関の悲惨な状況が伝えられていた。
爆心地である運輸省庁舎は見る影もない。
不自然に広がる空き地からは、
不穏な空気がテレビ越しに伝わってきた。

ぎゃははははははははは!

突然響き渡る笑い声に、
画面に釘付けとなっていた山田・加藤・円道は振り向くと、
先ほどまでボロ布のような靴下を晒して泥のように眠っていた樋口が
運輸省跡地の光景を見ながら腹がよじ切れるほど笑っていた。
それはもう下品に。

「アンタ、ホント
最低だよ」

目の前の非日常な光景が
樋口の活力源であることはどうやら間違いない。
揃ったメンツはみな腐った神経の持ち主ではあるが、
やはり樋口は別格である。

その頃清水は

          ◆

首相官邸の門を潜り、中庭を走っていた。
運輸省の図書室を出る時無意識に持っていた鉄ピクは
いつのまにやらどこかへ消えていた。

「はあはあはあはあはあ・・・」
さすがに疲れたのか、官邸の裏口まで10メートルほどの所で
ついに清水はしゃがみこんだ。
振り返ると黒煙が立ち上るのが見え、あちこちからサイレンの音が聞こえる。
もう終わりだ・・・。
清水は懐の遺書をぎゅっと握り締めた。

「・・・なんか盛り上がってますねえ」
ふと、頭上で声が聞こえた。
見上げると、そこには土屋が立っていた。
「なにがあったんですか?」
「それがなんだかわからないのよー。本を読んでたら、突然すごい音と地響きがして、
 外にでたら隣の建物から火が出て崩れて・・・」
「ええ、ここからも聞こえました」
「爆弾か何かが落ちてきたみたいな感じだったのよー。あーもう」
「・・・。
ぷぷっ!
この時土屋は全てを理解した。ジョンナムを爆殺したことは
あっというまに『北』に伝わったらしい。
なんか、面白くなってきた。

「・・・? それで、みんなもう集まってるの?」
「さあ、どうなんでしょう。んー」
そこで、清水は土屋が何かを持っているのに気付いた。
ヨドバシカメラの紙袋。札束が溢れているのが見えた。
ゆうに一億円はあるだろう。
「土屋君、それ・・・」
「あっ、見つかっちゃいましたね。ちょっと、大統領室の金庫から持ってきたんですよ。
 内緒にしといてくださいね」
「それで、どうするの?」
「えー・・・、府中へ。んんー、では」
そう言って、土屋は去っていった。

呆気に取られながら土屋の背中を見守った清水。
その向こうには相変わらず立ち上る黒煙。
サイレンの音がさっきより大きくなったような気がした。
現実に引き戻された清水。裏口へと足を進めた。

「あっ、清水さんご無事でしたか」
清水を迎えたのは内閣官房長官・横山純。
こんな時だというのに、冷静さを欠いていないのは流石だ。
「ほかの人たちはどうなの?」
「えー、松本さん、中澤くん、関くんはもう特別会議室に集まってます。
林くんは連絡が取れません」
「あらそうなの?」
「あとつっちーも・・・。さっきまでいたんですけどね」
「あー・・・」
何か言いかけて清水は言葉を呑んだ。
もはや、土屋のことなどどうでもいい。
「それで、何が起こったの?」
「どうもミサイルが着弾したようですね。詳しくは松本さんに聞いて下さい」
「あーそう」
そう言うと、清水は会議室の中へと入っていった。
「あれっ、清水生きてたんだ」
煙草を燻らせながら、やや驚きの表情で松本が迎えた。
「いやーっ、もうっ、大変だったのよー」

♪♪♪〜

その時、松本の携帯が鳴った。
非通知設定。怪訝な顔をしながら、松本は電話を取った。
「はい松本です」
「あー、若松です」
「!!!」
「何かあったんですか? 正日さんが物凄く怒っているんですけれども。
それで軍の司令部を呼んで何か激しく指示してましたけどね」

          ◆

松本は知っていた。
金正男がハイジャックされた飛行機に乗っていたのを。
もちろん土屋からは何の報告も受けていない。
しかし根本的に人を信用していない松本は
ありとあらゆる情報が自分の手元に来るようなシステムを
首相着任と同時に整備していたのだ。

そしてこの電話。
ある程度予想はしていた。
ありったけの知力を振り絞り考えた。
(しらばっくれるのが得策か。しかし、これを機に
 あの鬱陶しい北朝鮮と全面戦争するのも悪くない。
 ゆくゆくは頂こうと思っていた国だ。大東亜松本
 帝國実現の第一歩としては悪くない。だが今、北
 には若松さんがいる。あ〜じゃまくせぇなぁ)

「いや、それが何が何だかさっぱりわからないんですよ」
松本の選択肢は【しらばっくれる】だった。
「とにかく今、全力で原因を調査中です。一日待っていただけませんか」
「わかりました。こちらもちょっと動いてみます。また明日電話しますね。
 ん〜楽しくなってきました」
「え?」
「いやいや、こちらのことです。それでは」
ツーツーツー

なんだ最後の「楽しくなってきた」って。
若松さんのことだ、たぶん原因は知っているに違いない。
もしかしたら、俺の考えも読まれたか?
いやそれならそれでいい。
若松さんを引っ張り込めばいいことだ。
それが一番難しいことだが。
どちらにせよ、どこかであの人とはぶつからなければならない。
それは最初からわかっていた。
とにかく今は、国内世論を誘導しなくては。
もちろん、戦争の方向に……。

「松本さん、どうされましたか」
横山は、携帯を切ったまま沈思する松本の顔色を伺いつつ恐る恐る切り出した。
「若松さんからですか?」
「……横山!!」
「はいっ」
「ちょっとひとっ走り市ヶ谷まで行ってくれ」


中心部での騒動など、どこ吹く風とばかりに
府中の杜は今日もクズ人間どもが熱狂していた。
この日のメインレースは【第三回悟朗記念G1】。
1着賞金5億円という破格の国際G1レースだ。
一昨年新たに創設され、その賞金額の大きさに
全世界から一流馬が集まるレースとなった。
今年の有力馬は
ナリタヅライアン

昨年のクラシック3冠馬。
現在G1六連勝中のこの日本代表馬に人気が集中し、
締切10分前の単勝オッズは1.7倍。
圧倒的な人気だ。

「そんなオッズ、買えるわきゃねーじゃん。つまんねー」
「いやー、でもはずせないでしょ。
 連下ででも買っといたほうがいいんじゃない」
「万馬券、万馬券」
「てつくんてつくん、この馬ってどーゆー馬?」
パドック近く。そこには4人の姿があった。

          ◆

「あのさぁ、アフリカに競馬ってあるの?」

加藤は、正門横の売店で買った『一馬』の馬柱表をにらんでいた。
「この馬、シリアから来てるんだよね」
「どれどれ? 何て馬?」
樋口が加藤の持つ『一馬』を覗き込む。
「この馬なんですけどね」
「ふんふん『
ワカマテイオー』。なんか日本の馬みたいな名前だなぁ」
「えっ、ワカマテイオー!?」
山田と円道が思わず大きな声を上げた。
「それって……」
「もしかして……」

「おっ皆さん、お久しぶりですねぇ」

!!!!!!!!

「どうしたんですか? 揃って鳩が豆鉄砲喰らったような顔して」

そこに現れたのは、
まぎれもなく若松だった。
「いや、その『ワカマテイオー』って馬、私の馬なんですよ。
 一度世界一の馬の馬主になってみたかったんですよねぇ。
 大変でしたよ、ここに来るまで。
 まず凱旋門賞を3歳で制した牝馬を買って、
 その馬とケンタッキーダービーを勝った馬とを掛け合わせて、
 それで生まれた牝馬にドバイのなんとか王子の所有している馬を合わせてできたんです」
周りのことはお構いなしに、若松は喋り続ける。
話し相手のはずの4人は、まさに豆鉄砲を喰らった鳩。
いや核弾頭を目の前にした佐々木のようだった。
「これがデビュー戦なんです『ワカマテイオー』。
 でも自信ありますよ。なんでしたっけ、G1六連勝中の馬って」
「ナ、ナリタヅライアンです」
「そうそう、そのヅラ。大したことなさそうですね。
 先ほど間近で見てみたんですが、まぁあの馬なら余裕で勝てそうです」
そりゃそうだ。
そんな莫大な金をかけた馬に勝てる馬がこの世にいるわけがない。
「さーてボチボチ馬主席に戻りますか。みなさんそれでは」
「はぁ」
「あ、そうだ。私の馬が勝ったら祝勝会を開きますので、
 みなさんも是非どうぞ。場所はレッドハウスですから」

なぜ若松が日本にいるのか。
実は簡単な話なのだ。
ワカマテイオーが悟朗記念に出走することは
かなり前から決まっていた。
若松はこの日に合わせて、自家用ジェットヘリを
平壌近郊の若松空港に呼び寄せていたのだ。
そして出発しようとしたその時、
激昂した金正日がミサイルを発射した。
松本への電話は離陸直前にしたものだった。

府中競馬場の正面スタンド二階、最前列に
双眼鏡をパドックに向けていない人間が一人。
例の4人と若松のやり取りを眺めている。
手にはヨドバシカメラの紙袋。
その顔には、なぜか皮肉ったような笑いが浮かんでいた。

          ◆

「・・・」
10分後、4人は声を失っていた。
トップでゴールを駆け抜けたのはワカマテイオー。
2着馬を200メートル以上突き放す圧勝。
一方、圧倒的1番人気のヅライアンはというと、完全に馬群の中に沈んでいた。
「やっぱ5600メートルは長かったか・・・」
そう呟くのがやっとの加藤。
無論馬券は外していた。
「つーか、若松さんの馬ってほとんど最低人気じゃないすか?」
もちろんこちらも散っていた円道が呆れたように言った。
そりゃそうだろう。いくら血統が良いとはいえ、デビュー戦である。
何故出走できたかもわからないこの馬の最終オッズは18番人気268,5倍。
ちなみに、単勝の売り上げの半分以上は若松が買い占めていた。

「さーてどうする?最終レースやってく?」
「俺はどっちでもいいんですけどね。どうします?」
「うーん、まあ俺もどっちでもいいんだけどな。おやじどうする?」
「・・・」
何か様子がおかしい。山田は馬券を握り締めたまま固まっていた。
「山田さん?」
「・・・とった」
「え?マジ?」
「ええーいくらいくらー?」
樋口はというと、たかる事しか考えていない。
その時、周りから「オオー」という歓声が捲き起こった。
確定し、配当が発表されたのである。
馬連配当は165300円。山田は100円買っていた。
どうやら、2着の馬からしょぼく流していたらしい。
「マジ・・・嬉しい・・・」
プルプル震える山田。本気で生活がかかっていたようだ。

「あれ?土屋じゃねえか?」
払戻所の列に並んでいる山田を待っていた加藤が、土屋を発見した。
どうやら、有人窓口で払い戻しを受けているようだ。
「どうしたんすか?」
「いや、あれ土屋だろ」
「え?・・・そうですね、土屋ですよ、間違い無い」
「えーなになに?」
「土屋がいるんですよ」
三人は土屋の方へと近づいた。
「おい土屋!」
「・・・はい?」
「何してんの? お前」
「いや、当たったんですよ」
その時、窓口のおばちゃんが現われた。
「えー、それではご確認お願いいたします。
 えー、これ一つが百万円の束ですので、これが1、2、3・・・」
三人は茫然と眺めていた。
「・・・725、726。それとこちらが1、2、3・・・、えー64万円で、
 以上7億2664万円です。どうしますお客様。
 ご自宅までガードマンをつけることもできますが」
「えー、別にいいです。それよりなんか袋ないすか?」
「はい、少々お待ち下さい」
おばちゃんは再び中へ引っ込んだ。
「ちょっと持つの手伝ってくれません?」
三人は無言で頷いた。
もう、山田の小銭などどうでもよくなっていた。

一方、その頃首相官邸の松本は対応に追われていた

          ◆

「総理、官邸前に市民団体のデモ行進が近づいています。どうしますか?」
「くっ、今はそれどころじゃない。力づくでも蹴散らせ」
「総理、野党の笠井議員が総理に会わせろと言って玄関に来てますが?」
「おっぱらえ。あとで塩まいとけよ」
「総理、大統領からお電話ですが」
「あ〜こんな時になんだよ。あとあと。あとでかけると言っとけ」
「総理、横山官房…」
「うるさい! どーでも……あ! ちょっと待て。繋いでくれ」

「松本さん、横山です」
「お疲れ。どうだ市ヶ谷のほうは」
「あと半日ぐらいは必要だ、と言っております」
「そんなに待てるか! 6時間でやれ」
「は、半分ですか?」
「そうだ。限界6時間だ。1分たりとも遅れるな、と伝えろ」
「わかりました」
ガチャ

「あーもー、鬱陶しい。林、梅酒ロック」

現在の最優先事項が北対策なのは目に見えている。
全ての情報を自らの手元に来るようにしたツケが
こういう時にまわってくるものである。
松本は、梅酒ロック片手に
脳味噌をフル回転させて善後策を練っていた。
「そうだ、林! 土屋はどこだ?」
「え? いや〜、わかりませ〜ん」
「どこかアテはないのか?」
「ん〜……、あ〜う〜……」
イライライライラ。松本のイライラは頂点に達した。

ズキューン!

手にコルトガバメントを握った松本は、
硝煙の匂いを嗅いでようやく落ち着きを取り戻した。
目の前には、眉間の真ん中をキレイに撃ち抜かれた死体が一つ。
瞳孔を大きく開いたそれは、
徐々に体中の細胞活動を停止していく。
数瞬前まで林という名を持ったその塊は
松本にとってはもうゴミ以外のなにものでもなくなった。
「おい、誰かいないか?」
「なんでしょう、総理」
「目障りだ。どこかに捨ててこい」
「ひっ!」
隣室にいた関が駆けつけたが、
足元に無惨に転がる林の死体を見つけると、
驚きのあまり身体が動かなくなった。
「何やってんだ。早くしろ!」
「は、はひ」
松本の叱責に我にかえった関は、
脚をガクガク震わせながら
林の死体を引きずっていった。
明日は我が身。
くわばらくわばら。

そんなことが起こっていることなどつゆ知らず、
クソ重い札束入りの袋を背負った3人は、
土屋の後を足取り重く気分はるんるんでついて行っていた。
「今ここで土屋を殺せば、これ全部いただけるよな」
「独り占めしたいけど、さすがに3人は無理か」
「ここは妥協して、3等分ということでもいいか」
土屋にはお見通しだった。
このクサレ外道どもの考えることなど。
でもそれもこれもどうでもよかった。

          ◆

生きていても面白くない。
ああなんで俺はあの時死んでおかなかったのだろう。
どーせこの先生きていても
ロクなことねーんだから……。

府中競馬正門前駅に向かう道すがら
土屋の頭の中はネガティブオーラ満載だった。
億単位の金を手にしたことなど
どうでもよくなっていた。

あっ!!

その時、後ろから驚いた声が上がった。
我に返り振り向いた土屋の目に飛び込んできたのは、
競馬帰りの人並みをかき分けながら
流れを逆走する樋口の姿だった。
目の前にいる加藤と円道は、
呆れた顔をしながら樋口の後ろ姿を眺めている。

虚ろな目をした土屋は懐に手を突っ込むと
おもむろに拳銃を取り出し構えた。
「おいおい……」
不穏な空気を感じ振り向いた円道は
生気もなく何の感情もない土屋の目を見て
こりゃためらいなく撃つな、と咄嗟に感じた。
そして

ズキューン
ズキューン
ズキューン
ズキューン!


4発の銃声がこだました。
悲鳴が上がり、人々が一斉に身を伏せる。
土屋の視界が一気に開けた。
その中央には袋を抱えた樋口の姿が。
呆気にとられた顔でこちらを見ている。
どうやら当たっていないらしい。
土屋はまだ拳銃を構えたままだ。

すぐに我に返った樋口は何かを叫び
またしても脱兎の如く競馬場に向かって走り始めた。

          ◆

目に鈍色の光をたたえ、半笑いのまま
土屋は銃をうち続けた。

樋口は、群衆を盾にするようにしてジグザクに逃げる。
しかし、樋口が抱えている札束は約二億五千万。
重さにして25kg少々。
いかに金の魔力があるとはいえ
彼の足をもつれさせるには十分だった。

「!!!」
土屋の弾丸が樋口の左太股を貫通した。
かまわず樋口は走り続ける。

薄ら笑いを浮かべてさらに土屋は撃った。
土屋はきっかり15発撃つと、ベレッタの弾倉を交換した。

「死ね、愚民ども」

ズギューン、ズギューン、ズギューン、ズギューン。
一発一発、噛みしめるように土屋は撃った。

札束の入っている袋には何発か命中していたが
樋口をしとめる一撃はなかった。

「つまんない」

ふいに、土屋はつぶやくと。
あたりの照明や自動販売機に向けて
発砲しはじめた。

目の光はだんだん失われていき、
遠く何かを見つめるような目つきになっていた。

「つまんない」

黙々と弾倉を交換すると。また撃ち始めた。
過去のありとあらゆるトラウマが、
過剰な自意識がフラッシュバックして土屋を襲い始めていた。

すでに樋口の姿は遠くに消えていた。
かまわず弾倉を交換して土屋は撃ち続ける。
思い出したくもない過去の記憶が
脳内映像になって再生される。

土屋は、過去のトラウマに向けて撃った。
いくら撃ってもフラッシュバックは
最初から最後までノーカットで再生される。
土屋は流れ弾に当たった死体に何十発も撃ち続ける。
天にも向かって撃ち続ける。
現実の景色は何も見えていなかった。

「つまんなーい」
「つまんなーい」
「つまんなーい」

小学校、中学校、高校、大学、社会人、これから。
ありとあらゆる記憶を撃ち抜いたあと、土屋は、
こめかみにある最後のトラウマを撃ち抜いた。

          ◆

辺りに最後の銃声が轟き、土屋はかすかに口元に笑みを浮かべながら、
静かに倒れていった。
こめかみからちょろちょろと血が流れ出し、あっという間に赤い水溜まりが広がる。
罵声と悲鳴に包まれた府中競馬場正門前駅前は凄惨を極めていた。
凶弾に倒れた人、その中を逃げ惑うギャンブラーども。
土屋が倒れたあとも混乱は続き、それに救急車とパトカーのサイレンが加わり、
いっそう修羅場と化していた。
「・・・」
そんな中、呆然と状況を見つめていた円道と加藤。
土屋が樋口に発砲したまでは「あ〜あ、やっぱ撃っちゃったよ」と、
呑気に見ていたのであるが、
無差別に乱射する様は、流石に二人を放心状態にさせるのに十分な行動だった。
二人は土屋から5メートルという至近距離にいながらも、奇跡的に無傷だった。
事実、二人の横に居た新聞売りのおばちゃんは眉間を撃ち抜かれ
絶命していたのだから、運が良かったとしか言いようが無い。
「・・・場所移動しません? G.S.Pが来たら厄介ですよ」
「うーん・・・、そうだな」
「そういえば、山田さんどこ行ったんですか?」
「忘れてた」
二人は多数の死体が横たわる中を、元来た方向に歩きはじめた。


「・・・それで、現在のところ、死者は17名、負傷者は76名、行方不明が4名です。」
「ずいぶん少ねえな」
首相官邸で横山の報告を受ける松本。
もうすでに現場は鎮火しており、救命活動が本格化していた。
「ええ、日曜でしたので」
「そーいえばそうか。捜索活動は今日中に打ち切れよ。無駄な金使うな」
「はい、わかりました」
プップッ、プップ、プップ・・・
「?」
付けっぱなしにしていたテレビから不快な音が流れて来た。
霞ヶ関のミサイル落下地点で中継するリポーターの上部に
『ニュース速報』のテロップが流れる。
『東京都府中市で発砲事件。死傷者が出たもよう』
「ふーん。横山、情報収集してこい」
「はい」

「なんか物騒な事件が多いすね」
横山が出ていったあと、じゃがりこを食べながらサッカーマガジンを読んでいた関が話し掛けて来た。
「ああ、第三次世界大戦も近いだろうな・・・」
そんな間も、『死者8、負傷26』『死者12、負傷22。犯人は自殺』
情報は更新されていく。

「お待たせしました」
約2時間後、松本が夕食を終えたところで横山が戻って来た。
「えー、今日午後4時過ぎ、府中市の府中競馬正門前駅前において発砲事件が発生。
 最新の情報では、死者が18人、負傷者が16人です。犯人は自殺しました。
 それで、その犯人というのが・・・」
「土屋だろ?」
「え?」
横山は面食らった。ズバリ、松本が言い当てたからである。
「な、なんで分かったんですか?」
「まあなんとなくな」
「目撃者の話では・・・」
横山の報告を、全く表情を変えずに聞く松本。
土屋に拳銃を渡した時点で充分予測できた事態であったからだ。
「・・・それで、G.S.Pはどうします?」
「うーん・・・。佐々・・・いや、今の無し。うーん」
マイセンエクストラライトを燻らせながら考える松本。
ふと、視界にある人物が飛び込んで来た。
「おい関」
「はい?」
「お前やれ」
「え?何を」
関は全く話を聞いていなかった。
「G.S.Pの隊長」
「ま、マジすか?」
あきらかにいやそうな表情をする関。無理もない。
理由はどうあれ、山下、土屋と立て続けに命を落としている。
不吉極まりないことこの上ない。
「・・・やれ」
いらいら。松本は懐の銃のグリップを握り締めた。
「ちょっ、待っ、ジャストアモーメント。・・・そうだ、俺なんかよりいい人がいますよ」
「・・・誰だよ」
「佐々木さん」
「却下」
松本は銃を取り出した。
「あ〜、じゃあ入江さん」
「誰だよそいつ。どこの入江だよ」
「ほら、いたじゃないですか、円道さんと同学年の」
「ああ、あいつか。・・・却下」
撃鉄を起こした。
「ジャ、ジャ、ジャストアモーメント。そうだ、肥後さんがいいんじゃないすか」
「あっ、いいかもそれ。よし、じゃあすぐに連れてこい」

「おいっす!」
約三時間後、肥後が首相官邸に現われた。

          ◆

「まっつー、久しぶりー」
周囲の緊張感を一瞬にして解く全開の笑顔を携えて現れた肥後は、
相変わらずのほほんとしていた。
「よっ、肥後くん。久しぶり。最近何やってんの?」
「え? えーとねー。スタンドで働いてるよ」
「そっか。いくらもらってる?」
「だいたい月に○○万ぐらいかなぁ」
「じゃあさ、週に○○万出すからちょっと仕事しない?」
「え、ホントに? そんな仕事あるの?」
「ま、大した仕事じゃないのよ。指示通り人殺したり、建物爆破したりすればいいだけだから」
「簡単そうだねー。それに、それだけもらえるなら、『らぶぱら』に毎日行けるなー」
「ん? なにその『らぶぱら』って?」
「新宿のキャバクラー。カレンちゃんってすっごく可愛い子がいるんだー」
「そ、そっか。それはよかった」
「じゃー、スタンド辞めてくるね。あ、そうそう。この間さぁ、ウチのスタンドに若松さんが来たよ」
「!!!」
「古いカワサキのバイク乗って現れて『どうもお久しぶりです』だって。変わらないよねー、あの人」
「それで、何か話とかした、肥後くん?」
「えっとねぇ、別に大した話はしてないよ」
「そっか」
「あ!!」
「え!?」
「あー、忘れちゃった。何か話したような気がするんだけど……」
「わ、わかった……。思い出したら教えてよ」
「うん」

西永福には、樋口を除く3人が戻ってきていた。
「いやぁ、土屋も最期は壊れたか」
駅前での壮絶な光景を聞かされた山田は、
少し悲しそうな顔で呟いた。
払戻所で他のメンバーと離れてしまった山田は、
騒動が起こる前に電車に乗って一足先に西永福に戻ってきていたのだ。
「それで、樋口さんは?」
「ま、ご想像通り行方不明で」
「そっか」
土屋が非業の最期を遂げる最中、
樋口はその騒動に便乗してまんまと逃げおおせていた。
2億円超の大金とともに……。

しかし、まだ西永福メンバーには
5億円を超える金が残っていた。
これで当分は生き長らえる。
住みづらくなれば、高飛びしたってかまわない。
南米あたりにいけば、豪邸に住み女を囲い悠々自適な生活を送れなくもない。
悪くない話だ。
もともと、反政府活動をしようと思っていたわけではない。
転び方によっては逆の立場、政府中枢にいたっておかしくなかった。
しかしなぜか現状は追われる身である。
まさしくついてないの一言なのだ。

沈黙の中、それぞれが打算に脳味噌をフル回転させていたその時。
「おいっす!」

!!!!!!

突然扉が開き、肥後が現れた。
「うおっ! 肥後くんじゃん」
「久しぶりー。みんな元気ー?」
「あ……うん……」
今日はまったくもって何が起こるかわからない日だ。
競馬場で若松に会い、今ここに肥後がいる。
いくらエーカゲンな脳味噌を持つ西永福メンバーでも
さすがにそのキャパは限界に達していた。
「どうしたんだよ、肥後くん」
「あのねー。ここに住んでって言われたんだー」
「ここって?」
「え、この隣の部屋」
隣とは土屋が住んでいた部屋だ。
前住民は先ほど死んでしまったが、
部屋の中はまだ物が置かれたままになっている。
「さっきねー、まっつーに呼び出されて、G.S.P.の隊長になったんだー」

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

(以下略)

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