20世紀最後の怪物、グラスワンダー

 

グラスワンダー('99宝塚記念直線)

’99年宝塚記念

 

怪物生誕

 ’97秋、1頭の馬が新馬戦を勝ちあがった。その名をグラスワンダー。的場を背に豪快に走る姿は

まさにデビュー当時から”怪物”たる雰囲気を醸し出していた。2戦目のアイビーS、3戦目の京王杯

3歳Sはそれぞれ5馬身差、6馬身差の圧勝。まさに他馬とはエンジンが違っていた。そして暮れの

朝日杯3歳S。彼は不動の本命に押された。

 3歳チャンプ決定戦、朝日杯3歳S。アイネスフウジン、ミホノブルボン、ナリタブライアン・・・ 

これまでに数々の名馬がここからクラシック戦線に旅立って行った。しかし、グラスワンダーは外国産

馬でクラシックに出走不能。取り敢えずはここがデビュー当時からの第一目標であった。レースでの

彼は3コーナーひと捲くり。4コーナーで先団に取りつき、直線を向くと抜け出して粘るマイネルラヴを

軽くひと捻り。1.33.6のレコード圧勝だった。3歳にしてマイル戦で1分34秒を切るなんて・・・・・・

凄い馬が出て来たものだ。従来のレコードは1.34.0(リンドシェーバー)。その勝ちタイム、他馬を

子供扱いするその内容、ゴムマリのように伸縮する、その柔軟かつ重厚な馬体。その時点で史上最強

馬との声が上がったほどだ。だが今思えば、グラスワンダーが最も輝いていたのは、この時期だった

のかも知れない・・・。

                                                             

復活祭

 ’97最優秀3歳牡馬に選ばれたグラスワンダー。しかし、そんな彼に試練が訪れた。骨折である。

恐らく、その伸縮自在な筋肉に骨がついて来れなかったのだろう。結局、彼は98年春シーズンを棒に

振るう。グラスワンダー不在の’98NHKマイルカップでは、グラスワンダーと同じく無敗の外国産馬

エルコンドルパサーが、これまた同じく的場を背に圧勝する。来るべき秋に実現するであろう両馬の

対決の行方、そして的場はどちらを選ぶのか・・・。当時の競馬ファン最大の感心事だった(と思う)。

 時は来た。後にGII戦ながら’98ベストバウトと言われた毎日王冠。1番人気は5歳馬のサイレンス

スズカ。4歳時はその溢れるスピードを制御し切れていなかったが、5歳になり、武の騎乗により開花

した伝説の名馬だ。2番人気グラスワンダー。骨折休養明けでもファンはその怪物振りを支持した。

3番人着は我が愛しのエルコンドルパサー。私も含めて、多くのファンは彼を過小評価していたようだ。

的場はグラスワンダーを選んだ。理由はわからない。ただ、あの時点の両馬なら、私もグラスワンダー

を選んだような気がする。レースでは、サイレンススズカが馬なりで逃げる。中距離戦にも関わらず

前半5Fを57秒台で、しかも馬なりで走るサイレンススズカ。グラスワンダーはそんなサイレンススズカ

を4コーナーで積極的に捕まえにいったが堪らず失速。初黒星であった。そして、骨折休養明け2戦目、

アルゼンチン共和国杯。グラスワンダーはこのレースでも早めに先頭に立ったがその後全く伸びず

2連敗。どうした、グラスワンダー!

 ’98グランプリ、有馬記念。グラスワンダーは4番人気。皐月賞と菊花賞を制したセイウンスカイ、

このレースで引退する最強牝馬エアグルーブ、春の天皇賞馬メジロブライト等、好メンバーが揃った。

グラスワンダーはスタート後、中段にじっくり構えた。そして3コーナーから除々に進出し、4コーナー

では先団に取りつく。手応えもいい。直線半ばで先頭に立つと、後は追いすがるメジロブライトを完封。

なんだ、やっぱり強いんだ。

                                                             

グランプリ3連覇

 グランプリで復活を遂げたグラスワンダーは99年春シーズンの目標をまず、安田記念に定めた。

緒戦はその前哨戦である京王杯SC。有馬2500mから一気に距離が短縮された1400m戦だ。

スタートして中段に位置するグラスワンダー。レースは府中の1400mGII戦にしてはスローペース。

直線に向くと先行馬が一気にスパートし、全く止まる気配がない。グラスワンダーは果たして届くのか?

先頭に立ったケイワンバイキングを交わしてエアジハードが抜けたところへ、大外からグラスワンダー

が飛んで来た。上がり3F33.3秒。えげつない脚を使うもんだ。

 前哨戦を完勝し、本番、安田記念。レースの流れも落ちつき、グラスワンダーは好位置をキープ。

これはまた完勝かと思いきや、直線を向いても前走ほどの切れが見られない。外からは前走負かした

エアジハードが迫る。馬体を併せた叩き合いの末、グラスワンダーのハナ差負け。

 敗因は左回りかはたまた夏負けか・・・。釈然としないまま春の総決算、グランプリ宝塚記念を迎えた。

1番人気はスペシャルウィークだった。レースでは3コーナーからはスペシャルウィークとグラスワンダー

がスパート。他馬は全くついて行けない。スペシャルウィークが先頭に立ち直線へ。直後にグラス

ワンダーが迫る。2頭の叩き合いかと思われた瞬間、並ぶ間もなく先頭に立ったグラスワンダーは

スペシャルウィークを3馬身引き離してゴールした。久々に身震いがする勝ちっぷりだった。

 グランプリを連覇したグラスワンダーはJC、有馬を目標に秋シーズン緒戦、毎日王冠に出走した。

去年ほどの強敵は見当たらず、ここは楽勝か? しかしレースでは安田記念同様、直線で突き抜け

る勢いがない。外からはメイショウオウドウが襲いかかる。またまたハナ差。今度は勝ったものの

府中コースでのレース振りは冴えない。

 筋肉痛のためJCを回避。ファンの期待はJCでのモンジュー、スペシャルウィークとグラスワンダーと

の対決だったのに残念! 目標をグランプリ3連覇に定めたグラスワンダー。有馬記念を最後に

担当厩務員が退職するため、陣営のやる気も一入だったことだろう。’99有馬記念、グラスワンダー

は1番人気。だが、スペシャルウィークと人気を分け合った形だった。両馬の実績を考えれば当然で

あり、一騎討ち濃厚ムードである。スペシャルウィークもこれが引退レースであるため、負けられない

1戦。それは武の最後方待機作戦にも表れていた。レースの流れは超スローで上がりの競馬になった。

直線半ばで先頭に立ったグラスワンダー。インから4歳皐月賞馬テイエムオペラオー、外からは

スペシャルウィークが猛追する。脚勢はスペシャルウィーク優勢だったが、写真判定の結果、4cm差

でグラスワンダーの勝利だった。

                                                             

斜陽

 グランプリ3連覇。さあ次は海外、の筈である。しかし、海外遠征の声は一向に聞かれず、春の目標

レースも定まらないまま、休み明け緒戦は日経賞。グラスワンダーの馬体重はなんと+18キロ。勝負

所の3コーナーで早々とギブアップし、全く競馬にならなかった。さらに目標レースが定まらないまま

京王杯SCに出走。馬体は20キロ絞れて510キロ。しかし、相変わらず覇気がないままだった。

レースでも中段のままゴールイン。

 いよいよ正念場、グランプリ4連覇を賭けたミレニアム宝塚記念である。勝てば海外、負ければ

引退。1人気は5歳天皇賞馬テイエムオペラオー。グラスワンダーは2番人着で、しかも騎手は蛯名

に変更された。コズミやすいグラスワンダー。蛯名もそのことは承知だったと思うが・・・。蛯名によると

3コーナーでは抜群の手応えで、これは楽勝だと思ったらしい。しかし、4コーナーでは全く動けな

かった。見せ場もないままの3連敗だった。レース後、向こう正面で1頭佇むグラスワンダー。蛯名は

下馬し、鞍を外す。そして、グラスワンダーは左前脚をかばう仕草を見せた。怪物伝説は骨折と言う

最悪の結末により静かに幕を閉じたのであった。

 

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