それでも山崎智也

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今年の住之江賞金王は例年に増してインコースが強かったように思う。戦前に予想したとおり捲りを得意とする市川や滝沢は得点を纏めることができなかった。市川はトライアルの緒戦こそイン逃げを決めたが、緒戦と同じく1号艇となったトライアル2戦目で大敗すると、そこから立ち直ることができなかった。プロペラが合っていないとの談話からも先頭を走っていれば持つのだろうが競って残せる脚ではなかったようだ。滝沢は好素性のモーターを引き当て、実戦でも脚の良さを見せていたのだが、展開的にうまく行かず、やはり順位戦まわりとなった。

今年私が期待したのは山崎智也と西島義則であったが、山崎はトライアルを2走して5、4着、西島は4、6着と調子があがっていなかった。

トライアル2日目を終えた時点で、ボーダーを21点とした場合、決定戦当確は今垣光太郎只一人、そして西島だけがトライアル3日目を待たずして決定戦出場の望みを絶たれていたのだった。もう一人、期待の山崎は1着条件。トライアル最終戦を勝てれば去年と同じように滑り込みで決定戦に出場が叶う。だが1号艇に植木通彦が仁王立ちでは苦しいだろうと思われた。 しかし、ほぼ横一線のスタートながら舳先をのぞいた山崎の捲りが決まって間一髪で2年連続の決定戦進出を決めたのだった。もう一方のトライアルでは山崎と同様1着条件だった石田政吾がイン仲口のドカ遅れにも助けられて悠々捲りを決めやはり決定戦へ駒を進めた。石田、山崎、松井繁と得点では並んだ植木は上位着順の差で順位戦回りとなり、今村の減点(待機行動違反)でポールポジションの1号艇は田中信一郎が手にし、以下今村豊、今垣、石田、山崎、松井の順となった。

最終日は賞金王シリーズ戦、賞金王決定戦と一応2つのSG優勝戦がある。決定戦とシリーズ戦の両方に同時に参戦することができないのだから、シリーズ戦の価値に疑問の声があがるのも当然だと思うが、ともかく現状ではSGという扱いである。シリーズ戦の優勝戦は1号艇森秋光、2号艇瓜生正義、6号艇鳥飼眞の3人がSG初優出となった。3号艇は濱野谷憲吾、4号艇は吉川元浩、5号艇は矢後剛である。モーターは吉川がやや強めで他は大差ない感じで、実際4コースから鮮やかな捲り差しを決めた吉川の勝ちパターンのレースだったが濱野谷の執念が優り、優勝は逆転で濱野谷がものにしたのだった。

順位戦を西島が勝って最後になんとか格好をつけたところで残すは賞金王決定戦のみとなった。FKSの存在、枠番を考えれば田中信一郎断然有利だ。逆転があるとすれば、今村が差しを決めた場合だけだろう。だが、私は前発表している手前もあり山崎を中心に買うことにした。常識的に考えれば5号艇は遠い。石田の内に入っての4コースか枠なりの5コースがせいぜいだろう。そして過去の山崎の実績からしても2レース続けてスタートを張り込むことは考えづらかった。1=2を元返しで持って、1=5、2=5を本線にしたが、展開で2着に来てくれればというのが本心でまず1=2で決着するのだろうと思っていたのだった。

コースは松井が回りなおしたこともあって結局枠なりに落ち着いた。山崎は5コースだがカドが取れたのは幸いである。黄色い針が回り始める。スタートだ。時計とスタートラインを見比べるほどの余裕は私にはなかった。山崎が半艇身ほど出ていたように見えるがやはり5コースは遠い。田中の逃げが決まりそうだ。と思った矢先「只今のスタートでフライング艇があった模様です。」とのアナウンスが流れた。スタート状況から言ってフライング艇は山崎以外に考えられない。こうして私にとっての賞金王決定戦は終わったのだった。もちろん田中の優勝にケチをつける気は毛頭ないのだけれど。

不可解なのは+.05のフライングである。FKSは間違いなく鳴ったはずだ。山崎は「ある程度大丈夫な幅があると思い(握って)行った。」と言うが、私が以前池上裕次選手から聞いた話ではFKSが鳴ったら放らなければ100%フライングになるということであった。池上に比べれば山崎の方が選手経験は浅いとは言え、山崎がそのことを知らなかったとは思えない。私にはフライング覚悟で突っ込んだのだと思われた。99%フライングになると知りつつも一縷の望みに賭けたのだろうと。

昨年後半からSGの優勝戦に出る度に山崎は煮え切らないスタートを切り続けてきた。殊に去年の賞金王決定戦では一瞬差さったかと思った捲り差しが結局決まらず、市川とのスタート差が印象に残る結果になったのだった。クレバーな山崎がその時の事を思い出さなかった筈はない。今年こそはとスタートを張り込んだとしても何の不思議もない。

ともかく山崎は来年1年間SG戦線を離れることとなった。間違いなく今年一番強かった男が最後の最後で消えたのだ。奇しくも有馬記念ではやはり最強馬と目されたテイエムオペラオーが断然人気に応えられず5着と沈んだ。マンハッタンカフェという後進に後を託すかのように……。

だが、山崎はまだ若い。まだまだ後進云々という年ではない。年齢だけで言えば今年の賞金王決定戦でもなお最若手だったのだから。今回のフライングは山崎にとって苦い薬であったに違いない。だが良薬こそが苦いものである。2003年には更に逞しくなった山崎の姿を見られるものと思いたい。そして山崎智也はそれができる男だと私は信じている。


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