
(テマエミソの披露)
スキーを始めようかと思っている人が読む章
スキーというのは魔法の板でございます。

スキーはやさしくて、楽しくて、ついに私をして外国に住ませるようにした代物なの です。 いや、スキーのお陰で、衣食住何れも素晴らしいカナダはバンクーバーに住むことが出 来たのです。
この素晴らしいスキーを皆さんに紹介したくて、ペンならぬワープロのキーボードを 抱え込んでいます。
私の四十年余のスキーの苦心と三十年余の指導の経験から思ったことを、縦に眺め、 横から覗き、そして斜めに斬ってもみました。 むつかしいスキー指導書では納得できなかったことを、掴んで頂ければ幸いでございま す。
「あらゆるスポーツの中でその王者に値するものがあれば、
それはスキーをおいて他にはない。 スキーほど筋肉を鍛え、身体をしなやかにし、しかも弾力的にし、
注意力を高め、巧みさを養い、心身を爽快にするスポーツは他にない。」
これはノールウェーの極地探検家で1922年にノーベル平和賞を受けたFridtjof
Nansen がおっしゃった言葉です。 そして「白い世界を飛鳥のように滑る。その瞬間、
日常の生活は我々の頭からぬぐい去られ、都会の空気諸共に後ろへと遠のく。
我々とスキーと自然とが、混然として一つになる。」と言ってます。 
又、1956年イタリアはコルティナ ダンペッツォのオリンピックで三冠王になった、 オーストリアはキッツビューエルの寵児、Toni Sailer は「スキーは最高のスポーツである。 最もスリルに富んでいながら最もリラックスさせてくれるし、 最も健康に良いレクリェーションであり、易しく覚えることが出来る。 スキーは、スポーツ以上の物だとさえ私は思う。 スキーは人生の生き方を教えてくれる。 それは、混雑したスキーヤーの中にあっても“吾一人行く” という気概を持つことが出来るからだ。」と言ってます。
山を愛した英文学者・田部重治は「スキー登山は 最も良く 自然の観賞とスポーツとを調和させたものである」と讃えています。
20世紀末の今日では、スキー場は自然そのものとは言えず、 むしろ自然を破壊しているものかも知れませんが一般の都会生活者にとって自然に最も近く接することの出来るスポーツは 矢張りスキーです。
私の大先輩は曰く「ゴルフは止められても、スキーは止められない」。
その証拠が私です。運動会が試験より嫌いな運動オンチで、小学校から大学まで、
体育でまともな成績を頂いたことがございません。30年間ゴルフをしているライオン(百ジュウの王)です。それが、スキーでは 日本とカナダで指導員として 何とか認められる
滑りが出来るようになれました。ただ、スキー(好きー)になったから。
「下手の横好き」が、やがては「好きこそものの上手なれ」ということになります。
スキーは易しい。要点は2つだけ。
まず、スキーにバランス良く乗ること。これには少し時間がかかるかも。
足元が勝手に動くという 非日常的行動です。スキーに遅れないように前を踏み続ける、
という簡単なことの要領を掴め。そう、足の指でスキーを掴む感覚です。
そして、行きたい方向に膝を向ける。股関節を捻って、股関節を回し膝から下の
向きを変えるのです。腰から上の向きは変えなくて。外側の足のスネが傾くので、
親指側を踏み小指側が浮く感じです。これで方向が変ります。すなわち回転。
基本はこの2つだけ。何事も最初は難しく思われますが、繰り返せば慣れます。
「アイツに出来ることなら、年のコウで俺にも出来る」と
69才でスキー滑りを始めたオッサンは快調に滑り続けています。
転んでも痛くない。スケートのように硬い氷の上で無く、
ローラー ブレードのようにザラザラで固いコンクリートでは無い、
軟らかい雪の上です。新雪の雪風呂に浴びるも、また楽し。
無垢な雪肌が優しく抱き留めてくれます。
百分の1秒を争うスキー競技もありますが、私達のスキーは チョットしたスピード感と、汚れ無き大自然を楽しむものです。 失敗しても、誰にも謝らなくていいし、恥ずかしい思いもしなくていい。 思い切って転ぶこともまた楽しい、抜けるような青空に気が つくでしょう。
「何を始めても上手になれず、主人に馬鹿にされていましたが、スキーでは負けていません」と、子育てを終え御夫婦でスキーを始めた
ご婦人は喜々としています。
スキーって本当に楽しいものです。
なにしろ短気で飽きっぽい私が40年以上も続けているのです。
「アタシャ、カナダは嫌いです」とおしゃっていたオバサンが
60才でスキーを初体験し、冬中は日本に帰らなくなりました。
ゴルフを楽しみにカナダに移住した シングルクラスの達人が
「スキーは楽しいよ」とふれ回っています。
スキーヤーは「自然の寵児」てなことは今は言えません。
昔は 自然の雪山を乱舞したのですが
今日は自然林を破壊して造った スキー場を滑ります。
そのお詫びとして、私達は自然保護に協力しましょう。
都会生活に麻痺している私達が自然、しかも雪山という清らかなところに
最も容易に接することが出来るのがスキーです。
小雨降る雲をかき分けて登ぼったスキー場は雪。時には晴れてます。
下界は雲の海の下。我々は雲上人。眼前には峨々たる巖峰、
彼方には氷河を抱くピラミッド。 真っ白なウエディング・ドレスの樹氷。
空中にきらきら輝くダイアモンド ダスト。
ある時には粉雪が舞い、あるいは霧のミルクに包まれる。スモッグの下界では見ることができない千変万化の天国で遊ぶのです。
そして、如何なる人工的エネルギーの助け無し (正直に言えばリフトでポテンシャルエネルギーをいただいたのですが)で、 選手は時速百粁以上、キロメータ ランセという競技では2百粁以上、 私達でも数十粁のスピードが楽しめます。
舵の無い真っ直ぐな板きれに乗って、ユラユラと大きく、 またクルクルと小さく回る。大空の鷹のように、あるいは花園の蝶のように舞う。 まさに魔法の板です。
北アメリカに来て30年余、Vancouver在住20年以上になるご婦人が スキーを始めてから、「寒くて雨の日が多いVancouverの冬(西側に太平洋が有り 日本海側と同様な気候)は嫌いでしたが、スキーを覚えてからは、雨の日も “山では雪かしら”とウキウキするようになりました」と喜んで滑り続けて いらっしゃいます。
スキーほど楽なスポーツはありません。
文明開化のお陰で、上りはリフトやゴンドラという機械力が連れていってくれる。
椅子に座っていればいいのです。
下りはスキーに乗っていれば地球の引力で下ろしてくれる。
スキーの上に立っておればいいのです。
リフトに乗ったら終点に近づくまでは、ゆっくりあたりの景色を見ましょう。 下りのコースを点検するも良し、隣に乗った人と友情を育てるも良し。 降り場に来たらさっさと前に立って滑り降り、プラットホームを空けましょう。 後ろが直ぐ来ています。降り損ねても慌てないこと。 監視員が非常停止してくれます。飛び降りないで、監視員の指示に従ってください。
速く滑りたければ、スキーの先を下に向ける。
ゆっくり下りるにはスキーを斜めに向き。
景色を眺めたければ横向きにして止まればいいのです。
体がスキーの滑りに遅れると、お尻が後ろに残って落ちる。
すなわち転びます。遅れないように足首を曲げて前を踏み続けること。
最近のスキー場はグルーミング マシンで平らに均してありますが、
スケート場ほどじゃありません。
関節を真直ぐにして突っ立っていると 凸凹で跳ね飛ばされる。
足首・膝をわずかに曲げてショックを吸収します。
雪の斜面で斜めに滑る(立つ)と、下(谷)側の足が下にあるから当然
谷足に多くの力がかかる。 スキーを水平にするために谷足の内側(親指側)を踏み締めることも忘れないように。
読書やインターネットで目が疲れたらスキーがいい。 澄んだ青空と緑の樹々が目を休めてくれるでしょう。 キーボードで肩が凝ったらスキーがいい。家事に疲れたらスキーがいい。 ほど良い全身運動と、雪面からの振動が疲れをほぐしてくれます。 そして汚れの無い空気が。
リフトで隣り合わせたカナディアンが言ってました。「飛行機事故で動くことができなかったが、昨年10年ぶりでスキーを再開し百日以上滑った。他の運動はできないがスキーは出来る」。私も重い坐骨神経痛を患い、その後遺症か歩くことが辛いのですが、スキーは出来ます。その彼は首にサポーターをして、ひらひらと滑って行きました。
あらゆるスポーツが健康の為に有効なことは言うまでもありません。
その中でスキーの素晴らしさを強調してみましょう。
一般の人が寒さが故に、室内に閉じ篭もり陰欝になる冬に、屋外(日本には
屋内スキー場という例外がありますが)で遊ぶ唯一のスポーツ
と言っていいでしょう(最近はスキーの亜流とも言えるスノーボードが有る)。
運動不足になりがちな冬の時期のスポーツです。
健康の増進になるのは勿論です。
広大な、大自然の雪山での運動ですから、新鮮な空気を吸い、
広大な気分になります。 加えて冬の屋外での運動は季節性欝病(雪山の強烈な明るさが効く)や、
骨疎鬆症(カルシュームの吸収の為のビタミンDが太陽光で体内に合成される)の
予防/治療、老化の防止(衰えたバランス能力をスキーの練習により回復)
に有効です。病は気から、薬や小手先の技でなく、宏大な大気で治しましょう。
スキーは生涯スポーツです。焦ることは無い。
自分の能力にあわせて、雪と戯れながら上達すればいいのです。
人、夫々に能力の差があるから所要時間の差はありますが、殆どのスキー場を楽しめる
中級のレベルまでは必ず上達できます。
スキーは足を使ってのバランスのスポーツ。
脚力とバランス能力は年齢とともに一番衰える能力です。
だから、高齢者は子供が1日で覚えることを、1年かかるかもしれません。
代わりに、忍耐力と余暇が充分有ります。
中高年になってから趣味を増やすのは、長寿のための最高の良薬です。
口に苦いことはありません。
「日本にいる子供に『スキーを始めた』と知らせたら『危険だから止めろ』と 反対されましたが、今年のクリスマスにはスキーウエアをプレゼントされました。」 と喜々としていらっしゃる高年ご夫妻がいます。
スキー シーズン オフの夏にも、冬に備えて運動しようかという気になります。 ゴルフでミス ショットをしても、スキーの為に余分に歩くのだと考えれば ストレスが無くなります。
但し、スキーをしたら細くなれるとか、腰が締まるという希望は諦めなさい。 スキーは腰を捻るのではなく、脚を回すもの。そして スキーのあとでは、 もりもり食欲がでます。
しがないサラリーマンの頃、仕事の関係でスキー
クラブに誘われました。 そこには、いわゆる立派な方々もおいでになりましたが、
私みたいなペイペイに対等に話して下さいました。
そして私を“スキー気違い”に育てて下さいました。
それが“新日本スキー研究会”です。
私事ですが1990年、退職と共に第2の人生をスキー天国
Vancouver に求めて居を構えました。 日本の仲間から「カナダのスキー指導法をレポートしろ」と脅迫されて、
インストラクター
コースを受講し、おかげで、まともには英語の話せない私に
カナダの友達が出来たのです。
翌年、60才と70才のご婦人からスキーの相談を受けました。
それでは、と引き受けたら20人近くが集まりました。
“30万円/月で黄金の日々(小学館発行)”の著者、稲垣長映さんを会長に戴くクラブが出来たのです。
会長が名付けて“BALL(Be
Active Live Longer) Club”。
口伝てに仲間が増え、気がついたら約4倍の大世帯となっています。
優しいスキーは、ゴルフのように スコアーを苦にしなくてもよい。 ワイワイ騒いでいてもいい。遅れたからって平気。せいぜい数秒の差です。 お弁当にオニギリを持っていきますが、ニギリ(賭け)スキーなんてのはない。 転んだら助け合い、友情を傷つけることはありません。
「第二の人生計画の中にスキーは有りませんでした。
人との出会いの素晴らしさを求めて仲間に入りましたが、
スキーも滑れるようになりました」は退職移住でカナダに住み、
ライオンズ クラブの役員さんをしている人の言葉。
春にはスキー納会のパーティーを、夏にはゴルフ教室・ピクニック・ハイキング、
暮れには餅つき・クリスマス パーティーと楽しさは広がって行きます。
私にとってはスキー仲間の皆さんが、人生の、移住の先輩で、
多くを学ばせて頂いています。
「芸は身を助く」とはよく言ったものです。
スキーは安全なスポーツです。
“スキーは危険だ”“始めた日に怪我をした”という話をよく聞きます。
とんでもない話です。怪我をした人の殆どが正しい指導を受けてない人です。
私のスキー暦40有余年の間で、骨にヒビを入れたのが1回だけ。
それも我流で始めた3年目です。或程度滑れるようになって慢心し、
疲れが溜まり雪質の変化に気がつかなかった夕刻でした。
指導員になったばかりの頃、私の受講者が怪我をした事が1回だけありました。
それは、より楽しんで頂こうという、私の欲張った焦りが原因でした。
以来30年余、講習中の怪我人はありません。
全日本スキー連盟(SAJ)の「スキー安全十則」を挙げ、私の注釈を加えましょう。




勿論、スキーはスポーツ。危険はゼロではありません。
或るスキー指導員でスキーでは怪我をしたことがないのに、夏に階段を踏み外して
ギブスを巻いたのがいました。