《人間の体と元素》 (最終改訂:2003.9.1.)
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《人間の体を作る元素について》



 人間の体を作っている元素は全部で29種類あります。人体の大部分は水ですから、
水素原子(H)が半分以上(60.3%)を占め、次いで酸素分子(O)が25%、炭素分子が
10.5%、窒素分子(N)が2.4%とこの4種類の元素で98.9%を占めます。
残り25種類の元素は全部あわせても1.1%と微量ですが、人体にとって必要不可欠なものです。
(1)多量元素
(2)多量金属元素
(3)微量金属元素
(4)極微量元素
(5)カルシウムと血圧

 参考にした資料は
*Linus Pauling Institute Micronutrient Information Center
*Nutrition.org-Nutrition Information
*『元素111の新知識』桜井弘著、講談社ブルーバックス、1997年
*"Nutrition in Clinical Practice",David L.Katz,Lippincott Williams&Wilkins,2001
などです。(今後参考資料は随時追加していきます)

多量元素

 有機物を構成している多量元素は酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)、水素(H)、リン(P)、
イオウ(S)の6種類です。

 有機物とは人間の体を構成する高分子の生体物質で、核酸、タンパク質、糖質、脂質があります。
これらは低分子の単位物質が多数結合したもので、
  核酸はヌクレオチド
  タンパク質はアミノ酸
  糖質は単糖類
  脂質は脂肪酸とグリセリン
がそれぞれの単位物質です。
この単位物質をさらに細かく見ていくと元素が集まったもので、水素、酸素、炭素、窒素、リン、
イオウの6種類の元素からできあがっています。
つまり、人体を構成する有機物はこの6種類の元素から成っているといえます。

 これらの構成元素の存在比率は多い順に並べると
   水素(H) :60.3%
   酸素(O) :25.5%
   炭素(C) :10.5%
   窒素(N) : 2.4%
   リン(P) : 0.1%
   イオウ(S): 0.1%
となります。


水素(H):原子番号1。分子量は1.00794。
   ・生体内では水として存在する他、生体を構成するタンパク質、遺伝子のDNA、糖質、脂質
    に広く含まれています。

酸素(O):原子番号8。分子量は15.9994。
   ・生体内では水として存在する他、タンパク質、核酸、糖質、細胞膜などに含まれます。

炭素(C):原子番号6。分子量は12.011。体重70kgの人の場合16kgくらいの炭素があります。
   ・タンパク質、糖、核酸、アミノ酸、脂質は全て炭素を含む炭素化合物です。

窒素(N):原子番号7。分子量は14.00674。体重70kgの人の場合1.8kgくらいの窒素があります。
   ・タンパク質には窒素が含まれています。また生体内で起こる化学反応を促進する酵素は
    窒素原子を含むアミノ酸から構成されています。


リン(P):原子番号15。分子量は30.973762です。体重70kgに人には700-780gくらいのリンが
    含まれています。リンは人間の体にとって必要不可欠の元素です。
   ・人間が生命活動を行っていく上でエネルギーを必要としますが、生体内ではこのエネルギー
    はATPという化合物の形で蓄えられています。ATPはリンが3つ含まれています。
   ・DNAという遺伝子の本体を構成する元素としてリンは不可欠です。
   ・骨格をつくる骨はリン酸カルシウムが重要な成分です。

イオウ(S):原子番号16。分子量は32.066です。体重70Kgの人には140gくらいのイオウがあります。
   ・メチオニンやシステインという名前のアミノ酸にはイオウが含まれています。このアミノ
    酸はタンパク質や酵素、皮膚、爪、毛髪に含まれています。       


多量金属元素

 有機物を構成している多量元素は6種類で98.9%を占め、その他の元素は全部あわせても1.2%しか
ありません。
その中で比較的多く存在する金属元素はカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)などです。
これを多量金属元素と呼びます。


   ナトリウム(Na) :0.7%
   カルシウム(Ca) :0.2%
   カリウム(K)   :0.04%
   塩素(Cl)    :0.03%
   マグネシウム(Mg):

ナトリウム(Na):原子番号11。分子量は22.989768。体重70Kgの人には100gくらい含まれています。
   ・血液など細胞外液に多く含まれ、赤血球の形態維持や細胞のイオンバランス維持に役立って
       います。

カルシウム(Ca):原子番号20。分子量は40.078。体重70Kgの人には1Kgくらい含まれます。
   カルシウムの機能として一般につぎの4つがあげられます。
   ・骨の無機質を構成し、生体の機械的支えになる。
   ・生体膜を構成し、膜の構造を安定させたり、膜の物質透過性を保つ。
   ・筋肉の刺激と筋肉の収縮に関係する。
   ・外分泌や内分泌腺の刺激と分泌機能に関係する。
   このように生体にとって重要な働きをしますが、他にも酵素の調性という重要な働きもあります。

カリウム(K):原子番号19。分子量は39.0983。体重70Kgの人には140gくらいあります。
   カリウムは細胞内外で分布が異なり、細胞内に多く含まれています。
   ・タンパク質合成、細胞内外の水の輸送、生命維持のための情報伝達など多種多様な生理
       機能を果たしています。

塩素(Cl):原子番号17。分子量は35.4527。
   ・胃から分泌される塩酸(HCl)の成分です。

マグネシウム(Mg):原子番号12。分子量は24.3050。体重70Kgの人には20−30g含まれています。
   ・タンパク質、核酸、脂質の生合成に関わる酵素類の活性化
   ・軟骨と骨の成長
   ・脳と甲状腺機能維持
   に重要な働きをしています。


微量金属元素

 有機物を構成している多量元素以外の元素のうち、比較的多く存在するものは
多量金属元素として既に説明しましたが、微量しか存在しない元素は微量元素と言います。



   鉄(Fe)
   亜鉛(Zn)
   銅(Cu)

この3種類の元素は全て金属元素(微量金属元素)です。


鉄(Fe):原子番号26。分子量55.847。
     鉄(Fe)という元素は2つの酸化状態を取ることが出来ます。
   酸化とはある物質に酸素が結合する事ですが、ある物質から電子がなくなるのも酸化
   です。鉄(Fe)から電子が取れた場合も酸化した鉄元素ということになります。
   鉄(Fe)は2個の電子が取れた状態(2価の鉄イオンFe++)と3個の電子が取れた状態
   (3価の鉄イオンFe+++)という2つの酸化状態を取ることが出来ます。
   このような性質を持っているため、鉄元素は種々の酸化還元反応に参加して、エネル
   ギー獲得などに重要な役割を果たす事ができます。

銅(Cu):原子番号29。分子量63.546。
    銅(Cu)が人体に大切であることの例として、貧血のことを書きます。
   貧血にも色々な種類(病態)があり、一般的なのは鉄欠乏性貧血です。鉄(Fe)が不
   足することによる貧血ですが、この鉄を人体で有効に活用する為には銅が不可欠です。
   つまり、鉄を有効に利用するためには銅を栄養として摂取しなければいけないのです。

亜鉛(Zn):原子番号30。分子量65.39。
   亜鉛(Zn)は微量ですが人体にとって必要な元素です。
   食べ物の甘さを感じない、塩辛さを感じないなどということを味覚障害といいます。
   味覚障害の全ての原因ではありませんが、食物からとる亜鉛の量が少ない場合に起こ
   る事があります。食物に溢れている現代ですが、偏ったダイエットや偏食など亜鉛の
   摂取不足は多くなっているようで、亜鉛不足による味覚障害も増えていると言われて
   います。
   味覚障害が起こって6ヶ月以内に治療を開始すると回復が期待されますが、それ以降
   になると難しくなるようです。
   常日頃から食物としてバランスよく栄養を摂る事が大切です。


極微量元素

 微量元素のうち、極めて微量しか存在しないものを極微量元素と呼び、15種類あります。
量は少なくても人体にとって必要不可欠の元素です。



   フッ素(F)
   ヨウ素(I)
   セレン(Se)
   ケイ素(Si)
   ホウ素(B)
 *この5種類は非金属元素です。

フッ素(F):原子番号9。分子量18.9984032。
   ・フッ素が充分な濃度で口の中にあると、歯質が酸に侵されずらく(虫歯になりずらく)
    なります。
    歯のエナメル質の成分(ハイドロキシアパタイト)がフッ素を取り込み酸にたいして抵抗性
    を持つようになるほか、一旦エナメル質が溶ける(脱灰)状態になってもフッ素があると再
    度固くなる(再石灰化)が起こります。
  **フッ素も過剰に取ると急性中毒や慢性中毒を起こします。
 
ヨウ素(I):原子番号53。分子量126.90447。体重70Kgの人には12-20mg含まれます。
   ・甲状腺ホルモンの成分になります。
  **一日の必要量は成人で200−500μgです。
  **日常の食事からは0.1−0.2mgのヨウ素が摂取されます。
  **中毒量は2mg、致死量は2-3gです。

セレン(Se):原子番号34。分子量78.96。
   ・活性酸素種を分解する酵素にグルタチオンペルオキシダーゼがありますが、この酵素には
    セレンが含まれています。

  **セレンは必須元素ですが、過剰症(神経障害、皮膚炎、胃腸障害など)が起こります。
    また欠乏症(心不全を起こす克山病など)もみられます。

ケイ素(Si):原子番号14。分子量28.0855。

ホウ素(B):原子番号5。分子量10.81。




   ヒ素(As)
   マンガン(Mn)
   モリブデン(Mo)
   コバルト(Co)
   クロム(Cr)
   バナジウム(V)
   ニッケル(Ni)
   カドミウム(Cd)
   スズ(Sn)
   鉛(Pb)
 *この10種類は金属元素です。

 コバルト(Co)のような金属が人体に存在し、必要な元素だという事は一見不思議に
思えるかも知れません。詳しくはこれから書きますが、ここでは人体に必要なビタミン
の1種、ビタミンB12の中にコバルトが(鉄も)含まれているということを記述するに
とめておきます。

ヒ素(As):原子番号33。分子量74.9216。
      ヤギやヒツジなどの草食動物では、食物中のヒ素が欠乏すると発育障害が
      起こると報告されています。
      人間でも必須元素である可能性があります。
      食品を介して摂取していて、1日の平均摂取量は約0.1mgと考えられてい
      ます。

マンガン(Mn):原子番号25。分子量54.93805。
      体重70Kgの成人には約12mgのマンガンが存在します。
      1日に約0.4−10mgのマンガンを摂取していると考えられています。

モリブデン(Mo):原子番号42。分子量95.94。
      モリブデンは人間にとって重要な酵素(キサンチンオキシダーゼや亜硫酸
      オキシダーゼ)の活性部位に存在します。
      成人のモリブデン必要量は1日に0.1mgです。通常の食物には0.1−0.3
      mg含まれています。

コバルト(Co):原子番号27。分子量58.93320。
      上に書いたようにコバルトはビタミンB12に含まれています。
      体重70Kgの成人には約1.5mgのコバルトが含まれています。
      食物を通じて1日に0.05−1.8mgのコバルトが体に取り込まれています。

クロム(Cr):原子番号24。分子量51.9961。
      体重70Kgの成人には約2mg程度のクロムがあります。
      1日に約0.01−1.2mgのクロムを食物から取り込んでいます。

バナジウム(V):原子番号23。分子量50.9415。
      体重70Kgの成人には約0.11mg存在します。
      
ニッケル(Ni):原子番号28。分子量58.69。
      体重70Kgの成人では、10mgのニッケルが存在します。食物を通じて
      1日に約0.5mg摂取していると考えられています。
      ヒトにおける必須性は未確認ですが、鉄吸収の促進、各種酵素の活性化、
      色素代謝促進、グリコーゲン代謝促進などが報告されています。

カドミウム(Cd):原子番号48。分子量112.411。
      体重70Kgの成人に約50mg存在します。
      日常の食事から摂取されるカドミウム量は0.007−3mgです。
      3−330mgの摂取により中毒症状が見られます。
      致死量は1.5−9gです。

スズ(Sn):原子番号50。分子量118.710。
      体重70Kgの成人には約14mgのスズが存在します。
      日常の食事から1日に0.2−3.5mgのスズが摂取されています。
      2gで中毒症状を起こします。
      ヒトにおける生理的役割はよく分かっていません。

鉛(Pb):原子番号82。分子量207.2。
      


カルシウムと血圧

 カルシウム(Ca)の摂取と血圧の関連性についてはここ20年程に、色々研究されています。
ここではConnie M.Weaver,Ph.D.(Department of Foods andNutrition,PurdueUniversity)
によってレヴューされた論文を紹介します。(Copyright 2001,The LinusPauling Institute)
 ここではミネラルのカルシウム(Ca)について機能、欠乏、病気の予防、病気の予防と治療、
食物、サプリメント、安全性などについて記述しています。


 このレヴューでは5つの学術文献について言及しています。

1)Birkett:Comments on a meta-analysis on the relationship between dietry
            calcium intake and blood pressure.
            American Journal of Epidemiology,148:223-228.1998

  23の大きな観察に基づく研究を分析したところ、100mgのカルシウム(Ca)を毎日
 摂取する事により
   ー縮期血圧(最高血圧)が0.34mmHg下がり、
   拡張期血圧(最低血圧)が0.15mmHg下がる。

2)Griffith,et al:The influence of dietary and non-dietary calcium
                   supplimentation on blood pressure;an updated meta-analysis
                   of randomized controlled trials.
                   American Journal of Hypertention,12:84-92,1999

  カルシウム(Ca)のサプリメントがプラセボ(偽薬)と比較して血圧に及ぼす影響を調べる
 ための42の無作為臨床治験という大きなシスティマティック・レヴューによると、
  カルシウム(Ca)のサプリメントを1日500mg−2000mg
 (1日1000−1500mgが最も多い)摂取すると
   ー縮期血圧(最高血圧)が1.44mmHg下がり、
   拡張期血圧(最低血圧)が0.84mmHg下がる。 
        

3−1)Appel,et al:A clinical trial of the effects of dietary patterns
                   on blood pressure.
                   The New England Journal of Medicine,336:1117-1124,1997
3−2)Conlin,et al:The Effect of dietary patterns on blood pressure 
                   control in hypertensive patients;results from the Dietary
                   Approaches to Stop Hypertention(DASH)trial.
                   American Journal of Hypertention,13:949-955,2000
3−3)Miller,et al:Benefits of dairy product consumption on blood pressure
                   in humans;a summary of the biomedical literature.
                   Journal of the American College of Clinical Nutrition,
                   19:147S-164S,2000

 DASH研究(高血圧を止める食事によるアプローチ、Dietary Approaches to Stop
Hypertension)では、549人を無作為に3つの食事グループに分けて8週間観察しました。

グループ1)コントロール食事群:フルーツ、野菜が少ない
グループ2)ダイエット食事群 :フルーツ、野菜は1日5回
グループ3)複合食事群    :フルーツ、野菜は多い。低脂肪食。

 *カルシウム(Ca)はグループ1に比べてグループ2では1日1200mg、グループ3では
1日800mg多い内容です。

・血圧の変化は、
 グループ3の複合食事群ではグループ1と比べて
   収縮期血圧(最高血圧)が5.5mmHg下がり、
   拡張期血圧(最低血圧)が3.0mmHg下がる。

 グループ2のダイエット食事群ではグループ1と比べて
   収縮期血圧(最高血圧)が2.8mmHg下がり、
   拡張期血圧(最低血圧)が1.1mmHg下がる。


・高血圧症と診断された研究参加者では、
 グループ3の複合食事群ではグループ1と比べて
   収縮期血圧(最高血圧)が11.4mmHg下がり、
   拡張期血圧(最低血圧)が 5.5mmHg下がる。

 グループ2のダイエット食事群ではグループ1と比べて
   収縮期血圧(最高血圧)が7.2mmHg下がり、
   拡張期血圧(最低血圧)が2.8mmHg下がる。


・この研究からは、次の事が示されていると考えられます。
 *中等度の高血圧の予防と治療には推奨される量(1日1000−1200mg)の
  カルシウム(Ca)の摂取が有効です。


 以上はひとつのレビューに基づいて書きましたが、カルシウムの摂取と血圧の関係には
未だに統一された見解がありません。