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摂食障害と愛着:英語版


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青年期における摂食障害と親への愛着:複数の変数の相互作用

分離と個体化
家庭機能の低下
性役割(ジェンダーロール)と移り変わり
結論
参照文献


摂食障害は、青年期の女子の間で最も多い精神障害のひとつである。広場恐怖症、うつ病、強迫性障害など他の精神障害と同じく、摂食障害も親への愛着と強い関わりをもっていると考えられている。(1) 現在に至るまでのあらゆる研究の結果、摂食障害をもつ青年期の女子は親と不安定な愛着でつながっていると思われる。(4 9 12) しかし同時に、摂食障害と親への愛着の関係はそれ程単純なものではない。そのほかにも多くの変数が、摂食障害と親への愛着の関係に関わり、相互作用をもたらしているのだ。この論文では親への愛着と共に、分離と固体化、家庭機能の低下、性役割(ジェンダーロール)、そして殆どの若者が青年期に経験する環境の変化など、その他強い関係をもつ重要な変数についても論じてみたい。


分離と個体化

一般に子供達は、年数を重ね成長するにつれて自分の家族の外の世界を探索し始め、ひいては家族とは別の、個人としてのアイデンティティを確立していくようになる。(3) 児童期の自己アイデンティティは、自分が家族とどうつながっているのか、その認識によって大きく左右されるのだが、青年期になると、自分は親や他の家族とは異なる固有の存在なのだ、という意識が芽生えてくる。この固有な存在という意識が芽生えてくる過程を分離と個体化と言い、この過程は摂食障害の発達において重要な役割を果たすと考えられている。(3 6 9 12)この過程で問題が起こると、青年期の若者の精神的発達に大きな影響をもたらし、摂食障害が例にあるように、認知、感情、行動的問題へのリスクを増加させることになるのだ。(6) この考え方は、最初に乳児の母親への愛着と分離を研究した精神分析学の伝統的な考え方である。(6) 今日この説における愛着と分離は、乳児のみでなく青年期の若者や大人も対象にした、本来の意味よりより広い範囲で捕らえられている。それによると、乳児期や幼児期の経験には連続性があり、他人との親密な関係の形成や感情表現、自己評価など、青年期や成人期のあらゆる側面に持続した影響をもたらすのである。


摂食障害の発達と維持における、最も重要な分離と個体化の要素の一つとして、「衝突の自立」(Conflictual Independence)があげられる。(9) この自立のタイプは、親に対して過剰な罪の意識や責任感、怒り、不信感などを抱いていない状態を表す。親と不安定な愛着でつながっている青年達は、親に対してこういった否定的な感情を抱くことが多く、また、不安定な愛着とは、家族間での希薄な関係と家族に対する感情の表現の欠落に特色付けられる為、青年達の親に対する否定的な感情は解決されることのないまま、胸の内にしまわれていることが多いのである。(11) 青年達や他の家族構成員の抑圧された感情表現は、結果として、青年達を「衝突の自立」、そして分離と個体化の過程での困難に導いてしまうことが多いのだ。(7 9) 摂食障害をもつ青年達は、過食、排出行為、断食などの自己破壊的な行為によって、親に対する抑圧された感情を表現しているのかもしれない。(9) 特に拒食症の青年達は、否定的な感情を率直に表現しない親をもつことが多く、その為に、人との衝突や意見の不一致に上手に対処する方法を学べず、自己破壊的な方法を用いて感情表現することを学んでしまうのだ。 (12)


更に、親と不安定な愛着でつながっている青年達は、他人と自分との関係から離れて、自分だけのアイデンティティを確立することが出来ず、それによっても分離と個体化の過程で困難に向き合うことになる。親との愛着が不安定だと、青年達は親に対しての不信感と、また、親に拒絶されるのではないか、という恐怖や不安を同時に体験するのである。(6 11) そしてその為に、対人関係に敏感になり、自分に自信をもてなくなる傾向にある。(3 8 11) 彼らの自己アイデンティティにおける最大重要事項は、周りの人、特に親との関係の中で自分が誰でありどう行動するかに尽き、結果として、親との関係から離れての自立や自治を手に入れることは難しくなるのである。


また、親との不安定な愛着と分離と個体化の過程での困難は、直接的な関係を持っている可能性もある。青年期の子供と不安定な愛着でつながっている親は、安定した愛着でつながっている親よりも、子供の自立や自治の探索を支援することが少なく、また、中には、親が直接的に子供の自立を妨害しようとするケースもあるのだ。(6 9) その為、親と不安定な愛着でつながっている青年は、親との関係から離れた自己アイデンティティを確立することが難しいのである。摂食障害を持つ青年達の家族は、子供達の自立を支援したがらない場合が多く、(4 8 9) また、摂食障害を持つ女性は一般的に個体化(自分は一人の個人であるということ)の意識が薄い為、(3) 摂食障害の発達は、自立と自己アイデンティティの確立の仕方が分からない、あるいはそれらの確立を親に妨害されている青年達の、分離と個体化の過程での自己アイデンティティの模索の不適応な形と言えるのではないだろうか。(12)


摂食障害を持つ青年達の家族には、親と娘の間での「役割反転」(Role Reversal)が見られるケースが多い。(8 9 12) 役割反転とは、少なくとも一人の親が、子供の必要とするものよりも自分の要求を優先させようとすることである。その為、一般的な親子関係とは逆に、娘が親(主に母親)にとっての感情的な支えとなってしまうのである。(4 12) 青年期の娘は親の為に、自分の必要としているものや要求したいものを後回しにしなければならなくなるのだ。このような役割反転は、不安定な愛着で結ばれた親子関係に必ず存在するわけではないが、役割反転によって、青年達の分離と個体化の過程を困難なものになる可能性は高くなると言えるだろう。そして、分離と個体化の過程が困難になるにつれて、摂食障害の発達の可能性も高くなるのである。(3 6 9 12)


家庭機能の低下

青年期の個体と分離以外にも、近親相姦や親のアルコール依存症など、家族内での問題や家族機能の低下も親との愛着に大きく悪影響を及ぼすと考えられている。家族機能が低下した家庭では、主に、家族が家庭内の問題について見て見ぬ振りをしたり、否定したり、また問題を湾曲して認知することが多いため、不安定な愛着が発達してしまう可能性が高いのである。(8 10) 更に、家族機能の低下は、青年達の個人能力や対人能力などの社会能力の発達を妨害する可能性も高い。(8) 摂食障害を持つ女性は社会能力に欠けることが多いため、家族機能が低下している家庭で青年期を過ごす女子は、自分のもつ個人能力の低さや、極端な感情を制御する能力の低さを補うために、摂食障害を発達させることもあるのだ。(8) 青年期に家庭内の問題を経験した女性の殆どは、摂食障害を発達することなく成人に至るが、摂食障害を持つ青年期の女子の多くは幼児虐待を経験していることも事実な為、家族機能の低下と摂食障害の関係は無視できないものだと思われる。(4)


性役割(ジェンダーロール)と青年期における移り変わり
親との愛着と摂食障害の関係において、もう一つ重要な要素は、殆どの青年期の女子が経験するであろう、性役割と青年期における移り変わりである。我々の社会では、女性は対人関係を重要視し、周りの人との関係において自己アイデンティティを確立するように教えられて育つが、青年期の女子は同時に、発達課題の一つとして、親や周りの人からの更なる自立に対するプレッシャーを感じるようになる。(2 6 9) 心理社会論によると、対人関係に重きを置くべきだという女性に対する社会からの要求、そして青年期における自立に対するプレッシャー、この矛盾が青年期の女子をアイデンティティの混乱(同一性拡散;Identitiy Confusion)へ導くこともあるのだという。


青年期の女子はこのように自己アイデンティティについて混乱をしやすい上に、高校卒業あたりから殆どの女性が経験する、環境の変化によって更なる苦悩を経験することになる。高校生活からそれ以降の社会生活への移り変わりの中では、男性の方が女性よりも感情的な適応がしやすいとされていて、(11) 女性は男性よりも親からの精神的支援を必要としやすいことが分かっている。これは恐らく、女性はストレス下において周りの人から支援を求めるように育てられることが多いのと比べて、男性は自分で問題に取り組み解決策を探し出すように育てられることが多いためだと考えられる。(2 5)  CalloniとHandal (1992)は、親への愛着の性差に関する研究で、男性の母親への愛着は成長するにつれて減少するのに対して、女性は長期に渡って母親との精神的つながりを維持していることを発見した。その上、女性は親への愛着を維持しているだけでなく、高校卒業後、特に大学入学の辺りから愛着の程度が高くなっているようなのだ。 (2 5) これは、環境の変化による精神的苦痛の増加に対する反応と解釈することも出来るであろう。


このように、矛盾した女性の性役割と環境の変化による精神的苦痛の中で、青年期の女子にとって親との愛着は、社会での適応能力を左右する重要な役割を担っているのである。(11) 親との愛着は男性には女性ほど影響を与えないものの、安定した愛着で親とつながっている青年期の女子は、新しい環境でも、不安定な愛着を持つ女子よりも環境への適応能力が優れている。(1 6 11) 女性は一般的に男性よりも不安や心配、うつ状態などに陥りやすい為、(11) ストレス下において男性よりも安定した愛着と精神的支援を必要とするのかもしれない。これらの研究は摂食障害を持つ青年達を対象にしたものではないが、その研究結果を、性役割や環境の変化によってもたらされる精神的苦痛が、青年期の女子の摂食障害の発達に何らかの影響を及ぼしているようだ、という様に概括することはできるであろう。


結論
親との愛着は、個人が自己アイデンティティの確立や自己認知に目覚める青年期において特に、青年達にとって持続した精神的な支えと、自立心の促進という、重要な機能を果たしている。(5 6 7 11) それは、依存とも放任とも異なっているのだ。親との愛着には支えと自治の両面があり、青年達の精神状態や環境によってそれらは使い分けられるのである。そして親との愛着には、移り変わっていく環境の中で、青年達の発達と環境適応能力を手助けする役割もあるのだ。親は親としての役割を果たし、子供を最優先に考える必要がある。極端な親密性や放任はどちらも、家族としての機能が低下していることを示しているのである。(5) 青年達が健康な精神状態を発達させる為には、個体化と心のつながりの間のバランスを確保することが、一番大切なのである。



参照文献

1. Branford, E. & Lyddon, W.J. (1993). Curent parental attachment: its relation to perceived psychological distress and relationship satisfaction in college students. Journal of College Student Development, 34, 254-260.
2. Calloni, J.D. & Handal, P.J. (1992). Differential parental attachment: Empirical support for the self-in-relation model. Perceptual and Motor Skills, 75, 904-906. 3. Friendlander, M.L. & Siegel, S.M. (1990). Separation-individuation difficulties and cognitive-behavioral indicators of eating disordes among college women. Journal of COllege Student Development, 34, 256-260.
4. Haworth-Hoppner, S. (2000).THe critical shapes of body image: The role of culture and family in the production of eating disorders. Journal of Marriage and the Family, 62, 212-228.
5. Kenny, M.E. & Donaldson, G.A. (1991). Contributions of parental attachment and family structure to the social and psychological functioning of first-year college students. Journal of Counseling Psychology, 38, 479-486.
6. Kenny, M.E. & Hart, K (1992). Relationship between parental attachment and eating disorders in an inpatient and a college sample. Journal of Counseling Psychology, 39, 521-526.
7. Leondari, A. & Kiosseoglou, G. (2000). THe relationship of parental attachment and psychological separation to the psychological functioning of young adults. The Journal of Social Psychology, 140, 451-464.
8. Mallinckrodt, B., McCreary, B.A. & Robertson, A.K. (1995). Co-occurence of eating disorders and incest: The role of attachment, family environment, and social competenceis. The Journal of Counseling Psychology, 42, 178-186.
9. Meyer, D.F. & Russell, R.K. (1998). Caretaking, separation from parents, and the development of eating disorders. Journal of Counseling and Development, 76, 166-173.
10. Mothersead, P.K., Kivlighan, D.M. & Wynkoop, T.F. (1998). Attachment, family dysfuction, parental alcoholism, and interpersonal distress in late adolescence: A structural model. Journal of Counseling Psychology, 45, 196-203.
11. Vivona, A. (2000). Parental attachment style of late adolescents: Qualities of attachment relationships and consequences for adjustmetn. Journal of Counseling Psychology, 47, 316-329.
12. Wechselblatt, T., Gurnick, G. & Simon, R. (2000). Autonomy and relatedness in the development of anorexia nervosa: A clinical case series using grounded theory. Bulletin of the Menninger Clinic, 64, 91-122.

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