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DSM VI
不安障害
1.不安とは
2.全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder)
3.心的外傷後ストレス障害(PTSD/Posttraumatic Stress Disorder)
4.強迫性障害(OCD/Obsessive-Compulsive Disorder)
5.パニック障害(Panic Disorder)
6.社会恐怖症
6.恐怖症(Phobia)


6.社会恐怖症
(Social Phobia)

症状 原因 治療法

社会恐怖症とは、人に対してや人と接する状況に対して、極度の不安と恐怖を覚える障害です。社会恐怖症は、アメリカでは全人口の10%から、研究によっては13%以上の人が持っていると思われています。(1994年の研究結果です。) そのため、なんとアメリカでは、すべての精神障害の中で一番多く起こっている障害なのです。また、他の不安障害は、圧倒的に女性に多く見られるのに対して、この社会恐怖症は、女性のほうが少し多い、という程度で、それほど大きな男女差は見られません。発達が始まるのは、思春期の若い時が多いようです。(15歳ぐらい。)

また、社会恐怖症をもつ人が他の精神障害をもっているケースも多く、その中でも、回避性人格障害、単一恐怖症、広場恐怖症、薬物依存症、鬱病などが多く見られるようです。アメリカでのある研究結果によると、社会恐怖症をもつ人の7割近くの人が、他の精神障害ももっているとされています。


症状
社会恐怖症には、いくつかの特定の状況にだけ対して恐怖を覚える種類のものと(Non-generalized type / Social Anxiety Disorder)、人と接する機会や、人前に出る状況すべてに恐怖を覚える種類のもの(Generalized type)とがあります。特定の状況にだけ恐怖を覚える種類で、恐怖を起こすものとして一番よくある状況は、人前で何かの作業をする、という状況です。(Performance Phobia) その中でも、人前で話したりスピーチをする、という状況(Public-speaking)に恐怖を覚える人が多いようです。その他には、レストランで食事をする、人前で字を書く、男の人の場合は、公衆トイレで人がいる時に用を足す、などがあります。

人前に出る状況のすべてに、極度の不安や恐怖を覚える種類の社会恐怖症は、日本では対人恐怖症として知られています。この場合、特定の行動や状況だけでなく、よく知らない人たちとの接触のすべてに強い不安を感じます。この、人との接触すべてに不安を覚えるタイプは、アメリカでは主に子供に多く見られると言われています。また、西洋人にはあまり見られず、日本人に多くみられる不安の対象としては、人と目を合わせるのが怖かったり、自分の頬が高潮するのではないか、体臭がするのではないか、どもるのではないか、と、自分の体や行動の変化が特異に見られることに極度の不安を感じる場合があります。


原因
社会恐怖症の原因として、主に三つの要素が考えられます。

1.遺伝とテンパラメント
人によって、遺伝やテンパラメント(生まれ持っての性格、性質)によって、不安を感じやすい場合があります。また、もともと、人前に出たり人との接触が苦手な人もいます。このような場合、特に何のきっかけがなくても、もともと社会的な状況におかれると、強い不安を感じるようなります。この場合には、その人は小さな頃から、知らない人と話したり、新しい場面に直面したりすると不安を覚えます。生後4ヶ月の赤ちゃんでも、不安を覚えやすい性質も持っている赤ちゃんは、おもちゃや目新しいものを見ると泣き出したり、ぐずったりする場合もあります。社会恐怖症を発達させる人は、程度の差こそあれ、この、遺伝やテンパラメントの影響を受けていると思われています。下に書いてあるような、環境的な影響を受けても、あまり不安を感じず、または不安を感じても、それはその時にだけ起きたことだ、と考えて、社会恐怖症を発達させない人も大勢いるからです。

2.パニック発作
人によっては、ストレスの多いときなどに、たまたま社会的な状況でパニック発作が起こったために、それから社会的な状況が怖くなる場合があります。パニック発作とは、突然、動悸や息切れ、発汗や呼吸をするのが苦しくなったりする発作のことです。パニック発作については 「パニック障害」のところで詳しく書いてありますが、この発作は誰にでも起こる可能性があり、普通数分でおさまり、特に体に害を及ぼすものではありませんが、パニック発作を体験すると、症状が心臓発作などとよく似ているため、強い不安や恐怖を覚えます。それがたまたま社会的な状況下(例えばスピーチやパーティーの途中)で起こったりすると、人によっては、その発作に対する恐怖や不安と、その時の状況とが関連付けられてしまう場合があります。そのために、次に同じ状況におかれたときに、無意識のうちに恐怖や不安を感じてしまったりするのです。また、もしスピーチの途中でパニック発作を体験したとして、その人は、「自分はスピーチをすると緊張して発作を起こしてしまうんだ」と考えてしまう可能性もあり、一度そう思ってしまうと、次もまた発作が起こるような気がして、スピーチをしたくなくなるかもしれません。これが、パニック発作をきっかけにして起こる社会恐怖症です。

3.実際のトラウマ
社会恐怖症を発達させる人の中には、実際に、社会的状況でとても嫌な思いをして、その為にそのあとも同じような状況に強い不安を覚える人もいます。トラウマの経験は、子供の頃や思春期の初めに起こっている場合もあります。例えば、小学生の時に、転校先の学校でクラスメートの子にいじめられた経験のある人は、大人になってからも、大勢の知らない人の中に入っていくのに強い恐怖を覚えるかもしれません。

この他にも、社会恐怖症をもっている人は、人と接したり人前に出るのが苦手な親や、世間体や、周りの人たちが自分のことをどう思うのか、気にする家庭環境に育っている可能性が高い、という研究結果も出ています。つまり、社会恐怖症が発達するのは、遺伝やテンパラメントといった生まれ持っての性質と、経験や考え方といった、後天的な環境とが重なり合うためだと考えられています。


治療法

最近のアメリカでは、社会恐怖症には3環性坑うつ剤(tricyclic antidepressants)、特にMAO阻害薬(MAO inhibitors)が効果があるとされています。以前は、ベータ受容体遮断薬(beta blockers)が、特に作業をする状況に対する社会恐怖には効果があるとされていましたが、それを裏付ける研究結果が出ていないことなどから、あまり使われなくなったようです。

しかし、薬のみの治療を受けた場合、治療終了直後は心理療法よりも効果があるようですが、治療後しばらくすると、また社会恐怖症の症状が出てくるケースも多いようです。ある研究結果によると、治療終了半年後、心理療法と薬の両方を用いて治療していたケースの、17%の患者さんに再び社会恐怖症の症状が出てきたのに対して、薬のみの治療を受けていた患者さんの、実に半分の人に、また同じような症状が出始めてしまったと言う事です。このような理由から、アメリカでは、社会恐怖症には単一恐怖症と同じように、薬と心理療法の両方からの治療がベストとされています。

心理療法
  社会恐怖症をもつ人への心理療法は、この不安障害の性質も考え、グループの形態が主なようです。社会恐怖の症状が重く、グループ形式の診療にも強い不安を感じる人には、ある程度不安が抑えられる状態になるまで、セラピストと患者さんの個人形態での診療もあります。しかし、その後の学校や職場への順応のためには、グループ形態のほうがよい場合もあります。

(1)不安についての知識をつける
不安障害についてだけでなく、どの障害についても言える事ですが、治療の最初のステップは、その障害についての正しい知識をつけることです。不安障害の場合、その最初のステップは、不安の機能と、不安に深く関わっている感情や身体的反応などについて学ぶことです。詳しくは、 「不安とは」に詳しく書いてあります。

(2)認知の歪みを直す
どの不安障害にも、不安を感じやすい考え方、というのが関係してきます。この、不安を考えやすい考え方、というのが、心理学では「認知の歪み」と言われているものです。これは、物事に対して悲観的な見方(automatic negative thought)をしたり、極端な見方(all-or-nothing thought)をしたりすることです。例えば、人前でのスピーチに極度の不安を抱く人の多くは、「スピーチの内容がくだらないと思われるのではないか」「途中でつっかえたり、失敗するのではないか」と、悪い結果ばかりを想像してしまいがちです。また、「自分は嫌われているんだ」「馬鹿だと思われた」など、勝手に、相手の自分に対するマイナスな感情をわかったような気になったりもします。(mind reading) 他の例では、例えばたまたまスピーチが上手くいったときなど、自分の悲観的なものの見方を否定するような出来事があっても、「あの時はたまたま上手くいっただけで、自分が人前で上手にスピーチを出来る、ということにはならない」などと、その出来事は無視してしまう傾向があります。(disqualifying positives) このような考え方をしていると、当然、落ち込んだり、人と話したり人と接する場面で、不安を感じることも多くなりますよね。どうやってこの「認知の歪み」を直すかは、「心理療法でよく用いられるテクニック」に詳しく書いてあります。

(3)Role-play exposure
ここでは実際に、強い不安を感じる場面や状況を、セラピストや他のグループメンバー達と、ロールプレイによって体験していきます。まず、恐怖や不安の対象となっていた場面や行動をすべてリストに書き、不安や恐怖の程度によって、その場面や行動に順番をつけていきます。ロールプレイは、一番不安を感じない場面や行動からはじめます。そして、ターゲットになる場面や行動が決まったら、ロールプレイの前に、その場面でどんなことを考えるか、予想を立てます。つまり、今までだったらどんなことを思っていたか、というのを思い出せばいいわけです。例えば、さっきのスピーチの例で言えば、「失敗するんじゃないか」とか、「くだらない内容だと思われるんじゃないか」というような具合にです。そして、この前の段階で習ったことに基づいて、不安を起こしやすい考え方(失敗するんじゃないか、内容がくだらないと思われるのではないか、という考え)の代わりとなる、もっと論理的で、不安を起こしにくい考えを挙げていきます。これは、この段階では、患者さんが自分から考え出していくべきもので、人によって様々だと思いますが、多分「失敗したらもう一度やり直せばいい」だとか、「今までうまくいったんだから、今回も上手く行くだろう」「練習いっぱいしたから、大丈夫だろう」というような考え方になると思います。

ここで、ロールプレイ中に自分がどのような考え方をしやすいか、また、その代わりにどのような考え方をすれば、不安が抑えられるのか、ということを、先に話し合っておくのは、とても重要です。これがないと、ただ単に、強い恐怖を感じている人を、いきなり裸で恐怖のど真ん中に突き落とす、ということになってしまいます。

さて、認知についての準備が終わったら、今度は、特定のゴールを作る作業に移ります。このゴールは、ロールプレイの中で、そのターゲットとなる場面や行動のみに当てはまるゴールで、詳しければ詳しいほど、細かければ細かいほどいいです。また、「不安のレベルを抑える」「悲観的に考えない」というように、感情や考え方についてより、「5分間話をする」「3度相手の目を見る」というように、客観的にみても分かるようなゴールの方が、達成したかどうかきちんと分かるので適しています。加えて、ゴールは現実的なものではなければいけません。相手の顔さえ見るのが怖い人が、いきなり初めてのロールプレイで、「このグループの中の5人に自分から話し掛ける」という風に、高すぎるゴールを設定すると、達成することが難しくなり、達成できない時に挫折感を経験するからです。挫折感を続けて経験すると、「やっぱり自分が思っていたように、自分には出来ないんだ」と、認知の歪みを裏付ける結果として捉えられてしまいがちです。なので、ここでは、ちょっと頑張れば達成できる、と思われる程度のゴールを設定して、「怖いと思っていたけど、自分にも少しなら出来た!」と、悪い結果ばかりを予想していた考え方を、否定できる経験をすることが大切です。

ゴールを設定したら、実際にその場面や行動を、セラピストやグループメンバーを対象としてロールプレイします。最初はもちろん不安や恐怖を感じますが、何度か続けていくうちに、その不安や恐怖は減っていきます。ゴール達成による自信がついていくことも大事ですが、なにより、何度も繰り返していくうちに、恐怖を感じていたその場面や行動に慣れていくからです。不安がなくなるまで、同じ場面や行動を何度も繰り返します。その特定の場面や行動に不安を抱かなくなったら、最初に作ったリストの、次の場面に移ります。(2番目に低い不安を感じる場面、など。) ロールプレイが終わったら、毎回、どの程度不安を感じたか、どんなことを思っていたか、その考えによって不安は増えたか、減ったか、体はどんな反応を現したか、など、一回一回ロールプレイを振り返り、次のロールプレイへの参考にします。

(4)セラピー外でのExposure
ロールプレイが一通り終わり、リストの中の行動や場面にロールプレイ中では不安を感じなくなったら、次は実際の場面へのExposureです。ここでもロールプレイと同じように、不安や恐怖の程度にあわせてリストを作り、そのリストの低い方(不安を感じない方)から体験していきます。実際に体験するのはセラピーの外ですが、不安を起こしやすい、あるいは起こしにくい考え方についてなどは、実際に体験する前に、セラピストと十分に話し合い、Exposureへの準備をします。そして、同じように、十分に達成が可能なゴールを設定します。毎回、実際に体験したあとは、セラピストと一緒にその体験について振り返ります。そして、ゴールを達成したら、リストの次の場面や行動に移ります。これを繰り返すことで、強い不安や恐怖を感じていた場面や行動が、それほど怖いものではなくなるのです。



最後に
社会恐怖症は、一般的に気さくで自己主張の強いといわれているアメリカでさえ、一番多く起こっている精神障害です。実に、10人に一人以上の人が、人生で一度は社会恐怖症を発達させるといわれています。しかし、この障害の性質が、人との接触や社会との関わりに不安を覚えるものであるため、社会恐怖症をもっている人にとっては、社会で生きていくことがとても辛いものになります。また、社会恐怖症をもつ人は、他の精神障害からも苦しんでいる場合も多いので、勇気を出して、治療を始める事がとても大事だと思います。

注 意
このページに書かれている すべての情報は、私個人が教科書や他の文献をもとに集めたもので、 必ずしも正しいとは限りません。出来る限り正確な情報を載せているつもりですが、 間違いがあった場合には、掲示板あるいは メールにて一言教えていただけると 本当に嬉しいです。

また、ほとんどの情報はアメリカで使われているDSM IVに基づいています。日本ではそうではない、ちょっと違う、などの点がありましたらどんどん指摘してください。
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