こころの病気

心理療法でよく用いられるテクニック

感情、考え、行動、身体反応の関係
認知の歪みを直す
腹式呼吸法(Breathing Control)
漸進的筋弛緩療法 (PMR)
自己モニタリング

感情、考え、行動、身体的反応の関係

どんな精神障害に対してでも、大体、心理療法の第一歩はこの、感情、考え(認知)、行動、身体的反応の関係について学ぶところからはじまります。心理療法の過程でどの部分に重点を置くかによって、たまにどれかの要素を省略することはありますが、ループのようになっているこれらの要素のつながりは、精神障害をもっていない人でも、知っていて損はありません。(と、少なくとも私は思います。) 

ループのようになっている、というのは、一つ一つの要素がお互いに影響しあっているからです。例えば、感情と考えとは強く関係していて、うつ病や不安傷害の場合、考えを変えることによって、感情をコントロールすることが出来ます。(もちろん全員の全部のケースに対して言えることではないです。理論的には、可能、って事です。) うつ病など深刻なケースではなくても、ちょっと考えてみると、多分みんな同じようなケースは経験してるのではないでしょうか。

例えば、仕事で自分が何気なく行った一言で、取引先の部長さんが怒っちゃったとします。もちろんそれは自分の仕事や成績にも影響して、結果的には自分が上司に怒られたりします。その時、その事態をどう捉えるかによって、そこで感じる気持ちはかなり違いますよね。もし、「自分は仕事でミスばかりして、成功することなんて一生出来ない」と思えば、気持ちは落ち込むし、やる気もなくなって、将来への希望も感じられなくなります。でも、「そうか、こういうことで相手の気分を害することがあるんだ。今度からは気をつけよう。」「成績が落ちたから、次の仕事で盛り返そう。」と考えれば、まだまだ自分は未熟だけど、ここで一つ学んだことだし、これからも頑張ろう、って、将来に対してもやる気も出ますよね。不安になったり落ち込んだりすることもありません。もちろん、100%ない、ってわけではないでしょうが (失敗してまるっきり落ち込まなかったら、それはそれで問題です。)、その度合いはかなり減るはずです。

この、感情と考え方の関係に行動を入れてみると、例えば、もう一生成功することはないと考える人は、すごく落ち込んでやる気もなくなって、そのために、会社に行くのが嫌になるかもしれません。上司に怒られたから、上司の顔も見たくないかもしれないし、同僚も自分の失敗のことを知っているから、みんなにも会いたくなくなるかもしれません。これが行動に現れると、出社拒否、なんてことになるかもしれませんね。やる気が感じられないため、仕事も今まで見たいに頑張ってやらなくなるかもしれません。同僚とも話したくないため、会社のあとにみんなでのみに行く時も、自分だけ行かなくなるかもしれません。ひいては出社拒否になったり。そして今度は更に、この行動が元になって、更に会社に行くのが嫌になったり、上司と顔を合わせるのに不安を感じたりなど、ネガティブな感情や気持ちに拍車がかかるのです。このようにお互いの存在がお互いに関係しているため、「ループのよう」なんですね。

さて、ここに身体的反応を入れてみると、あまりに会社に行きたくないし、また失敗をしそうな気がして仕事をするのも嫌だし、同僚と話すのにも不安を感じるため、会社に行く日の朝起きると、頭が痛くなったりおなかが痛くなったりすることがあるかもしれません。それに加えて、上司の顔をみると不安のあまり汗をかいたり、鼓動が早くなったりするかもしれません。逆に、あまりに落ち込んでやる気が沸かないために、いつも頭がボーっとしたり、集中力がなくなったりするかもしれません。このように、体に現れる症状のことを、身体的反応、といいます。身体的反応が、逆に他の要素に影響を与える例としては、上司の前で動悸を感じるために、心臓がバクバクしてるのを感じて更に不安になったり、頭が痛いから余計にやる気が沸かなかったりする、というようなケースです。

このようにループになっているこの悪循環を断ち切るには、どこかでどれかの要素に変化を与える必要があります。どの要素を変えるか、というのはケースバイケースで、また、どの心理療法の効果をより信じているか、というように、心理士やカウンセラーによっても違います。例えば、考えを変えることによって他の要素を改善していこうというのが、認知療法で、行動をまず変えましょう、というのが行動療法ですね。 (簡単にいってしまうと。) どれにせよ、この「ループ」の存在に気が付くのは、クライアントにとっては、なかなか大きな第一歩だと言えるでしょう。



認知の歪みを直す(Cognitive Restructuring)

認知のゆがみというのは、あらゆる精神障害に関係しています。特に、鬱病、不安障害、摂食障害などには、認知的要素が深く関係していると考えられています。認知的要素とは、その人のもつ「ものの考え方」です。人とは当然、物事によってあらゆる考え方をしますが、鬱状態や不安を感じやすい人は、どんな事柄に対しても悲観的なものの見方をする傾向があります。つまり、あらゆる事柄が悪い結果に繋がったり、少しの挫折や失敗でも、それが自分には対処できない、耐えがたいものとして捉えがちなのです。この悲観的なものの見方を、悲観的な自動思考(automatic negative thought)といいます。

この悲観的な自動思考とは、自動思考なので、意識していなくても自動的にそのような考えをしてしまうのです。例えば、友達を食事に誘った時、友達が「今日は予定があるから、行けないや」って断ったとします。すると、悲観的な自動思考を持つ人は、瞬間的に、「本当は友達に嫌われているのではないか」「避けられているのではないか」と、悪いほうに考えがちです。職場で新しい仕事を任された時なども、「失敗するのではないか」「自分には出来ないのではないか」など、とかく小さなことから、悪い結果ばかりを予想してしまいます。このように悪い結果ばかりを予想してしまうことを、Overestimationといいます。また、試験で悪い点数を取った時も、「留年するのではないか」「やりたい職業に就けないのではないか」など、実際にはそれほど大きなことではなくても、その状況が耐えられない、自分には出来ない、と実際よりも物事を大きなものとして、悪い出来事として捉えがちです。これをCatastrophizingと言います。

こういった考え方をしてしまうのは、多くの場合無意識に起こっていることで、何か物事が起こるたびに、自動的に不安を起こしやすい方に考えてしまうのです。このような不安を起こしやすい考え方(認知の歪み)は、その考えが実際に起こる可能性が高いのかどうかを、「証拠」を見つけて一つ一つ分析していくことで、その歪みを直すことが出来ます。

例えば! 友達に食事にいくのを断られて、避けられているのではないか、と思った時、実際に避けられているという証拠は他にあるのか、その考えが正しいという可能性はどのくらいか、友達が誘いを断ったのには他の理由がある、という可能性はあるか、などと検証していきます。それらを検証していく中で、「そういえば前に誘った時は一緒にご飯食べたよなー」とか、「誘いは断られたけど、その日の昼間には二人で色々しゃべったっけ」とか、「前に私とその子が映画を見に行く約束をしていた時、その子は他の子の誘いを、映画見に行くから、って言って断ってたな」などなど、「友達は実際に誰かと約束があったわけではなく、本当は私のことが嫌いで私を避けてるんだ」という考えを否定する、様々な証拠が見つかってくるはずです。実際、本当は自分は避けられているんだ、と言う考えを裏付ける証拠の方がずっと少ないかもしれません。

この、「悲観的な自動思考」の検証を続けていくことで、自分が物事に対して、非論理的に、必要以上に悲観的な見方をしていたことに気が付くはずです。このことに気が付き、その悲観的な見方に変わる、もっと論理的な、自然なものの見方を身につけることで、不安や鬱の症状を減らすことが出来るのです。



腹式呼吸法(Breathing Control)

腹式呼吸法は、不安や恐怖に対する身体的反応を抑えるために、そして、その結果、不安を抑えることが出来るようになるために使われます。不安を抑えるための腹式呼吸は、まず、腹式ですからもちろん、お腹で息をするようにします。そして、腹式呼吸をしている間は、出来るだけ腹式呼吸そのものに意識を集中させます。意識的にお腹で呼吸することによって、周りや自分の感情、不安から意識を遠ざけるのです。そして、息を吸うときには呼吸の数を数え、吐くときには「リラックス」という言葉を心の中で繰り返します。ですから、「1」(吸ってる)、「リラックス」(吐いてる)、「2」(吸ってる)、「リラックス」(吐いてる)、「3」(吸ってる)、という具合ですね。これをしばらく続けます。殆どの場合には、数分から長くても10分位でいいと思います。あくまでも、呼吸に集中するのです。慣れてくると、どこでも出来るようになるし、不安や恐怖もある程度までは抑えられるようになります。



漸進的筋弛緩療法 : Progressive-Muscle Relaxation (PMR)

PMRとは、体のあらゆる部分の筋肉を緊張、弛緩させる練習をすることで、不安になっている時に起こる筋肉の緊張を認識し、弛緩させることで不安を抑えようとするものです。つまり、不安や恐怖には常に筋肉の緊張が伴っているので、反対に、筋肉の緊張を少なくすることで不安を消し去ろう、ということです。PMRには、フルバージョンから短いものまで色々ありますが、基本的には、体全体の筋肉をいくつかの部分に分けて、その部分部分の筋肉の緊張と弛緩を繰り返します。

具体的なやり方はきっと、色々あると思いますが、私が使っているものを簡単にご紹介します。まず、患者さんには、ゆったりと座れるカウチやソファーなどで、出来るだけリラックスして座ってもらいます。そして、十分リラックスした状態で、体の一部の筋肉、例えばひざから下の足、とか、二の腕と肩、とか、首の裏、とか、その一部だけを緊張させます。ぐっと力をいれて、大体10秒ぐらいです。10秒経ったら、今度は思い切り力を抜いて、その筋肉を弛緩させます。この、緊張を弛緩を繰り返すことで、筋肉が緊張している時はどういう風に感じるのか、筋肉はどういう状態になっているのか、反対に、筋肉がリラックスしている時は、どういう状態になっているのか、ということを学びます。

なぜこんなことを学ぶのが役立つのかというと、前にも書いたように、極度の不安や緊張には常に身体的反応が伴い、筋肉の緊張も、体の反応の一部です。体が反応すると、その反応によってまた不安が大きくなり、その不安によってまた体の反応が起こり...と、体の反応か不安か、どちらかをどこかで止めない限り、事態は悪くなるばかりです。そこで、体の反応の一部である、筋肉の緊張をどうにか抑えよう、とするわけですが、不安を感じやすい人というのは、「筋肉の緊張」というものが、具体的にどういうものなのか、感覚としてあまり自覚していない傾向にあるのです。はい、筋肉をリラックスさせて、といわれても、ストレッチなどをして(伸びをしたり、首を回したり)リラックスしているつもりでも、筋肉はまだかなり緊張していたりします。そのために、本当に筋肉が弛緩している状態というのは、どういう状態なのか(もちろん、自分で出来る限りの弛緩、ですよー)、緊張している状態とどう違うのか、ということを、ここで学ぶわけです。どうしてもうまくいかない人の場合は、PMRをやっているところをビデオにとって、それを本人に見せたりします。自分ではリラックスしているつもりでも、客観的に見たら、筋肉が緊張しているのが一目瞭然だったりするからです。(首の裏に力が入っていたり、肩がいかっていたり。)

PMRには、筋肉の緊張を弛緩の違いを学ぶほかに、もうひとつ、リラックス効果、という目的もあります。筋肉の緊張を弛緩を繰り返すうちに、きっと普段あまり使われていない筋肉に力が入ったり、それを急にリラックスさせることで、血液の循環がよくなったりするのでしょう。フルバージョンすべてを終えたあとなど、かなり気持ちいいです。更なるリラックス効果のために重要なのは、すべての部分の筋肉の緊張と弛緩が終わった後、徐々に体全体を、更に更にリラックスさせ、自分の好きな場所、行きたい場所、好きなにおい、色、音、などを具体的にイメージさせ、3分ほどその空想の中に浸ることです。なんだかうさんくさいですか?? これ、最初はなんだか抵抗があっても、なれると結構うまく出来るようになります。3分経ったら、今度は徐々に徐々に意識と体を覚醒させていき、これでPMRは終わりとなります。

すべてのPMRに、この終わりの空想の部分がくっついているのかはわかりませんが、これ、なかなかよいです。PMRをやる時は、最初は、セラピストが時間を計りながら指示を出し、患者さんはそれを聞きながら進めます。その時、セラピストの指示をテープに録音して、それをのちに患者さんが家に持って帰り、家でそのテープを聞きながらPMRをします。最初はフルバージョンから始める事が多いですが、短いバージョンに慣れて来たら、テープなしでも自分で出来るようになります。



自己モニタリング:Self-Monitoring   

自己モニタリングというのは、その名の通り、自分で自分をモニター、監視して、もっと自分のことを知ろう!というものです。(基本的にはね。)このテクニックは最も初歩的で、だけどとっても効果的、役立ちます。何をモニターするのかというと、「変えたいもの」です。主に、感情、考え方、またはセラピーの焦点になっている行為や行動です。自己モニタリングには主として、四つの「得すること」があります。

(1)まず、クライアントが最初に来て、自分の悩みや困っている事を言いますよね。その時に、クライアントの表現や言葉だけに頼らず、実際にどの程度の症状が出ているのかを、客観的に表すものとして、自分で自分の行動や感情をモニターするわけです。例えば、今日一日の気分はどうだったか、不安やうつ症状は出たか、または何杯お酒を飲んだか、などなど、いろんな事が自己モニタリングの対象になることが出来ます。子供の場合には、親や学校の先生が代わりにモニターする事も出来ますが、クライアントが大人だと、ずっと誰かと一緒にいる、っていう状況もなかなかないですから、自分でモニターするのがいちばん簡単です。クライアントがその問題点についてどう思っているのか、ということも大事ですが、実際には、クライアントの話しから得た印象よりも、症状が軽かったり、あるいは重かったり、ということがとてもよくあるので、セラピーの根本となる問題点の把握、というのはとても大切です。

(2)次に、自分で自分の感情、考え方、行動などを監視する事によって、クライアント自身も、今まで気が付かなかった新しい発見をすることが多くあります。自分は毎日すごい量の食べ物を食べてしまって、そのことでいつも罪の意識がある、という人が、実際に何時に何を、どれくらいの量、どのくらいの時間をかけて食べているのかをモニターして、毎日表に書き込んでいくと、クライアントの予想に反して、実際にはそれほどの量を食べていなかった、ということが分かったりします。もちろんその逆の場合もありますよね。自分では気付いてなかったけど、あー、こんなに食べてたんだー、なんて。

(3)さらに、自己モニタリングを一定の期間続けていると、セラピーが進むにつれて、ちゃんと期待されている変化が現れているのかどうか、というのも分かります。つまりセラピーの効果と、それに伴うクライアントの進歩の度合いが客観的に見られるんですね。数字を使ってモニターすれば、1ヵ月後とか1年後とか、自己モニタリングに基づいてグラフが作れたりして、一目瞭然。もちろん、セラピーの効果が全部数字やグラフで表せるわけではないのですが、グラフによって効果がぱっと見えたりすると、それはそれでなかなか素敵です。

(4)最後に、自分で自分の感情や思考、行動をモニターする事によって、セラピーの焦点となっている感情や思考、行動が自然に変わっていくこともあります。例えば、物事をネガティブに考える癖のついている人は、ネガになるから落ち込むのですが、その関係に気が付いていなくて、つい知らないうちに悪い方へ悪い方へと考えがちです。それが、自分の考えと感情を意識的にモニターして、ノートに書き留め、セラピー中にセラピストとそれを読んで振り返ったりしているうちに、自然と、自分の考えていることに意識がいくようになります。何かが起きた時、いつもなら無意識に悪い方へと考えていたのが、「あ、今ネガになってるな。客観的に見れば、そんな悪い状況じゃないじゃん。」という風に、自分のネガティブさを意識する事が出来るようになることもあるのです。このように、自分で自分をモニターする事によって、今まで意識していなかった問題点が、自分の意識の上に上るようになり、それによって自然と問題点が改善されていく、ということもあります。

さて、具体的にどのような事をどのようにモニターするのかというと、それはケースバイケースです。よく使われている方法を挙げると、不安を感じやすかったりうつ症状が出やすい人は、毎日寝る前に、その日一日の気分を0から10の数字で表したりします。例えば、不安は6、うつ状態は3、という具合に。パニック障害をもつ人が、パニック発作が起こるたびに、場所、時間、状況、発作の度合いなどを書いたりもします。認知療法では、落ち込んだ時や不安に駆られた時、何を考えていて不安になったのか、など、思考や認知をモニターする事もよくあります。行動療法では、食べ物の摂取(摂食障害など)から、ケンカの回数(Anger managementなど)、手を洗った回数(強迫観念障害)、まさにどんな行動でもモニターできちゃいます。ほかには、人と上手く会話する事が出来ない、という人が、自分のコミュニケーションのスタイルをモニターすると、思ってた以上に笑っていなかったり、下を向いてばかりいたり、手や足がせわしなく動いていたり、と、周りの人が気軽に話し掛けづらい状況を、自分で作っていることに気がついたりもするのです。この場合、コミュニケーションのスキルを改善するだけでも、対人関係が改善されたりする事もあります。

最後に、自己モニタリングは、自分で自分をモニターするわけですから、一見簡単そうです。でも、実はすごく練習がいるのです。もちろん、長く続けているうちにコツをつかんで、上手くなっていくのですが、それには、心理士やセラピストの支援が欠かせません。まず、最初のうちは、必ず、モニタリングの成果をセッション中に話し合いましょう。クライアントのやり方であってるのか、改善点などはあるのかなど、必ずフィードバックを与えることが重要です。また、モニターされた内容をもとに、その日のセラピーを進めていくのもいいです。例えば、先週は落ち込んだ日が多かったようだけど、何かあった??とか、煙草の量が減ったのはえらいね、どうやったの?とか。そうすることで、自己モニタリングで得られた貴重な情報を使うことが出来るし、また、クライアントも、頑張って自己モニタリングを続けよう、という気になることも多いからです。自己モニタリングとは、クライアントが自分で自分の感情や行動などをモニターすることですが、その効果を得るには、心理士やセラピストの役割がとても重要なのです。

注 意
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