アスピリン

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 アスピリンは、COX-1と、COX-2の両者の活性を阻害し、PGE2の産生を抑制して、解熱鎮痛消炎作用を示し(解熱させ、疼痛腫脹を抑制する)や、TXA2の産生を抑制して、血小板凝集を抑制する。PGE2は、生体を発熱させ、組織に腫脹浮腫などを来たす炎症促進作用がある。反面、PGE2は、TNF-αや産生を抑制し、炎症抑制作用も、ある。

 アスピリンは、従来は、解熱剤(解熱鎮痛消炎剤)として、用いられて来たが、最近は、血小板凝集を抑制する目的でも、使用される。
 アスピリンは、5-リポキシゲナーゼの活性を阻害しないので、ロイコトリエン(LT)の産生をは、阻害しない。
 アスピリンは、体内で、代謝され、サリチル酸になる。 

 わが国では、ライ症候群を予防する為に、アスピリン、アスピリン・アスコルビン酸、アスピリン・ダイアルミネート、サリチル酸ナトリウム、サリチルアミド、エテンザミド、ジクロフェナクナトリウムを、15歳未満の小児のインフルエンザや水痘に伴う発熱に対して、解熱などの目的で、原則として、投与しないことになっている。
 インフルエンザ脳症を予防する為に、メフェナム酸を使った解熱剤を、インフルエンザに伴う発熱に対して、原則として、投与しないことになっている。なお、ジクロフェナクナトリウムは、インフルエンザ脳症の死亡率を、上昇させる(悪化させる)。

 1.アスピリンの解熱鎮痛作用
 アスピリン(Aspirin)は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の一種で、本来は、解熱剤、鎮痛消炎剤(解熱鎮痛消炎剤)として用いられて来た。

 アスピリンは、COX-1と、COX-2の両者の活性を阻害し、PGE2や、TXA2の産生を抑制する。
 PGE2の産生が抑制される結果、アスピリンにより、痛み疼痛)と腫脹が軽減し、解熱する。 ただし、PGE2は、T細胞からのインターロイキン-2(IL-2)やインターフェロン-γ(IFN-γ)の産生や、ロイコトリエン(LT)など他の炎症メディエーターの産生を抑制するので、PGE2には、抗炎症作用がある

 アスピリンは、アセチルサリチル酸(Acetyl salicylic acid、2-acetoxy-benzoic acid)で、ベンゼン環に、カルボキシル基(-COOH)と、アセチル基(CH3CO-)が結合している。


 アスピリンは、安価なので、広く世界の各国で使用されている。

 2.アスピリンの血小板凝集抑制作用
 体内では、シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素により、不飽和脂肪酸のアラキドン酸からプロスタグランジンG2(PGG2)を経て、トロンボキサンA2(TXA2が生成される。
 TXA2には、強力な血小板凝集作用があり、血小板の二次凝集を来たす。

 アスピリンは、COX-1を阻害し、TXA2の生成を抑制し、血小板の二次凝集を抑制する(注1)。

 このように、アスピリンは、血小板凝集を抑制する作用があり、心筋梗塞や脳梗塞などの患者に、血小板凝集を抑制し、血栓の再発を予防するために使用される(投与量は、75から150mg/日が最適)。

 アスピリンは、COX(PGH2シンターゼ)のセリン残基(Ser残基)を不可逆的にアセチル化して、アラキドン酸が、COX(PGH2シンターゼ)の活性部位に到達しないようにして、COX(PGH2シンターゼ)の活性を阻害し、プロスタグランジンや、TXA2の生成を抑制し、血小板からの濃染顆粒の放出を抑制し、血小板の二次凝集を抑制する:アスピリンは、コラーゲンによる二次凝集を抑制する。 

 アスピリンは、一次凝集は、抑制しないアスピリンは、血小板が、コラーゲンや血管内皮細胞下組織へ粘着することを、抑制しない。

 アスピリンは、チクロピジンと異なり、ADPによる血小板凝集を抑制出来ない。
 アスピリンは、ずり応力(注2)惹起血小板凝集(SIPA)も、抑制出来ない。アスピリンは、RLPによるずり応力惹起血小板凝集増強を、RLPを添加しない時のレベルまで、抑制する。

 動脈硬化は、動脈壁に一様に生ずるのでなく、好発部位がある。
 動脈の動脈硬化が生じやすい場所は、血流のずり応力が平均的に低い。反対に、動脈硬化が起こりにくい場所は、血流のずり応力が高い。


 アスピリンは、GPIbとvWFの相互作用による血小板の活性化を抑制しない。

 アスピリンは、アラキドン酸やコラーゲンによる血小板の二次凝集を抑制する

 アスピリンの脳基底核のラクナ梗塞の再発予防効果は、証明されていない
 
 3.アスピリンの血小板凝集抑制作用の持続時間
 アスピリンは、血小板に含まれるCOXをアセチル化し、酵素活性を、不可逆的に阻害する(NSAIDsのCOX阻害作用は、可逆的)。
 アスピリンは、COX活性を阻害して、血小板凝集のある、TXA2の産生を抑制することにより、血小板凝集を抑制する。

 血小板は、巨核球から生産されるが、血小板には核が無い。そのため、アスピリンの血小板凝集抑制作用は、休薬しても、血小板の寿命の関係から、アスピリンに触れたことのない、新しく生産された血小板に置き換わるまで、7〜10日間、残存する。

 4.アスピリンジレンマ
 アスピリンは、血小板凝集阻止作用のある、プロスタグランジンI2PGI2プロスタサイクリン)の血管内皮細胞からの産生も、抑制してしまうおそれが指摘されている(アスピリンジレンマ)。

 血小板のCOX-1の方が、血管内皮細胞のCOX-1よりも、約 250倍、アセチル化される速度が速いと言う。その為、アスピリンの投与量が、100mg/日以下では、PGI2の産生を抑制しないと言う。血小板凝集を目的としたアスピリンは、80〜160mg/日と、比較的少量で投与される(バファリン81mg錠、バイアスピリン錠100mg )。
 PGI2の産生には、TXA2の産生より、時間を要する。

 5.アスピリンの代謝

 アスピリンは、腸管から吸収されると、血小板のCOX-1をアセチル化し、不可逆的に不活化させ、抗血小板作用を示す。  

 腸管から吸収されたアスピリンは、肝臓でエステラーゼにより、急速に加水分解(脱アセチル化)され、サリチル酸(salicylate)になる。
 アスピリンの半減期は、20分と短いが、代謝産物のサリチル酸の半減期は、2時間と、長い。

 6.アスピリンの副作用
 アスピリン
の副作用には、胃腸障害、肝障害などがある。
 重大な副作用としては、ライ症候群が、知られている。

 アスピリンは、体内では、肝臓で、サリチル酸になる。
 アスピリンの投与量が適切であるか、サリチル酸の血中濃度で、判断する。治療に有効な血中濃度の範囲は、解熱鎮痛が目的の場合は、10mg/dl、慢性関節リウマチなどの治療には、15〜30mg/dl、リウマチ熱では、25〜40mg/dlとされる。定常状態に到達するには、5〜7日間、要する。血中濃度が15〜30mg/dl(150〜300μg/ml)で、耳鳴り、難聴、頭痛、眩暈(めまい)が見られ、血中濃度が25〜40mg/dlで、中枢性過呼吸、嘔気、嘔吐などが見られるが、投薬中止する程、重篤な副作用ではない。血中濃度50mg/dl以上は、中毒域であり、呼吸性アルカローシスやテタニーを呈し、60mg/dlでは代謝性アシドーシスを来たし、70mg/dlでは体温上昇や昏睡を来たし、80mg/dlでは心血管虚脱を来たし、90m/dlでは腎・呼吸機能不全を来たす。

 a.アスピリンの胃粘膜障害
 アスピリン(アセチルサリチル酸)も、NSAIDsの一種。
 NSAIDsには、消化性潰瘍を悪化させる副作用がある。これは、NSAIDsが、特にCOX-1を抑制して、胃粘膜保護作用(胃酸分泌抑制、胃粘膜血流増加、胃粘液分泌促進)のあるPGE2の産生を抑制するためとされている。
 その他、アスピリンは、経口投与すると、一部は直接、胃粘膜から吸収され、副作用で、胃粘膜に糜爛(びらん)が形成される。この糜爛形成には、好中球が関与している。
 ラットにアスピリンを経口投与して、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を指標として好中球の局在を調べると、アスピリン投与30分後という早期から、好中球が胃粘膜の血管内に増加するが、胃粘膜組織中には、あまり浸潤しない(好中球は、血管外に浸潤すると、アポトーシスが抑制されて、寿命が延長する)。
 これには、アスピリンがCOX活性を抑制する→5-リポキシゲナーゼにより生成されるロイコトリエン(LT)とPGとのバランスが崩れる→好中球を遊走及び活性化させるLTB4の作用が優位になり、接着分子Mac-1を発現した好中球が、胃粘膜微小血管内に接着する→白血球塞栓が形成される→微小循環が障害される→虚血により、胃粘膜が損傷を受ける、という機序が推測される(アスピリンがCOX活性を抑制し、LT産生を抑制するPGE2の産生が抑制され、LTの作用が優位になるとも考えられる)。
 また、アスピリンなどのNSAIDsが、PGE2(TNF-α産生を抑制する)の産生を抑制する→TNF-α産生が増加する→TNF-αにより、血管内皮細胞が障害される→微小血栓形成微小循環障害が起こる→胃粘膜が損傷を受ける、という機序も推測される。
 さらに、アスピリンが、白血球の変形能を低下させる→細い血管を好中球が機械的に閉塞させる(capillary plugging)→微小循環障害が起こる→胃粘膜が損傷を受ける、という機序も推測されている。
 H2ブロッカー(H2受容体拮抗剤)のファモチジン(医薬品名:ガスター)は、アスピリンを経口投与されたラットの胃粘膜のMPO活性の増加や、TNF-αの産生の増加を、抑制する。
 なお、アスピリンにより、IL-8産生(好中球を遊走させる)は、増加しない。

 b.アスピリン喘息
 アスピリンで喘息が誘発されることがある。この喘息誘発の副作用は、アスピリン以外のNSAIDsによっても生じる。
 これは、NSAIDsにより、COX活性が抑制されると、LT合成(LTC4、LTD4、LTE4の合成)が亢進するためという説がある。
 PGE2には、LT産生を抑制する抗炎症作用があるが、NSAIDsがCOXを抑制し、PGE2産生を抑制することで、LT産生が増加するのかも知れない。
 細胞膜安定化作用のあるPGE2の産生が抑制され、肥満細胞や好塩基球からのヒスタミン分泌が増加し、喘息発作が起こるという説もある。

 c.アスピリンとNO産生
 アスピリンは、膵臓のβ細胞で、NO産生を抑制する。この抑制作用は、アスピリンが、NF-Bの発現を抑制したり、誘導型のNOS(iNOS)のmRNAの翻訳(transcription)を抑制する為ではなく、誘導型のNOS(iNOS)の蛋白の発現(expression)を抑制する為と、される。

 アスピリンは、サリチル酸と異なり、IL−1βによる、NF-kBの発現に、影響しないで、inducible nitric oxide synthase(NOS:NO合成酵素)のmRNA levelsを、増加させる。
 治療濃度のアスピリン(IC50 = 3 mM)や、ハイドロコーチゾン(IC50 = 5 μM、hydrocortisone :ステロイド剤)は、誘導型のNOS(iNOS)の発現と、NOの合成を抑制する。しかし、サリチル酸(sodium salicylate:1-3 mM)や、アセトアミノフェン(acetaminophen:(60-120 μM)や、インドメサタシン(indomethacin :5-20 μM)は、NOの合成に、有意な影響を与えない。

 d.ライ症候群とアスピリン
 ライ症候群は、インフルエンザ様疾患や水痘に罹った小児が、アスピリンを含有している薬物を摂取すると、発症する危険性が高くなる。
 アスピリンが、ミトコンドリアの機能を抑制し、ライ症候群を発症させるものと考えられる。
 アスピリンは、ミトコンドリアの形態に、変化を引き起こす。 

 ライ症候群は、米国では、1974年以降、4〜12歳(おおよそ、6歳)の小児に多く発症したが、1988年までには、ライ症候群の発症例は、激減している。これは、アスピリン使用が減少したためか、ライ症候群に類似した症状を来たす先天性代謝異常症である、MCADD(中鎖アシル-CoA脱水素酵素欠損症)として診断されるようになったためなのか、定かでないと言う。

 ライ症候群を予防するために、15歳未満の小児がインフルエンザ水痘に罹った時は、解熱などの目的でアスピリンを使用してはならない(原則禁忌、注3)。また、アスピリン以外に、ライ症候群を予防する為に、アスピリン・アスコルビン酸、アスピリン・ダイアルミネート、サリチル酸ナトリウム、サリチルアミド、エテンザミド、ジクロフェナクナトリウムを、15歳未満の小児のインフルエンザや水痘に伴う発熱に対して、原則として、投与しない。
 インフルエンザ脳症を予防する為に、メフェナム酸を使った解熱剤を、インフルエンザに伴う発熱に対して、原則として、投与しないことになっている。なお、ジクロフェナクナトリウムは、インフルエンザ脳症の死亡率を、上昇させる(悪化させる)。
 また、一般用医薬品では、アスピリン類(バッファリンA、エキセドリン、ケロリン)は、15歳未満の小児には、使用してはいけないことになっている。なお、小児用バッファリンは、成分はアスピリンでなく、アセトアミノフェンが配合されている。

 7.その他
 ・アスピリンは、「ピリン系」の薬剤ではない。

 ・アスピリンは、変形性関節症(注4)の治療に用いた際、痛みを軽減し、肉芽形成や線維化を予防するが、一度形成された線維化組織には、効果は無い。

 ・CRPは、心血管イベントの予測因子と成り得る:CRPが高値だと、心血管イベントの再発リスクも高くなる。
 アスピリンや、スタチンを投与すると、CRPが低下する。

 ・アスピリンは、尿細管での尿酸再吸収を抑制し、尿酸の尿中への排泄を増加させる。 

 ・IL-1βや、PGE2は、ブドウ糖によるインスリン分泌を、抑制する。
 アスピリンは、IL-1βによる、NF-Bの発現を抑制しない。
 しかし、アスピリンを服用すると、体内で、サリチル酸に変化する。このサリチル酸は、IL-1βによる、NF-Bの発現を抑制し、COX-2や、EP3受容体のmRNAの発現を妨げる。そして、PGE2によるインスリン分泌の抑制を阻害するので、インスリンの分泌が増加して、場合によっては、低血糖を来たす。


 ・アスピリンは、葉酸の尿中への排泄を増加させる。
 
 注1:血小板におけるTXA2の産生は、主にCOX-1による。 

 注2ずり応力(shear stress、shear force)とは、血小板を歪ませて引きちぎろうとする力のことで、血流の速度と粘度とが関係する。
 血小板は、血流の速度(ずり速度)が速く、高いずり応力が働くほど、固定されたvWFに粘着する。
 血管の分岐部、特に、側壁、湾曲部部の内湾側は、血流が、逆流、淀み、渦などを形成していて、血管内皮細胞に与える平均的ずり応力が低く、動脈硬化が起こりやすい。低いずり応力が加わる部位は、血管内皮細胞が、活性化されていて、血管内皮細胞間接合部の透過性が高い。高脂血症では、LDLなどが、活性化されている血管内皮細胞を透過して、内膜に侵入する。

 注3:アスピリンの添付文書には、「サリチル酸系製剤の使用実態は我が国と異なるものの、米国においてサリチル酸系製剤とライ症候群との関連性を示す疫学調査報告があるので、本剤を15才未満の水痘インフルエンザの患者に投与しないことを原則とするが、やむを得ず投与する場合には、慎重に投与し、投与後の患者の状態を十分に観察すること。」と書かれている。
 今回の発熱の原因が、水痘や、インフルエンザであるか、素人が判断するのは、困難なので、小児の発熱の解熱目的で、アスピリンは、使用しにくい。

 注4:変形性関節症では、膝や股関節の軟骨が、変形したり、磨り減ったりする。
 アスポリンは、軟骨細胞の成長に関与するTGF-β(transforming growth factor-beta)の作用を抑制する。TGF-βは、主に免疫抑制的に作用するサイトカイン:TGF-βは、単球からのTNF-α、IFN-γの産生を抑制する。 
 変形性関節症には、アスポリンを作るアスポリン遺伝子に異常があると言う。変形性関節症の患者では、アスポリン遺伝子の活性が、20倍高い。
 アスパラギン酸は、アスポリンを構成しているが、アスポリン遺伝子のアスパラギン酸を生成する部分の個数が14ケだと、変形性関節症を発症するリスクが、2倍になる。

 参考文献
 ・Phuong Oanh T. Tran, et al: Inhibition of Interleukin-1s-Induced COX-2 and EP3 Gene Expression by Sodium Salicylate Enhances Pancreatic Islet s-Cell Function. Diabetes 51:1772-1778, 2002.
 ・Kwon G, et al: Effects of aspirin on nitric oxide formation and de novo protein synthesis by RINm5F cells and rat islets. Mol Pharmacol52 :398-405,1997.
 ・須藤茂行.ライ症候群の病態解明に関する研究 −第1編 ラット灌流肝のエネルギー代謝に対するサリチル酸の影響.日児誌 1998; 102:1057-1065. 

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