電子伝達系と酸化的リン酸化

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 ミトコンドリアmitochondria)では、電子を内膜に伝達させて、水素イオン(H+:プロトン)を膜間スペース(膜間腔)に輸送し(電子伝達系)、生じるプロトン濃度勾配(電位差、pH差)を用いて、共役(注1)的にATPの合成が行われる(酸化的リン酸化)。ミトコンドリア内は、電位は-180mV、pHは、8。
 これら全過程は、呼吸鎖(respiratory chain)と呼ばれている。

  電子伝達系では、電子が、酸化還元電位の低い物質(NADH2+0.315V)から、高い物質(O20.815V)に、伝達される。
 還元された酸素(O2)は、プロトン(H+)と結合して、水(H2O)が生成される。
 ミトコンドリアの内膜には、5つの複合体と、CoQ(補酵素Q、ユビキノン)、シトクロム(チトクローム)が存在する。
 CoQは、内膜内を自由に動きまわり、電子を伝達したり、プロトンを膜間スペースに汲み出す。
 
 哺乳類では、ATPの80〜90%は、ミトコンドリアでの酸化的リン酸により、生成される。
 ミトコンドリアは、ATPを合成して細胞の生を維持するだけでなく、アポトーシスに中心的な役割を果たして、細胞の死をも制御している。
 1.電子伝達系
 電子伝達系では、電子は、酸化還元電位の低い物質(NADH2+0.315V)から、高い物質(O20.815V)に、伝達される。
 電子伝達系では、NADH2+として捉えられた、糖質や脂肪酸由来の還元当量(reducing equivalents)を、酸素に伝達し、水が生成される。
 電子伝達系では、TCA回路クエン酸回路)や解糖で産生されたNADH2+注2)や、コハク酸が、酸化され、電子(e-)が放出される。
 放出される電子(e-)が、内膜に存在する複合体間を、伝達される。

 電子伝達に伴い、水素イオン(H+:プロトン)が、膜電位に逆らって、膜間スペースに輸送される。その結果、ミトコンドリア内(マトリックス)は、電位は-180mV、pHは、8となる。
 伝達された電子が、酸素分子を還元させ、さらに水素イオンと結合させて、水が生成される。

 a.複合体I(NADH dehydrogenase、NADH-CoQ reductase)
 複合体Iは、FMN、Fe-Sを持つ。

 ミトコンドリアのマトリックスでは、ピルビン酸のTCA回路での分解や、脂肪酸のβ-酸化で放出される、水素原子が、酸化還元反応の補酵素である、NAD+(nicotinamide adenine dinucleotide)を還元し、NADH2+が生成される。
 なお、解糖で産生されるNADH2+が、細胞質ゾルから、ミトコンドリアのマトリックス内(マトリックス)に入るには、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル(肝臓、心臓、腎臓など)や、グリセロリン酸シャトル(筋肉など、注3)を、使用する。

 複合体Iは、NADH2+注4)の2ケの水素イオン(H+)と2ケの電子(e-)を、CoQ(補酵素Q、ユビキノン)に伝達する。

 複合体Iと複合体IIは、脱水素酵素複合体。

  なお、複合体Iには、プロトンポンプの作用があり、プロトン(H+:水素イオン)を、マトリックスから、ミトコンドリア内膜を経て、膜間スペースに汲み出すと言う説がある。その場合、NADH2+の電子1対(2ケの電子)当り、4ケのプロトン(H+)を、膜間スペースに汲み出す、と考えられている(注5)。

 b.複合体II(succinate dehydrogenase)
 複合体IIは、TCA回路クエン酸回路)の、コハク酸脱水素酵素と同じで、FADと、Fe-Sを持つ。
 複合体IIは、コハク酸から、2ケの水素イオンと2ケの電子を、FADを介して、CoQユビキノン)に伝達し、還元型のCoQH2(ユビキノール)が出来る。
 コハク酸+FAD→フマル酸+FADH2
 FADH2+CoQ→FAD+CoQH2(電子は、FAD→Fe3+S→CoQと伝達される)

 脂肪酸がβ-酸化される際に、FADH2が産生され、電子伝達フラビンタンパク質 ( ETF:electoron transfer flavoprotein)を経て、電子が伝達される。
 
 c.複合体III(cytochrome bc1 complex)
 シトクロムbc1複合体、シトクロム還元酵素とも呼ばれる。
 還元型CoQ(CoQH2、ユビキノール)は、複合体IIIのシトクロムbに、2ケの電子を伝達し、2ケの水素イオンを膜間スペースに汲み出し、酸化型CoQに戻る。
 この際、2ケの電子の内、1ケは、複合体IIIのシトクロムc1を経て、ミトコンドリア内膜の膜間スペース側に存在するシトクロムに伝達される。もう1ケの電子は、シトクロムb内を移動して、酸化型CoQに伝達され、一電子還元する。この還元型CoQ(CoQ・-のラジカル)は、マトリックス側から2ケの水素イオンを取り込み、膜間スペースに水素イオンを汲み出すという(Qサイクル)。

 d.シトクロム
 シトクロム(チトクローム)は、ミトコンドリア内膜の膜間スペース側に表在する可溶性蛋白質。
 シトクロムは、ヘム鉄を色素部分に持っている。
 複合体IIIから1ケの電子を受け取り、複合体IVに伝達する。
 Fe2+(還元型)⇔Fe3+(酸化型)+e-

 シトクロム(チトクローム)は、アポトーシスの際に、ミトコンドリアから放出される。

 e.複合体IV(cytochrome oxidase)
 シトクロムオキシダーゼ、シトクロムaa3複合体とも呼ばれる。
 シトクロムcから、複合体IVに渡された電子により、酸素分子(O2)が四電子還元され(four-electron reduction:Fea33+−O-−O-−CuB2+)、さらに、マトリックスから取り込まれた水素イオン(H+)と結合して、水(H2O)が生成される。
 この際、一部の酸素分子(O2)は、一電子還元(one-electron reduction)されて、スーパーオキシド(O2-)と言う活性酸素(reactive oxygen species:ROS)になる(注6):O2+e-→O2-
 シアンイオン(CN-)、硫化水素(H2S)は、複合体IVを阻害し、毒性を示す。

 このように、NADH2+からは、電子が、NAD+→複合体I(FMN→Fe3+S)→CoQ→複合体III(シトクロムb→Fe3+S→シトクロムc1)→シトクロム→複合体IV→O2と、酸化還元電位の低い物質から高い物質の方に、伝達される(注7)。

 また、このように、電子伝達された電子により、酸素(O2)が還元されて、水(H2O)になる。呼吸で排出される二酸化炭素(CO2)の酸素原子(O)は、糖(グルコースC6H12O6など)由来であり、空気中の酸素(O)由来ではない。
 C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O

 グルココルチコイド(副腎皮質ホルモン)のハイドロコーチゾン(hydrocortisone)、プロドニゾロン(prednisolone)、
デクサメサゾン(dexamethasone)は、複合体IVを阻害(inhibit)する。
 IFN-γは、活性化マクロファージに、iNOS(inducible nitric oxide synthase)を誘導し、産生されるNOは、複合体IVを抑制する。なお、IFN-γは、複合体IのサブユニットであるNDUFV1の発現を抑制する。
 炎症に関与するPGEの原料になるアラキドン酸は、複合体Iと複合体IIIを、選択的に阻害し、ミトコンドリアの過酸化水素(hydrogen peroxide)産生を、有意に高める。不飽和脂肪酸の方が、飽和脂肪酸より、阻害作用が強い。このように、炎症と、酸化的リン酸化(OXPHOS)との間には、関連がある(Vane等)。

 2.酸化的リン酸化(mitochondrial oxidative phosphorylation:OXPHOS)
 上記のように、電子伝達系の過程で、マトリックス側から膜間スペース側に水素イオンが輸送される(外膜は、水素イオンを透過させるので、マトリックスの水素イオン濃度が低くなる)。
 その結果、プロトン(H+)濃度勾配が、ミトコンドリア内膜を隔てて、膜間スペースとマトリックスの間に、生じる。なお、プロトン(H+)は、ミトコンドリア外膜を自由に通過出来るので、膜間スペースは、細胞質ゾルと、トポロジー的に、同等である。

 f.複合体V(F1F0-ATPase、ATP合成酵素、H+-ATPase)
 ミトコンドリアの膜間スペース側から、ATP合成酵素である複合体Vを経て、マトリックス側に3ケのH+が流れる際に、1ケのATPが合成される。複合体Vは、モーター分子で、1秒間に100回以上、回転(左回り)して、ATPを合成している。
 ATPやADPは、ミトコンドリア内膜を通過出来ないので、搬入・搬出は、ATP/ADPトランスロカーゼによって行なわれるという。
 プロトン濃度勾配を利用して、ATP合成酵素がATPを合成する仕組みは、植物が光合成に際して、葉緑体のチラコイドで、ATPを合成する光リン酸化(photophosphorylation)の仕組みに近似している。

 甲状腺ホルモン(thyroxin)は、酸化的リン酸化を、促進させる。
 甲状腺機能亢進症では、triiodothyronineにより、心臓でのATP消費が増加するが、ATP生成(酸化的リン酸化により生成される)と、筋肉収縮(ATPが消費される)よりも、熱産生(thermogenesis)の方に、膜電位(膜のエネルギー)が、使用される。


 注1:電子伝達系と酸化的リン酸化は、共役」(coupling)しているので、酸化的リン酸化でATPが合成されないと、電子伝達が起こらない。
 2,4-ジニトロフェノールは、脱共役剤:2,4-ジニトロフェノールは、ミトコンドリアの内膜を通過出来る。2,4-ジニトロフェノールは、膜間スペースで、水素イオン(プロトン:H+)と結合して、生じた非解離型は、マトリックスに移行する。その結果、電子伝達で生じる、プロトン勾配がなくなり、ATP合成が阻害される。
 また、新生児や冬眠動物では、褐色脂肪組織の細胞のミトコンドリアで、プロトンが、複合体V(F1F0)とは異なるプロトンチャネルを通過して、マトリックスに流れる(脱共役する)ので、ATP合成より、熱産生(熱発生)が起こる。寒冷により、交感神経が刺激されると、脂肪分解が起こり、遊離した脂肪酸が、褐色脂肪細胞のミトコンドリア内膜に多量に存在する、thermogeninと呼ばれる脱共役蛋白質(uncoupling protein:UCP)を開き、膜電位(ミトコンドリアのプロトンの濃度勾配)を解消する。そうすると、ATP合成が行われないが、脂肪酸など、基質の酸化が著しく亢進して、熱産生が起こると言う(膜電位の化学エネルギーが、熱に変換される)。褐色脂肪細胞が破壊された動物は、気温が低下した際の体温維持機能が、低下する。また、褐色脂肪細胞が破壊された動物は、(熱産生によるカロリー消費が低下して、)体脂肪量や体重が増加する。
 サリチル酸などのNSAIDsは、PTPと言う、ミトコンドリアの内膜と外膜を貫通する穴構造を、開口させて、プロトンを、ミトコンドリア内に流入させ、膜電位を低下させ、アポトーシスで、細胞を死滅させてしまう。
 アポトーシスを惹起するPTPの開口(induction)は、Ca2+に依存する。その理由は、Bernardiの実験結果から、PTPの開口は、膜電位(the proton electrochemical gradient:刄ハH+)により制御されていて、Ca2+Camの増加)が、ミトコンドリア内で、膜電位(刄ハH+)を変化させて、PTPの開口(induction)を引き起こすためと、考えられる。
 Trost等の実験結果では、細胞外Ca2+濃度(Cao)が高いと、サリチル酸の毒性(ミトコンドリア障害作用)が、増強した。細胞外(extracellular)のカルシウムイオン濃度(Ca2+濃度)が高いと、サリチル酸の、毒性(ミトコンドリア障害作用)が、増強したカルシウム拮抗作用のある薬剤(verapamil、diltiazem、chlorpromazine、nifedipine、nisoldipine)は、サリチル酸の毒性(ミトコンドリア障害作用)を、阻害ないし軽減させた
 注2NADH2+は、TCA回路クエン酸回路)や、脂肪酸のβ-酸化で生成される。TCA回路では、ブドウ糖(解糖)、脂肪酸、アミノ酸から生成されたアセチル-CoAが分解され、NADH2+が生成される。

 注3NADH2+は、NADH+H+のこと。

 注4グリセロリン酸シャトルは、ミトコンドリア内膜の膜間スペース側(膜間部側)に存在し、以下に述べるような3ステップの反応(仕組み)で、NADH2+を、ミトコンドリア内に、輸送する。
 1).細胞質ゾル(サイトゾル)のNADH2+の電子(H)は、グルセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(3-ホスホグリセロールデヒドロゲナーゼ)により、ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)を還元し、NAD+と、グリセロール3-リン酸(グリセロール-3-リン酸、α-グリセロリン酸)が、生成される。NAD+は、解糖系で、再利用される。
 2).グリセロール3-リン酸の電子(H)は、ミトコンドリア内膜の膜間スペース側(膜間部側)で、フラボプロテインデヒドロゲナーゼにより、FAD+を還元し、FADH2+が、生成され、ジヒドロキシアセトンリン酸に戻る。
 3).FADH2+は、ミトコンドリア内膜で、電子(H)を、電子伝達系に送り込み、FAD+に戻る。

 注5:プロトンポンプは、ミトコンドリア内膜に存在している。プロトンは、酸化型プロトンポンプでは、プロトンポンプのマトリックス側のアミノ酸側鎖に結合している。
 酸化型プロトンポンプは、電子伝達で還元されると、構造(コンフォメーション)が変化して、プロトンが結合した解離基(アミノ酸側鎖)が、細胞質ゾル側に向きを変えて、プロトンを、膜間スペースに解離する。還元型プロトンポンプは、再酸化されると、構造が変化して、マトリックス側に向きを変える。
 このようにして、電子伝達で、酸化型プロトンポンプが、還元型に構造を変化することで、マトリック側から、膜間スペースに、NADHの電子1対当り、4ケのプロトンを、汲み出す(輸送する)と言う。 

 注6:複合体IVに渡された電子により、酸素分子(O2)が還元される際に、一部の酸素分子は、一電子還元され、スーパーオキシド(O2-)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシルラジカル(HO・)など活性酸素(ROS)が、発生してしまう。
 活性酸素は、複合体IIIでも、電子(プロトン)が、CoQ(ubiquinone)、シトクロムb、シトクロムc1の間を、行き来する間に発生する。 複合体IVで発生する活性酸素の量よりも、複合体IIIで発生する活性酸素の量の方が、多いと言う。
 複合体Iでも、活性酸素が発生する。

 注7:酸化還元電位が負の物質は、電子親和力が水素より低く、電子を与え易い。
 酸化還元電位が正の物質は、電子親和力が水素より高く、電子を受け取り易い。
 電子伝達系では、NADH2+から1/2O2に、2ケの電子が伝達されるが、NADH2+(-0.315V)とO2(+0.815V)との間には、1.13V(ボルト)の電位差がある。
標準酸化還元電位
 酸化還元系  Eo' (V)
 ピルビン酸→酢酸+CO2  -0.70
 酢酸+3H++2e-→アセトアルデヒド+H2O  -0.581
 H++e-→1/2H2  -0.421
 NAD++H++2e-→NADH  -0.315
 FAD+2H++2e-→FADH2(遊離の補酵素)  -0.219
 ピルビン酸 + 2H+ + 2e-→ 乳酸  -0.185
 オキサロ酢酸+2H++2e-→リンゴ酸  -0.166
 FAD+2H++2e-→FADH2(フラボタンパク中)  -0.
 ユビキノン+2H++2e-→ユビキノール   0.045
 1/2O2+2H++2e-→H2O   0.815
 参考文献
 ・ヴォート基礎生化学(東京化学同人、第1版第4刷、2003年).
 ・シンプル生化学(南江堂、改訂第4版、2003年).
 ・Adam Szewczyk, Lech Wojtczak(2002) Mitochondria as a Pharmacological Target. Pharmacological Reviews 54:101-127.
 ・Bernardi P (1992) Modulation of the mitochondrial cyclosporin A-sensitive permeability transition pore by the proton electrochemical gradient. Evidence that the pore can be opened by membrane depolarization. J Biol Chem  267: 8834-8839.
 ・Trost LC, Lemasters JJ.: Role of the mitochondrial permeability transition in salicylate toxicity to cultured rat hepatocytes: implications for the pathogenesis of Reye's syndrome. Toxicol Appl Pharmacol. 1997 Dec;147(2):431-41.
 ・Vane JR, Bakhle YS, Botting RM. Cyclooxygenases 1 and 2. Ann Rev Pharmacol Toxicol 1998;38:97?120.

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