後輩への手紙(番外編)

Hitoshi Takano MAY/2007

番外の理由


 最初にお断りしておきますが、理由は「わけ」と読んでください。

 「後輩への手紙」シリーズは、10回で一段落の予定であった。続ける時は、「続・後輩への手紙」というタイトルにして、(機砲ら番号をふることを考えていた。しかし、現在の“TOPIC”は、もう終わるので、その後継のシリーズを始めることになったら、そのアイディアを使う予定だった。
 しかし、である。「後輩への手紙」で書くネタができてしまったのである。私は、悩んだ。別のネタにすべきか、(XI)にしようか、それとも何か良い方法がないか、と。
 結論は、(番外編)にしようというものであった。こうすれば、シリーズ十編という自分の決めた一応のルールを守ることができる。そういう理由での(番外編)である。

 “TOPIC”も、今回で99回目。ラス前である。後輩も含めて、読者の皆さんに楽しんでいただきたい。

丙君への手紙


前略
 丙君、春の職域大会後、いかがお過ごしでしょうか?
 職域のしばらく前に、ドクターストップと聞いた時は、正直、驚きを隠せませんでした。

 具合が悪いとは聞いていましたが、職域には間に合うと聞いていたので、あまり、根掘り葉掘り聞きませんでしたが、出場できないと聞いてはそうはいきません。
 いったい、どこを悪くしたのか?
 悪くした原因は?
 今後の見とおしはどうなのか?
 聞きたいことがいっぱいでした。

 その節は、言いにくいこともあったでしょうが、いろいろ聞いてしまってすみませんでした。
 首の故障ということで、相撲や柔道などの格闘技や、ラグビーやアメフトなどの激しいスポーツはよろしくないようですね。
 まあ、カルタも頭がぶつかることも稀にありますが…。
 競技カルタの選手が、身体の故障のせいでカルタが取れないというのはつらいことです。特に取りたいという思いでいるのに、身体的条件が整わないというのは、忸怩たるものがあるのではないでしょうか。
 腰の痛みで戦線離脱している選手もいますし、膝の故障で離れざるをえない人もいます。その他にも、股関節が悪いという選手もいますし、体重の増加のせいで離れていく人もいます。内臓疾患系で体力的に無理という人もいますし、耳が遠くなった、目が悪くなったというケースは、年をとれば出てくる問題です。ちょっと重い突き指などは、ざらにある競技です。突き指であれば、一時的離脱で済む場合が多いでしょうが、一時的では済まないことも多くあります。人によっては、きっぱり引退する人もいれば、復帰を目指す人もいます。それは、その人の競技に対する美学であり、決断ですから他人がとやかく言うことではありません。
 ちょっと脱線しましたが、私が言いたいのは、復帰を目指す場合について、すなわち、今の丙君の立場に立ってのお話をしたいのです。

 私の場合でいえば、背筋を痛めての戦線離脱に始まり、数度のぎっくり腰--一度はカルタの敵陣の攻めでやりました--、重い突き指が二度(一度は丙君との対戦)あります。突き指は、テーピングなどでごまかしながらも取れますが、さすがに二度目の時は、医者にしばらく休ませたほうがよいと言われ、戦線離脱しました。このように、当然のことですが、そのたびに回復を待ってからの戦線復帰になります。
 結局、腰痛とは長いつき合いになっています。カルタのスタイルも腰痛をかばう意味で変化せざるをえませんでした。若い頃、右手を突き指した時のことを考えて、怪我をしていない時に転ばぬ先の杖で、左手で取るという練習をしたことがあります。この時、手や腕の問題ではなく、身体全体の問題なのだということを痛感しました。また、定位置も左右逆にすればいいなどというものではありませんでした。右下段が定位置の札は、左で取っても右下段で感じるのです。この練習で、軽く背筋と腰を痛めて、必要性もない時に二度とやるまいと決めましたが、この体験的気づきは大きかったと思います。

 結局は、その今ある自分の肉体と体調でしか、カルタは取れないのです。それを理想とする自分のカルタとのギャップに気づかずに理想を追い求めると、かえって具合を悪くしてしまうということがあるのです。
 理想に近づけようと努力することは大切ですし、それがこの年齢になってもなお上達するための最善の方策であると思います。しかし、現実に身体の老化や傷病によっては、無理なことあります。そこを見極めて、自分なりの身体の状況にあったカルタの取り方を工夫することも大事なことだと思います。
 相撲の力士が、腰を悪くしたので受身にまわっては腰に負担がかかるので不利になってしまうから、積極的に意識的に前に出る攻めの相撲を心がけたら活躍できたなどという談話をすることがあります。「怪我の巧妙」と言えないこともないでしょうが、カルタも同じだと思います。
 今までの自分のスタイルを変えることには不安もあるでしょうが、首を痛めてそこに衝撃を与えないほうがいいと医者に言われているなら、そういうカルタを自分なりに工夫するしかないのではないでしょうか。

 丙君のカルタは、払いの勢いで取るカルタです。ですから、払い終わった後のフォロースルーとしての畳の叩き方が強いのです。それで、衝撃が首に出てしまいます。
 これを避けるためには二つの方法があると思います。ひとつは、響きの速さで取るカルタに変えることです。響きの速さの分、払いの勢いのスピードを補うわけなので、そんなに強く畳を叩く必要はなくなると思います。もう一つは、フォロースルーで畳を叩かなくてもよいような勢いとスピードのある払いにするわけです。払いのあとバランスを崩さないように手を上にあげ畳を叩かずに身体全体のバランスを元の位置に戻すような感じで態勢を戻すのです。
 さらに、この二つのどちらを選ぶにしても、共通のテーマは、札直です。今の丙君の払いは、勢いのある分、札押しの取りが多いからです。札直にすることで、今の払いの勢いが減じたとしても、カバーできるはずです。
 別の選択肢としては、千代の富士が肩の脱臼癖を克服した筋肉の強化という方法がないわけでもありません。首の筋肉強化という方法も医師の指導のもとに検討してみるという方法もあるかもしれません。
 いろいろと述べさせてもらいましたが、すでに、そんなことは考えているということであれば、私の余計な提案はご放念ください。

 いずれにしても、丙君にとっては、新たなチャレンジになることは間違いないと思います。夏の職域・学生大会に向けて、すでに各チームの戦いは始まっています。また、一緒にがんばりましょう。
草々



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