サステイナブルなまちづくり (ユニバーシティアベニューの事例)
University Avenue (Berkeley, California)
 
近年、日本において『サステイナブルコミュニティ』という言葉をよく耳にするようになりました。事実、日本の自治体の中にも、そのまちづくりスローガンにこの言葉を掲げ、まちづくりの方向性を模索しているところがあります。元来、過度の車社会の進行を懸念するアメリカのシティプランナー、アーキテクトによって唱えられたこの言葉は非常に広い概念を包含する言葉です。それだけに適切な日本語に訳すのが非常に困難であり、また、その捉え方も人により様々です。エコロジーな側面を重視した捉え方、経済的側面を重視した捉え方、社会的側面を重視した捉え方、そして、空間的側面を重視した捉え方。しかし、そのいずれにおいても、残念ながらこのキャッチ−な言葉だけが一人歩きし、この言葉が提示する本来の課題である、「真にサステイナブルな(持続可能な)社会とは?」と言うまちづくりの本質まで議論が達していないのが現状です。
以下は、東京市政調査会発行の月刊誌『都市問題』1998年12月号に私が寄稿(共著)したものです。バークレーのユニバーシティアベニュー再生の事例などからサステイナブルなまちづくりに関して考えてみました。
 
 

都市問題 第89巻 第12号 環境負荷の軽減と都市づくり 1998年12月号 東京市政調査会
『サステイナブルコミュニティ(アメリカの新しいまちづくりの動き)
車中心のまちづくりからの訣別

小門裕幸・佐々木宏幸

 広大な国土を誇るアメリカは持ち前のフロンティア精神で自然を克服し、豊かで質の高い生活を手に入れるため、数多くの巨大な都市を創造してきた。人種も宗教もそして価値観も違う様々なひびとが自由と民主主義という共通の御旗の下に集まり、強いコミュニティを創造しきた。物質的に目覚しい発展を遂げた今、そのアメリカが変わろうとしている。民主主義の礎であるコミュニティの崩壊と、将来に立ちはだかる資源の有限性やかけがえのない地球環境の劣化という問題に気づき、新しいまちづくりを始めようとしている。

1.エッジシティ

 カリフォルニア州ロサンゼルス市の南東35マイル、フリーウェイ405号を南に1時間半ほど車で走ったところに代表的なエッジシティであるアーバイン地域(三つの核を持つエッジシティである。人口は約10万人)がある。エッジシティとは旧市街地の周縁部に形成された都市が備えるべき機能を全て備えた新しい完結型の郊外都市の呼称である。アーバインはカリフォルニア州立大学(UCアーバイン)の誘致に成功し、80年代南カリフォルニア経済が膨張する中で急成長を遂げた。豊かな緑を配して造られた人工湖を核にしてその周りに住宅が展開する。最新設備を備えた低層のオフィスビルが広大な敷地に点在する。日用品(食料品を除く)から高級ブランド品まで全てが揃う、八つの百貨店と三百を超える店舗で構成される巨大なショッピングモール。大小の劇場、シネマコンプレックス、ホテルが隣接し、駐車場は一万三千台を収容する。片側3車線はある広い道路がそれらの地区を緩やかなカーブを描きながら結んでいる。街路樹の間からは、南カリフォルニアの太陽が心地よく降り注ぐ。カルフォルニア州アーバイン地域は、住む、働く、学ぶ、遊ぶ、全ての機能を兼ね備えた物質文明社会を象徴するユートピアである。アメリカ人ならずとも全ての人々が一度は住みたいと思うような魅力的な都市である。今でも日本から多くの人がこの地を訪れ、その成果を日本のまちづくりに生かそうと持ち帰る。確かに、エッジシティは従来の都市が直面する交通渋滞、大気汚染、治安の悪化、高密度化、家賃の高騰等の様々な問題に光明を与え、全く新しい都市空間を生み出した。緑豊かで広々とした安全な住まい、最新の設備を備えた快適な職場環境、家族揃って気軽に楽しめる多彩なアメニティ。人々が夢見ていた全てがそこにあるように見える。しかし、エッジシティは車の利便性を基本に設計された都市である。人間味、温かみに欠ける。あまりに機能的であるため、人と人との触れ合いの機会を奪うこととなった。
 エッジシティは物質的には何不自由ない暮しの創出に成功した。しかし、大規模開発による自然の損傷に加え、資源の無駄遣い、そして新たな渋滞などの近代都市が抱える基本的な問題には何の解決策も示していない。むしろ、コミュニティの崩壊と人間らしい生活の喪失という新たな問題を引き起こしている。効率化の果てに現代社会は大きな罠に陥っている。工業化・都市化が進展する中で、人と自然環境とのつながり、人と歴史風土とのつながり、人とコミュニティとのつながりが希薄化した。


アーバインの代表的住宅地ウッドブリッジ

アーバインに新しくつくられたシネマコンプレックス
アーバインスペクトラム

2.サステイナブルコミュニティの考え方 

 このような状況の中、今アメリカでは、危機意識を持った都市計画家がそれぞれの視点で新しいまちづくりを始めている。地域の文化風土を大切にし、自分たちのまちに愛着と誇りをもてるまち(@アイデンティティ)。老若男女、既婚、独身、健常者、身体の不自由な人、様々な人がふれあう空間や仕掛けがあり、喜びや感動を共有できる人間性あふれるまち(Aオープンスペース)。職住近接で生活に必要なものが歩いて行ける範囲で揃えられ、歩行者或いは自転車中心にデザインされたコンパクトなまち(Bミクストユース)。コミュニティで決めた基本的な建築コードに従うが、それぞれが工夫を凝らした個性豊かな家で彩られるまち(Cハウジング)。個人にとっては便利で効率的ではあるが公害・スプロール化・化石燃料の利用など諸悪の元凶となっている自動車に関して、市電や郊外電車などを主力として自動車に極力依存しない都市構造を持つまち(D自動車削減のための交通計画)。自然の林、河川、田畑があり生き物が伴に生息し(E自然との共生)、先端的技術のみならず地域の伝統技術も駆使して環境負荷を小さくするまち(F省エネ省資源)。彼らは、このような人に優しく地球にもやさしいまちを志向している。そしてそれを実現できる強いコミュニティづくりが必要であると考えている。
 彼らにはそれぞれ目指す方向に濃淡がある。我々は相互に関連する要素ではあるがあえて上記七つの特徴(@〜Fの要素)を抽出し、彼らが希求しているまちを総称して『サステイナブルコミュニティ』と名付けるのが一番ふさわしいと考えた。後述のピーター・カルソープが1986年の著作のタイトルに使った言葉である。 
 サステイナブルとは“百年でも千年でも存続可能・持続可能な”と訳したい。人間と自然とのつながりにおいて環境負荷を軽減し、そしてコミュニティが進歩的で柔軟性に富んでいるという点で、さらに常に糧(産業)が得られるという意味で、百年でも千年でも持続可能であるということだ。まちは限りなくそれにふさわしいハードの構造を持たなければいけないし、ソフトの仕組みを常に希求しなければいけない(サステイナビリティの追求)。それを実現するには構成員の自覚とコミュニティの強化が必要である。この場合のコミュニティは日本的な集団主義的なものではない。個の確立を基礎においたコミュニティでなければならない。村八分という掟のある、怖い監視型のコミュニティではいけない。個人の生活を大切にするからこそ、助け合う。そのようなコミュニティでなければならない。

3.サステイナブルコミュニティづくりの試み

 ピーター・カルソープ、アンドレス・ドゥアーニ&エリザベス・プラター・ザイバーク夫妻(以下DPZ)、そしてマイケル・コルベットは現代のアメリカの開発型まちづくりに警鐘を鳴らす代表的な都市計画家である。
 1991年秋彼らを中心とした六名の都市計画家が開発に従事する地方公共団体の幹部をヨセミテ国立公園のアワニーホテルに招聘してこれからのまちづくりにおいて遵守すべき原則を採択した。これがアワニー原則と呼ばれるもので,コミュニティの原則、コミュニティより大きな区域であるリージョンの原則、実際に適用するための戦略についての三つの分野にわけて記されている。極めて示唆に富むものであるので紹介したい。

「アワニー原則」(抜粋)
・コミュニテイの原則
@ 全てのコミュニティは、住宅、商店、勤務先、学校、公園、公共施設など、住民の生活に不可欠な様々な施設と活動拠点を併せ持つような、多機能で、統一感のあるものとして設計されなければならない。
A できるだけ多くの施設が、相互に気軽に歩いて行ける範囲内に位置するように設計されなければならない。 
B できるだけ多くの施設や活動拠点が、公共交通機関の駅や停留所に簡単に歩いて行ける距離内に整備されるべきである。
C 様々な経済レベルの人々や、様々な年齢の人々が、同じ一つのコミュニテイ内に住むことができるように、コミュニティ内では様々なタイプの住宅が供給されるべきである。 
D コミュニテイ内に住んでいる人々が喜んで働けるような仕事の場が、コミュニテイ内で産み出されるべきである。
E 新たに創り出されるコミュニティの場所や性格は、そのコミュニティを包含する、より大きな交通ネットワークと調和のとれたものでなければならない。
F コミュニティは、商業活動、市民サービス、文化活動、レクレーション活動などが集中的になされる中心地を保持しなればならない。
G コミュニテイは、広場、緑地帯、公園など用途の特定化された、誰もが利用できる、かなりの面積のオープン・スペースを保持しなければならない。場所とデザインに工夫を凝らすことによって、オープン・スペースの利用は促進される。
H パブリックなスペースは、日夜いつでも人々が興味を持って行きたがるような場所となるように設計されるべきである。
I それぞれのコミュニテイや、いくつかのコミュニテイがまとまったより大きな地域は、農業のグリーンベルト、野生生物の生息境界などによって明確な境界を保持しなければならない。またこの境界は、開発行為の対象とならないようにしなければならない。
J 通り、歩行者用通路、自転車用道路などのコミュニテイ内の様々な道路は、全体として、相互に緊密なネットワークを保持し、かつ、興味をそそられるようなルートを提供するような道路システムを形成するものでなければならない。それらの道は、建物、木々、街灯など周囲の環境に工夫を凝らし、また、自動車利用を減退させるような小さく細いものであることによって、歩行者や、自転車の利用が促進されるようなものでなければならない。
K コミュニテイの建設前から敷地内に存在していた、天然の地形、排水、植生などは、コミュニテイ内の公園やグリーンベルトの中をはじめとして、可能な限り元の自然のままの形でコミュニテイ内に保存されるべきである。
L 全てのコミュニテイは、資源を節約し、廃棄物が最小になるように設計されるべきである。
M 自然の排水の利用、干ばつに強い地勢の造形、水のリサイクリングの実施などを通して、全てのコミュニテイは水の効果的な利用を追求しなければならない。
N エネルギー節約型のコミュニテイを創出するために、通りの方向性、建物の配置、日陰の活用などに充分な工夫を凝らすべきである。

・コミュニテイを包含するリージョン・地域の原則
@ 地域の土地利用計画は、従来は、自動車専用の高速道路との整合性が第一に 考えられてきたが、これからは、公共交通路線を中心とする大規模な交通輸送ネットワークとの整合性が先ず第一に考えられなければならない。
A 地域は、自然条件によって決定されるグリーンベルトや野生生物の生息境界などの形で、他の地域との境界線を保持し、かつ、この境界線を常に維持していかなければならない。
B 市庁舎やスタジアム、博物館などのような、地域の中心的な施設は、都市の 中心部に位置していなければならない。
C その地域の歴史、文化、気候に対応し、その地域の独自性が表現され、またそれが強化されるような建設方法及び資材を採用するべきである。

・実現のための戦略
@ 全体計画は、状況の変化に対応して常に柔軟に改訂されるべきである。
A 特定の開発業者が主導権を握ったり、地域のそれぞれの部分部分が地域全体との整合性もないままに乱開発されることを防ぐために、地元の地方公共団体は開発の全体計画が策定される際の適正な計画策定プロセスの保持に責任を追うべきである。全体計画では、新規の開発、人口の流入、土地再開発などが許容される場所が明確に示されなければならない。
B 開発事業が実施される前に、既述諸原則に基づいた詳細な計画が策定されていなければならない。詳細な計画を実施することによって、事業が順調に進捗していくことが可能となる。
C 計画の策定プロセスには誰でも参加できるようにするとともに、計画策定への参加者に対しては、プロジェクトに対するさまざまな提案が視覚的に理解できるような資料が提供されるべきである。

 ピーター・カルソープは、コミュニティが複合する都市計画の視点からサステイナブルコミュニティの実現を試みた。カリフォルニア州の州都サクラメント(人口37万人)の南約18キロにラグナウエストがある。ラグナウエスト(全体計画面積約4平方キロ計画人口12千人)は「古くからあるアメリカの小さなまち」(ネオ・トラディショナルタウン)の創造を試みたニュータウンである。中心エリア内には、コミュニティセンターとそれを囲むオープンスペース、オフィス、娯楽施設、店舗、レクリエーション施設、タウンハウス、一戸建て住宅など多様な施設がひとつの小さなまちとして設計されている。中心エリアとその周辺地域とは人工湖を越えて放射状に伸びる道によって結ばれている。周辺地域の居住者が中心エリアに歩いて往来できるようなプランニング上の工夫が施されている。残念ながらラグナウエストは折からの不動産不況の影響で当初の計画通りには実現していない。路面電車でサクラメントとラグナ・ウエストを結ぶ試みも、実現すれば車依存から脱却し公共交通機関の利用によるTOD(Transit Oriented Development)型の開発(車に依存せず公共の交通機関を中心にした開発)となるはずであったが頓挫している。
 ピーター・カルソープは、コミュニティはそれ自身で極りなくサステイナビリティを追求しつつ相互に補完しながら、その複合体であるリージョンの段階で完成させることを考えている。コミュニティという単位では規模的にふさわしくないもの、上下水道、高校、大学、博物館などは、中規模或いは大規模なエリアで補完される。リージョンとは、地理的には流域圏のようなもので、エコロジー的にも経済的にも或いは文化的にもまとまりのある地域として捉えられるものである。地震など災害に関しても一体として対策をとるべき地域を念頭に置いている。リージョン内の各コミュニティは公共交通機関によってネットワークされる。このようなリージョンの創造こそが、サステイナブルコミュニティ実現の途であると考えている。本稿では紙面の関係で触れることができないが、オレゴン州ポートランド地域がカルソープの指導の下にその試みを行っている。
 フロリダ州マイアミ市在住の建築家夫妻、DPZはディベロッパーのロバート・デービスとともにフロリダ州の北西部の海岸地帯にある0.4平方キロのリゾートタウン、シーサイドをつくり上げた。数々のメディアで絶賛されたこのリゾートタウンは、アイデンティティを共有することによる強いコミュニティの創出をそのまちづくりの柱に据えている。強いコミュニティの実現のために、彼らは伝統的なアメリカのまちなみの再現とパブリックスペース優先のまちづくりを徹底して推進した。シーサイドにおいてはフロリダの伝統的な建築様式が採用されている。行き止まりがなく歩行を誘うように設計されたグリッド状の道、家と家の間に設けられた細い歩行者専用の路地、大きさや高さを制限したヒューマンスケールの建物、ミクストユースを実現しているまちの中心部など、人へのやさしさ、まちのアイデンティティを強く感じることのできるまちなみを創出している。「パブリックな部分がプライベートな部分に優先する」という原則の下、住宅の密度を上げる代わりに、通りや公園、広場などの豊かな公共空間を確保し、同時に公共機関などシンボルとなる建物をまちの中央に配することにより、まちの中心を明確に意識できるようにしている。それらは、人が集い、ふれあう場を提供する。空間づくりの面から強いコミュニティの形成を狙うものである。また、地域に自生する植物を利用することにより地域の独自性の創出と生態系への配慮も行っている。シーサイドは地域の文化風土などその地域のアイデンティティ(独自性)に着目し、強いコミュニティの創出に主眼を置いたサステイナブルコミュニティの成功事例である。
 サクラメント市の南西約26キロ、緑豊かなデービス市(人口約4.5万人)に小さなコミュニティ、ビレッジホームズ(総面積24ha人口規模約千人)がある。デベロッパー兼プランナーとして有名なマイケル・コルベットはエコロジカルな視点からサステイナブルコミュニティの創造を試み成功をおさめている。敷地内には多種多様な果樹がいたるところに植えられ、各住戸の庭、そして居住者なら誰もが無料で借りられる家庭菜園では様々な野菜が栽培されている。これらの果物や野菜は基本的に域内で消費され、居住者の消費する果物や野菜のかなりの部分をまかなっている。また、極力舗装を施していない域内には砂利敷きの自然排水溝が至るところにめぐらされ徹底した雨水の地下浸透が図られている。このシステムの採用により域外の雨水排水管への雨水の流出は通常の10%程度に抑えられているという。また、各住戸においては太陽熱温水システムの導入など太陽エネルギーの活用が積極的に図られ、エネルギーの消費量を通常の半分程度に削減されている。また、域内では徹底した歩車分離システム、ラドバーンシステムが採用されクルドサックの導入により自動車と自転車、歩行者をほぼ完全に分離している。ビレッジホームズは環境負荷を極力抑えた人間性溢れるコミュニティで、サステイナブルコミュニティづくりのひとつの明快な方向性を示している。


ピーター・カルソープによって計画されたラグナ・ウエストの住宅群
 
4.市民参加型のまちづくりによるサスティナブルコミュニティ創生の事例(カルフォルニア州バークレイ市)

カリフォルニア州立大学バークレー校で有名なバークレー市(人口10万人)で今、日々その姿を変えつつあるところがある。フリーウェイ80号の出口とカリフォルニア州立大学バークレー校のキャンパスをつなぐ東西に走るユニバーシティ通りは、アメリカの極ありふれたストリートである。少なくとも2、3年前まではそうであった。ユニバーシティ通り及びその周辺にはモーテル、ガソリンスタンド、ロードサイド型のモールやリテール、カフェ、様々なエスニックレストラン、そして古びた公共施設などが雑然と建ち並び、駐車場や空き地も目立つ。道幅は広いが、片側3車線の道路は車のために作られた通りだ。街路樹も豊かとは言えない。そして通りを一歩入ればそこにはアメリカのどこにでもある古びた住宅地が広がる。通りに面する薄汚れたガレージ、手入れが行き届いてない前庭、ペンキがはげて朽ちた外壁、決して良好な環境とは言い難い。通りを歩くとヒスパニック系、アフリカンアメリカン、インド系、アジア系と実に様々なひとびととすれ違う。この地域には人種を異にする多種多様なひとびとが居住している。1970年代の後半までのこの通りはバークレーの玄関口として非常な成功を収めていた。店舗は栄え、人が溢れていた。しかし車社会が止めどもなく進行し、この通りは、単なる通過動線としての機能しか果たさなくなってしまった。景気の低迷も拍車をかけた。通り沿いの店舗は衰退し、空き店舗や空き地が目立ちはじめまちの賑わいが消えた。同時に不逞の輩が横行しドラッグが蔓延し治安が急速に悪化した。1993年、このような事態を憂慮したバークレー市は、地域住民と一体となりこの地域の再生に乗り出したのである。
 本プロジェクトにおいて特筆すべきは市の委員会及びその他の関係者、地域住民、土地所有者、商店主、ディベロッパー、都市計画家、経済コンサルタントなど行政と民と専門家(都市計画家と経済コンサルタント)の3者が一体となりその計画策定にあたったことである。そして、それは全6回にわたるワークショップの開催という形で実現された。
 1993年秋から1994年春にかけて2度にわたるジェネラルプラン・ワークショップが開催された。このワークショップには市の関係者と地域住民が参加している。目的は地域住民でユニバーシティアベニュー地区全体に関する問題点を洗い出し、共通の将来像を描くことにある。そして7つの目標 :@ 公共の安全性の確保 A土地利用計画の策定(ミックストユースの建物の導入。既存住宅エリアの尊重と商業開発の規制) Bアーバンデザインの充実(建物・歩道・照明・街路樹等が、歩行者の安全性と快適性を提供) C経済の振興(新しい業種の導入、商業者間の競争の奨励による商業活動の活性化) D住宅開発の振興(住宅開発者へのインセンティブ付与、既存の住宅の改築の奨励) E公共交通機関の整備(電気バスやコミューターレールの導入。歩行者、自転車専用道の整備) Fコミュニティサービスの充実が採択された。
 次のステップはそれらに対する具体的な政策の検討とその実行計画の策定である。バークレー市はその実現のために都市設計事務所であるカルソープ・アソシエイツと経済コンサルタント事務所であるベイエリア・エコノミックスを指名する。7つの目標のうち土地利用計画、アーバンデザイン、経済振興策、住宅開発計画、交通計画の5項目についての検討を依頼した。より具体的情報収集のために、ユニバーシティアベニュー地区を4つのサブエリアに分割し検討が加えられる。1995年2月と3月に2度のサブエリア・ワークショップを開催する。市の関係者と住民に加え新たに専門家が参加する。その目的は、各サブエリアの再生計画に係わる全ての人が正確に現状を認識し具体的な問題点を洗い出すことにある。ワークショップに先立ち,市の関係者と専門家は、土地所有者、店主、ディベロッパーなどと個別に会合を持ち、サブエリアの開発制約要件と開発可能性に関する情報の収集を行っている。2回のサブエリア・ワークショップには100人を超えるコミュニティのメンバーが参加し、最初に彼らが行ったことは、全員でそれぞれのサブエリアを歩くことであった。歩きながら、サブエリアの様々な可能性を指摘し合い、現在のあるいは将来予測される問題点の摘出を行った。その上で、市と専門家タントサイドから、経済動向、エリアの経済的制約要因、現状の土地利用形態、事前調査に基づく開発可能性などについて説明が行われている。参加者の間で議論が交わされる。そして、参加者はユニバーシティアベニューが現在おかれている状況を正しく把握し、問題意識を高め、まちの再生に向けて情熱を共有することになる。
 これら四度にわたるサブエリア・ワークショップを受けて、1995年4月に2度のコミュニティデザイン・ワークショップが開かれた。今回はアベニュー沿いの具体的な土地利用計画と都市デザインに関する問題を集中的に検討するためのものだ。そこでは市関係者、住民、土地所有者が都市計画家と一体となって具体的計画のコンセプトの作成、検討、評価を行ない、再生計画の作成を行った。
 このコミュニティデザイン・ワークショップの1回目では、参加者は8人から10人のグループに分けられ、専門家が用意したベースマップ(ストリート、公共空間、自然環境、既存建物、開発可能エリアなどを書き込んだ地図)と土地利用カード(様々な土地利用形態における建物をグラフィカルに表したベースマップと同スケールのカード)を使って専門家のアドバイスを受けながら、様々な土地利用を検討し、グループの総意としての土地利用計画案を作成する。50ユニットのアパートメントは僅か1エーカーの土地に建設が可能であるが、同じ数の戸建て住宅は3〜4エーカー必要である。3万スクエアーフットのスーパーマーケットとそれにふさわしい駐車場は少なくとも2エーカーの土地が必要であるが、1階に店舗、その上がアパートメントになっている建物はずっと小さな土地に建設が可能である。参加者達は基本的な数字を踏まえながら土地利用カードを組み合わせて、自分たちにとって好ましい土地利用計画図の作成を行う。都市計画家は彼らの素案をベースに、各サブエリアにミックストユースの建物を集中させた、サブエリアの核となる中心点を創出を織り込んだ予備的計画案を作成する。この案に対し、参加者が議論を重ね、さらに修正を加えて、総意に基づいた土地利用計画図の作成を行うのである。
 ワークショップのプロセスを通じて、再生計画が共有化され、コミュニティの将来像についても共通の認識を持ち、個々人の自覚が函養されことになる。この段階の計画は未完成で、専門家の手により、さらに詰めらることになるが、住民が自分達の問題として参加し、自分たちの目で確かめ、意見を交わし、手を動かしながら行った共同作業は、彼らの間に確かな連帯感を生み、彼らがコミュニティ再生の真の担い手として活動してゆく基礎を築き上げている。
 ワークショップの結果を受け、カルソープ・アソシエーツにより最終的に提示された最終再生計画は、@全体エリアに対するより詳細な再生計画の目標設定 A全体エリア各再生計画目標に対する詳細な実行計画 B各サブエリアにおける問題点の明確化とその解決策の提示 C建物用途、デザイン等を規制する具体的デザインガイドライン D再生計画の実行計画の段階的履行チェックリストからなっている。
 この最終再生計画は、現在の車中心の通りを、歩行者中心で安全で潤いのある通りに変革するものである。と同時に、コミュニティとしても社会的に健全で経済的に繁栄が約束され物理的にもサステイナビリティの高いもにすること、コミュニティのいい面を奨励しこの地区の個性を強めてゆくこと、そして市当局も住民も引き続き将来にわたりコミュニティに対する投資を怠らないことが必要であるとしている。
 その具体的実現手法として、@住民の目が届くような設計を施し、通りの安全性を増す A商店間の競争を奨励し商業の発展を図ること B歴史的建物、既存の建物をできるだけ活用しながらインフィル型の開発をする Cミックストユースの建物の積極的導入を行い、居住空間を生み出す D既存住民や商店の保護を行いながら新旧の要素をバランス良く混在させる Eバークレー大学への玄関口としてのユニバーシティアベニューの性格を明確化するとともに後背の住宅地との連係を強めること F公共の交通システムと歩行者、自転車のための道路のネットワークを整備すること等が指摘されている。
 個々の物件の建築に当たっては、建物の高さ・日影・歴史的建物の再利用・建物のデザイン(大きさ、ファサード、屋根形状、素材等)・駐車場の設け方・オープンスペース・照明・サイン等について既存のガイドラインにプラスしてデザインガイドラインを設けるなど計画上の具体的実現手法が詳細に記述されている。
 ユニバーシティアベニュー地区の住民は、自分たちで話し合い、自分たちの目で確かめ、納得づくで自分たちで策定したプランに基づき自分たちのコミュニティを再生して行こうとしている。そこには、新たに造り出されたラグナウエスト、シーサイドやビレッジホームズには見られない歴史や文化が息づいており、様々な人間模様の中で強いコミュニティが形成されてゆく過程が映し出されている。
 ユニバーシティアベニューにおける再生の試みはまだ緒についたばかりである。今後も難問が出現するであろう。意見が完全にまとまったわけではなく、再生計画がそのシナリオ通り順調に運んでいく保証はない。しかし、ユニバーシティアベニュー地区は目にみえて変わりはじめている。新しい建物の建設が始まっている。すでにいくつかのミックストユースの建物が完成した。1階のカフェでは談笑が始まった。そのささやかな賑わいが以前とは違う安心感を与えてくれる。寂れていたロードサイド型のモールも改築された。後背の住宅地に新築が登場した。古びた家並みも改築を競い始めた。前庭に緑や花が復活している。小学校が新築され、コミュニティの核として住民に開放されることになった。小規模ながら企業がこの地区に進出し始めている。新旧調和して強いコミュニティの構築に向けて前進を始めている。
 

UCバークレーのキャンパスに向かって延びる
ユニバーシティアヴェニュー

コミュニティの中心的役割を果たす
良く整備された公園

ガイドラインに基づいて計画された
ミックストユースの建物
 
5.サステイナブルコミュニティづくりに向けて

 アメリカは、疲弊の時代に民間のパワーが蓄積し90年台に入り開花したように見える。まちづくりの分野でも、社会的にも進歩的で、経済的にもリーズナブルで、環境面でも健全なコミュニティを再建しようとする動きが何カ所かで見られるようになった。21世紀に向けて半永久的に持続しうる『サステイナブルコミュニティ』づくりの考え方が都市計画家の中でコンセンサスを得ようとしている。先進的市民の中にはコミュニティの崩壊に危機感を持ち、過度の車社会の進行と地球環境の破壊を懸念して、そのライフスタイルを改めようとする人たちが現れている。 まちづくりの担い手であるべき住民も、ユニバーシティアベニュー再生計画に見られるように積極的にまちづくりに参加し,自らの手でコミュニティの再生に取組んでいる。行政、市民、専門家、それぞれがまちづくりにおいて果たすべき役割は明確である。民主的な住民参加型のまちづくりの仕組が工夫されている。 「自然が保全され、歴史資源が保存され、人々が職に就き、スプロール化が抑制される。近隣の安全性が確保され、生涯教育の機会に恵まれ、公共交通が利用可能で、ヘルスケアにあずかれる。すべての市民が生活の質の改善に平等に参加できる。そんな健康なコミュニティを創造するために、みんなが力を合わせて働こう。」これは1996年発表されたサステイナブル・アメリカをテーマとした大統領諮問委員会の報告書の一節である。1990年代の前半、約2年の時日をかけ産業界と環境派が一同に介して侃々諤々の議論を行い、アメリカのありうべき21世紀像を模索している。いくつかのゴールが提示された。そのひとつに強いコミュニティがある。日本人がアメリカのまちづくりから学ぶべき点は多い。

参考文献 サステイナブルコミュニティ 1995 川村健一、小門裕幸 学芸出版

 
ヴィレッジホームズ トライアングルスクエア 住民参加型プロジェクト サステイナブルなまちづくり スマートグロウス
ラス・ベンタナス マンハッタン/ニューヨーク ボストン/マサチューセッツ ザ・クロシングズ
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