No. 19
Titre
Maigret
邦題名
(直訳名)
メグレ再出馬
(メグレ)
執筆記録
Rédaction
ヴァール県ポルクロル島にて
1933年6月完成
Île de Porquerolles, Var; Juin, 1933
参照原本
Éditions
リーヴル・ド・ポシュ版 1971年10月刊
Livre de Poche #2910, oct.1971
邦訳本 野中 雁・訳、河出書房新社#49、1984.04

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リーヴル・ド・ポシュ版
1971年10月刊
Livre de Poche #2910,
oct.1971



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         河出書房新社#49
            1984年4月刊

物語の季節
Saison
 2月のロワール河畔の村では草の芽が霜の雫に濡れ、果樹園のりんご
の木は白く凍って糸ガラスのように壊れそうに見えた。パリの街では空気の
中に春が感じられ、街の様子は朗らかで騒音も活気があった。(Il y avait
déjà du printemps dans l'air. La vie de la rue était plus allègre, les bruits
plus aigues; Chap.3)
メグレの状態
Son état 
 前作『第1号水門』(#18)の事件のあと、予定通り退職してロワール河畔の
村ムン=シュール=ロワールに住んで2年くらいになる。甥のフィリップが
軽率な行動から事件に巻きこまれて窮地に陥ったからとはいえ、職を離れ
たメグレが一肌脱いでパリに乗り出すのだが、いったいどうやって事件を…
という興味で見守ることになる。メグレの本当の復活(つまり警視として再び
活躍する)までにはあと数年待たねばならない。
事件の発端
Origine
 深夜、メグレの家の門扉をゆする音がして、外から「叔父さん!」と叫ぶ声
で起こされてしまう。戸を開けると甥のフィリップが立っていて、パリからタク
シーで駆けつけたという。中に入れて身体を暖めると「こんなバカな事をしで
かしてしまって!」とべそをかく始末。彼はアルザスに住むメグレ夫人の姉の
息子で、メグレの口利きでパリ警視庁に入れてやり、刑事になっていたのだ。
麻薬密売の容疑で逮捕する予定の人物を前夜から見張っていたのだが、
その人物が突然撃ち殺されてしまい、犯人を追ったが見失ない、逆に彼が
犯人扱いされそうになっているというのだ。「もし一緒にパリに来て助けてく
れなければ、僕はどうなるかわからないんです」と訴えられて (Si vous ne
venez pas à Paris avec moi, je ne sais pas ce que je deviendrai; Chap.1er)
メグレは事件に乗り出すことになる。
表題の意味
Ça veut dire
 原題は「メグレ」(Maigret)そのもの。 パリ警視庁を早期退職したメグレが隠
棲先のロワール河畔の村から、甥を助けるためにパリに戻って活躍する一篇
である。ちょうどシムノンのメグレ・シリーズ第1期19作の最後となっている。
河出版の訳者の解説を待たずとも、この作品でメグレとは一旦訣別してシ
ムノンなりの創作活動を意図していたとの想像がつく。しかしながら作家が
自分の創造した人物によってシリーズを作り続けることを強いられるケース
は、コナン・ドイルのホームズやルブランのルパンにも共通していて、読者層
の圧倒的な人気からの要請でもあったようである。
 この作品では、もはや自分で捜査ができない立場なので泣きそうになるメ
グレを読者はハラハラしながら見守ることになる。「もし自分で奴らを訊問でき
るんだったら・・・」 "Si j'avais pu les interroger moi-même! "(Chap.7)
雑記
Divers

錠前を作る
ことをやめ
た錠前屋
Un serrurier
qui ne fait
pas plus de
serrures
 人は職業についている限りにおいては、何らかの力を持つことが出来る。
職権というのだろうか。自分が負った職務をまっとうするために人は自信を
もって行動することができるのだ。退職・転勤・卒業などで古巣の職場や学
校を訪ねたときの何ともいえない隔絶感をこの作品で共感する。自分が去
ったあと、人々はそれなりに新たな日常を繰り返していく。忠実な部下だっ
たリュカですらためらいがちに距離をおいた態度で話をしてくる。自分なしで
済まされている生活空間はあたかも幽霊になってさまようように寂しいもの
なのだ。普段はそういうことにはなかなか気づかないが、一旦職を離れると
身にしみて自分の無力感を味わうことになる。特に警察官のように公権力を
委ねられた人ほど大きいようだ。(Jamais il n'avait été étouffé à ce point
par une sensation d'impuissance; Chap.7)
メグレの姿も昔は歓楽街では恐れられたが、今はもうプロの女ですら知らな
いのだ。(Jamais, deux ans auparavant, une professionelle ne s'y serait
trompée; Chap.2)
 捜査権限がまったくなくなった今となってはからかいの対象でしかなくなる。
「逮捕したけりゃやってみな」と言わんばかりの態度で声高に「錠前を作る
のをやめた錠前屋」になぞらえて「どうしようもないヤツ」(un rien-du-tout!)
だと嘲笑する。

各 章 の 表 題 と 場 所
Table de matière et les lieux cités
1 (つまり僕はうまくやりたかったんです)
(Bref, j'ai voulu faire le malin)
ムン=シュール=ロワールMeung-sur-Loire*
フォンテーヌ街 rue Fontaine, 9e
メジッスリ河岸 quai de la Mégisserie, 1er
2 (たちどころに店を再開できたんだね!)
(Vous avez eu tôt fait d'obtenir la
réouverture!)
ポン・ヌフ広場 place du Pont Neuf, 1er
フォンテーヌ街 rue Fontaine, 9e
3 (助けてほしいんでしょ?) 
(Vous voulez que je vous aide?)
ブランシュ街 rue Blanche, 9e
ポン・ヌフ広場 place du Pont Neuf, 1er
4 (この雰囲気の中で人生の大部分を過ごし
たのだ)
(Il avait passé la plus grande partie de la
vie dans cette ambiance)
メジッスリ河岸 quai de la Mégisserie, 1er
ポン・ヌフ広場 place du Pont Neuf, 1er
バティニョル街 rue des Batignolles, 17e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
5 (錠前を作ることをやめた錠前屋)
(Un serrurier qui ne fait pas plus de serrures)
フォンテーヌ街 rue Fontaine, 9e
6 (その男の20メートル後をメグレが大股の静
かな足取りで追っていた)
(Vingt mètres derrière lui, Maigret faisait
de grandes et calmes enjambées)
フォンテーヌ街 rue Fontaine, 9e
ブランシュ広場 la place Blanche, 9e
ロシュシュアール大通り boulevard Rochechouart, 9e
ラ・シャペル大通り boulevard La Chapelle, 10e
メジッスリ河岸 quai de la Mégisserie, 1er
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
7 (メグレの手が公証人の頬で炸裂した)
(La main de Maigret s'était écrasée sur
la joue du Notaire)
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
8 (メグレの論法に傾いたのは局長のほうだ
った)
(C'était le directeur qui avait penché
pour la thèse de Maigret)
メジッスリ河岸 quai de la Mégisserie, 1er
ポン・ヌフ広場 place du Pont Neuf, 1er
フォンテーヌ街 rue Fontaine, 9e
9 (彼の丸い帽子は机の上の電話機の横に
置かれていた)
(Son chapeau melon était posé sur le
bureau, à côté du téléphone)
メジッスリ河岸 quai de la Mégisserie, 1er
ポン・ヌフ広場 place du Pont Neuf, 1er
バティニョル街 rue des Batignolles, 17e
10 (メグレは追いつめられたように静かに後
ずさりをした)
(Maigret avait reculé lentement de façon
à avoir le dos au mur)
バティニョル街 rue des Batignolles, 17e
ムン=シュール=ロワールMeung-sur-Loire*

メグレ警視の事件に明記された店舗・施設(*印は実在のもの)
Les Bonnes Adresses reconnues du commissaire Maigret
フロリア
Floria
モンマルトル地区の歓楽街にあるナイトクラブ
フォンテーヌ街 rue Fontaine, 9e
タバ・フォンテーヌ
Tabac Fontaine
ドゥエ街との角にあるカフェバー
フォンテーヌ街 rue Fontaine, 9e
ショープ・デュ・ポンヌフ
Chope du Pont-Neuf
シテ島のポンヌフ沿いの南に面した角のブラッスリ
ポン・ヌフ広場 place du Pont Neuf, 1er
オテル・デ・ケ
Hôtel des Quais
セーヌ川の北岸の道路に沿ったホテル
メジッスリ河岸 quai de la Mégisserie, 1er

警察関係者の動向  Situation de collegue

リュカ Lucas : メグレと20年間一緒に仕事をした忠実な部下。このときは独身で、メグレの真似をしてパイプをふかしている。

フィリップ・ローエ Philippe Lauer : メグレの甥。口利きで刑事となった。赤ら顔の赤毛の大柄な青年。眼鏡をかけている。

アマデュー Amadieu : メグレの後任の警視。フィリップの上司。面長で青白い顔、茶色の口ひげ。

ゴデGodet : 風紀班の刑事。

ガスタンビドGastambide : 予審判事。小柄なバスク出身。
事件にかかわる登場人物  Personnages dans l'affaire

ペピート・パレストリーノ Pepito Palestrino : ナイトクラブ「フロリア」の支配人。フィリップ刑事が張り込んでいた夜中に店内で射殺される。29歳。ナポリ出身、過去に麻薬取引で2度国外退去となっている。

ジェルマン・カジョ Germain Cageot : 若い頃司法書士の事務所で働いていたので「公証人」というあだ名で呼ばれている。59歳。太いまゆの面長で冴えない顔つき。酒もタバコもやらず、女っ気なしの甘党。警視庁にタレこむ情報屋で知られ、モンマルトル地区でキャバレーやナイトクラブを数軒所有している。

バルナベ Barnabé : 約2週間前に刺殺された男。強盗事件の共犯として過去3回の逮捕歴があった。

フェルナンド・ボスケ Fernande Bosquet : ナイトクラブ「フロリア」のホステス。なぜかメグレとは気が合う。

ジョゼフ・オーディア Joseph Audiat : 使い走りをする住所不定の小柄で臆病な男。

ユジェーヌ・ベルニアール Eugène Berniard : 若い大柄な伊達男。左頬に傷跡がある。

ルイ Louis : タバ・フォンテーヌのマスター。

リュシアンLucien : タバ・フォンテーヌのギャルソン。

ローエ夫人 Mme Lauer : フィリップの母親でメグレ夫人の姉。


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