No. 75
Titre
Maigret tend un piège
邦題名
(直訳名)
メグレ罠を張る
執筆記録
Rédaction
アルプ=マリティム県ムージャン町
ラ・ガストゥニエールにて、
1955年7月12日完成
La Gastounière, Mougins, Alpes-
Maritimes, France; 12 juillet, 1955
参照原本
Éditions
リーヴル・ドゥ・ポッシュ版、2000年12月刊
Livre de Poche; Déc. 2000
ISBN: 2-253-14231-X
邦訳本 峯岸 久・訳、早川ミステリ文庫、1979.01
ISBN: 4-150-70951-3

(←)
リーヴル・ドゥ・ポッシュ版、
2000年12月刊
Livre de Poche; Déc. 2000



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        早川ミステリ文庫版
           1979年01月刊

物語の季節
Saison
 真夏の気候の8月4日。窓を開けても熱気が入り込むだけで、むしろ閉め
ていたほうが石造の建物は涼しい。セーヌ川から立ち昇る蒸気もストーヴ
で熱せられた湯気のようにも見える。(On était le 4 août. Les fenêtres
avaient beau être ouvertes, on n'en était pas rafraîchi car elles faisaient
pénétrer un air chaud; Chap.1er)自宅では夜窓を開け放したまま眠る。
メグレの状態
Son état 
 夏の盛りだが、今年はこの難事件のために誰もバカンスを取らずに働い
ている。メグレはかねてから夏休みはブルターニュ半島のコンカルノー付近
の海辺の村で過ごすつもりでいた。事件が長期化して被害者が出るたび
にメグレは苦々しい思いをしていた。(Cette affaire-là était, pour Maigret,
une des plus angoissantes de sa carrière; Chap.2) 
 最後の章で煮えきらぬ容疑者を前に意見を延々と説き続け、緊張から解
放されたとたんに思わず涙を浮かべるようなメグレの姿は心に訴えるもの
がある。それほどまでにこの事件はメグレの警察人生の中で大きな苦労を
強いられたものであった。(- Je me souviendrai de vous toute ma vie
parce que, dans ma carrière, jamais une affaire ne m'a autant troublé, ne
m'a pris autant de moi-même; Chap.8)
事件の発端
Origine
 6ヵ月のうちに5件の殺人事件が起きた。しかも場所がモンマルトルの丘
の西側地区に限られていた。被害者はすべて女性だが、年齢や職業、身
体のタイプなどで共通する点を見出すことはできなかった。いずれも横町の
暗闇でナイフで刺し殺されたあと、衣服を切り刻まれていたのだ。市民の
恐怖は高まる一方で、今月も殺人が起きるのは誰も否定できなかった。
メグレは容疑者を拘束したらしいと新聞記者に思わせるような騒ぎを庁内
で演じてみせた。犯人の自尊心を刺激して「俺はまだ捕まっていないぞ」
と言わせるために犯行をそそのかし、一方でモンマルトル一帯に捜査網を
敷き、囮(おとり)も使って犯人を捕まえようとするが・・・
表題の意味
Ça veut dire
 この題名の「罠」とは囮をつかった捜査網である。おとり捜査は普通あまり
歓迎されないが、ここまで難航した事件ではやむを得ない手法だったのだ
ろう。仕掛けが動き出してから予審判事のコメリオに説明に出向き、「つまり
君は罠を張るわけだね」(En somme, vous tendez un piège; Chap.2) と不満
気な判事に対しすべてが隠密裏に計画されていることを話す。酔っ払いに
扮した刑事やデートを楽しむカップル、犬を連れた女性などが一帯に配備
される。幸いにも柔道の心得のある婦警が・・・。
雑記
Divers
 連続殺人事件は犯罪の形態中でも最も凶悪なものだろうと思う。特に連
続して女性だけを無作為に狙うことは、おのずと何らかな性的抑圧のある人
間の狂気を思わせる。これがもし男女不問の無差別殺人となると、犯人自
身のリスク、つまり犯行の時点で逆に反撃されるか、追いつめられて自滅す
る危険が大きくなる。言いかえれば自暴自棄的な行動なのでもっと早めに
決着するように思う。同じ狂気でも前者が凶悪なのは、犯行を繰り返すこと
が比較的容易だからだろう。
 歴史的に有名なのは、ロンドンの「切り裂きジャック」事件だが、この実際
起きた事件は迷宮入りとなった。シムノンはこのタイプの事件の時代と場所
をメグレとパリに置き換えて、もともと異常者しか起こしえない事件の人物像
と背景とを解き明かそうと試みている。(Est-ce qu'au contraire il éprouvait
une certaine satisfaction à se sentir différent des autres, une différence
qui, dans son esprit, s'appelait peut-être supériorité? (Piège 75-6)

各 章 の 表 題 と 場 所
Table de matière et les lieux cités
1 パリ警視庁での大騒ぎ
Branle-bas au Quai des Orfèvres
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
グラン・ゾーギュスタン河岸 quai des Grands-Augustins, 6e
ラテル通り avenue Rathel, 18e
ルピック街 rue Lepic,18e
エテックス街 rue Etex, 18e
デュランタン街 rue Durantin, 18e
トロゼ街 rue Tholozé, 18e
ドーフィヌ広場 place Dauphine, 1er
リシャール・ルノワール大通り boulevard Richard-Lenoir, 11e
2 ティソ教授の学説 
Les théories du professeur Tissot
ピクピュス街 rue Picpus, 11e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
サン=タントワーヌ街 rue Saint-Antoine, 4e
3 包囲網が敷かれた街区
Un quartier en état de siège
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
ドーフィヌ広場 place Dauphine, 1er
リシャール・ルノワール大通り boulevard Richard-Lenoir, 11e
クリシー広場 place Clichy, 18e
コーランクール街 rue Caulaincourt, 18e
ラマルク街 rue Lamarck, 18e
アベッス街 rue des Abbesses, 18e
テルトル広場 place du Tertre, 18e
ジュノー通り avenue Junot, 18e
コンスタンタン=ペッカー広場 place Constantin-Pecqueur, 18e
4 婦人警官のデート
Le rendez-vous de l'auxiliaire
ノルヴァン街 rue Norvins, 18e
コンスタンタン=ペッカー広場 place Constantin-Pecqueur, 18e
クリシー広場 place Clichy, 18e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
5 タバコの焦げ痕
La brûlure de cigarette
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
プティシャン街 rue des Petits-Champs, 9e
サン=ミシェル大通り boulevard Saint-Michel, 6e
ヴァノー街 rue Vanneau, 6e
サン=ジェルマン大通りboulevard Saint-Germain, 7e
6 ブルーグレーの背広の払い下げ
Le partage du complet gris-bleu
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
モーベール広場 place Maubert, 6e
コーランクール街 rue Caulaincourt, 18e
7 天の助けを!
À la grâce de Dieu!
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
サン=ジェルマン大通り boulevard Saint-Germain, 7e
ノルヴァン街 rue Norvins, 18e
リシャール・ルノワール大通り boulevard Richard-Lenoir, 11e
メーストル街 rue de Maistre, 18e
ブランシュ広場 place Blanche, 18e
8 モンサンの不機嫌
La mauvaise humeur de Moncin
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
サン=ジェルマン大通り boulevard Saint-Germain, 7e
コーランクール街 rue Caulaincourt, 18e
ドーフィヌ広場 place Dauphine, 1er
リシャール・ルノワール大通りboulevard Richard-Lenoir, 11e

メグレ警視の事件に明記された店舗・施設(*印は実在のもの)
Les Bonnes Adresses reconnues du commissaire Maigret
(ノルマンディ・スタイルのバー)
(un petit bar normand)
パリ警視庁のセーヌ川対岸にあるカフェレストラン。
「推理を楽しむ」にも出てくる
グラン・ゾーギュスタン河岸 quai des Grands-Augustins, 6e
ブラッスリ・ドーフィヌ
Brasserie Dauphine
パリ警視庁の近くにあるブラッスリ。メグレも常連。
サンドウィッチとビールの出前もする。
ドーフィヌ広場 Place Dauphine, 1er
カフェ・ソルフェリーノ
Café Solférino
一年前の事件おそらく「政府高官」事件で息抜きに行った店
サン=ジェルマン大通り boulevard Saint-Germain, 7e

警察関係者の動向  Situation de collegue

ジャンヴィエ Janvier : 服地問屋に聞き込みに行く。早朝に頑固な老婆を連行してくる。

リュカ Lucas : 夜の包囲網の連絡役として警視庁に残る。

ラポワント Lapointe :青いつなぎの作業服を着て配送車でモンマルトル周辺を巡回する。手がかりの布地とボタンで左岸地区の仕立屋の聞き込みをする。

トーランス Torrence : リュカと一緒に本庁で深夜の連絡役を受け持つ。

モーヴォワザン Mauvoisin : 犯人を捕えるための包囲網の指揮をとる。

コメリオ判事 Comeliau : この事件担当の予審判事。容疑者の連行が新聞で報じられて、勝手なことをするなとメグレを怒る。

ロニョンLognon : 18区の警察署の刑事。別名「無愛想な刑事」。いつも病気で寝込んでいる夫人のために炊事、洗濯、掃除、買物を自分でしているが、今回は夫人が知人と湯治に出かけたので、驚くような派手な服装で捜査に加わる。

アルフォンシAlfonsi : 18区の警察の刑事。コルシカ出身。

ピエール・マゼPierre Mazet : 元刑事。8年前まで警視庁でメグレのもとで働いていた。中央アフリカに行って熱病に感染して治療後に帰国。

マルト・ジュスラン Marthe Jusserand : 婦人警官。25歳。自発的に包囲作戦に参加。3年間体育の教師だった。柔道をたしなむ。

ブロンカールBroncard : ラポワントと一緒にボタン問屋を聞き込みに歩く。

ムルスMoers : 鑑識課の職員。深夜に呼び起こされ、ボタンと服地の千切れから手がかりを見つける。

ボダール Bodard : メグレの部屋近くの税務事件担当の警視。このときはメグレ担当の殺人事件と平行して政財界の不祥事に発展しそうな事件の取調べ中。(この事件の2つあとになる「メグレ推理を楽しむ」(No.77)の中で、事件の捜査責任を押しつけられて処分を受け、その心労から急死したという記述がある。)

パルドン医師 Dr.Pardon : 毎月の夕食会は1年前から続いている。メグレ夫妻以外は医者の仲間で彼が気に入った人物を招待。

ティソ医師 Dr.Tissot : 聖アンヌ病院の医局長。パルドン医師の夕食会で同席し、犯罪心理についてメグレと有意義な意見を交換する。
事件にかかわる登場人物  Personnages dans l'affaire

アルレット・デュトゥール Arlette Dutour : 最初の被害者。28歳の娼婦。モンマルトルの墓地の正門近くで刺殺される。

ジョゼフィーヌ・シンメー Joséphine Simmer : 第2の被害者。43歳の助産婦。

モニク・ジュトー Monique Juteaux : 第3の被害者。24歳の裁縫師。

マリー・ベルナール Marie Bernard : 第4の被害者。52歳の寡婦の郵便局員。

ジョルジェット・ルコワン Georgette Lecoin : 第5の被害者。31歳の主婦。病気の子供の薬を買いに出て凶行に遭う。

ル・バロン Le Baron : ベテランの新聞記者。メグレと同じくらい長い年数にわたり警視庁に詰めている。

ジャン・ルージャンJean Rougin : 若手の新聞記者。利発そうな目つきで得ダネを狙う。ヤマをかけてメグレの仕掛けた罠の件を記事を出す。

マギー Maguy : 朝刊紙の女性記者。

ジャンフィスJeanfils : 洋服生地問屋の従業員。

マルセル・モンサンMarcel Moncin : 自称、建築内装士。自宅を仕事場にしている。

イヴォンヌ・モンサンYvonne Moncin : マルセルの妻。幼なじみで結婚する。親はクリシー広場で薬局を経営。

モンサン夫人Mme Moncin : マルセルの母親。肉屋に嫁いだが、未亡人となった今は独りでアパート住まいをしている。

ジャニーヌ・ローランJeanine Laurent : 最後の被害者。田舎から出稼ぎに来た19歳の娘。住み込みの下女。ダンスホールに行った帰りに襲われる。


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