No. 77
Titre
Maigret s'amuse
邦題名
(直訳名)
メグレ推理を楽しむ
(メグレ楽しむ)
執筆記録
Rédaction
Golden Gate, Cannes, France
1956.09.13
参照原本
Éditions
Presses de la Cité
1963.11
邦訳本 仁科 祐・訳、河出書房新社#43
1979.10

(←)
プレス・ド・ラ・シテ社版
1963年11月刊のもの
Édition: Presses de la cité
1963.11


                  (⇒)
        河出書房新社旧版
           1979年10月刊

物語の季節
Saison
8月の上旬。バカンスのシーズン真っ盛りで、真夏の太陽が照りつけ、
日が長い。パリは閑散としていてカフェや乗物も席が空いている。急に
嵐のような夕立になり、市内をあちらこちら散歩中のメグレ夫妻はずぶ
濡れになって帰宅することもあった。
メグレの状態
Son état 
3月頃にひどく風邪をこじらせて寝込んだこともあった。最近ちょっとし
たことで体力が消耗し、疲労を感じるようになっていた。(Il lui arrivait
de se sentir usé, fatigué pour un rien ---; Chap.2) 友人のパルドン
医師に診てもらったが、血圧も高いようだと言われ、休暇を取るように
勧告される。まとまったバカンスはここ3年間取っていなかったので、
思い切って3週間くらい取ることにする。
休みの初めに自宅でごろごろしていると、夫人から「掃除のじゃまだか
らそっちにどいて」(Maintenant, tu devrais passer à côté, que je puisse
balayer; Chap.1) と言われたりする。
捜査がてこずっているので、新聞は「休暇中のメグレが召喚されたか」
などと書き立てるまでになる。この事件はメグレしか解決できない、と
まで人々は語り始める。(Cette affaire-là, il n'y a que le commissaire
Maigret à la débrouiller. Chap.7)
事件の発端
Origine
部下には内緒でパリでバカンスを過ごすことにしたメグレは、広場に面
したカフェで新聞をすみずみまで読むのが毎朝の習慣のようになった。
その日の新聞に、ある殺人事件が報じられているのが目にとまった。
パリの富裕層の住む8区オスマン大通りにある医師の診察室の戸棚
の中で若い女性の全裸死体が発見されたというのだ。警視庁で留守を
預かるジャンヴィエがメグレに代わって捜査の指揮をとるが、その身元
は外傷のないうえに、当の医師の妻であることが判明。しかもその医
師の一家はそろって南仏のカンヌに滞在中のはずだというのだ。
メグレは、ジャンヴィエにとってのせっかくの活躍のチャンスだからと考
えて、本庁に顔を出さずに捜査の行方を見守ることに決めこむが・・・
被害者や加害者の気持になりきって事件を考えるのがメグレの捜査
法の特徴だが、今回は、全裸で身体を2つに折り曲げて戸棚の中に
押し込められて死んだ若い女のイメージが何度も頭の中に浮かんで
くるという記述が数箇所出てくる。
表題の意味
Ça veut dire
原題の s'amuse は、直訳で自分で自分を楽しませる、つまり「楽しむ」
という意味である。邦題では「推理を楽しむ」とあるが、実際この作品
の中では色々なことに「楽しむ」メグレの姿が描かれている。
シーズンのピークの混雑でどこにも行きようがなくなったメグレはパリで
休暇をすごすことにする。退職後の年金生活者のように毎朝カフェで新
聞を読み、夫人と一緒に観光客のように盛り場に出かけて食事をする
のだ。そういう事前練習のような境遇を楽しむのが一つで、横目でち
らりと見た夫人から「楽しくなってきたみたいね」と冷やかされる。(On
dirait que tu commences à t'amuser; Chap.1)
また、事件を一般大衆と同じように部外者の側にいる自分を感じるのは
初めてのことだが、面白く思えたようだ。(C'était pour la première fois
que, --- Maigret se trouvait du côté des badauds et cela l'avait
amusé; Chap.2)
新聞やラジオの報道から事件を推理するというシロウト探偵のまねごと
をするのも楽しい時間なのだ。(Il y a des moments où cela m'amuse de
jouer les détectives amateurs.; Chap.7)
雑記
Divers
[ プティオ事件について L'Affaire Petiot ]
この現実に起こった事件については、メグレが読む新聞記事にも「これ
はプティオ事件の再来かも」と言及されていて(une affaire qui pourrait
devenir une nouvelle affaire Petiot; Chap.1) 第2次大戦末期に起きた
凄惨な事件として人々の記憶に刻まれている。
当時パリはドイツ軍の占領下にあって、市民は極度の忍耐と不自由を
強いられていた。凱旋門近くの16区の富裕層の住む一角で開業医をし
ていたマルセル・プティオは、表向きは評判のいい医者だったが、陰
ではゲシュタポの恐ろしい手先であった。強制収容所行きを逃れるため
に南米に渡ろうとする人々の便宜をはかるからと言って、貴重品を持っ
たカバン一つだけで自宅に来させ、(恐らく薬物で)殺害したあと、死体
を暖炉で焼却しようとして逮捕された。発覚したのは焼却の際の煙にひ
どい異臭がするという近隣の住民から消防署への通報だった。犠牲者
の死体は27を数え、この医師の仮面をつけた悪人は1946年に死刑と
なった。恐ろしい医師の犯罪ということで、人々の記憶に新しいこの事
件が連想されたのだろう。なおシムノンは、この事件の手口をそのまま
使って「メグレ夫人と公園の女」(L'Amie de Madame Maigret) を書いて
いるのは皆さんご存知の通りである。フランス犯罪史関連のサイトで、
プティオ事件についてのホームページは、
http://membres.tripod.fr/alb/petiot.html
などが詳しい。(仏語なので僕はなかなか読解できませんが一応)

各 章 の 表 題 と 場 所
Table de matière et les lieux cités
1 窓辺にたたずむ警視
Commissaire à la fenêtre
リシャール・ルノワール大通り boulevard Richard-Lenoir, 11e
レピュブリック広場 place de la République, 11e
オスマン大通り boulevard Haussmann, 8e
2 ジュール親父の店での夕食
Le dîner du Père Jules
ジョワンヴィル=ル=ポン Joinville-le-Pont(パリの東に隣接)
リシャール・ルノワール大通りboulevard Richard-Lenoir, 11e
レピュブリック広場 place de la République, 11e
サン=ドニ門 porte Saint-Denis, 10e
クリシー大通り boulevard de Clichy, 18e
ルピック街 rue Lepic, 18e
3 恋人たちの意見
L'opinion des amoureux
テルトル広場 place du Tertre, 18e
サン=ペール街 rue des Saints-Pères, 7e
スクリーブ街 Rue Scribe, 8e
4 ジョゼファはどこにいたか?
Où était Josépha?
モンマルトル大通り boulevard Montmartre, 2e
ヴィクトワール広場 place des Victoires, 2e
リシャール・ルノワール大通り boulevard Richard-Lenoir, 11e
レピュブリック広場 place de la République, 11e
サン=ペール街 rue des Saints-Pères, 7e
バック街 rue du Bac, 7e
サン=マルタン運河 canal Saint-Martin, 10e
5 ジャーヴ医師のアリバイ
L'alibi du docteur Jave
シャペル大通り boulevard de la Chapelle, 10e
リシャール・ルノワール大通り boulevard Richard-Lenoir, 11e
ヴォルテール広場 place Voltaire, 11e
カンヌ Cannes (南フランスの代表的な保養地)
ワシントン街 rue Washington, 8e
レピュブリック広場 place de la République, 11e
6 コンカルノーへの旅行
Le voyage à Concarneau
リシャール・ルノワール大通りboulevard Richard-Lenoir, 11e
シャンゼリセ通り avenue des Champs-Elysées, 8e
レピュブリック広場 place de la République, 11e
コンカルノー Concarneau 
(フランス西部ブルターニュ半島の南側にある港町)
バスティーユ広場 place de la Bastille, 4e
サン=ペール街 rue des Saints-Pères, 7e
オスマン大通り boulevard Haussmann, 8e
7 シャラントン河岸の小さなバー
Le petit bar du quai de
Charenton
ベルシー河岸 quai de Bercy, 12e
シャラントン河岸 quai de Charenton, 12e
グラン・ゾーギュスタン河岸 quai des Grands-Augustins, 6e
8 ジャンヴィエ刑事大詰めの夜
La grande nuit de l'inspecteur
Janvier
グラン・ゾーギュスタン河岸 quai des Grands-Augustins, 6e

メグレ警視の事件に明記された店舗・施設(*印は実在のもの)
Les Bonnes Adresses reconnues du commissaire Maigret
(ブラッスリ)
(une brasserie)
バカンス中にテラスで毎朝新聞を読む
共和国広場Place de la République, 10e
ジュール親父の店
Chez Père Jules
パリ郊外マルヌ河畔のくだけた揚げ物の料理店
ジョワンヴィル Joinville-le-Pont (パリ東隣)
ホテル・スクリーブ 
*Hôtel Scribe
オペラ座の西側に位置する格式ある高級ホテルの一つ
スクリーブ街 Rue Scribe, 8e
(イタリアン・レストラン)
(un restaurant italien)
いつも通りすがりに見過ごすが行きたいと思っていた店
クリシー大通り boulevard de Clichy, 18e
(観光客向けのレストラン)
(un restaurant touristique)
広い客席がある魚貝レストラン、テーブルが狭苦しい
シャンゼリセ通り avenue des Champs-Elysées, 8e
(なじみのレストラン)
(un restaurant habitué)
メグレの住まいに近いレストラン。店主とは顔なじみ。
バスティーユ広場 place de la Bastille, 4e
(田舎の旅籠のような店)
(un bar provincial)
昔「メグレのパイプ」事件で張り込みに使った店
シャラントン河岸 quai de Charenton, 12e
(ノルマンディ・スタイルのバー)
(un petit bar normand)
パリ警視庁のセーヌ川対岸にあるカフェバー
グラン・ゾーギュスタン河岸 quai des Grands-Augustins, 6e

警察関係者の動向
Situation de collègue
ジャンヴィエ Janvier : メグレの不在中にパリ警視庁で犯罪捜査の責任者としての重い役割を負う。「都心の一等地の有名な医師の美人妻全裸殺人事件」というセンセーショナルな事件だけに大衆の興味も大きく、南仏のカンヌまで捜査に赴く。

ラポワント Lapointe :ジャンヴィエに協力して事件の捜査にあたる。代診のネグレル医師の自宅で張り込んでいて、様子を見に行ったメグレと顔を合わせそうになる。

コメリオ判事 Coméliau : ジャーナリスト嫌いの予審判事。今回は宿敵のメグレがいないので、自己流の判断で容疑者の逮捕状を出してしまう。

リュカ Lucas : バカンス中で休み。南仏ポーで家族と過ごしている。

トーランス Torrence : 中古車を買い換えてノルマンディからブルターニュにかけてバカンスに出ている。

ボダール Bodard : メグレの旧知の調査部の警視。政界の不祥事の責任を押し付けられて処分を受け、その心労から急死する。

パルドン医師 Dr.Pardon : メグレの友人で主治医。身体を酷使気味のメグレに休養を勧める。事件が起きてもメグレは警視庁に出向かずに、医者同士間の情報を入手しようとして彼に電話を何度もかける。
事件にかかわる登場人物
Personnages dans l'affaire
フィリップ・ジャーヴPhilippe Jave : パリの富裕層が住むオスマン大通りに診察所を構える医師。家族と南仏カンヌに滞在中に留守宅で事件が起きる。

エヴリン・ジャーヴ(ル=ゲレック)Evelyne Jave (Le Guerec) : ジャーヴ医師の妻。地方の実業家の娘だったが一目惚れで結婚。幼い一人娘がいる。南仏に滞在中のはずなのに、パリの診療所の戸棚の中から全裸死体で見つかる。

ジルベール・ネグレルGilbert Négrel : ジャーヴ医師の休暇中の代診医。南仏ニームの出身で映画俳優並みの美男子。2カ月前から弁護士の娘と婚約中。

イヴ・ル=ゲレック Yves Le Guerec : 死体で見つかったエヴリンの兄。地方都市コンカルノーで工場と船を所有。

クレール・ジュスランClaire Jusserand : ジャーヴ医師の看護婦。50歳代の独身女性。医師一家と一緒に南仏カンヌに出かけていた。

ジョゼファ・ショーヴェルJosépha Chauvel : ジャーヴ家の家政婦。大柄で男っぽい態度。

アントワネット Antoinette : ジョゼファの娘、29歳。ジャーヴ医師の情婦。

ラッサーニュLassagne : 新聞記者。痩せた赤毛の小柄な男。粘り強くソツのない取材で事件の詳細を伝える記事を書く。

デュボワ夫人 Mme Dubois : ジャーヴ家のある高級アパルトマンの女管理人。まだ若く、愛想がいい。

アラン・ルメールAlain Lemaire : コンカルノーで開業していた歯科医。

マルティーヌ・シャピュイ Martine Chapuis : ネグレル医師の婚約者。24歳。

ノエル・シャピュイ Noël Chapuis : マルティーヌの父親。弁護士。ネグレル医師の弁護を買って出る。みずから調査のためコンカルノーに旅行する。


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