No. 78
Titre
Maigret yoyage
邦題名
(直訳名)
メグレとかわいい伯爵夫人
(メグレ旅行する)
執筆記録
Rédaction
スイス、ヴァール県ノランにて;1957年8月17日、完成
le 17 août, 1957, Noland, Var, Suisse
参照原本
Éditions
プレス・ドゥ・ラ・シテ社版 1968年3月刊
Presses de la Cité #29; Mars, 1968
邦訳本 江口 旦・訳、河出書房新社#40、1979年8月

(←)
プレス・ドゥ・ラ・シテ社版
1968年3月刊
Presses de la Cité #29
Mars, 1968




                  (⇒)
         河出書房新社#40
            1979年8月刊

物語の季節
Saison
事件が起きたのは10月6日(火)の夜、というよりも10月7日になったばかりの深夜。
パリの街路は細雨に濡れていたが、涙でうるんだ目のように灯りに反射してまばゆ
く見えた。(pour laquer les rues et pour donner, comme des larmes aux yeux, plus
d'éclat aux lumières; Chap.1er)
後半、捜査に行きづまり、メグレは一人になって現場のホテル近辺をうろつき回るが、
シャンゼリゼではまだ夏の名残のような暖かさの夜気の中でテラスでくつろぐ人びと
の姿があった。
メグレの状態
Son état 
メグレは、思いがけず南仏のニースやモナコ、スイスのローザンヌへと着の身、着の
ままで旅行することになる。これまで飛行機に乗ったことは4回ほどしかない。暦の上
で曜日が合致するのは1953年で、執筆時期に最も近い。
もし階級という言葉をまだつかっていいのなら、この事件も一般庶民が手の届かない
富裕な上流階級の人々の間で起きた事件である。生活者としては中流のメグレにとっ
ても、その世界の人間でなければ意味の通じない独特の表現や慣習について教示
するような態度(l'air de lui faire un cours sur les usages d'un certain milieu;
Chap.5)をとる秘書やホテルの支配人に大きな隔たりと不快を感じる。メグレがそれに
慣れるのには数ヶ月かかるだろうとも言われ、面倒くさくなって仕事を投げ出したくなる。
事件の発端
Origine
パリでも屈指の高級ホテル・ジョルジュ=サンクで常連客の伯爵夫人が真夜中に苦
しんで助けを呼ぶ。睡眠薬を大量に飲んだが死に至らず、すぐに医師を呼び、救急車
で病院に運び、胃の中を洗浄して、幸い一命を取りとめることができた。翌朝、10時
に今度は別の部屋で、何度も電話で呼んでも出ないというのでボーイが様子を見に行
くと、大富豪の老人が浴槽で死んでいるのが見つかった。状況から見て事故死よりも
殺人事件と思われた。メグレがホテルに駆けつけ捜査が始まったが、被害者の愛人
が前夜の自殺未遂の伯爵夫人であることがわかり、しかも彼女が病院から失踪してし
まったことがわかる。
表題の意味
Ça veut dire
原題は文字通り「メグレ旅行する」である。捜査のためにパリ郊外の病院を抜け出した
伯爵夫人の後を追って南仏ニースやスイスのジュネーヴに飛ぶ。パリの空港の一つ
オルリー空港は今でも南仏方面などの国内線やマグレブ諸国への中心的な路線の
発着地である。邦題名が「かわいい伯爵夫人」となっているのは、社交界でそのように
呼ばれている小柄で美人の伯爵夫人が事件の前後から奇妙な行動を取るのを、メグ
レが真相を突き止めようとあちこち追跡することからのようだ。(Il avait hâte de retrou-
ver la petite comtesse, comme l'appelaient ses amis. Et elle était petite, en effet,
menue, jolie; Chap.3)
雑記
Divers

実在の一流
ホテルが舞台
となった作品


この作品は、別名『ジョルジュ=サンクのメグレ』(Maigret au George V)と呼ばれるこ
とがある。実在のホテルを事件現場として小説に登場させるのは、色々な面で複雑な
問題が予想されるので、架空の場所や人物であることを明記することが通例だが、こ
のホテルだけでなく、ヨーロッパの観光地で名前の通ったホテルやレストランが続々と
出てくるのは驚きであるとともに、かなり現実味を帯びた印象を与えてくれる。シムノ
ンにだけは各ホテルとも寛大だったのだろうか?一番はなんと言ってもジョルジュ=サ
ンク・ホテルの客室内で殺人事件が起きることであり (et le GeorgeV s'y dressait
comme le centre d'un univers particulier qui lui était peu familier; Chap.2)、伝統と
格式、体面を保とうとする彼らの信条と(de lui parler de prudence et de discrétion;
Chap.3) 事件の真相を追究するメグレとの対立感情がここでも描かれている。

各 章 の 表 題 と 場 所
Table de matière et les lieux cités
1 雨降るパリのジョルジュ=サンク・ホテル
で起こったこと。メグレは眠っていたが幾
人かの人々は最善をつくすこと。
Ce qui se passait au George V pendant
qu'il peluvait sur Paris, que Maigret
dormait et qu'un certain nombre de gens
faisaient de leur mieux.
リシャール・ルノワール大通り boulevard Richard-
Lenoir, 11e
ジョルジュ=サンク通り avenue George V, 8e
ヌイィ・シュル・セーヌNeuilly-sur-Seine *(パリ市
西に隣接する市)
スクリーブ街 rue Scribe, 8e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
2 新聞の雑記事よりも見出しに頻繁に名前
が出る人たちのことについての続き
Où il continue à être question de gens
qui ont sans cesse leur nom dans les
journaux ailleurs qu'à la rublique que des
faits divers.
ジョルジュ=サンク通り avenue George V, 8e
3 かわいい伯爵夫人の動静とメグレの気
がかり
Des allées et venues de la petite com-
tesse et des scrupules de Maigret
オルリー空港 aéroport d'Orly*
ニース空港 aéroport de Nice*
4 メグレは、大佐と同様に裸ながら、生き
ているもう一人の百万長者と会見するこ

Où Maigret rencontre un autre milliar-
daire aussi nu que le colonel, mais bien
vivant
モンテ・カルロ Monte Carlo*
エトワール街 rue de l'Etoile, 17e
オルフェーヴル河岸quai des Orfèvres, 1er
ヌイィ・シュル・セーヌ Neuilly-sur-Seine *
5 メグレはやっと一文無しの、厄介を引き
起こした人物に出会うこと
Où Maigret rencontre enfin quelqu'un
qui n'a pas d'argent et qui se fait du
souci
モンテ・カルロ Monte Carlo*
ニース Nice *
ジュネーヴ Genève *
ローザンヌ Lausanne*
6 メグレは昼食に招かれること、そしてそ
こでもVIPが話題となること
Où Maigret est invité à déjeuner, et où
il est toujours question de V.I.P
ローザンヌ Lausanne*
オルリー空港 aéroport d'Orly*
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
ジョルジュ=サンク通り avenue George V, 8e
シャンゼリセ通り avenue des Champs-Elysées, 8e
フォーブール・サン=トノレ街 rue du Faubourg
Saint-Honoré, 8e
オペラ通り avenue de l'Opéra, 1er
ヴァンドーム広場 place Vendôme, 1er
チュイルリ庭園 jardin des Tuileries, 1er
グラン・ゾーギュスタン河岸 quai des Grands-
Augustins, 6e
ジャコブ街 rue Jacob, 6e
ドーフィヌ広場 place Dauphine, 1er
7 メグレは望まれない存在だと感じるばか
りか、胡散臭げに見られること
Où non seulement Maigret se sent indési-
rable mais où on le regarde avec suspicion
ジョルジュ=サンク通り avenue George V, 8e
シャンゼリセ通り avenue des Champs-Elysées, 8e
8 見たという人々と何も見なかった人々、あ
るいは目撃者を混在させる技法について
Ceux qui ont vu et ceux qui n'ont rien vu,
ou de l'art de mélanger les témoins
シャンゼリセ通り avenue des Champs-Elysées, 8e
ワシントン街 rue Washington, 8e
スクリーブ街 rue Scribe, 8e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er

メグレ警視の事件に明記された店舗・施設(*印は実在のもの)
Les Bonnes Adresses reconnues du commissaire Maigret
ホテル・ジョルジュ=サンク
Hôtel George V *
英国王ジョージ5世の名を冠した通りに位置する伝統と格式を誇るパリで
も屈指の高級ホテル。
ジョルジュ・サンク通り avenue George V, 8e
アメリカン・ホスピタル*
Hôpital Américain
高級住宅街ヌイィに位置する最新鋭の医療設備を備えた病院。
ヌイィ・シュル・セーヌ Neuilly-sur-Seine *
ホテル・スクリーブ *
Hôtel Scribe
オペラ座の西側に位置する格式ある高級ホテルの一つ。
スクリーブ街 rue Scribe, 8e
ホテル・ド・パリ *
Hôtel de Paris 
リゾート地モナコにおける自他ともに許す最高級ホテル。
モンテ・カルロ Monte-Carlo, Monaco
ローザンヌ・パレス *
Lausanne Palace & Spa
風光明媚なレマン湖とアルプスを見渡せる豪華リゾートホテル。
ローザンヌ Lausanne, Suisse
ブラッスリ・ドーフィヌ
Brasserie Dauphine
パリ警視庁の近くにあるブラッスリ。メグレも常連。家族的経営の雰囲気。
ドーフィヌ広場 Place Dauphine, 1er

警察関係者の動向 Situation de collègues

ラポワント Lapointe : メグレに同伴して事件現場のホテルに乗り込む。メグレの留守中に事件当夜のホテル内の動静を時系列に整理したリストを作成する。

リュカ Lucas :少々風邪気味で、当初の伯爵夫人の自殺未遂事件を軽く取扱って叱られる。南仏に跳んだメグレと連携を保ち、捜査情報の中継役となる。最後はメグレからの電話で夜中にたたき起こされる。

(ジャンヴィエ Janvier :別の強盗事件を担当している。)

ブノワ Benoît : パリ警視庁の捜査局長。メグレの上司。

ポール医師 Dr.Paul : 浴槽で死亡した男の検死と司法解剖を行う。

カラス判事 Calas : まだ新人の若い予審判事。学生のような雰囲気。

コロンバーニ Colombani : オルリー空港内にある警察署の警視。メグレの旧友。

ブノワBenoît : ニース空港警察の刑事。

事件にかかわる登場人物  Personnages dans l'affaire

デイヴィッド・ウォード David Ward : 元英国陸軍大佐。63歳。マンチェスターの大きな針金工場の所有主。

ジョン・T・アーノルド John T. Arnold : ウォード大佐の親友で腹心の部下、長年のあいだ秘書の役割を務めている。

パヴェリーニ伯爵夫人ルイーズ Louise, Comtesse de Paverini:フランスの社交界で通称「かわいい伯爵夫人」(La petite comtesse) と呼ばれ、40歳間近ながら不思議な魅力を備えている小柄な美女。ナンシー出身で軍人の娘。栗色の髪、小鼻がとがって目がクリクリしている。ウォード大佐の愛人。

パヴェリーニ伯爵マリオ Mario, Comte de Paverini : イタリアの貴族の家柄で体格のいい茶色の髪の若い伊達男。放蕩暮らしで金に困っている。

ジョゼフ・ヴァン=ムーレンJoseph van Meulen : 愛称はジェフ(Jef)。伯爵夫人の前夫。ベルギーの資産家。愛人とともにモナコに滞在中。70歳近い。

ドロシー・ペイン Drothy Payne : 大佐の最初の妻。マンチェスターの大きな織物業者の令嬢だった。

アリス・ペラン Alice Perrin : 大佐の2番目の妻。ニエーヴルの村の牧師の娘。パリでモデルをしていた。大佐との間に息子をもうけ、ケンブリッジ大学に行かせている。

ミュリエル・ハリガン Muriel Harrigan : 大佐の3番目の妻。離婚調停中。スイスのローザンヌに滞在している。

ジュール Jules : ジョルジュ=サンク・ホテルの客室係。60歳以上。

ジル氏 M. Gilles : ジョルジュ=サンク・ホテルの支配人。

ジュネヴリエ嬢 Mlle Genevrier : ジョルジュ=サンク・ホテル専属の看護婦。

フレール医師 Dr. Frère : ホテルの常連客にかかりつけが多い。すぐ近くに住む。

フィリップスPhilips : ウォード大佐の顧問弁護士。


メグレ警視の
パリ(表紙)へ
メグレ警視の全邦訳
文献目録へ
メグレ警視の
履歴書へ
関連サイト&
相互リンクへ