No. 83
Titre
Maigret et les vieillads
邦題名
(直訳名)
メグレと老外交官の死
(メグレと老人たち)
執筆記録
Rédaction
スイス、ヴォー県ノランにて1960年6月21日完成
Noland, Vaud, Suisse ; 21, Juin, 1960
参照原本
Éditions
プレス・ドゥ・ラ・シテ社版 1996年4月発行
Presses de la cité #34; Avr.1996
ISBN : 2-265-05763-0
邦訳本 長島 良三・訳、河出書房新社、#41、1984.04

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プレス・ドゥ・ラ・シテ社版 
1996年4月刊
Presses de la cité
Avril, 1996



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          河出書房新社版
           1984年4月刊

物語の季節
Saison
 素晴らしい5月。一生に何度も体験することがないくらいの抜けるような
青空、まばゆい太陽、ほどよい気温と湿度、木々の新緑、人々の穏やかな
様子、女性たちの軽やかな服装など、世の中のすべてがもったいないほど
の季節のなかに自分を見出す喜びがある。(C'était un de ces mois de mai
exceptionnels comme on n'en connaît que deux ou trois fois dans sa vie
et qui ont la luminosité, le goût, - - - Chap.1er)
メグレの状態
Son état 
 警視庁勤務が25年になる。ふと昔、若かった頃の自分の心情を思い起
こし、身体が軽く感ずると同時に憂鬱になる。(En 25 ans, la Seine n'avait
pas changé, ni les bateaux qui passaient, ni les pêcheurs à la ligne …;
Chap.1er) 突然呼び出された事件で、貴族階級という自分が少年の頃、
尊敬の念で接した人々の世界の出来事に入り込むことになり、それに馴染
むまでにおっくうな感じに囚われ、やや不機嫌になる。また取り調べを進
めるに際して、まわりくどい応答や態度に、普段平静なメグレには珍しく、
あわてて口調が上ずったり、いらついて声高になったりする。この作品が完
成したのは1960年6月。この事件も同年5月に起きたことが計算でわかる。
被害者は77歳の老人で、1910年頃には26歳だったという記述がある。
それから51年後で77歳となるのでほぼ合致する。
事件の発端
Origine
 ある日の朝の連絡会のあとでメグレは長官から呼ばれる。外務省から電
話があって、微妙な事件なので警視をよこしてくれと言われたという。ジャ
ンヴィエを伴ってタクシーで駆けつけると、外務省の若い役人と一人の老婦
人が待っていて、殺人事件が起きたことを知らされる。被害者は10年前に
退官した元大使のサンティレール伯爵で、自邸の書斎で著作の回想録の
原稿を見直しているうちに射殺されたようだった。場所はすぐ近くの官公庁
が建ち並ぶ閑静な一角で、浮浪者が物盗りに入った形跡もなく、伯爵には
政争などで恨みを買うような敵もいないという。外務省の役人はあまり新聞
沙汰になって騒がれるのは好ましくない、とメグレに「慎重かつ隠密に」(la
prudence et la discretion) 捜査するようにと高圧的な態度で要請するのだ
った。(De toute façon, il serait désagréable que la presse fasse du bruit
autour de cette affaire; Chap.1er)目撃者の老婦人は長年伯爵に仕えた家
政婦だったが、最初なぜ警察に届けずに外務省まで行ったのか、夜間に銃
声が聞こえなかったのか、などと質問を試みるが、耳が遠いらしいのと、ま
るで別の世界の人間に聞かれたかのように意味がわからない様子を見せ
るのだった。
表題の意味
Ça veut dire
 この事件に関係する人たちのほとんどが老人たちである。しかも50代の
メグレも子供扱いされそうな70歳代の高齢者ばかりである。おのずと彼ら
の物の考え方も観念的に凝り固まっていて、普通の人間とは違った応対を
余儀なくされてしまう。まるで別世界というよりも精神世界の印象である。
(Dans cette affaire, il n'y avait que des vieillards, avec, entre eux, des
relations qui ne paraissaient pas humaines; Chap.2)
人の心の奥底を
理解する人たち
Ceux qui peuvent
aller au fond des
hommes
 これは親友のパルドン医師が医学雑誌の中で見つけた論文のテーマで
ある。人の心の奥底まで理解できるのは、精神科などの医師たちよりもむ
しろ特殊学級の先生や小説家や警察官たちのほうである、と述べてある。
特に犯罪者の心理を深く読む経験の長いメグレのことを言いたかったの
だろうが、閉ざされた人の心を開かせるということは並大抵のことではない
ことがこの事件でもわかる。
(En gros, cela signifiait qu'un maître d'école exceptionnel, un romancier,
un policier, sont mieux placés qu'un médecin ou un psychiatre pour aller
au fond des hommes; Chap.2)

各 章 の 表 題 と 場 所
Table de matière et les lieux cités
1 (この事件の様相もそうであるが、さらにメグレが
突然飛び込んだのがなじみのない世界だったこと)
(Où c'était aussi la façon dont l'affaire se pré-
sentait et surtout, le milieu peu familier dans
lequel Maigret se trouvait soudain plongé)
モンパルナス大通り
boulevard Montparnasse, 6e
リシャール・ルノワール大通り
boulevard Richard-Lenoir, 11e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
オルセー河岸 quai d'Orsay, 7e
サン・ドミニク街 rue Saint-Dominique, 7e
サン・ジェルマン大通り
boulevard Saint-Germain, 7e
ジャコブ街 rue Jacob, 6e
2 (メグレが質問する相手がすべて頭の固い信条をも
った人間で、しばらく時間をかけてから答えることが
わかること)
(Où Maigret trouve à chaque son interlocuteur
une tête de sacristan qui laisse passer un
certain temps avant de répondre aux questions)
サン・ドミニク街 rue Saint-Dominique, 7e
ブルゴーニュ街 rue de Bourgogne, 7e
3 (何束もの手紙が年ごとに並べられてメグレは一つ
一つ手に取り、全部は読まないにしろあちらこちらに
目を走らせること)
(Où les paquets de lettres étaient rangés par
années et où Maigret les prenait l'un après
l'autre, ne lisait pas tout, mais un passage par-
ci par-là)
サン・ドミニク街 rue Saint-Dominique, 7e
4 (公証人の事務所で警視は本物の老人の前に通さ
れること)
(Où à la maison du notaire, le commissaire se
trouvait en présence d'un vrai vieillard)
サン・ドミニク街 rue Saint-Dominique, 7e
ヴィレーセクセル街 rue de Villersexel, 7e
ジャコブ街 rue Jacob, 6e
ポンプ街 rue de la Pompe, 16e
5 (メグレはヴァレンヌ街の邸宅の広大さを推し量る
こと)
(Où Maigret mesurait l'immensité de l'immeuble
de la rue de Varenne)
ヴァレンヌ街 rue de Varenne, 7e
6 (メグレは前の晩にエスカルゴをたべるべきではな
かったこと)
(Où Maigret n'aurait pas dû manger d'escargots
la veille)
リシャール・ルノワール大通り
boulevard Richard-Lenoir, 11e
ヴォルテール広場 place Voltaire, 11e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
ベリ街 rue de Berri, 8e
ジャコブ街 rue Jacob, 6e
7 (メグレが嫌っているサイレンを使うのはまれなこと
だったのでジャンヴィエは驚きの目を向けたこと)
(Où Janvier jetait un coup d'œil surpris car le
commissaire usait rarement de cette sirène
qu'il avait en horreur)
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
サン・ドミニク街 rue Saint-Dominique, 7e
8 (英国の雑誌記事がもう一度思い出されて、思わず
皮肉な微笑を浮かべたこと)
(Où l'article anglais lui revenait une fois de plus
en mémoire et lui arrachait un sourire ironique)
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
リシャール・ルノワール大通り
boulevard Richard-Lenoir, 11e

メグレ警視の事件に明記された店舗・施設(*印は実在のもの)
Les Bonnes Adresses reconnues du commissaire Maigret
あるレストラン
(un restaurant)
夏場はテラスにテーブルを出す昔馴染みの店
モンパルナス大通り boulevard Montparnasse, 6e
ブラッスリ・ドーフィヌ
Brasserie Dauphine
パリ警視庁の近くにあるブラッスリ。メグレも常連。
ドーフィヌ広場 Place Dauphine, 1er
あるレストラン
(un restaurant)
官公庁の地域にあって客層が洗練されている店。
ブルゴーニュ街 rue de Bourgogne, 7e

警察関係者の動向  
Situation de collègue

ジャンヴィエ Janvier : 事件の最初からメグレに同伴する。被害者の家で捜査にあたる。おびただしい手紙に目を通す。

リュカ Lucas : 本庁に残って連絡役をする。最後にラポワントと交代して被害者宅に詰める。

ラポワント Lapointe : 年配の女性に気に入られることが多いというので、交代で被害者の家に詰めて、老家政婦から話を聞きだすよう命じられる。

トーランスTorrence : メグレたちが昼食に出かける間、狩り出されて被害者の家で番をする。ソファで居眠りをする。

テュデル医師 Dr.Tudelle : ポール医師の後任の検死医。被害者の司法解剖をする。

ムルスMoers : 鑑識課員。被害者を撃った銃弾の分析をする。銃を扱ったかどうかのパラフィンテストも行う。

デュプー Dupeu : 6〜7人の子沢山の刑事。シャンゼリゼの横丁にある娼婦の溜まり場へ聞き込みに行く。

ボンフィス Bonfils : 刑事。アンティークの店に聞き込みに行く。

パルドン医師 Dr.Pardon : メグレとは夫婦同士でつき合う親しい関係。今回は一緒にレストランのテラスで夕食をとる。

ユルバン・ドゥ・シェゾー Urbain de Chézaud : この事件担当の予審判事。40歳代。これまでヴェルサイユ地区を担当していたのでメグレとは初めての事件となった。珍しくパイプ党である。
事件にかかわる登場人物
Personnages dans l'affaire

アルマン・ドゥ・サンティレールArmand de Saint-Hilaire : 伯爵。元各国大使を歴任した外交官。退官後パリの自邸で悠々自適の生活を送り、回想録を2巻目まで出していた。自室で射殺されているのが発見される。77歳。

ジャケット・ラリュー Jaquette Larrieu : サンティレール伯爵家の家政婦。73歳。大使の任地にも同行して40年以上にわたり仕えている。

クロミエール Cromières : 外務省の若い役人。元外交官の死亡によって国家機密にかかわる書類が流出したかどうか、さらに外務省がスキャンダルな報道にさらされることのないようにと気を配る。

アラン・マズロン Alain Mazeron : サンティレール伯爵の甥。アンティークの店を持っている。禿げ頭で面長、痩せていて顔色が悪い。

マズロン夫人Mme Mazeron : 夫とは別居中。小柄で栗色の髪、気さくな性格。

V大公妃イザベル Isabelle, Pricesse de V.... : 愛称はイジ(Isi) 若い頃サンティレール伯爵とは恋愛関係にあったが、貴族的な理由で結婚できず、V大公に嫁した。以来50年以上も文通によってのみ交際を継続することが認められたため、それを遵守するプラトニックな関係が続いていた。

V大公ユベール Hubert, Prince de V.... : 80歳。事件の2日前にブローニュの森で落馬し、それがもとで死亡する。

フィリップ Philippe : イザベルの息子。40歳。ノルマンディのジェネストゥ城の領地に妻と6人の子供とで住む。父大公が事故死したので葬儀に参列するためにパリに来た。

イレーヌ・ドゥ・マルシャンジー Irène de Marchangy : フィリップの妻。金髪で大柄、頬が赤い40歳代のオランダ人を思わせる女。

ジュリアンJulien : イザベルの孫、フィリップの息子。名門校エコール・ノルマルの学生。外交官を目指している。

オーボネ Aubonnet : V大公およびサンティレール伯爵の両方の公証人。遺言状を保管している。高齢にもかかわらず事務所に出ている。

バロー司祭 Abbé Barraud : 聖クロティルド教会の司祭。ジャケットの教誨師。

ウルゴー医師 Dr. Ourgaud : サンティレール伯爵の主治医。


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