No. 85
Titre
Maigret et les braves gens
邦題名
(直訳名)
メグレと善良な人たち
(メグレとまともな人たち)
執筆記録
Rédaction
スイス、ヴォー県ノランにて、1961年9月11日完成
Noland, Vaud, Suisse; 11, Sep. 1961
参照原本
Éditions
プレス・ドゥ・ラ・シテ社版 1996年8月刊
Presses de la cité #36; Août, 1996
ISBN : 2-265-05761-4
邦訳本 小佐井伸二・訳、河出書房新社#29、1983.12

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プレス・ドゥ・ラ・シテ社版 
1996年8月刊
Presses de la cité #36;
Août, 1996


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         河出書房新社#29
            1983年12月刊

物語の季節
Saison
 友人のパルドン夫妻が車でイタリア周遊から帰ってきたばかりなので、毎
月第1水曜日に行っていた夕食会を1週間遅らせることにする。従って9月
初めと思われる。8月から続いていたバカンスの季節感がまだ抜けず、日
常の仕事に戻るには何となくおっくうな気分がして夏の終わりが見えない。
原文の季節描写が素晴らしい。(Paris continuait à sentir les vacances,
Ce n'était plus le Paris vide du mois d'août mais il restait comme une
paresse dans l'air, une hésitation à reprendre la vie de tous les jours.
S'il avait plu, s'il avait fait froid, cela aurait été plus facile. Cette année,
l'éte ne se décidait pas à mourir; Chap.2)
メグレの状態
Son état 
 バカンスから戻ってまだ5日しか経っていない。メグレにしては珍しく事件
で呼び出されることなく3週間丸々、ロワール河畔のムン(Meung-sur-
Loire)にある別荘でのんびりとした休暇を過ごした。パリに戻ってもロワー
ルのほうに真の人生があるような不自然さを感じつつ、こうして真夜中に電
話で起こされるのは現実や日常に引き戻されるきっかけとなるのだ。
(C'était un peu une reprise de contact avec la réalité, avec la routine;
Chap.1er)
 地味な聞き込み捜査で周辺の商店やカフェバーを回るが、そこでビール
を毎回頼んで飲んでいるうちにいやになってしまい、しまいに「何でもいいか
らビール以外のものをくれ。」と言い出す。(Un petit verre de n'importe
quoi mais pas de la bière; Chap.5)
事件の発端
Origine
 夜中の2時10分すぎにメグレは電話で起こされる。顔見知りのサン=チュ
ベール警視からで殺人事件だという。殺されたのは長年化粧函の製作所
を経営してきた元実業家の老人で家族の不在中にピストルで撃たれてい
たのだ。そこに住む人々は人生のトラブルや不祥事にはまったく無縁の優
雅で満ち足りた生活を送るまともな人たちなのだ。リュクサンブール公園に
近い閑静な住宅街の瀟洒なアパルトマンでの平穏無事な生活がなぜ凶悪
な犯罪の標的にされたのか?『人は理由なしには殺さない』(Mais on ne
tue pas un homme sans raison; Chap.2) 室内が荒らされもせず、盗まれた
ものもなく、殺して得する人間がいるわけでもない、まして恨みを買う人物で
もない、とすると…
表題の意味
Ça veut dire
 原題にあるbraves gens は「善良な人たち」と訳されているが少々硬い印
象がする。普段使いの言葉では「まじめな人たち」「まともな人たち」くらい
だと思う。(蛇足だがbraveが名詞のあとにくる形容詞の場合には、英語と同
じ「勇敢な」という意味になる。soldat brave=勇敢な兵士)
 被害者の家族、勤務先、友人など関係者に聞いてまわるたびごとに、メグ
レはまっとうな人たちにしか出会わないのに苛立つ。この中の誰かが殺した
はずなのだ。あるいはそれを知っていて隠そうとしているのだ。(Lui aussi
était un brave homme! Est-ce que Maigret, dans cette affaire,
n'allait rencontrer que des braves gens?; Chap.2)
雑記
Divers

家族の
不都合
Malheur de
la famille
 どんなに立派に見える家族にも人に知られてはまずいことが必ずある。こ
れは「メグレと幽霊」(#89)にも出てくる英国の諺「人の家の戸棚の中に骸骨
がある」というのと共通の認識にもとづく見解で、バレたら大変なことになる
ので全員暗黙の了解のうちに表沙汰にならないように取り繕ろうとするので
ある。メグレはこのあたりが事件のカギだと直感して、次々に関係者から聞
き出そうとするが…

「職業柄、多くの家庭の秘密とともに過ごすことがあります。」(Par profession,
je vis dans le secret de beaucoup de familles; Chap.6)
「この家族にはちょっとした隠し事がありますが、どうしようもないことです。」
(Cette famille a ses petits secrets, c'est fatal; Chap.6)
「この家族にも他と同じように不都合なことがある。」(Cette famille, comme
les autres, a ses malheurs; Chap.7)

各 章 の 表 題 と 場 所
Table de matière et les lieux cités
1 (取り沙汰されたことのないまともな人たち)
(Ce sont de braves gens qui menaient
une existence sans histoire)
リシャール・ルノワール大通り
boulevard Richard-Lenoir, 11e
ノートル・ダム・デ・シャン街
rue Notre-Dame-des-Champs, 6e
2 (終わらぬモンパルナスの夜ふけ)
(La nuit de Montparnasse n'était pas tout
à fait finie)
ノートル・ダム・デ・シャン街
rue Notre-Dame-des-Champs, 6e
ヴァヴァン街 rue Vavin, 6e
ラスパイュ大通り boulevard Raspail, 6e
モンパルナス大通り boulevard Montparnesse, 6e
リシャール・ルノワール大通り
boulevard Richard-Lenoir, 11e
サン=ゴタール街 rue du Saint-Gothard, 14e
3 (弾まないボールを放り投げるような感じが
ちょっと)
(C'était un peu comme de lancer une balle
qui ne rebondit pas)
ノートル・ダム・デ・シャン街
rue Notre-Dame-des-Champs, 6e
ラスパイュ大通り boulevard Raspail, 6e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
ジュリー街 rue Julie, 14e
モンパルナス大通り boulevard Montparnesse, 6e
4 (このタバコが最近吸われたものかどうか)
(Si ces cigarettes ont été fumées récem-
ment)
リシャール・ルノワール大通り
boulevard Richard-Lenoir, 11e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
ノートル・ダム・デ・シャン街
rue Notre-Dame-des-Champs, 6e
ヴァヴァン街 rue Vavin, 6e
モンパルナス大通り boulevard Montparnesse, 6e
5 (何でもいいからビール以外のものをちょっと
くれ)
(Un petit verre de n'importe quoi mais pas
de la bière)
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
ノートル・ダム・デ・シャン街
rue Notre-Dame-des-Champs, 6e
モンパルナス大通り boulevard Montparnesse, 6e
サン=ミシェル大通り boulevard Saint-Michel, 6e
リュクサンブール公園 jardin du Luxembourg, 6e
6 (メグレはあらゆる可能性を次から次に使
い果たすこと)
(Maigret épuisait les unes après les autres
toutes les possibilités)
ノートル・ダム・デ・シャン街
rue Notre-Dame-des-Champs, 6e
モンパルナス大通り boulevard Montparnesse, 6e
サン=ゴタール街 rue du Saint-Gothard, 14e
ブリューン大通り boulevard Brune, 14e
ダロー街 rue Dareau, 14e
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
7 (この家族にも他と同じように不幸がある)
(Cette famille, comme les autres, a ses
malheurs)
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
ドーフィヌ広場 place Dauphine, 1er
ノートル・ダム・デ・シャン街
rue Note-Dame-des-Champs, 6e
8 (エピローグ)
(Epilogue)
オルフェーヴル河岸 quai des Orfèvres, 1er
ノートル・ダム・デ・シャン街
rue Note-Dame-des-Champs, 6e

メグレ警視の事件に明記された店舗・施設(*印は実在のもの)
Les Bonnes Adresses reconnues du commissaire Maigret
クレロン
Clairon
被害者宅からモンパルナス大通りへ出る途中にあるバー。
ヴァヴァン街rue Vavin, 6e
ブラッスリ・フランコ=
イタリアンヌ Brasserie
Franco-Italienne
画材屋のとなりにある店。多くの客が出入りする。
モンパルナス大通り boulevard Montparnasse, 6e
ブラッスリ・ドーフィヌ
Brasserie Dauphine
パリ警視庁の近くにあるブラッスリ。メグレも常連。
サンドウィッチとビールの出前もする。
ドーフィヌ広場 Place Dauphine, 1er

警察関係者の動向  Situation de collegue

ラポワント Lapointe : 夜勤で手が空いていたので殺人現場へ行くように指示される。被害者の日常の行動範囲のリュクサンブール公園周辺で聞き込み捜査を続ける。

トーランスTorrence : 夜勤中に事件の通報を受け、メグレ宅に電話をかけてくる。屋根裏部屋の捜査で重要な手がかりを得る。

リュカ Lucas : バカンス先から戻ったばかりなので事件発生時は出勤していない。別の傷害事件が発生したのでそれを担当する。

(ジャンヴィエ Janvier : バカンス中で不在。)

サン=チュベール Saint-Hubert : メグレとほぼ同い年の警視。入庁当時から顔見知りだが、それほど親しくはない。事件現場に最初に駆けつけ、メグレに電話してくる。

ムルスMoers : 鑑識課員。吸殻の分析のために部下を派遣する。

バロン Baron : 被害者の家族のアリバイを確かめるために劇場へ聞き込みに行く。

ルダン医師 Dr. Ledent : 若い司法医。

デュプー Dupeu : 徹夜で宝石泥棒の容疑者を訊問中。

エティエンヌ・ゴッサール Etienne Gossard : 若い予審判事。
事件にかかわる登場人物  Personnages dans l'affaire

ルネ・ジョスラン René Josselin : 化粧函の製造工場の元所有者。2年前に心臓病を理由に事業を譲渡し、悠々自適の生活を送っていたが、ある晩殺害される。

ジョスラン夫人 Mme Josselin : ルネの妻。娘と劇場に行っていた留守中に夫を殺される。並外れた自制心の持ち主。

ヴェロニク・ファーブル Véronique Fabre : ルネ夫妻の娘。小児科医のもとへ嫁いでいる。

ファーブル医師 Dr. Paul Fabre : 身なりを構わない真面目な小児科医。ヴェロニクの夫。

フィリップ・ド・ランシュー Philippe de Lancieux : ジョスラン夫人の実弟。

ラリュー医師 Dr Larue : ジョスラン家の昔からの主治医。かなり小柄で肩幅が広く太っている。常に平常心を保って穏やかな物腰で話す。

ジュアーヌ Jouane : ジョスランの製函所の後継者。

マニュ夫人 Mme Manu : ジョスラン家の家政婦。毎日朝7時から夜8時まで働いている。

ジェルメーヌ Germaine : 医師ファーブル家の家政婦。

ボネ夫人 Mme Bonnet : 被害者のアパルトマンの管理人。乳呑み児を抱えていて夜泣きでしばしば起こされる。

アレスコ Aresco : 2階の住人。事件の当夜遅く帰宅する。

ムーラ Meurat : 被害者のすぐ階上に住む家族。

シュワルツ夫人 Mme Schwartz : 6階の住人。

ドロレス Dolorès : アレスコ家の下女。最上階の使用人部屋に住む。

エミール Emile : モンパルナスのブラッスリのギャルソン。

ジャンヌ嬢 Mlle Jeanne : 膝が悪くて40年以上寝たきりの生活を送る令嬢。


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