ヴォージュ広場

Place des Vosges, 4e


ヴォージュ広場の公園からの眺め; 遊佐氏提供
Place des Vosges; photographie @ M.Yusa

 昔は王宮広場(プラス・ロワイヤル)"Place royale" という名前だった。その名のとおり国王の居住する城館が建てられていた。現在も残る四方のルイ13世風の赤レンガの建物はその名残である。 ヴォージュ"Vosges"はアルザスの西側の山脈がある地方で、大革命時代に最初に税を完納したことで有名。中央に公園があり噴水とルイ13世の騎馬像とがある。日中は市民の憩いの場で、周囲を建物に囲まれているせいか、落ち着いた気分になれる。夜は四方の回廊(アーケード)が古い時代のパリそのものの雰囲気で、そこをさまよい歩くのも幻想的。ところどころにある骨董店や洋品店やレストランを覗くのも楽しい。


人影 (メグレと死者の影) (No.13)
L'Ombre chinoise
解説  ある初冬の寒い夜、殺人事件が起きたようだと通報を受けたメグレは、ヴォ
ージュ広場にやって来て、言われた61番地のあたりを捜す。書き出しにあたる
この一節は古い閑静なこの広場の雰囲気を見事に描いていて名文である。
第1章より
Chap.1er
 夜の10時だった。ヴォージュ広場の中央にある公園の鉄柵は閉まっていて
人気(ひとけ)がなかった。そこでは、車は舗装路をたどって光跡を残し、噴水
の水音はたえず歌い続け、木々は裸の枝で立ち、四隅の同じ高さの屋根々々
が一様に夜空を縁取っていた。
 広場を囲む歩廊は灯りがほの暗く、不思議な感じがした。- - - - -
 百メートルもないベアルン街の角のところを制服を着た警官が巡視していた。
 Il était dix heures du soir. Les grilles du square étaient fermées, la
place des Vosges déserte, avec les pistes luisantes des voitures tra-
cées sur l'asphalte et le chant continu des fontaines, les arbres sans
feuilles et la découpe monotone sur le ciel des toits tous pareils.
 Sous les arcades, qui font une ceinture prodigieuse à la place, peu de
lumières. - - - - -
 A moins de cent mètres, à l'angle de la rue de Béarn, un agent en
uniforme était en faction.
単語帳 désert(e) a. 人気のない
piste(s) n.f. 跡、足跡
luisant(es) a. 光る、つやのある
tracé(e) a.p. たどった、痕をつけた (< tracer) 
asphalte n.m. 舗装道路
continu a.p. 続いた (< continuer)
découpe n.f. 切りぬき、寸断 (< découper)
ceinture n.f. 帯、囲い
prodigieuse < prodigieux a. 不思議な
agent n.m. 警官、巡査
faction n.f. 番、見張り


ヴォージュ広場の噴水; 写真は遊佐氏提供
La fontaine de la place des Vosges; photographie @M. Yusa

メグレ夫人の恋人(No.29)
L'Amoureux de Mme Maigret
解説(1)  メグレ夫妻は何年間かのあいだこのヴォージュ広場に面する建物に住ん
でいたようで、この閑静な広場については語られることが多い。特に初夏の
晴れた夕暮れのくつろいだひとときの風景は、日本の都会人であれば長時
間通勤電車に揺られてやっと家に着く現実と比べ、夢のような昔懐かしさ
を感じる。原作者のシムノン自身もこの近くに住んだことがあって、親しみを
込めて描いている。
第1章より
Chap.1er
 ワイシャツ姿でパイプをくわえながら彼は窓辺に肘をかけ、ぼんやりと夕
焼けの空と夕闇が迫るヴォージュ広場を眺めていた。初夏の陽気にけだる
そうな様子で人々がくつろいでいた。
En manche de chemise, il était accoudé à sa fenêtre, la pipe aux dents,
et il regardait vaguement le ciel rose que le crépuscule ne tarderait
pas à envahir, la place des Vosges toute peuplée d'une foule alanguie
par l'été précoce.
単語帳 En manche de chemise ワイシャツ姿で
accoudé < accouder v.i. 肘をつく(過去分詞形)
vaguement ad. ぼんやりと
crépuscule n.m. たそがれ
tarderait < tarder v.i. 遅れる(条件法現在形三人称単数)
envahir v.t. 侵略する、入り込む
peuplé(e) a.p. 人の住んでいる、人口の多い
foule n.f. 人ごみ、群集
alangui(e) a.p. 物憂げな、やつれた
par l'été précoce 初夏の


解説(2)  夜が更けてあたりが静かになっても公園の噴水は止むことなく涼しい音色
を奏で続ける。夜半の室内楽のようにという表現は味わい深い。
第1章より
Chap.1er
 その時間には月がヴォージュ広場のスレート屋根を銀色に染め、四つの噴
水が室内楽のような水音を出し続けていたが、その四番目の噴水は調和を
乱すようにつねに先を急いでいた。
L'heure où la lune argentait les toits d'ardoises de la place des Vosges
et où les quatre fontaines continuaient une sorte de musique de cham-
bre, avec la quatrième qui se pressait toujours et qui était comme
désaccordée.
単語帳 L'heure où 〜の時間には (英語で言うと the time when )あとに関係代名詞の従属節が続く 
argentait < argenter v.t. 銀メッキする、銀色に輝かせる(半過去形三人称単数)
les toits d'ardoises スレート葺きの屋根屋根
une sorte de ある種の
se pressait < se presser v.pr. 自分で急ぐ(半過去形三人称単数)
désaccordée a. 不調和の(女性形単数)


ヴォージュ広場の公園のベンチ; 写真はPetiteさん提供
Les bancs du square Louis XIII; photographie @Mme Petite


Maigret et le marchand de vin
メグレとワイン商 (No.98)
解説  まるで捜査の手の内を見透かすような電話をかけてくる正体不明の男がき
っと現われるに違いないと読んだメグレは、部下のラポワントを広場に張り込
ませる。
第4章より
Chap.4
「…だいたい30分ぐらいした頃、僕はヴォージュ広場の公園の柵の中に目を
やったんです。雨のせいで人はほとんどいませんでした。向こう端のベンチに
男が一人ですわっていて、どうも見覚えあるように思いました。色あせた茶色
の帽子をかぶって、地味な背広にコートを着ていたんです。…」
- … Après une demi-heure environ, je regarde la partie de la place des
Vosges entourée de grilles. A cause de la pluie, il y avait peu de monde.
Sur un banc, du côté opposé, j'ai aperçu un homme que je suis à peu
près sûr d'avoir reconnu. Il portait un chapeau brun défraîchi, un
imperméable, un complet assez sombre.…
単語帳 la partie de la place : 広場の一角
entouré(e) a.p. 囲まれた (< entourer )
du côté opposé : 反対側に (< opposer)
aperçu < apercevoir v.t. 認める、見かける
à peu près : だいたい
être sûr de 〜 : 〜が確かである
reconnu < reconnaître v.t. 見分ける、識別する
défraîchi a.p. 色あせた (< défraîchir)

メグレと老婦人の謎(No.99)
(La Folle de Maigret)
解説 すっかり老夫婦となったメグレ夫妻が、チュイルリ公園を散歩してベンチに
並んで腰かけて思い出を語り合う場面である。回りには恋人たちが熱烈に
愛を語っている風景がある。こういうふうにベンチに腰かけることがあった
かなとメグレが問いかけると、夫人は昔のことをしっかりと覚えていて答え
るのである。
第6章より
Chap.6
「私たちが婚約中にヴォージュ広場のベンチにすわったでしょ。はじめて
キスしたのもそこでしたよ。」
「そうだった。すっかり忘れていたよ。」
- Pendant nos fiançailles, sur un banc de la place des Vosges. C'est
même là que tu m'as embrassée pour la première fois.
- Tu as raison. Je manque de mémoire.
単語帳 pendant prep. 〜のあいだ
fiançailles n.f.pl. 婚約、婚約期間(複数形で通常用いる)
banc n.m. ベンチ
embrassée < embrasser v.t. 抱擁する、キスする(過去分詞形)
pour la première fois 初めて
raison n.f. 理由、理屈
manque de < manquer de 〜に欠ける(現在形一人称単数)
mémoire  n.f. 記憶

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