治安維持法

第一條 國體ヲ變革シ又ハ私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シ又ハ情ヲ知リテ之ニ加入シタル者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
前項ノ未遂罪ハ之ノ罰ス
第二條 前條第一項ノ目的ノ以テ其ノ目的タル事項ノ實行二關シ協議ヲ爲シタル者ハ七年以下ノ懲役又ハ禁錮二處ス
第三條 第一條第一項ノ目的ヲ以テ其ノ目的タル事項ノ實行ノ煽動シタル者ハ七年以下ノ懲役又ハ禁錮二處ス
第四條 第一條第一項ノ目的ノ以テ騷擾,暴行其他生命,身體又ハ財産二害ノ加フヘキ犯罪ヲ煽動シタル者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁鋼二處ス
第五條 第一條第一項及前三條ノ罪ノ犯サシムルコトヲ目的トシテ金品其ノ他ノ財産上ノ利益ノ供與シ又ハ其ノ申込若クハ約束ノ爲シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ禁鋼二處ス情ノ知リテ供與ヲ受ケ又ハ其ノ要求若ハ約束ノ爲シタル者亦同シ
第六條 前三條ノ罪ノ犯シタル者自首シタルトキハ其ノ刑ヲ滅輕又ハ兔除ス
第七條 本法ノ、何人ア問ハス本法施行區域外二於テ罪ヲ犯シタル者二亦之ノ適用ス
(『官報』3797號・大正14年4月22日)


 「国体ヲ変革シ又ハ私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的ト」する結社組織とは、端的に共産主義者のことでありまして、ここに国体と私有財産制度(資本制)とを一体のものとして見做す、当時の支配階級のイデオロギー(虚偽意識)を見て取ることが出来ます。すなわち、近代の特殊に発展した商品経済の一つに過ぎない資本主義体制を、万世一系・万古不易である(とされる)国体に同定させようとする精神的錯綜がそこにあると申せましょう。しかし、この法律は後に二度にわたって改正されます。(当方は「改悪」という言葉は使いません。)これによって、国体と資本制とは分離され、前者の崇高性が強調される結果となりました。これは、資本制に対する冷静な態度と言うよりは、国体論の暴走と言うことも出来るものであり、内容的に無定義な国体は、以後その凶暴性を逞しうし、遂に長い戦争へと日本帝国を導いていったのであります。


戻る