我流指輪学〜指輪物語を読もう!!〜 
written by kurotodo


■指輪物語とは何ぞや?  

 指輪物語。3月2日に公開された映画「ロード・オブ・ザ・リング:旅の仲間」の原作として、貴方もこの名前の本を書店の店頭で見かけたこともあるだろう。映画の評判が高いこともあって、原作にも関心が集まり関連書籍も花盛りというような状況になっているのである。
 この「指輪物語」に対して、貴方は映画の宣伝ないし雑誌で得た知識などから「世界でも名高い本格的ファンタジー小説」との評判を聞いたことがあるかもしれない。だが、既にファンタジー小説というジャンルに慣れた人はともかく、そうではない人にとってはこんな噂を聞いたこともあるだろう。そう、「長ったらしくて、読むのが大変」だとか「固有名詞の羅列で意味が分からない」といった悪い噂である。
 ここで筆者は読者諸氏に宣言しなければならないだろう。

  この噂は「事実」です、と。

 だが、だからといって私はこの本を読まなくて良いとは言わない。逆にファンタジーを読まない人にも一度は目を通して欲しいと思っているのだ。
 何故読んだ方が良いと思うか。
 それは3つの理由が存在する。
 第一に「指輪物語」は現代のファンタジーにおける源流となる古典であること。
 第二に「指輪物語」が歴史的にも大きな影響を持った作品であること。 第三の、そして最大の理由は先に挙げた欠点があっても「指輪物語」はとても面白い小説なのだということである。 まぁここでの本題はなぜ面白いのかなのだが、その前に第一と第二の理由について説明しよう。
 第一の理由だが、そもそも「指輪物語」は今から50年ほど前に出版された小説なのだが、これが今の異世界ファンタジーというジャンルのもとになっているという事実がある。このことはすなわち現在のゲームやジュニア向け小説から、ハヤカワ文庫や創元SF文庫などを埋め尽くす海外ファンタジーの源流であることを意味する。そして事実、それらの小説が持つ多くの要素を「指輪物語」は保有しているのだ。例え、貴方がファンタジーを知らなくてもこの小説を読めば、基本的な雰囲気というものは掴めるのである。
 この古典性において、指輪物語はミステリにおける数多くの古典のように一読する価値があるものとなっているといえよう。
 第二の理由は、この「指輪物語」という小説が60年代アメリカにおいて社会現象とでも言うべき熱狂的な読者を生んだ、極めて大きな影響力を振るった作品であることが原因となっている。60年代のヒッピーや70年代の世界各地におけるニュー・エイジブームにおいて、この作品の果たした力は計り知れないものがあるのだ(当時のアメリカでは、登場人物の一人ガンダルフを大統領にというスローガンさえも叫ばれたのだ!)。このようなことから、歴史的な意味でも興味深い作品だと思われるのである。

  さて、数行に渡り堅苦しく色々と述べたが、結局のところ私が言いたいのは「こんな良い小説を読まないのは損だぞ」という一言なのだ。だから上記の二つの理由については適当に頭に放り込んで置いて、いよいよ小説の魅力に踏み込んでいくことにしよう。

■指輪物語の魅力  

  このようにも筆者や多くの人々を魅了した、指輪物語の魅力とは何であるのか。それは第一に設定の精密さであり、第二に本当の言い伝えを聞いているような描写の巧みさ、そして第三にはファンタジー小説にある多彩なパターンを全て取り込んだ、しかし一貫性のあるストーリーだろう。
 設定の精密さは既に雑誌などの特集でも言われていることで、作者のトールキンが数十年をかけて構築した背景世界「中つ国(ミドルアース)」は熱心なファンを世界の中に没入させるだけの力を持っている。暦や登場人物たちの系図、言語や食習慣に至るまで詳細かつ高度な考察がなされているのだと聞けば驚く方もいるだろう。特に言語については、本職の言語学者であり当時の英語学の大家であった作者が一生をかけただけあって、もはや付属の域を脱しているといえる(ちなみに映画や小説においても、この創作言語は歌や詩に使用されている)。
 描写の巧みさは先ほどの設定の精密さと結びついていて、多くの三流ファンタジー小説が陥りがちな、登場人物を除いては何も描写されないということは無く、その舞台となる風景や背景などがしっかりと描写されている。また、いかにも叙事詩的な雄大な視点で物語を語った後に、シチューを仕立てるために残り僅か食糧と奮闘するといったミクロな視点から語られるシーンが現れるなど、「指輪物語」には多角的な視野から物語を見つめるための工夫があることも評価できる。そして、最も大切なのは牧歌的な農村 風の村という「日常」から、伝説に聞く妖精の館や地獄のような冥王の国へ赴くに連れて、文体自体が徐々に代わっていくという点であろう。この仕掛けによって読者はだんだんと主人公に感情移入をし、小説の中に没入していくことになるのだ。
  ストーリーの多彩さという面については、これはもう文学研究の本がこのテーマで何冊もでているほどである。探索行、堕落と破滅、指輪伝説、貴種流離……、多くの神話や伝承にあるファンタジーの原型が数多く取り込まれていることは、文学研究者の尽力により判明しつつあるものの、未だにどれだけの要素が盛り込まれたかはわからないぐらいなのだ。
 しかもただまとめるだけでは無く、これらの要素を変更し「指輪を探すのでは無く、捨てる」という通常の探索行とは逆のストーリーを柱に、一貫性を持たせて一つの体系と為しているのが「指輪物語」の力と言えるだろう。
 もちろん、ここに書いた事以外にも様々な魅力が存在する。
 例えば、ヤングアダルト向けの小説を読んでいる方にはおなじみの、登場人物に集中する読み方も十分楽しめるし、トールキンという作家がこの作品にどのような主題を挿入したのかというテーマ探しをするのも楽しいものである。
 このように幾つもの楽しみ方ができる「指輪物語」。だが、最初に挙げた欠点はどうするんだとお怒りの読者もいるだろう。そこで、次はこの魅力を秘めた作品を「楽」に楽しめる秘策を考えていこう。

■「指輪物語」必勝法!  
  
  で、この題にもあるように「指輪物語」に勝つ! というわけである。  どうしたら勝つのかと言えば、それはやはり無事に最後まで読み終え、そしてまた読み返してもいいかなと思えるようになることだろう。
 そうなるにはどうすれば良いのか。ここでは少し裏技的な、楽に一度読破してみるためのテクニックをお教えしよう。
 実はこの本の最大の難関は冒頭部である、ここが退屈で眠くなると評判なのだ。筆者の弟が言うには「初めて寝そうになった」そうであるから、これはただごとでは無いことがおわかりになるだろう。  だがしかし、これはある実に簡単な一つの方法で切り抜けられる。 それは「序章を飛ばせ!」である。まぁどうしても関心があるというならば「指輪の由来について」だけは読んでも構わないが……。
 この方法に対して突っ込む人もいるだろうが、本来の作品としても正しい読み方なのだと聞けば、少しは耳を傾けてくれるだろう。そう、本当のところは原書に序章はついていないのである。より正確に言えば、日本語版の序章とは「指輪物語」三部作のうち第一部が終わったところで付記されていた部分なのだ。
 当たり前のことだが、巻末に付くべきものを巻頭で読んでもよく分からないのは当然だろう。ところが数奇な運命により、後の時代に巻頭へ移ってしまったといわけなのである。もし既に「指輪物語」を読んで序章に違和感を持っている人がいたら、是非とも第一部の後で改めて読んで欲しい(文庫版だと4巻目の後ですな)。その順番で読むと、あの悪名高いパイプ草の章(延々とパイプ草=タバコの設定話が……)でさえも、魔法使いのガンダルフがこよなく愛する煙草は、一体どこから来たんだという疑問を解消するために作られているんだということが理解できるはずだ。
 そして、もう一つ難しい選択肢が存在する。
 第一部が終了した後(つまり5巻目になるとき)、話が大きく2つに分岐し登場人物も視点も別々になる。詳しく言うとネタバレになって興ざめするので言えないが、読了した後、しばしばどちらかの部分の評価が悪く、もう一つの方は高いことが多いのだ。しかも二つに分岐してしまうので、本を読み慣れていない人の場合ここで混乱することも多い。そのような時は、初読に限りとりあえずどちらかを飛ばして読むことをお勧めする。
 その際、主人公がいる方(7巻と9巻)は個人的な冒険や心理描写、サバイバルといった雰囲気を好む人に、いない方(5,6巻と8巻)は叙事詩的な戦争やロマンスを好む人向きであるということを助言しておこう。昨今の場合、ヤングアダルト系の小説や漫画を中心に読んでいた方が7巻でつまらなく感じるということもあるようだし……。
 また、これも大切なことであるが文中の詩や、妖精の言葉は初読では気にする必要はない。よって無視して構わない。もっともこの詩は小説的には伏線や背景を語らせることもあるので、再読するときはなるべく考えながら読むことをお勧めする。
 ここまで無視して良い部分を延々と述べてきたが、もちろん無視してはいけないところもある。まず第一に登場人物の関係は抑えねばならないだろう。結構多くの登場人物(それぞれ興味深いのも多いが)が現れるので、ここを読み飛ばすと不味い。特に主人公とその同行者ぐらいは心理描写まで把握しておかないと面白くないと思われる。次に「指輪」に関する文章も無視できない部分だろう、流石にこの話「指輪物語」というだけあって「指輪」がキーになっている。ここを無視すると訳が分からなくなるので要注意だというわけだ。
 後は、貴方の気に入った部分を読んでいけば最後まで目を通したころには、好きなところが見えてくるはずである(見えてこない? それは何か致命的なところを見落としたのではないかな??)  熟読はそこから始めるべきだ。その時にはもう貴方の頭の中に「中つ国(小説の背景世界)」は宿っているのだから……。

■最後に……、読み方色々   
  
  もう貴方は「指輪物語」を読みこなせるとは思うが、念のために以前筆者がSF大会というところへ一度だけいった時に聞いた話を伝えよう。
 「指輪物語」には少なくとも4つの読み方がある。
 キャラ読み、地図読み、話読みにテーマ読みだと。
 キャラ読みは登場人物に感情移入するなり、好きなキャラクターを見つけて楽しむ読み方のこと。地図読みとは膨大な設定に基づく情景に没入するように味わって読むこと。話読みは素直に上質のエンターティメントとして、指輪を捨て行く探索行という話を読んで行くこと。そして、テーマ読みとは作者の時代背景(トールキンはこの小説を暗い時代、第二次大戦の最中に書いた)を考えて、何が彼を書かしめたのだろうかということを考えながら読むこと(トールキンはいかなる寓話も好まないと言っているが)。
 その時、私は思った。これほどに人を夢中にし、私に対して語らせる小説とはなんと力があるのだろうかと。
 このつたない文章を読んで、一人でも「指輪物語」に興味を持って貰えれば幸いである。
 最後に、一つだけ注意を。よくドラクエなどのゲームからファンタジーに入った人は、話の最後には大ボスが待ち受けてると考えている。この話にそれが当てはまるのかは……、微妙である。色んな意味で心してかかって欲しい(笑)


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