2000年10月スタディミーティング



テーマ: 国境なき学生・学生レポーター帰国報告会

発表者: 田中 陽子
      澤口 佳代
      市瀬 智子
2000年学生レポーターの3人

今回私達学生レポーター3名は8月17日〜9月6日の日程で、タイの難民キャンプとカンボジアでの国境なき医師団の活動、その他のNGO活動についてレポートしてきました。

(左から澤口佳代・市瀬智子・田中陽子)


T タイでの国境なき医師団(MSF)の活動

 1,MSF派遣目的
@ ミャンマー(ビルマ)の独裁体制から逃れた人々への支援
A エイズ対策

2,タイにおける活動地域
@ メソット(カレン族難民)
A ラチャブリ(カレン族難民)
B サンクラブリ(移住させられたモン族)
C カンチャナブリ(サンクラブリ地方)
D スリン(エイズの患者の在宅治療)
E バンコク(HIV/AIDS)


Dのエイズプロジェクトについて
  MSFは1995年からタイの北東部に位置するスリン地方で、エイズプロジェク
トを行なっています。スリンは人口が多く、最貧地区といわれています。このため
出稼ぎに行くなどして、再びスリンに帰ってきた人の中にはエイズに感染している
者も多く、近年患者数は急増しています。
  こうしたことからも、MSFはこの地で包括的な在宅治療を行うことによって、
心理的問題・社会的問題・経済的問題を抱えているHIV/AIDS感染者、その家族の
生活の質を向上させることを目標とし、活動をしています。
  現在自宅で治療を受けている人たちは、末期患者であることが多いため自分が
数ヶ月、数年後に死ぬということを自覚しながら、お互いに話をし、支えながら
生活しています。これをPLWA(People Living With AIDS)といいます。


3,現在までの日本人派遣者(タイ国内)
 高木 悦子(看護婦)1997年年2月〜11月 難民キャンプ
 鈴木 尚子(産婦人科医)1998年9月〜12月 タイ研修医活動
 橘 都(看護婦)1999年5月〜現在 難民キャンプ
 石川 尚子(産婦人科医) 1999年7月〜2000年5月 難民キャンプ
      現在はメソットにある難民キャンプで活動していらっしゃいます。 
 宮里 博保(医師)2000年6月〜現在 難民キャンプ
      今回私達が訪れたタンヒンキャンプで活動していらっしゃいます。


4,MSF日本からの援助金
  日本が支援している国々への援助金の総額は年間2億5000万円で、
そのうちの4000万円(1999年)、3500万円(2000年)がタイでの
活動に対して送られた額となっています。



U ミャンマーという国

  軍事政権は民主化闘争を封じ込める一方、少数民族政府軍との和解を進め、
またこれまでの国家統制型経済運営を改め、経済自由化を進め、外国投資を
受け入れ、経済活性化に成功しました。1997年にASEANに加盟しましたが、
現実には様々な問題がでてきています。

 民族構成
  ミャンマーには人口約4700万人のうち、約50の民族がいるといわれてい
ます。言語群に細分化すると、約120もの民族がいることになるようです。
それぞれの民族は、独自の言語、文化、伝統、習慣に基づいて生活しています。

 主な民族
 ビルマ族:ミャンマーの最多民族で、3000万人います。稲作または豆、
落花生、サトウキビなどの畑作物を栽培して暮らしてきた平地の民族で、
上座部仏教を信仰しています。

 カレン族:ビルマ族以外の少数民族の中で、最も多数を占める民族で、
カレン州、カヤー州、イラワジ川下流のデルタ地帯を中心に約240万人
いるといわれています。1948年のビルマ連邦の独立以来、
長い間反政府武装闘争を展開してきた民族で、中でも特に
カレン民族同盟(KNU)は他国にも支援組織があります。彼らは仏教、
キリスト教を信仰しています。

 モン族:モン・クメール系の民族で、約50万人いるといわれています。ビルマ
族同様、上座部仏教を信仰し、慣習、風俗ともにビルマ族に似ていて、顔かたち酷
似するが、独自のモン語を話します。古代には南ビルマ一帯に王国を持っていたこ
とがあるほど有力でしたが、18世紀半ばにビルマ族との戦いに敗れ、現在は少数
民族となっています。

 チン族:ビルマ平原部からインドに抜けるチンチン丘陵に暮らす民族で、約40
万人いるといわれています。チベット・ビルマ系の民族で、今でも古い部族社会の
名残がみられます。精霊信仰をもつ人が7割を占めていますが、イギリス植民地時
代にキリスト教に改宗した人々も多くいます。

 シャン族:シャン州の中国、ラオス、タイの三国と国境を接する高原地帯に暮ら
す民族で、主に渓谷沿いの平原で稲作を営んでいます。言語はシャン語を話し、
上座部仏教を信仰しています。このシャン州にはシャン族のほか、パラウン族、
ワ族、パオ族、アカ族などタイ・シャン系の民族も多く暮らしています。

 カレン族が難民となった理由
  第二次世界大戦前、ミャンマーはイギリスに支配されていました。当時イギリ
スは少数民族であるカレン族を利用し、最多民族であるビルマ族を支配しました。
しかし、第二次世界大戦後は、日本軍がビルマ族を利用し、イギリス軍・カレン族
を攻撃、支配したため、半世紀にわたるビルマ族とカレン族の対立を引き起こして
しまいました。



V タイ難民キャンプでの活動

 1,タイ国内における難民の生活を守り、維持するためのMSFの活動
  MSFはメソット、ラチャブリ地域(ともにカレン族)とサンクラブリ地域
(モン族とカレン族)で生活している人々に医療支援を行なっています。
主に
@ 生活の不安定さが健康に与える影響を抑制する。
A 未熟児・子供の死亡率を減少させる。
B 難民スタッフの能力を確立し、自立を促す。
などの項目を目標に、バンコクのMSF運営チームと
パリの本部との協力によって活動が行なわれています。

 2,今回レポートしたタンヒンキャンプで働くスタッフ
  <ラチャブリの事務局スタッフ>
    フィールドコーディネーター・助産婦(ベルギー人) 1名
    医師(宮里 博保先生) 1名
    看護婦(タイ人) 1名
    アドミニストレーター(タイ人) 1名
       日本でいう経理のような仕事を任されている方です。
    ドライバー(タイ人) 2名
    メイド(タイ人) 1名
    警備員(タイ人) 1名

  <カレン人のスタッフ>
    メディック 7名
       医師の免許はないが医学の勉強をしているので、キャンプ内では
       知識も経験もある彼らが中心となって医療行為をしています。
    看護婦 12名
    助産婦 1名
    検査技師 2名
    ホームビジター 17名
       日本でいう町内会長のような役割をする人です。8000人が住む
       家々を3つの地区に分け、この3地区を更に5つに分けた15それ
       ぞれのグループのまとめ役として、MSFからの医療面に関する情報
       などをグループの人々に伝えます。   
    ウォーターサニテ−ション(水と衛生の管理)他に大工、清掃員 12名
       MSFは医療面だけでなく、トイレや飲料水などの管理もしています。

 3,タンヒンキャンプでの活動

  今回私達が訪れたタンヒンキャンプは、タイとミャンマーの国境から約11km
離れた山奥に位置します。キャンプの周辺は大人の背丈ほどの草に覆われていて、
外から中を伺い知ることは出来ません。しかし一歩キャンプ地に足を踏み入れる
と、子供たちの声が聞こえ、約8000人のカレン族が暮らす、竹で作られた家々
が目に入ります。キャンプ地はわりと広いのですが、家と家は密集していて、プラ
イバシーを守ることは難しいように思います。
 
@宮里先生とメディックによる回診
  まず、宮里先生はキャンプに到着後すぐ入院病棟の患者さんをメディックの人
と共に診てまわります。入院患者数は人口8000人に対し約30人程で、わりと
こじんまりしている印象をうけました。タイが熱帯地域に属していることもあり、
患者さんの中にはマラリアにかかってしまった人や糖尿病、竹でけがをした子供、
出産後の女性と赤ちゃんが入院していました。
  主に患者さんを診察するのはメディックの仕事で、宮里先生は診察を見ながら
必要なときにアドバイスをしています。これは、難民の人々が自分たちで出来るこ
とはできるだけすることで、自立をしてもらうためだそうです。
  患者さんとのコミュニケ−ションは、メディックが英語を話すため彼らを通し
て行なわれます。しかし、患者さんとの信頼関係を深めるためにも、宮里先生は
あいさつや簡単な診察時に使うカレン語を覚え、積極的に話しかけることを
心がけているということでした。
  入院病棟のあとは隔離病棟に移ります。ここには5名の下痢の患者さんが入院
していました。入院病棟同様、メディックがまず診察を行い、ベッド付近につるし
てあるカルテに下痢の回数などを記入し診察を終了します。

A 外来
  外来の受付時間は朝8時半から午後2時まで、一日平均150人〜200人の
患者さんが訪れるそうです。ここでも基本的にメディックが診察を行っています。
  主な症状は風邪、頭痛、犬や蛇に噛まれたといった外傷、その他腸チスス、
尿路感染症といった患者さんが多いそうです。そして外来に来る患者さんが
全員持っている物は、ノートです。このノートには今までの診察経過や
その日の診察内容、薬の処方が記入されていて、このノート一冊ですべてが
分かるようになっていました。
このノートはMSFが配布しているものだということです。
  そして、現在専門の医師がいないことからキャンプ内で治療できない病気、
皮膚病や目の疾患(白内障など)には手がまわっていない状態で、歯に関する
患者さんも現時点で130人程いるそうです。このようにキャンプ内で治療が
難しい疾患については、治療費は全てMSFが負担するという条件で
キャンプ地の外にある2つの病院と提携を結んでいます。
しかし、専門外の患者さんをすぐ他の病院に紹介する日本とは違い、MSFは
世界中の人々からの募金で活動していることやカレン族の自立を促すためにも、
すぐ患者さんを他の病院へ送るということはできないそうです。
このため、どこまでキャンプ内で治療ができるのかといった判断が
非常に難しいということでした。 

B家族計画の指導と診察
  タンヒンキャンプでは週に一回、外来病棟でファミリープランニングを
行なっています。カレン族難民の女性は第1子を10代に産み、その後は平均5,6
人、多いときは16,7人の子供を産みます。MSFは女性のニーズに応えて
避妊具やピル、ホルモン剤による避妊など様々な避妊医療を提供しています。
しかしキリスト教という宗教的背景もあり、男性は避妊に関して否定的で
避妊できない女性もいます。
現在はこの計画を女性のみに提供していますが、これからは男性にも参加してもら
い、理解を深めていってもらう予定だそうです。 

C地元タイの保健所の人たちによる検査
  今回私達は男の子を病気で亡くした母親に会いました。この男の子は、今まで
宮里先生もメディックも経験したことのない感染症にかかり、タイの病院に運んだ
ものの、残念ながら助からなかったということでした。このように誰も処置できな
い患者さんがでた場合、まず宮里先生は病気に関するできる限り多くの情報を集
め、
さらにMSFバンコクの事務所にいる医療コーディネーターにも情報収集のお願い
をするそうです。こうして集めた情報はメディックやタイの保健所の人とも共有
し、今後に役立てるということでした。
  そして、この亡くなってしまった子供と接触のあった人々への感染が疑われた
ため、急遽タイの保健省の協力を得て、鼻の粘膜から菌の有無を調べる検査が
行なわれました。難民を受け入れているタイの行政からこの様な協力を得ることが
出来るというのは、MSFが難民とタイとの間にたち、信頼関係を築いた証拠だと
感じました。

D 宮里先生のインタビュー
  「先生にとってのやりがいとは?」
    一人一人の症状がよくなり、患者さんの笑顔をみることができたとき、
   やりがいや喜びを感じる。

  「援助とは?」
    援助という言葉をあまり使いたくないが、自分の持っている技術、知識を
   与えると言うよりも、共有すること。難民の人々、皆それぞれが異なる
   バックグラウンドを持っているので、それを知ったうえで物事を考え、
   そうした気持ちが患者さんにも浸透すればいい。血を流すのではなく、
   一緒に汗を流して、みんなと楽しく仕事をしていこうということ。

  「日本の人に知って欲しいことは?」
    日本には難民キャンプというものが自分の知っている限りないが、
   ミャンマー・タイ国境のジャングル内には、不利な状況に追い込まれた 
   人々がまださまよい歩いている。日本ではあまり知られていないミャンマー
   からの難民の人々が生活環境の違う中で、一生懸命生きていることを
   知って欲しい。そして、キャンプ内ではMSF以外のNGOも活動をしている。
   全世界が協力しあって援助しているところもあるのだ、ということも知って
   欲しい。




W 難民キャンプの生活
 
 難民キャンプでの生活はNGO活動や海外の援助によって支えられています。
    医療・衛生管理・・・・MSF
    教育・・・・ZOA
    住居・食料・医療・・・・BBC
 
  注:BBC・・・各国のNGO・政府機関から信託されてタイ・ビルマ国境の難民救
         済活動をしている組織。

 キャンプ内にはMSFによる診療所以外に学校や聖書学校、キャンプコミッティーが
あります。学校には子供から大人までが通い、子供たちはカレン語、英語、数学、
社会、美術など計8教科をカレン人の教師から習うそうです。校庭では子供たちが
ボール遊びをしていて、とてもにぎやかでした。そして、キャンプコミッティーで

選挙によって選ばれた人々がキャンプ内での様々な決め事などをするということで
した。
 私達がこのキャンプコミッティーを訪問した際、副議長の方にお話を伺うことが
出来ました。以下、その要約を述べたいと思います。

「カレン族は現在危険な状況におかれています。難民キャンプにたどり着けた者
は、こうして最低限の援助を受けられます。しかし国内避難民といって、家を追い
出されたまま行き場をなくしてミャンマー・タイ国境地帯のジャングルをさまよっ

いる人々は最低限の生活も保障されていません。このような状態をたくさんの人が
意識し、単なる同情だけではなく、この状況を人々に理解してもらうことを望んで
います。
医療・食料・衣料・住居・教育といった支援だけでは解決できない問題があるとい
うことを知ってもらい、同時に理解を示してもらうことを望んでいます。
カレン族が自分たちの土地に帰れたときには是非、医療や教育など社会を再建する
援助をして欲しいのです。」


 今回私達は、3年目となるタンヒンキャンプを訪れ、不利な状況にあるけれども
キャンプ地での生活自体は、わりと安定しつつある難民の人々を見てきました。
しかし、滞在中ブーイキャンプと呼ばれる一時避難キャンプ地に宮里先生が連れて
行ってくださり、未だに難民が流れてきているという現実を目の当たりにしまし
た。
このブーイキャンプには私達が訪れる数週間前にジャングルを超え、タイに
逃れてきた41人のカレン族が生活していました。
ここでもMSFはタンヒンキャンプからメディックを1人派遣し、
診察や衛生管理を行っていました。
 彼らの家は竹の枠組みとビニールシートの屋根のみで、
壁はなくタンヒンキャンプに比べると、とても閑散としていました。
そして人々の表情にはまだ固さが見られ、現実の厳しさを
私達に訴えかけているように感じました。
 今日では、テレビやインターネットで世界中の情報を瞬時に
知ることができます。しかしメディアに取り上げられる難民や紛争地域は
ほんの一部で、ニュースにはならない地域が世界中には数多くあります。
無関心ほど残酷なことはありません。
事実を知った今、これから実際に私達が彼らに対し、何をすることができるのか
を考えるスタート地点にたったように思います。 




X スタディーミーティング当日にでた質問
  
@MSFは治療以外にサポートは行なっているのか。
 現在MSFは、タンヒンキャンプ内で診療と水や衛生管理のみを行なっています。
難民の人々の精神面について専門的なことは行なっていないようですが、宮里先生
自らカレン語を勉強し、彼らとの距離を縮めていきたいということでした。

A国連とMSFとの連携はあるのか。
 MSFは「新しく難民が何名きた。」といった情報を国連難民高等弁務官事務所
から受け、活動にはいります。そのほか新しく子供が生まれたなどというデーター
に関しても、連携して情報をやりとりしているようです。

B子供たちは自分たちの将来をどう考えているのか。
 キャンプ地での生活が続く限り、彼らの夢は夢のままです。しかし、1人の女の子
は「学校の先生になること。」と私達に夢を語ってくれました。今のままでは夢が
かなえられない彼らのことを想うと胸が痛みます。

C難民の人々が海外の情報を手に入れることは可能か。
 キャンプコミッティーの人たちは、英字新聞を読んでいました。そのほかキャン
プ地に手紙などを送りたい場合は、MSF用のポストを利用することで、
情報のやりとりが出来るということでした。

Dタイでのエイズプロジェクトに関して、売春などをなくすために職業訓練などは
行なっているのか。
 タイでの活動がどのようなものか、実際に見ていないため詳しいことが分かりま
せん。(ごめんなさい。)しかし、カンボジアでの活動になってしまいますが、
MSFは売春宿のある地域に交流センターをつくり、診療と売春を仕事とする
女の人たち同士がコミュニケーションをとれるようにするためのスペースを設け、
エイズの予防やお客さんとの交渉の仕方などを教えているそうです。
  
E昼間キャンプ内の男性は何をしているのか。
 基本的にキャンプ内から一歩も出ることの出来ない彼らは、仕事をして稼ぐこと
もできません。MSFでスタッフとして働く人や教師をしている人たち以外、
男性たちは(女性も)特別なにかをするといったこともなく、毎日を過ごしていま
す。

F病院内に機材や検査機器はどこまであるのか。
 日本で見るような高度な医療機器は一切ありませんでした。ピンセットなどを
熱で消毒するものがあるぐらいで、マラリアなどの菌をチェックするのも
簡単な顕微鏡で行なっていました。そのほか、医学書も最新のものではなく、
古い医学書だということでした。

Gタイの政府は難民に対して何か行なっているのか。
 衣服や食料といったものは全て海外からの援助でまかなっているため、
タイの政府は関わっていません。金銭的な援助を政府がするといったことも
ありません。タイの政府はキャンプ地にする土地の提供とタイの軍は外部からの
攻撃がないようキャンプ地を守っています。