「ソーサリー」作品紹介


 巨匠スティーブ・ジャクソンの名を知らしめた、ゲームブックの決定版。四巻からなる大作で、鈴木直人の「ドルアーガの塔」と双璧をなす。ゲームブックと言えば「ソーサリー」がまず挙げられるといっていいだろう。

 1巻「魔法使いの丘」は1985年7月刊行。邦訳:安藤由紀子。
 2巻「城砦都市カーレ」は1985年8月刊行。邦訳:中川法江。
 3巻「七匹の大蛇」は1985年9月刊行。邦訳:成川裕子。
 4巻「王たちの冠」は1985年10月刊行。邦訳:高田恵子。

 出版はすべて東京創元社。2003年12月現在、創土社から新訳復刊中。第1巻「シャムタンティの丘を越えて(浅羽莢子訳)」はすでに発行されており、第2巻「魔の罠の都」も12月発売予定。

「スーパーアドベンチャーゲーム」と銘打っている通り、これは冒険ゲームである。主人公は命をかけて数々の困難に挑み、それを克服し、目的を達成しなければならない。ゲームブックには1冊で終わる短編が圧倒的に多いのに対し、「ソーサリー」は大がつくほどの長編。何がすごいかと聞かれれば、まずこの長さがすごいと言うしかない。

 次にすごいのが描写。ゲームである前にブックなのだから、当然文章が読ませるものでなければ読者はくいつかない。ただ選択肢を並べて「さあ選べ」というシーンばかりでは進める気もなくなる。この点、飽きのこない場面をいくつも用意してある「ソーサリー」は素晴らしい。
 野外から都市へ、荒野から砦へと移り変わる舞台。待ちかまえる罠。油断ならない住人。謎また謎。メインプロットの周囲にいくつものサブプロットをばらまき、重厚な冒険物語を作り上げている。ジョン・ブランシュの細密な(時にリアルな不快さをもよおす)イラストも見逃せない。

 では“ゲーム”の面ではどうか。
 システムは実にシンプルである。コンピュータRPGが複雑化の一途をたどるのに対し、ジャクソンはできる限りの単純化を試みた。技量・体力・運勢というたった3つの基本値。サイコロ2つで行為の全てを判定する。これは後に続く作品の基本となった。

 何よりも、見逃せないのは魔法である。「sorcery」という言葉からわかる通り、この4部作の主役は魔法の呪文なのだ。その数なんと48、主人公は状況に応じてこれを使い分けねばならない。時には失敗して思わぬ痛手をこうむることもある。逆に成功すれば難敵や障害を苦もなくクリアできる。
 この魔法についても、単純ながら実にもっともなルール化がなされている。巻末にはそれぞれの呪文の効果が記されているが、ゲームを始めてからはプレイヤーはそれを見ることができない。つまり、適切な魔法を選ぶにはプレイヤー自身の記憶力が頼りなのだ。これは現実に失敗しながら学習していくのと同じこと。ゲーム中の主人公だけでなく、読み手もゲームを進めることによって成長していくシステムなのである。

 量と質を兼ね備えた文章。単純化されたシステム。ゲームとしてもブックとしても「ソーサリー」は文句のつけようがない作品である。だからこそ、ブームが去った今でもこうして語りつがれているのだろう。そして、これからもそのともしびは絶えることはないだろう。

 付け加えておくなら、ゲームブックとしての難易度は超A級。始めて10分で死ぬことも可能。能力値が高くても、選択肢を誤ればあっさり死んでしまう。賢く立ち回っても、サイコロ運が悪ければ死んでしまう。私はいまだこの4部作をクリアできていない。

 ちなみに、スティーブ・ジャクソンという名のゲームデザイナーは2人いる。「ソーサリー」の作者は英国生まれ。テーブルトークRPG「ガープス(GURPS)」の作者は米国生まれ。ジャクソン(英)と書かれているならば、「ソーサリー」の作者を指すことになる。



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